プロローグ
人は産声を上げる、その産声は果たして感涙の雄叫びか、悲愴の叫びか。
産声を上げることのできなかった私に、それが分かるときが来るのだろうか。
私の父は、私を含め12体の人造人間を作ったようだった。
私は私の父について良く知らない、ただ。
試験管の海の中、生命に満たされた母なる水の中、私は毎日のように父からの願いを聞き続けた。
「アーサーよ、我が息子アルトリウスよ。お前は王になるのだ、王になるべくして私が創りあげる。いいか、努忘れるな。お前は王になるのだ」
私は王になる。
この地を統べる王とならなくてはならない。それが父の願い、私の生まれる理由......私の、戦う理由だ。
私は王になる為、試験管越しに父からありとあらゆる知識を賜った。
この国の事、神々の事、魔法の事。
そして私についても......
「良いかい、アルトリウス。お前はアーサーを名乗ってはいけない、お前が真の名前であるアーサーを解き放つ時、それはお前がホムンクルスとしての生を終える時に他ならない。お前は賢者の石によって不老の力を得ている。だが不死ではない、いいかね、お前がアーサーを名乗るとき、それは死に直面した時だけだ、覚えておきなさい」
そうして、俺が生まれる日が来た。
『魔力値、アンテイ。自我ノ存在ヲ、確認シマシタ。バイタル安定。排水可能デス』
人間の声ではない、ああ、これが父の言っていた機械の声か。
「排水しろ」
今度は父の声だ......嗚呼そうか、これで生命の水とはお別れなのか。
私の世界一杯に満たされていた生命の水がいなくなっていく感覚。
頭頂にひんやりとしたモノを感じた、初めて感じる、生命の水以外のモノ。
これが空気。
やがてそれは徐々に降りてくる、瞼からも母の存在が無くなり、やがて首、肩、腰と徐々に母は降りていく。
そして完全に母の存在が無くなり、浮いていた俺の身体は地に足を付けた。
「さようなら、母さん」
母への別れを告げ、目を開ける。
「初めまして、我が息子よ。生まれて初めての言葉が母への別れ、殊勝なことだ。さあ、その試験管から出てきなさい」
水に濡れた試験管の中からでは、声の主である父の姿はよく見えない。
「破壊」
一刻も早く父を見たい衝動に駆られた俺は魔術によって試験管を割り、初めて本当の世界へ根を下ろす。
一つの生命として。
試験管の中と外は、本当に別世界だった。
初めて目に入る本当の光、その眩さは眼球から脳を刺激し、思わずその瞼を閉じる。
その瞬間、ドクン。と、初めて自らの心臓の鼓動を感じた。
血が巡り、肺の収縮を感じ、鼻から入る本当の空気は、管を通ってくる空気とは全く違う味だった。
嗚呼、今初めて、この試験管の外に出たこの瞬間から俺は生命と成ったのだろう。
割れたガラスの破片を踏みつけ、瞼を上げる。眼前の、白銀の光を背に立つその人がーー
「やあ、私はモルガン、アルトリウス、君の父親だ」