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アルトリウスの旅。  作者: 立花和
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第5話 選定の剣。

まだ薄暗い中、大きな湖の側の草原を、2頭の馬が駆け抜けていた。


「結局、父上は見送りには来てくださいませんでしたね」


隣で馬に跨るモードレッドが話しかけてくる。


「仕方ない、父上は他のホムンクルス製造で忙しいのだろうさ」


寂しさが無い訳ではない、だが俺には為さねばならぬ事があるのだ。

選定の剣を抜き、このブリテンの王となる。

そして、父上にこの国を献上する。その為に俺は創られたのだから。


「ところで、選定の剣がある場所までどの位だ」


「このまま馬を走らせれば昼頃には着くかと」


「分かった」


必要最低限の会話だけを交わし、目的の地へと急ぐ。

というより、本心ではあまり会話はしたくない。何故なら


「世界とはあまりにも美しい」


思わず感嘆の声が漏れてしまう。


気付かないうちに馬の歩みを止めてしまっていた。

しかし、気付いたからといって再び走らせることがどうしても出来なかった。

モードレッドが何かを言いかけたが、口をつぐむ。

邪魔をしないように気を遣ってくれたのだろう、臣下の配慮に今は甘える。

そう、今はただ、この景色を目に焼き付けたい。それだけなのだ。


歌う鳥、風に当てられ踊る草木たち、稜線から顔を覗かせる朝日が光る水面は、まるで宝石箱のようにその一面が輝いていた。


「朝日だ」


「ええ」


稜線から少しだけ顔を覗かせていた朝日は、いつの間にか半分程その姿を露わにしている、その輝きに思わず瞼を閉じてしまう。

初めてこの地に足を付けた半年前、その時も眩い光に瞼を開けておくことは叶わなかった。

だが、あれはあくまで父上が造り出した人口の灯、この朝日はあれ以上の眩さと神々しさを持ち合わせていた。


「なあモードレッド卿!」


「はっ」


気付けば俺は叫んでいた。

ここまで感情が昂るのも珍しい、ただ今は、この言葉を。

確かに感じたことを、誰かに聞いてほしかっただけなのだろう。


「世界とはかくも美しい!!!」






モードレッドと共に馬を走らせ続け数時間。

俺たちはキャメロットに着いていた。


「王よ、ここがキャメロット。ログレスの都です」


「ここが......」


陽気な音楽が街を包み、今俺たちが立っている中央通りには多くの店が立ち並んでいる。

街全てを装飾しているのだろう、至る所に紙や風船で飾り付けがしてあり、本当にお祭り騒ぎとなっていた。


「選定の剣は、あの丘の上にある城の中にあるようです。とりあえず馬を預けにいきましょう」


「すまないがモードレッド卿、私は人を待たせているので先に向かう。馬を頼んでもいいか」


馬から降りてモードレッドに手綱を渡すと、モードレッドは何とも言えぬような怪訝そうな表情をしていた。


「はっ、構いませんが......王にご友人、ですか?」


「まぁな」


俺はそう言い残し、モードレッドに馬を任せて一人雑踏の中へ踏み込んでいく。

そう、この先、選定の剣の元にマーリンがいるはずなのだ。

暫く街道を歩き続けると、やがて城門に行きついた、城門の周りには多くの人物が集まっているようだ、しかしてそれは街の中の様子とは明らかに違う。


なるほど......こいつらは全員王志望者ということか。


城門は未だ開いていない、きっと選定の時間と共に開くのだろう。

さて、ということはマーリンはまだここら辺にいるはずなのだが......


キョロキョロと辺りを見回すと、見覚えのある後姿を見つけた。

甲冑に身を包んだ騎士や、見るからに傭兵を家業にしているような者、そういった類の人間しかいない中で彼女は一際目立っていた。


「マーリン」


あまりにも場違いな洋装の彼女の肩に手を掛ける。

するとマーリンはビクッ!と肩を震わせたかと思うと、今度は肩を震わせゆっくりと振り返ってきた。


「王サマ! びっくりするじゃないですか! もう!!!」


またも犬のようにキャンキャン吠えている。

しかし、毎度毎度顔が近すぎるのは勘弁してほしい、それをされると何故か強く出られないのだ......


「すまんすまん、現実こっちでは初めましてだな?」


まったく......とぼやきつつ、髪を直す仕草をしながら

そうですね!とはにかんで答えるマーリンを見ると、何故か心臓が締め付けられるような感覚に陥る。


まさかこの女、魔術でもかけているのでは無かろうな......


そんなことを考えていると、周りがさっきよりも数段ざわつき始めのを感じる。


城門が開いたのか......?いや、そういう訳でもなさそうだ。


「聞いたか?」


「ああ、王だとよ」


「どういう事だ、異国の王か? それとも......」


「ああ、俺たちを差し置いて王を名乗ってる田舎者ってことだな」


「どっちだ......?」


ざわざわと、周囲でそんな会話がされているのが耳に入る。

成る程、ここにいる者は王にならんとする者ばかり、周囲の人間の情報には機敏ということか。

王として創られた俺には、そういう考えは浮かばなかった。失策だろう。


そして、大抵こういう時ほど間とは悪い物なのだ。

聞きなれたガッシャガッシャという音と共に


「王~~~~! 我が王よ~~~! 何処ですか~~~!」


という声が聞こえてくる、モードレッドだ。

外野を気にして家臣の呼びかけに応じぬ事はできない。


「ここだ! モードレッド卿! 俺の声を辿ってくるがよい!」


そう叫ぶと、さっきよりも一層、周囲の喧噪が大きくなる。

俺を見る目もどんどんと変わっていき、先程までの小馬鹿にしたような目から、今は完全に戦力分析、訝しむような眼で見られている。


「王! よかった、この人込みです、見つけられぬかと思いました」


馬を預けて走ってきたのだろう、額には汗がにじんでいた。

そういえばマーリンの紹介をしなくてはならない。周囲への警戒ばかりに気を取られて忘れるところだった。


「モードレッド卿、馬を有難う」


「いえ! あの程度! ご友人とは会えましたか?」


「ああ、そのことだ。紹介しよう、おい、マーリン」


俺の後ろに控えているマーリンを呼び、モードレッドの目の前に案内する。


「これがマーリン、魔術師をしていてな。宮廷魔術師として今後は働いてもらうことになっている」


マーリンは少し照れているのか、いつもより明らかにぎこちない様子でどうも。と軽い挨拶をしている。


「そしてこちらが我が騎士、モードレッド卿だ」


モードレッドは騎士として、礼儀正しい挨拶をしていた。流石だ。


「それにしても王よ、まさかこのような美しいお方だったとは。もしやお妃としてお考えで?」


恐らく俺が今何かを飲んでいたら確実に吐き出していただろう。

マーリンは赤面させて何故かくねくねしている。


「モードレッド卿、それは無い」


それにしてもモードレッドも冗談を言うんだな、と新しい発見に嬉しくもあるが、呆れが圧倒的だった。

ふとマーリンを見てみると、さっきの妙な動きはせずに何故か放心状態のようになっていた。


忙しいやつだ。


「さて......」


俺が口を開くと、全く関係ない所から声が上がる。


「おい」


声の主を見てみると、一瞬巨人族と見間違うような、まるで岩のような巨体を持つ戦士だった。手にはバスターソードを持っている。


「貴様、さっきから王と呼ばれているが、周辺の王ではあるまい、そのような姿見たことが無いからな」


「如何にも。俺は王ではないが、王になる男だ。まぁ貴様の尺度で計れることではない」


「なんだと!? ふざけやがって! 俺様を誰だと心得る、アグドの番犬と恐れられたっ」


残念ながら、目の前にいた男は自分の紹介を最後まですることは叶わなかった。


「貴様ッ! 王に対して何たる無礼か!!! 剣を抜くとはこういう事だたわけ!!!」


モードレッドが思いっきり殴りつけ、その巨体が吹っ飛んでいく。

あの巨体を吹っ飛ばすパンチって......

相変わらずとんでもない膂力だ。


「モードレッド卿、よい。俺は正式には王ではないのだから、そのくらいで良いだろう。それよりも見ろ、此処以外でもいざこざが起こっているようだ。乱闘になる前に衛兵が門を開けそうだぞ?」


俺たちに当てられてかは分からないが、あちこちで怒声が飛び交い、乱闘になるのは時間の問題だった。

そんな時、周りの喧噪を掻き消す叫び声が一帯を支配する。


「王足らんと言う者達よ! 自らを省みるが良い!」


シン......となる門前。

声を辿り、その主を見てみる。どうやら騎士のようだった。

白銀の甲冑に身を包み、純白のマントをたなびかせ、いつの間にか開いている門の目の前に仁王立ちしていた。


年齢は50前半といったところだろうか、老兵という響きがよく似合う人物だった。

しかし、その眼光は見る者全てを威圧するだけの重圧を放っている。

他の兵士とは明らかに違う存在。


「あれはこの国の騎士団長ですね」


隣でマーリンが口を開く。


「騎士団長?」


「はい。竜を撃退したり、異民族の侵攻を防いだこともあるようですね。騎士としては異例で、今は国王代行をやっています」


「騎士が国王代行か、周辺諸侯が良く許したな」


騎士が国王代行など、明らかに異例だ。いくらこの国が騎士国家で、あの男が騎士団長としても、一介の騎士に政をさせることは普通ないだろう。


「それだけこの国が追い込まれているということでしょう」


「成る程な......」


俺たちがこんな会話をしている最中にも騎士団長の怒声は続く。

どうやら、国王候補がゴチャゴチャしてんじゃねぇという話だった。


「では! これより選定の儀に入る! 列を成し、選定の剣にその手を掛けよ!」


騎士団長のその言葉と共に、おおーー!!!という雄叫びが天を貫く。

王として創られた俺からしてみれば、他の人間は総じて王になることは無いので、何にそこまで熱くなっているのか理解に苦しんだ。


だが、俺を創り出した父の事を思うと胸が高鳴る。

他の人間もこういう気持ちなのだろうか。


「マーリン、お前はここで待っていろ。モードレッド卿、貴公は......」


「王よ、どうかお側に」


モードレッドは跪き、俺と共に来る事を選択した。


「分かった。共に征こう」


そして俺とモードレッドは選定の剣を引き抜く列に加わる。



今日、俺は王になる。


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