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第20回配信 禁断のクスリ

♢ぐーぐー:ユメオさん、ロッカールームは危険です。行かないでください!


♠︎仮面人:クスリだけはいけません。子どもたちの夢を壊さないで!


♣︎風雲降り龍:キヨ、なにしてんねん。吉永小百合さんが泣くで!


♡糸車:清原さんのこと、信じています。もう決してヤクは射たないと……


♣︎顔しゃもじ:ロッカールームで二岡とモナを対決させて!


 僕と清原選手は、ロッカールームに入った。


 ほかにも選手たちはいた。すぐ目の前で、憧れの三冠王落合選手が、信子ラブとプリントされたパンツ姿で立っていた。


「キヨ、聞いたか?」


 落合選手が、気さくに清原選手に話しかけた。


「ミスターが、まちがえて中畑さんのパンツを穿いて帰っちまったって」


「またですか」


 清原選手が、呆れたように肩をすくめた。


「今月で、もう3回目やないですか」


「あいつはアホや」


 落合選手と清原選手の会話に、相手チームのロッカールームからやってきた、キャッチャー野村が割って入った。


「中畑が困っとったで。だからわしのパンツを貸してやった」


「それはそうと、ノムさん。星野さんに殴られた頭は大丈夫ですか?」


 清原が心配そうに、野村捕手の頭を撫でた。


「どや、割れとるか?」


「意外と絶壁ですね」


「沙知代もようそう言うとったで。あいつ、わしを置いて先に逝きよってからに。寂しゅうてたまらん」


 野村捕手が鼻をぐしゅぐしゅ言わせると、これまた相手チームの新庄選手が入ってきて、


「ノムさん、キヨさんに話を聞いてもらえなくて、泣いてるんですか?」


「アホウ。わしが泣いとるのは、お前と一茂がアホすぎるからや」


「またまた。僕のこと好きなくせに」


 新庄選手がハグすると、野村捕手はオェーと吐く真似をした。


 僕はすっかり、スーパースターたちに見とれていた。


 しかし、意外とスターたちは、ロッカールームでは野球の話をしないものである。ほぼバカ話だ。これはちょっとした発見だった。


「ところでユメオ」


 清原選手が、腕に注射をするゼスチャーをしながら、


「1本、いくらで射つ?」


「あ、お金を払うんですか?」


 果たして転生した先で、僕はいくらくらい持ってるのだろうか?


「特別安くしたる。500でどうや?」


「えっ! 500万?」


 清原選手のパーにした大きな手を見て、僕はたじろいだ。


「アホか。500円や。チームメイトに500万も払わせるわけないやろ。ワイをなんやと思ってるんや」


「500円? それだけ払えば、180キロの球を打てるようになれますか?」


「楽勝や。あー、めんどくさい。タダでええわ。腕貸してみ」


 清原選手がロッカーから注射器を出したのを見て、オールスターズが壁をつくった。


「キヨ、早よせい。選手の中には、マスコミに売るスパイもいるからな」


 野村捕手が、肩越しに囁いた。その真剣な顔を見て、僕はだんだん怖くなってきた。


「すみません、やっぱりやめます。クスリの力じゃなくて、技術とパワーを鍛えて打つことにします」


「ユメオ、いいか。この世には2種類の人間しかおらん。クスリを知ってる人間と、知らない人間や。お前も知る側になったらええ」


「名言ですね、キヨさん」


 新庄選手が嬉しそうに、光る歯を見せて笑った。


「僕にも名言がありますよ。野球なんてマジバイトっての。どうですか?」


「ワイのは名言やない。清水先輩の受け売りや」


「清水先輩? そんな選手いましたっけ?」


「失恋レストランの清水健太郎先生や。大先輩やないか。知らん?」


 すると落合選手が、鼻歌で失恋レストランを唄った。なかなかいい声である。


 と、ロッカールームの入口のほうから、


「注射をやめて〜注射をやめて〜私のために〜ヤク射たないで〜」


 なにか変な節をつけて唄うような、若い女性の声が聴こえてきた。


「むむ。女人禁制のロッカールームに、女?」


 オールスターズのあいだに、緊張が走る。


 と、そこへ現れたのは、ウサギのアバターになったエリスだった。


 僕が絶句していると、清原選手が立ち上がり、


「モナ、入ってきたらアカンやろ。二岡ならとうに引退したで!」


 と言った。どうやら清原選手は、エリウサを山本モナアナウンサーと勘違いしたようである。


「今日はバニーガールの恰好かいな。しっかしすごい色気やな。たまらんで」


 清原選手は本能のままに、山本アナウンサーと思い込んでいるエリウサに抱きついた。


 すると、エリウサはスポーンと宙に飛んだ。改良された転ゲーでは、R18にならないため、異性には接触できないように設定されているのである。


「ウナギみたいになったな、モナ。まあ、ええわ。またいつか抱かせてくれ」


 そう言うと、ものすごい力で僕の腕を引っ張った。


「あ、やっぱり射つんですね」


「上物やで。感謝しいや」


 清原選手の力に勝つのは不可能だった。僕は上腕部に注射され、ロッカールームの床にへたり込んだ。


「どうや、感想は。暑いか、寒いか?」


「……どっちかというと、暑いです」


「なら効いてきたで。どや、ニンニク注射の力は」


「ニンニク注射?」


「そうや。ビタミンBが豊富で、疲労回復にもってこい。いいクスリやろ?」


「はあ……」


 僕は床に着地したエリウサを見あげて、ため息をついた。


「ニンニク注射だって。変なクスリじゃなかった」


「良かった。心配しちゃった」


 と、そこへ野村捕手がやってきて、妙に優しげな声で囁いた。


「早よう行け。みんなでマスコミから隠したる。ユメオも男なら、わしらのマドンナ、モナちゃんを大切にせいよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 野球狂の薬でワロタ!(*^▽^*) 久し振りモナ王の名前を見ましたよ……お元気にされてるんですかねぇ~
2021/04/11 14:12 退会済み
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