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第13回配信 キャラ変

 エリスのお父さんとのメールのやりとりは、以下のようなものだった。


〈ストーリーを選べるように直してくださるということでしたが、アクションが連続して起きるようにできますか?〉


〈ハリウッド映画みたいなものかな? やってみよう〉


〈ストーリー性は、ほとんどなくてもいいです。開始5秒でアクションがあって、敵がウジャウジャ襲ってくるのがいいです。敵はなるべく強力で、凶悪なやつをお願いします〉


〈……ユメオくん、どうかした?〉


〈自分が楽してビギナーモードにしていたら、誰も観てくれないと気づいたのです。プレイヤーに次々と困難が襲いかかってこそ、視聴者を惹きつけると思います〉


〈しかし転ゲーのリアルさは、よくわかってるよね。心臓がもたないよ?〉


〈苦痛をもたらす感覚は再現されないのだから、大丈夫です。とにかく、前回みたいに土いじりなんかしていたら、転ゲーは面白くないと思われてしまいます。それは絶対に避けたいんです。だから僕は、限界までアクションに挑みます〉


〈まあ、ストーリー性がなくてもいいのなら、すぐにできると思うけど〉


〈月曜日にはできますか?〉


〈なんとか。2日徹夜すれば〉


〈ありがとうございます。それと、同僚のみなさんにも、お願いしたいことがあります。伝えていただけるでしょうか?〉


〈おk〉


〈ライブ配信のときに、チャットで参加してもらいたいんです。あれがあると、盛りあがってる感じがするので。サクラを頼んでいただけますか?〉


〈おk〉


〈僕、一大決心して、陽気なバカにキャラ変するつもりなんです。それに合わせて、絡んできてもらえますか?〉


〈おk〉


 途中から、お父さんに面倒くさがられているように感じた。ここで急に、お嬢さんと結婚してもいいですかと打ったら、おkと返ってくる気がして、そうしたい誘惑に駆られた。深夜にメールなどしていると、おかしなテンションになる。


 翌日、日曜日の朝には、エリスにメールした。


〈今日は配信を休んで、作戦を練りたい。明日からは毎日配信するから、予告の動画だけ上げてもらっていいかな?〉


〈どんな感じにする?〉


〈鬼畜モードに挑むから、登場させてほしい敵キャラのタイプなんかを、コメント欄にどしどし書いてくださいと言ってほしい。もしそういうコメントがあったら、お父さんに伝えて転ゲーに加えてもらうから〉


 このメールを送信したら、電話がかかってきた。


「……ユメオ、大丈夫?」


「なにが?」


「だって、怖いの嫌いだったでしょ?」


「嫌いだからって、生ぬるいことしていたら、誰にも観てもらえないよ。だから、アクションに挑戦することにしたんだ」


「登録者数が減ったことを、気にしてるの?」


「そういうことじゃない」


 もちろん、そういうことだった。


「いくら自分が楽しくても、人か面白くなければ意味ないって気づいたんだ。配信の心得5箇条に反するように思うかもしれないけど、人に楽しんでもらえるのが、僕にとってはいちばん嬉しい。だからそれを目指すことにしたんだ」


「もしきつかったら、無理しないでね」


「これから僕、Vチューバーのときはキャラを変えるよ。陽気なバカになる。だからエリスも、実況のときはユメオのアバターを陽気なバカだと思って」


「えー、できるなかあ? ユメオは真面目がいいところなのに」


「ゲーム実況が真面目キャラじゃつまらないよ。だって自分で観て、つまらないと思ったもん。あれじゃあダメだ。2本とも削除したいよ」


「また最初からやる?」


「そうだな。今度はモタモタしない。開始5秒で死ぬ。転生したら、次々敵に襲われる。エリスは敵を見てキャーキャー言って。僕はそれにビビって逃げたり、闘ったり、やられたりするから」


「やられてもいいの?」


「痛くないからいいよ。でも痛くなくても、大げさにやられたーって叫んでみる。で、エリスはそれを心配したり、次の敵の出現を報告したりして、賑やかに実況してほしい」


「なんだか、ホラーゲームみたいね」


「まあ、その実況動画をお手本にしてるからね。お父さんがどういう敵キャラを作るかによって、ホラーっぽくなるかどうか決まるだろうけど。とにかくストーリーなんかどうでもよくて、アクションの連続をやってみるつもりなんだ」


「じゃあそういう方向で、予告動画を作るわね」


「頼む。あと、お父さんの同僚たちにサクラを頼んだから、チャットがたくさん入ると思う。そっちとも、面白くやりとりしてみて」


「忙しそうね。配信は1時間くらいにする?」


「もっと短くていいよ。アクションだけで1時間はもたないからね。スピード重視でいこう。知名度がないんだから、最初の数分、もしかしたら数秒が勝負になる。ゲームがダラダラしてきたら、すぐ終わろう」


「ねえ、ユメオ」


「なに?」


「誘った私より、ユメオのほうが夢中になってるね」


「夢中っていうか、真剣になったんだよ。チャンネル登録者数5人って、4人までがお父さんとその同僚でしょ? それ以外は1ってヤバいじゃん」


「あ、やっぱり数字を気にしてる」


「やるからには数字を無視できない。数字を狙って、結果コケるかもしれないけど、チャレンジだけはしたいんだ。僕の考えたやり方に、合わせてもらっていい?」


「うん。キャラ変したユメオも、ちょっと楽しみだしね」


 それは意外なことに、自分でも、けっこう楽しみにしている部分だった。


(もし陽気なバカに生まれ変わったら、エリスへの告白も、簡単にできちゃうかもしれないな。どさくさに紛れて、キャラ変してるときに告っちゃうか)


 そんな想像をしたとたん、結局は根が真面目な僕は、


「ところで陽気なバカってどういうの? 今電話でやってみせて」


 たちまち赤面して、なにも言えなくなるのだった。


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