第14回配信 生まれ変わった配信
日曜日は1日動画の研究をして過ごし、月曜日、学校が終わるとすぐにエリスの家に行った。
するとエリスのお父さんが、ウサギみたいな真っ赤な目をして僕らを出迎えた。
「ユメオくん。たった今、転ゲーの改良を終えた。思う存分プレイしてくれ」
「ありがとうございます!」
「ゲームの中で、ニューヨークに行きたいと言えば行けるし、砂漠に行きたいと言えば行けるし、南極にも宇宙にも行ける。時代も、数億年前から、数億年後の未来まで行ける。好きに選んでみて」
「ありがとうございます!」
「じゃ、僕は寝る。ああ、そうそう、サクラは4人頼んでみた。同僚じゃない友だちにも声をかけておいたからね。賑やかになると思うよ」
そう言い残すと、ふらふらと2階へ消えた。
「パパかわいそうに。2日徹夜したんだって」
「僕が急がせたからね。あとでもっと、ちゃんとお礼しないと」
「いいのよ。パパは仕事がいちばん好きなんだから」
僕も将来、好きなことを仕事にできたらいいなと思った。
たとえば、エリスとのVチューバーで食べていくとか。まあそれは、今のところは妄想でしかないけど。
「ところであれから、予告動画にコメントは入った?」
「ううん。登場させたい敵キャラを書いてくださいって頼んでも、どういうゲームかわからないんだから、書きようがなかったのかもね」
「人気がないうちは、コメントなんて書いてもらえないんだなー。まあいいや。人気が出るように頑張ろう」
僕はエリスの部屋でベッドギアを被り、ベッドに横になった。
(さあ、生まれ変わるぞ。陽気なバカになって、アクションに挑むんだ)
では鬼畜モード、スタート!
* * * * *
僕は放課後の教室にいた。1回目にプレイしたときと、同じシチュエーションだった。
「死んで異世界に行く?」
セーラー服を着たエリウサが、にっこりと微笑んだ。
「おk。おまえの胸でキュン死するぜ!」
僕はエリウサに飛びついた。
するとエリウサは、ウナギのようにぬるっと滑り、スポーンと僕の腕から飛び出した。
(あっ、そうか。異性とは接触できないように、お父さんが改良したんだな。半分動物のアバターでもダメか)
と、視界の左上に、チャットの文字が浮かんだ。
♠︎ザクロ石:ウサギのジャンプウケるwww
(おお、サクラだ。やっぱりザクロ石さんは、お父さんの同僚だったんだな)
♣︎タマゴかけご飯:ユメエリさんおはよー♡
(や、サクラ2号だ。軽いノリだな。エリスのお父さんの同僚って、けっこう若いのかな)
♡エリス:おはおはー♡
(エリスも軽いノリにしたな。なかなかいい感じだぞ)
♣︎開発者:転ゲーまじ最高。
(ん? お父さん寝てるんじゃなかったのか。身体を壊さなきゃいいけど)
♠︎糖尿病:エリウサかわいい。。。
(みんな軽いなー。大人って、もっと大人だと思ってたよ)
♣︎顔しゃもじ:バルス!!
(意味不明なのが来たぞ。顔しゃもじさんとは、ちょっと絡みたくないな)
♡エリス:バルス!!!
(あー、エリスはいちおう乗っかるのね。まあ、明るければなんでもいいや)
♣︎開発者:バルス!!!!
(榎田家って、実はこういうノリだったのか。知らなかった……)
♠︎ザクロ石:ウサギちゃん、ユメオくんに抱きついてみて。
(えっ? ザクロ石さん、どうして急にそんなことを言うんだ。僕の願望がバレたのかな?)
♡エリス:はーいっ!
セーラー服を着たエリウサが、僕に抱きつこうとした。
僕はぬるっと滑り、上に向かってスポーンと飛んだ。
♣︎タマゴかけご飯:ウケるわーwww
♠︎糖尿病:お互い連続で抱きついて。
僕とエリウサは、レスリングみたいに互いに飛びかかった。
そのたびに、スポンスポンと相手が飛び、気がつけば、どっちも宙に浮いていた。
♣︎開発者:あ、バグった。重力設定を無視してる。
♠︎糖尿病:開発者さん、マズいっすか?
♣︎開発者:早く死んで、異世界に行ったほうがいいかもしれない。
♠︎糖尿病:ユメオくん、急いで死んでください。
♣︎タマゴかけご飯:1人で死んでよ。エリスちゃんを巻き添えにしないでね。
♣︎顔しゃもじ:バルス!!
「おっけー、この世よ、バイバイさよならー!」
陽気でバカな僕は、空中をクロールで泳ぎ、窓ガラスを突き破った。
が、重力設定がおかしくなったせいで、校庭の上空を漂うばかりで、ちっとも落下してくれなかった。
「わーん、死にたいのに死なないよー。誰か助けてー」
♠︎糖尿病:1回リセットしたほうが良くないすか?
「わーん、わーん、死ねないよー!」
♣︎開発者:リセットしなくても、死ぬ方法ならいくらでもある。
♠︎ザクロ石:例えば?
♣︎開発者:豆腐の角に頭をぶつけた場合、死ぬように設定してある。
♣︎タマゴかけご飯:ナイス!
♣︎顔しゃもじ:ナイス!!
♠︎糖尿病:エリスちゃん、ユメオくんに向かって豆腐を投げて。
「はーいっ!」
エリウサが校舎の窓から、豆腐を投げるのが見えた。
僕はそっちに向かって首を伸ばし、角がうまく当たるように頭の位置を調節した。
♣︎開発者:ユメオくん、転生したい舞台を言うんだ。そうしたら、死んだあとそこで目覚めるから。
「あ、そうか。えーと、えーと」
♣︎顔しゃもじ:豆腐の国!!
「と、豆腐の国!!」
べちゃ。
豆腐の角が頭にぶつかり、僕は死んだ。




