第16回配信 コンプラ違反?
僕はついに、豆腐の塔の最上階に着いた。
(なんとかここで盛りあげないと、マジで視聴者がいなくなるぞ)
焦燥が募る。
(アクションをしなければ。敵よ、早く出てこい!)
すると正面の扉が開き、人の形にメラメラと燃えた炎が、不気味にこっちへ近づいてきた。
「みなさん、すごく不気味なやつが現れました! 怖いです。熱そうです。でもなんとか闘って勝ちます!」
そのときエリウサが、ニンジンをかじりながら忠告した。
〈固い、固い。ユメオ、陽気なバカになるんでしょ?〉
そうだ。キャラ変すると決めたのだ。焦りのせいで、レポートが真剣になってしまった。もっと弾けなければ。
「えーい、炎のモンスターめ。おしっこかけちゃうぞ!」
僕はズボンのチャックに手をかけた。炎は両手を前に出して、待てのポーズをした。
僕はチャックに手をかけたまま、自ら炎に向かって駆けた。
逃げる炎。僕はヒャッヒャと笑いながら追いかける。
扉の中から部屋に飛び込む。そこは真っ白な部屋で、真っ白な円テーブルが置いてあった。
テーブルの上には皿があり、真っ赤な液体が入っていた。
気がつくと、揺らめく炎は左手にフライパンを持っていた。そして右手に持ったおたまで、皿の中に赤い液体を注いだ。
(そうか。こいつは敵じゃなくて、炎の料理人だったんだな)
「よーし、勝負だ。こいつを食ってやる!」
僕はテーブルについて、スプーンで赤い液体を掬って口に運んだ。それは舌が焼けそうなほど熱い麻婆豆腐だった。
「辛、辛。水が欲しい」
炎の料理人が水をくれた。
「サンキュー、炎。うわ、汗が噴き出る。こいつはマジで熱いバトルだぜ!」
(大丈夫だろうか。これでちゃんと陽気なバカになってるだろうか? 視聴者は離れてないだろうか?)
僕は熱くて辛い麻婆豆腐をガバガバ食った。さっきから豆腐や納豆をさんざん食ったので、もう腹はいっぱいである。しかしきっと視聴者は、もっと食えと思ってるだろう。
「早くおかわりをよこせ、バカ! そいつごと食ってやる!」
僕は炎からフライパンをひったくると、おたまで直接爆食いした。
(ああ、やればやるほど、ウケてない気がしてくる。正解はなんだ? ゲーム実況って、どうしてこんなに難しいんだろう)
暑くてたまらなくなった僕は、上半身裸になった。腹はすでに、ウシガエルのようにパンパンである。
(エリス……嫌いにならないでね。すべては視聴者を増やすためなんだ)
「バカ、腹が減って死にそうだ。もっとよこせ!」
炎の料理人は、ものすごいスピードで、ジャンジャン中華料理を作って出してきた。
(うう、もう食えない。でもこれはライブ配信されている。ここであきらめたら、しらけることまちがいなしだ。食うしかない)
「ハハーン、激辛ラーメンってか。2秒で食ってやる!」
僕はラーメンを口の中に詰め込んだ。そのとたんにむせて、テーブルにブッとラーメンを吐き出す。と同時に、おならもブッと出た。
「ごめんくさい。でもおならだけで、中身は出なくてセーフ」
セーフというポーズをしたら、気が緩んで中身が出てしまった。
「あっ、お尻が熱い! 辛いの食いすぎた!」
まさか転生した異世界で、おもらしをするとは思わなかった。しかも大きいほうを。
「今僕のパンツの中は、非常に熱いです。しかしコンプライアンス的に中を見せるわけにはいきません。あ、臭い。匂ってきました!」
〈ユメオ、なにかまちがってるわ。そんなゲーム実況、見たことないわよ〉
「そうだ。アクションをやらねば。なんで激辛ラーメンなんか爆食いして、パンツの中に出してるんだ。もう怒ったぞ!」
僕は炎の料理人に、ラーメンの入ったどんぶりを投げつけた。すると炎はメラメラと燃えあがり、僕につかみかかってきた。
「あちーっ!!」
しかし本当は熱くない。開発者はちゃんと身体に優しく設定してくれている。僕は安心して、炎に身を任せた。
炎は僕を、背負い投げで床に叩きつけた。床は豆腐なので、もちろん痛くも痒くもなかったが、パンツの中の気持ち悪さはガチの地獄だった。
僕は本気で頭にきて、炎に殴りかかった。
しかし炎はそれを難なくよけ、目にも留まらぬパンチで僕を倒した。
(ちがう。こいつは料理人なんかじゃない。炎のファイターだ!)
炎のファイターは、容姿なく僕を殴った。そのたびに僕のお尻はブリブリ鳴り、パンツが膨れてミツバチみたいになった。
「ヤベー、ヤベー、これ以上出たらコンプライアンスが映っちまう!」
〈ユメオ、ストップ! ゲーム終了して!〉
「あれ、どうしたの、エリウサちゃん。コンプラ映ってる?」
〈本当にもらしてるのよ! 私の部屋、ものすごく臭い!〉
「マジ!?」
僕は文字通り顔から炎を出し、急いで足元の光を踏んで強制終了した。




