第一話 人生終了のお知らせです。
作者のクロリと申します。
本作は短文で、今回を例外とし十一月まで三日置きに投稿させて頂きます。
以降は日曜に一本投稿です。
基本的に、ほのぼの4、ギャグ4、シリアス2の予定です。
前書きが長くなりましたが、生温かい目で見てやってください。
私、杜若蘭には、仕事以外何も無かった。
優しい家庭も、心を許せる友人も、突飛した個性も。
…いいや。一つだけ、趣味ならあった。
ライトノベル。
一時の休息と、明日へと向かう勇気をくれる、幸せの結晶。
私には大好きなラノベ作家さんがいる。
残業がどれだけ続いても、休日出勤が日課になりつつあろうとも、ラノベだけは私の味方だった。
その作家さんはとても有名な作家さんで、幾つもの作品を世に生み出していた。
主人公達はみんな輝いて見えて、時に偏屈で努力家な勇者の青年だったり、時には慈悲深く一つ一つの命を慈しむ戦乙女だったり。
それぞれの個性的な性格の中に見え隠れする信念が、格好良くて、憧れだった。
自分らしさなんて欠片もない私とは、違うから。
…だけど、神様。
こんな仕打ちは酷いと思う。
*****
流れ行く人達の好奇の視線が痛いほど刺さる。
「あははっ…」
そりゃそうだよね、うん。
濡れ鼠なスーツ姿の女が往来のど真ん中で四つん這いで絶望してたら、私も二度見するよ。
いくらなんでも今日は、特殊過ぎた。
先ず、会社に出勤した。
私は某健康食品の大企業の支部に勤めていた。
社内カーストでは最下層の空気扱いだけど、頼まれた仕事はきっちりと熟していたと思うし、同僚や上司からのヘルプで休日出勤は頻繁だった。
あと、なんで過去形なのか?
要するに、人員削減ってやつ。
多分私は世間一般で言う、八方美人なんだと思う。
誰の敵にもなりたくなくて、かといって、集団になって特定の誰かを言葉で傷付けるのが怖くて。
それで、いつも通りへらへら笑って挨拶してデスクに着こうとしたら、何も無い。
恐る恐る上司に伺うと、「君、もう来なくて良いから」だそうです。
私物を纏めて会社を出る。
そして一度帰宅しようと近道したのが、良く無かったんだと思う。
ーーガツッ!
「ヴッ…」
脳天に硬くて重たい何かが直撃する。
衝撃に耐え切れなかった私の身体は地面に倒れ伏した。
「大丈夫ですか?!」
「誰か救急車呼べ!!」
今日は厄日なのかな…?
どこか他人事のように思いつつ、割れたんじゃないかと思う程痛む頭を触れて、ヌルっとした感触にサァッと血の気が引く。
あぁ…もうだめだ……
目が覚めると、初対面の男の人が必死に謝りつつ、状況を説明してくれた。
私が通ったのは、偶然安全コーンが置き忘れられていたビルの窓拭き現場で、偶然手が滑って空のバケツが偶然当たってしまったらしい。
…そんなに偶然を連呼しないで良いです。
家に帰ろうとすると、お医者さんが家族を呼ぶように声を掛けてくる。
……それだけは、絶対に駄目だ。
医療費の倍は有る退社時に貰ったお給料を全額置いて、脱兎の如く走り去る。
アパートに帰ると、まさかの管理人さんが夜逃げしていたという事実が判明。
警察官の方に少しだけ取り調べを受けて釈放されるも、実家から勘当された私には、もう行く当てが無い。
*****
そして、現在に至る。
職無し、家無し、所持金ゼロ。
明日を生き抜く自信がない。
……絶望、していいですか?
『人間って窮屈よねぇ』
「ハハ…幻聴まで聞こえてきた…」
『それに比べて神になれば、ある程度の制限と神同士の交流会以外、全部自由よ?』
「…神様、いいなぁ」
『貴女、神になってみない?』
この幻聴、やけに熱心に勧誘してくるなぁ。
私なんかより良い人材なんてごまんと居るのに。
『貴女が良いの』
……これはきっと白昼夢だ。
誰でも良いから誰かに求められたい、私の承認欲求の塊。
その証拠に、辺り一面の景色が白い霧に包まれて霞んでいく。
でも、夢なら……いいのかな?
ラノベの主人公達みたいに、なれるかな?
「私に、できるなら」
『そう言ってくれると、信じていたわ』
次の瞬間、私は金髪碧目美人の前にへたり込んでいた。
良ければ☆評価お願いします!
作者のモチベーションアップに繋がります故、何卒…!!