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ちまちま身分差人外恋愛モノ書きたいと思います。

 幼いころの記憶は、とても朧げだ。

 ふわふわとしていてとても悲しい。

 私の両親は貧しく、私を森においてどこかに行ってしまった。


 暗い森を飢えながらさまよっていると、同じぐらいの年の少年と出会った。彼の名前はエレツアルを言って、私に食べ物をくれた。


 プラチナブロンドの美しい艶の有る髪。若草色を溶かした翡翠の瞳。傷一つない白磁の肌に、優しいほほえみで、エレツアルは瞬く間に私の天使になった。


 彼もどうやら一人なようで、私たちはお互いの孤独を埋めるように毎日寄り添って過ごした。

 エレツアルはたくさんの事を知っていて、私に教えてくれた。森を抜けた所にある人間の国や、どこか遠くにある、妖精と人が共に暮らす国の事。食べられる木の実やキノコの見分け方、そして数々の歌を。


 私たち二人は大事な家族になったが、その美しい日々は長くは続かない。

 あるとき、忽然とエレツアルは居なくなっていたのだ。

 そうして私はまた一人になり、街にやっとの思いで辿り着き、運よく宿の主人に拾われた。



 日に焼けた肌、この辺りでは珍しい、腰まである黒いボサボサの髪に、アメジストの瞳。そして18歳の痩せこけた体の私は、レイリアという名前だ。


 特に美しくもない平凡な容姿で、みすぼらしい恰好をしている。

 拾ってくれた主人に私は感謝しなければならないのに、どうしてか、その気持ちは一切消え失せている。その理由は、ここでの生活はまさに「奴隷」だからだ。


 宿での給仕、掃除、洗濯、主人の娘たちの雑用、その他もろもろ。食べ物も満足にもらえず、毎日のように罵られ時には暴力も受けている。

 1日中働きづめで、自由な時間はなく死んだように眠り、叩き起こされる。


 毎日がギリギリな状態だったが、それでもここに居続ける理由があった。


 この宿では多くの「歌人(うたびと)」が排出されている。歌人とは、お城で妖精王とともに精霊への祈りを捧げる祭事の際、歌によって精霊をお慰めする者の事だ。


 平民がお城に上がれるといえば、「歌人」に選ばれるしかない。

そこでここでは、毎日たくさんの人が美しい歌声を披露しているのだ。

 名が売れ、多くの人々が認める歌人候補になれば、歌人になりお城で貴族に見初められ、玉の輿になれる者も少なくない。そのため、歌人には女性が多く、その争いは熾烈だ。


 私は歌が好きだ。

 東方で歌われる珍しい歌、妖精語を使った不思議な響きの歌、情熱的な恋の歌。


 ここにいる限り、私は大好きな歌を聴き続けることができる。それに、逃げるアテもない。

 今日もお店は繁盛していて、私は必死になって働く。


「(あ!)」


 様々な歌人候補がいるが、私にはとりわけ大好きな歌人候補がいる。

 鮮やかな金の髪、濃い青の瞳に女神も逃げだしそうな美しい容姿の女性、「ミリア」だ。


 そしてもう一人、ミリアの弟「レイ」。彼も髪の色と瞳の色はミリアと同じだが、鋭い目つきをしていて、その性格も中々にキツい。だがその美しい容姿で圧倒的な女性人気があり、彼も男性にしては珍しい歌人候補となっている。


 彼女たちが現れると、空気が変わる。

 4人の歌人の枠のうち、ミリアとレイは確定だろうと人々の間で噂になっている実力者だ。

 そして実は、ミリアは私の友人でもあるのだ。


「(ミリア、レイ、頑張れ)」


 口に出すとうるさいと後で叩かれるので、心の中でひそかにエールを送る。

 彼女たちが歌いだすと、ざわざわとうるさかった店内が静かになり、人々は歌声に酔いしれるのだった。



「レイリア」


 店の裏で一人で洗濯物を洗っていると、声がかかった。

「ミリア!」


 その声の持ち主に、私は手を止め微笑みかけた。

 ミリアは笑みに応え、ゆったりとした動作でさらに歩み寄る。


「レイリア、今日は歌わないの?」


 以前、店の裏で歌っていた時にたまたま二人に気づかれ、特にミリアは私の歌声を気に入ってくれたのだ。


「気づかれたら怒られるもの……」

「困ったものねえ。あなたには歌の才能があるのに」

「そんなことないよ、それよりミリアとレイ、今日も素敵だった! お客さん皆歌声にうっとりしていたよ」

「うふふ」


 ミリアは美しく笑って、私のボサボサの髪を耳にかけてくれた。


「レイリアは可愛いわね」

「えっ」


 可愛いなんて言われなれてないので、私は頬を染めてしまう。しかも、こんなにきれいな人に言われたら嫌味なのかと勘繰ってしまう。


「ねえ、あなたもそう思うでしょ? レイ」

「あ、レイ……」


 私はちょっと身構えた。レイの事は正直少し苦手なのだ。あの冷たい目で見つめられたら、なんとなく竦んでしまう。


「……」


 話を振られたレイは、ふいっと顔をそむけた。


「まあ」


 レイったらうふふ、とミリアが笑う。


「照れちゃって」

「うるさい」


 と、レイ。

 ミリアは私に向き直ると、期待に満ちた目で言葉を続ける。


「ねえ、レイリア。お願いよ。あの不思議な響きの歌がずっと気になっていたの」

「ミリア…」


 私の歌う歌は、かつてエレツアルが教えてくれたものだ。

 大切な宝石のような歌。ミリアにおねだりされて、断れる者がいるのだろうか?


「いいよ」

「嬉しいわ。私から店の主人に言っておくから」

「うん……恥ずかしいから、これきりね」


 強く風が吹いて、私は誘われるように歌いだした。


 ねえ、エレツアル。

 どこにいったの? それとも、あまりにも綺麗だから、妖精にさらわれてしまったの?

 ――それとも、私を置いていったの?


 宝石のような歌は、私の心に色々な感情を灯し、その灯は私の喉を伝って声になる。

 ずっと孤独だったからか、幼いころの彼を忘れられない。


「レイリア」

「!」


 ミリアが心配そうな表情で私を呼んだ。一体どうしたのだろう。


「とても素敵だった。ねえ、レイリアは……大切な人がいるのね、そういう歌だったわ」

「……」


 ミリアはどこまでも優しい声で、私の頬にそっと手を当てた。


「ごめんなさいね。私、嫌なことを思い出させちゃったのね。歌っているあなたが辛そうだったから」

「ううん、ミリアのせいじゃないよ」

「……洗濯物、手伝うわ、ほらレイも」


 そう言って二人は仕事を手伝ってくれて、歌ったことを主人にも怒られずに済んだ。


 だけど、その日の夜は、ずっと眠れなかった。

読んでくださってありがとうございます!

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