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第四話 発芽する。

作者の特技は熱中する事です。

そのお陰で熱中症とは顔馴染みです(ぉぃ

 私は何故か、女神様と似通った金髪青目の色彩の天使さんがいっぱいいる通路を腕を引かれて、半ば引き摺られるように駆けている。


 …どうしよう…何か怒らせる事、してたのかな?

 ロベリアさんに悪い事でも言っちゃってたのかな…?


「あ、の…女神様…」

「……」

「腕、痛いです…」

「……」


 無言のまま、女神様と呼ぶ度、眉間に皺が寄っていく。

 今すれ違った天使さんは小さく悲鳴を上げてた。

 ごめんなさい。


「…アイリス」

「へ?」


 気が付けば、辺りには誰の気配もなかった。

 だからなのか、女神様は体裁なんて気にしてないように、膨れっ面になる。


「ランを拾った私は女神様で、ランを呪った悪魔が名前で呼ばれるなんて、不公平よ」

「女神様は私にとって、女神様なので」

「私以外にも当て嵌まる名称でもいい存在なのね?」


 これ…嫉妬、なのかな?

 そう意識した瞬間、女神様にとって私は特別な眷属なのかも、なんてつけ上がってしまう。


「御名前で呼んでも、いいですか?」

「私本人が良いって言っているの」

「じゃあ…アイリス様…」


 この幸せを噛み締めるように、つい、はにかみながら呼んでいた。


「なぁに、私のラン?」


 蕩けるような笑顔で、甘い甘い蜂蜜のような声が私を幸福感で包み込む。


「…はうわぁ…!」

「えっ?ラン?」


 あまりの破壊力にその場にへたり込んだ。

 アイリス様の(笑顔の)威力は絶大で、動悸が未だ激しい。


 だけど、あの様子は……アイリス様は、御自分の魅力に全く気が付いていない!!

 …私が守ろう。


 早々に決意し、アイリス様を見上げようとすると。


「…あれ?」


 アイリス様がいない?!

 さっきまで目の前に居たのに、消えた?



 …私が、邪魔だから…?



「アイリス、さま…」


 いつものように、名前を呼んでいた。

 私の声など誰にも届かないと、分かっていても。


 しかし、今の私は幸運なことに、女神の眷属だった。


 両手の平が熱くなる。

 驚くよりも先に身体が、その熱を逃さないように手で包み込んでいた。


 そうすること、数十秒。


「蛍…いや、蝶…?」


 手の中から漏れ出した光が、銀の蝶になっていく。

 淡く光る蝶は、あさりサイズの二枚貝のような子供が描いたような形で、ふわふわと私を中心に渦を巻くから、目が痛い。


 でも、不思議と心は温かくて、蝶達は私の味方なんだと思った。


「アイリス様は何処?」



 蝶に話しかけてみると蝶達は次々と消えて離れていき、ぼんやりと、幻覚のような人影に姿を変えた。

 少し遠くを歩く人影からは、気配を感じない?


 でもあのローブの後ろ姿は、アイリス様のものだ。


「アイリス様?」


 声を掛けても、長い金髪を揺らす後ろ姿は、歩みを止めない。


「アイリス様」


 まるで私という存在を、認識すらしていないかのように。

 頭から冷水をかけられたように全身から血の気が引いていく。


 生まれ変わっても……また、不用品に戻るの?



「待ってッ!!」


 伸ばした手は空を切る。

 確かに見えた後ろ姿は、夢か幻のように消えてしまった。


 でも、その幻は陽炎の如く遠くに現れ、見知らぬ男に手を引かれ、通路の奥の部屋に入っていった。

 直感的に、これはアイリス様の与えてくださった力のお陰だと信じて追いかけた。



 *****



 今度こそ、見つけた。


 だが同時に、アイリス様とは違う、冷たい力を感じて気配を消す。

 空気になるのが得意で良かったと、初めて思った。


 扉に張り付き、中の様子を窺う。


「よお、アイリス様。手間掛けさせやがって…!!」

「ひっ、久しぶり、ねっ?」



 …勘が当たった。

 室内にはアイリス様と、顔立ちこそ整ってはいるが、苛立ちを露わに額に青筋を浮かべた男が居た。


 それよりも、アイリス様が怯えている…?

 …今は、現状を把握しよう。


 もっとよく見ようとして、重い金属の扉に触れてしまい、蝶番が鳴く。

 だが、その音は男の蹴りが壁に窪みをつくった音によって掻き消された。


「変装までして…舐めてるのか?」


 男の言葉は、私に新たな二つの感情を植え付ける。


 一つは、圧倒的な力量の差への恐怖。

 もう一つはーー


「いや、そういうつもりじゃなくて」

「来るつもりがねえなら…潰す」


 ーー怒り。


 二十年という長くて短い人生の中、私は怒りを感じたことなど一度も無かった。

 それは単に、覆せない現実に匙を投げていたから。


「ちょっ?!当たったら危なかったでしょ!?」


 だけど、今は違う。


「なら黙ってついて来い」


 この身体を循環する血が煮え滾ったように、理性を呑み込み、ドロリと熱を持って。

 溶岩のようなそれは、思考能力を低下させるが、代わりに力の使い方を教えてくれる。



 《言葉に魔力を込めるんだ》


 《想像を形にして》


 《全ては我らが女王の、御心のままに…》


 温かい、女神様のくれた魔力を、言葉に…形に…


「溶けろ」


 手で触れていた扉の一部が、真っ赤に光と熱を放ち、手の形に歪んだ。

 冷たく重量感のあったドアノブは自重に耐えきれずにボトリ、と足元に落ちる。

 でもーー


「…未だ、足りない」


 僅かに滲み出る魔力も、受け止める魂の器も、何もかも…


「ーー何者だッ!!」


 虚ろだった意識を()()()()の声が引き揚げる。


「ランッ!」


 澄み切った碧が、私を見た。


 …嗚呼、見つけた。

 唯一無二の主君。


「私だけの、女神様…!」

「お前、何をしている!!」


 男は帯刀していた青く輝く長剣の鋒を私に向ける。


 《悪いヤツだ》


 《どうスル?》


 《殺しちゃう?》


 《溶かしちゃう?》


「だめ…アイリス様を…守らなきゃ」


 《じゃア、引き裂いちゃエ!》


「……穢しては、だめなの…」


 《ニンゲンがボク達ニするみたいに、捕まえようヨ!!》


 瞬間ーー朗らかに言った声の仲間の記憶が、頭に流れ込んでくる。


 木々の間を縫うようにして、必死に飛んで逃げる。

 次の瞬間ーー背中に焼けるような痛みと熱が襲い掛かる。


 地面が揺れる。


 大きな鳥籠の中に放り込まれた。


 倒れ込んだ先で最初に目に入ったのはーー



「…許さないッ!!」

「ランッ!」


 ーー捥がれた自分の羽根…



「…私が全て…消して仕舞えばいい」


 アイリス様…

 可哀想に、酷く気が動転している。


「落ち着いてください、アイリス様」

「落ち着くのはランの方よ。妖魔の囁きに耳を傾けては駄目」

「…妖魔……?」


 一瞬、俯いた。

 その隙を、男は見逃さなかった。


 上段から腹部に走る、一閃の青。



「……う、ぁ…」


 遅れて溢れた銀の光と、濁った靄しか、見えないや…


 《この屈辱、忘れんぞ…ッ!!》


 姿勢を維持できずに、ゆっくりと前のめりに倒れていく。

 身体の端の感覚がない…


 《…眷属の、身体さえ手に入ればァ!!》


 靄が私に向かって飛んでくる。



 呑まれて仕舞えば、アイリス様はどうなるのだろう?


 …あぁ、もういいや。


 諦めた途端、靄は言葉の通り頭から呑み込み始め、何も見えなくなる。


「ランッ!!ランッ!!」


 辛うじて、私を呼ぶ声が聞こえるだけ。

 ねぇ、アイリス様……名前を呼ばれることがこんなにも嬉しいだなんて、知らなかったよ…ッ!


 どうして?!

 嬉しいはずなのに涙が止まらないんだ…ッ!!


 もっと、もっとアイリス様の側に居たい。



「死にたく…ないッ…!!」


 《わらわの出番じゃなっ!》


「ーーいッ?!!」


 胸の中心から、眩い光とともになにかが飛び出て、視界いっぱいを照らし出す。


 《ふむ。イセカイでも、妖ではわらわに敵わぬか》


 靄も負けじと呑もうとするが、銀の光との力量の差は明確だった。

 数秒後、靄は完全に光に塗り潰される事となる。

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