第23回配信 勝負の行方
♢ぐーぐー:仮面人さん、出ましたよ!
♠︎仮面人:待ってました。よっ、千両役者!
♣︎風雲降り龍:イッツ・ショータイム!
♡糸車:ホームランをリクエストします!
♣︎顔しゃもじ:もっとチアリーダーを映して!
大谷選手が出てきたら、とたんにチャットが入りだした。しかも応援は、あっち一色である。プレイヤーの僕としては、立場がなかった。
「えーと、みなさん。僕の奪三振ショーよりも、大谷選手が打つところを観たいですか?」
♢ぐーぐー:観たいです!
♠︎仮面人:もちろん真剣勝負をしてください。しかし勝つのは彼です。
♣︎風雲降り龍:ストレート勝負でいきましょう。
♡糸車:大谷さんの俊足も観たいな〜
♣︎顔しゃもじ:チアリーダーは台湾のチュンチュンでお願いします♡
「わかりました。直球1本でいきます。もし彼の実力が本物なら、僕の火の球ストレートに当てることができるでしょう」
僕は挨拶代わりに、胸元めがけて、180キロのストレートを投げ込んだ。
大谷選手は大きくのけ反り、グラウンドに尻もちをついた。
球場から、いっせいにブーイングがとぶ。浴びせられているのは僕である。見ると実況席では、エリウサまでが親指を下向きにしてブーと言っていた。
「フン。ヒールになるのも悪くない。次も内角だ」
2球目は、きちんとストライクゾーンに投げた。すると大谷選手は鋭くスイングし、それをファールにした。
おおーとどよめく観客。やっぱり彼はすごい。難しいコースに来た180キロの速球を、カットしてしまうのだから。
燃えてきた。
次の1球は、外角低め。空振り。大谷選手は、内角攻めでのけ反らされていたので、明らかに腰が引けていた。
ワンボール、ツーストライク。追い込んだ。僕は振りかぶり、少しだけギアを上げて投げた。
高めのボール。大谷選手は、手が出ない感じで見送る。電光掲示板に、200キロの表示。さしもの現役メジャーリーガーも、200キロのボールには手も足も出まい。
たぶん、ど真ん中でも振り遅れる。勝負の1球は真ん中だ!
僕はキャッチャーのサインに首を振った。キャッチャーは、外角低めを指示していた。
「タイム」
キャッチャーがタイムを要求し、マウンドに駆けてきた。
「ユメオ、どうして首を振る。低めに投げたら、絶対打たれんで」
キャッチャーがマスクを取る。と、現れた顔は、なんと漫画のドラえもんに出てくるのび太くんだった。
「えっ、うちのチームのキャッチャーって、のび太くんだったの?」
「なにを驚いてる。いいか、低めに投げろよ。ワンバウンドでも俺が止めてやるから」
下がっていくのび太くんの背中を見て、つくづく転ゲーの不思議さに感心した。
「みなさん、キャッチャーはのび太でした。ということは、外野にはスネ夫とジャイアンがいるかもしれません。はなはだ頼りないですが、外野に球が飛ぶことはないでしょう。いざ、勝負!」
僕は野茂投手のイメージで、胸を反らしてワインドアップしてみた。球がホップしないよう、あくまで調節しながら、それでもしっかり腕を振って投げた。
いい感じでスピードが出た。おそらく、250キロは出ているだろう。それがのび太の構えるキャッチャーミットにズバーンと……
大谷選手の身体がくるりとまわる。カキーン。
カキーン?
打球は高々と上がった。グングン伸びていく。しかしスタンドまでは届かない。やがてそれは、レフトのスネ夫が構えるグローブの中に収まろうとした。
「オーライ、オーライ」
ところがそこへ、猛然と突っ込んできた選手がいた。センターを守るジャイアンである。
「あっ、バカ!」
ジャイアンが、スネ夫に衝突して吹っ飛ばした。ジャイアンも倒れる。その間に、ボールは外野に落ちて転がった。
大谷選手は俊足をとばして2塁へ。僕は球を追いかけて走った。そこはビギナーモード。大谷選手が、仮に100メートルを11秒台で走るとしても、僕はおそらく5秒で走れた。
まるでみんなが止まって見える中、僕は白球に追いついた。振り返ると、大谷選手は3塁に向かっている。よし、余裕で刺せる。僕はサードに放った。
球が大谷選手を追い抜く。しかしサードは、僕の送球が速すぎて取れず、後逸してしまった。
「まったくもー」
僕はまた全速力で走り、ファールグラウンドで球をつかんだ。ホームに向かう大谷選手。僕は球をひょいっと放ると、走って大谷選手を追い抜き、ホームベース上ののび太を突き飛ばして、自分で投げた球をキャッチした。
「残念だが、ここでショータイムは終わりだ。タッチアウト!」
大谷選手がスライディングし、手でホームベースをタッチしようとした。その動きは、僕には完全にスローモーションに見えた。
「うふふふ。こりゃ楽勝だ」
僕はボールで、大谷選手の頭、胸、腹、尻をちょんちょんと触った。そしてホームベースにタッチしようとする手をつかんで、尻ポケットからマジックペンを取り出し、手のひらに「ユメオ」とくっきりサインした。
「はい、終了。お疲れさまでした」
と、ペンをポケットにしまったとき、
「ぶっとばす!」
なぜかジャイアンが突っ込んできて、僕を倒した。
ポロリとボールが落ちる。
「セーフ、セーフ!」
球審が無情の宣告をし、大谷選手が、小さくガッツポーズをして、味方のベンチに颯爽と引き上げていった。
「イッツ・ショータイム!」
高らかに実況するエリスの声と、球場が揺れるような歓声を聴き、僕は人気で完敗した悔しさをしみじみと味わった。




