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二一二〇年、五月。バイクでアメリカ迄。

作者: Yuki_Mar12

***




 強化プロテクターを装着し終えると、おれはマンションの部屋を出ようとした。最近新調したプロテクターで、無傷なのは勿論、ピカピカしていて、とても気に入っている。


 外より車の音が聞こえる。風を切る音。巨大な車の巨大なエンジンの音。ハイウェイは盛況のようだ。というのは……


 おれは壁掛けのカレンダーを見る。二一二〇年五月のページ。


 ゴールデンウィークである。ハイウェイが盛況なのはそのせいだ。


 車の走行音の中に、時折ギューンというオートバイの走行音が混じり込む。するとおれは、何だかうずうずと血沸き肉躍るというような感じを覚える。胸が高鳴る。ボルテージが上がる。


 そういうわけで、おれは辛気臭い部屋を飛ぶようにして出て行った。







 昔、猛禽の名を冠したオートバイがあったという。大排気量の。しかししょせん、昔の話に過ぎない。ずいぶん昔、確か、一〇〇年くらい昔の。


 おれは太平洋のアウターステートハイウェイを走っている。トーキョーとニューヨークを結ぶメジャーなラインだ。最近整備されて、ずいぶんと走りやすくなった。


 最近大型バイクの免許を取って、それなりのバイクを買った。フェアリングを全身に纏ったスポーツバイクだ。青色のコイツがとても気に入っている。少々姿勢が前傾でキツイのだが、些少の欠点に過ぎず大きな問題ではない。


 今日までたっぷりと仕事をして、その憂さ晴らしをこうして、信じられないほど広大な紺碧の海原の上を快速で走ってするのは、たいそう痛快なことだ。


 だだっぴろい海の上だ。風景を遮断する遮音壁などない。目を喜ばせてくれる美しい豁然たる景色が、溢れんばかりの色が、光が、両目に飛び込んでくる。


 周囲には日本とアメリカを別のラインでつなぐハイウェイがあり、その上では、様々な乗り物でいっぱいだ。あらゆるハイウェイは橋脚に支えられており、その橋脚はどっぷり深い海へと下りている。どれだけ深くても、橋脚は下ろせるという。何と人口のプレートが海底に敷かれているからだとか。


 ……何はともあれ、この二一二〇年のゴールデンウィーク。快晴に恵まれた絶好の日和に、愛車にまたがって風を切り、長い道のりをファンキーな国へと走らせるのは、とても、とても、愉快なことだ。


 トーキョーとは違う摩天楼。ニューヨークの摩天楼。大味な料理。気さくな人間達。


 あぁ、トーキョーを出て、今は太平洋のどの辺りだろうか、ハンドルに取り付けたナビを見てもそれは分からない。太平洋の今おれのいる地点に、名前がないからだ。あったらよかったのに。


 あぁ、でも、こんな海の、何もないところに、どうやって名前を付ければいいのだろう?


 アメリカまでは、後七〇〇〇キロ。朝に出た。恐らく日が暮れるまでには到着するだろう。


 太陽は高い。空は青い。ハイウェイの道は、ずうっと向こうまで伸びて、旅の長いことを、おれに教えている。




(終)


 

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