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ロックシュート(拳)

 ゴラノルエスさんと共にアンデッド系モンスターとの激戦を繰り広げた次の日、さっそく魔法ギルドへと来ていた。

 

 「あらあら、また来たのね。ノルスト君と遊びに来たのかしら?」

 「いえ、その、違います。デルゲンビスト様に取り次いでもらえますか?」

 

 受付のおばさんには、すっかりノルストさんのお友達という認識をされてしまっているようだ。

 

 「あなたバッソ君よね?そのまま入っていっていいわよ。あ、ノックはちゃんとするのよ。」

 「え?あ、はい、わかりました。」

 

 なんとなくおばさんの勢いに押されるままだったけれど、ぼくのことは話が通っているようだ。

 

 

 

 魔法ギルド長室ではほとんど会話をすることもなく、すぐに裏庭へと連れてこられることとなった。デルゲンビスト様としては待っていてくれたようだった。

 

 そしてここに移動する間に、例のマミー発生の話は伝えてある。

 

 「ふむ、きなくさいの。じゃが、確かに何か手が打てるほどの情報でもないようじゃ。とりあえず伝えてくれて感謝するぞ、警戒はしておこう。」

 

 あいまいな部分も多い話だったのに、こちらの危機感を理解してもらえたのはほっとした。

 

 「バッソさん、冒険者のお仕事の調子はいかがですの?」

 

 ぼくらが裏庭に出るのとほぼ同時にニトさんも別の出入り口から出てきた。受付のおばさんから聞いたのかな?

 

 「昨日はかなりの数のスケルトンを倒したから稼ぎはいいよ。」

 「?そうですの。」

 

 ぼくの言い方に少し引っかかりはあったようだ、さすがに勘と頭がいいなニトさんは。けれどこの件に関しては必要なことはニトさんの師匠であるデルゲンビスト様から伝えるだろうし、ここで詳しく話しておくことはないだろう。

 

 「まずは、バッソ君からニトへスムーズな魔法の発動について教えてやってくれんか。わしからも色々教えておるんじゃが、同年代のやり方の方がわかりやすそうじゃ。」

 「いいですよ、わかりました。」

 

 そういうと、ぼくはニトさんへと魔法の回路を構成し、魔力によって魔法として発動させる一連の流れを、ぼくなりに気をつけていることを交えながら説明し始めた。

 

 

 

 「頭では色々と理解しましたけれど、すぐに真似はできませんわ。」

 「まあ、結局は日々の反復練習だよね。時間や場所がない時も、杖の中に回路を構成して散らすのを繰り返すだけでもいい練習になるよ。」

 

 ニトさんは尋常ではないくらいに理解力が高く、理屈としてどうすればより発動が速く正確になるかということはすぐに理解を示した。

 

 けれどそれを実際の魔法発動に活かすには体と精神が理解に追いつくまで、染み付かせるしかない。つまりは言った通りの反復練習だ。

 

 「わかりましたわ。」

 

 言うと、ニトさんはさっそく色々な魔法を小さく発動させて繰り返し、頭で理解した内容を試しているようだった。

 

 「では、バッソ君にはわしから一つ実戦的な魔法を教えてあげようかの。」

 

 それまで、ノブおじさんと天気の話をしていたデルゲンビスト様が、ニトさんの様子をみてそんな風にぼくに声をかけてきた。

 

 そしてノブおじさんはいつのまにか出てきていたニトさんの使い魔である白いトラ、トラマルの顔やあご下、胴体や尾の付け根を撫でまわし始めた。トラマルとしては猫扱いでいいのだろうか・・・。

 

 「向こうの地面に打ち込むからよく見ておくように。」

 

 そういうと、デルゲンビスト様は左手で杖を持って右足を軽く引き、目線の向きに対して半身の体勢をとった。変わった構え方だ、それに右手を握りこんでいるのはなぜだろう?

 

 「“ロックシュート”」

 

 小さな音を立ててデルゲンビスト様の足元から圧縮された土塊が飛び出した。デルゲンビスト様のすぐ前に。

 

 ロックシュートは岩や石、あるいは圧縮された土塊を目標へと高速で打ち出す魔法で、単純な破壊力に優れた魔法だ。しかし土中から直接打ち出すと勢いが殺されてしまうため、それを承知で大量に放つか、あるいは一度浮かせてから飛ばすか、どちらかになる。

 

 デルゲンビスト様は、ここからもう一手順で発射をするつも・・・、

 

 「ふぅんっ!」

 ごっ

 

 恐ろしい勢いで飛んで行った土塊は離れた場所の地面を抉り、右腕をきれいに伸ばしていたデルゲンビスト様は満足そうに腕を引きながらこっちを見た。

 

 「どうじゃ?」

 「老人の所業ではないと思いました。」

 

 トラマルは少し怯えているし、ノブおじさんの表情も引きつっている。体格がいいとはいえ老人の動きではなかった。

 

 けれど、ニトさんはこちらを見もしていない。いつものことなのだろうか。

 

 とはいえ、実のところ狙いはわからないでもない。魔法で弾を用意するから投石より速いし、腕力で飛ばすから通常のロックシュートよりも速い。いうなれば最速のロックシュート(拳)だ。

 

 「ぼくの拳じゃ、そんなの無理ですよ。何で素手で殴ってすり傷ひとつないんですか。」

 

 単純に威力に関しては、戦士職の人ならできるだろう。しかし本職の殴り屋であるストライカーだって手袋や手甲をつけて殴る、当然拳の保護のためだ。

 

 「戦士職の身体強化は雑じゃからのう。ちゃんと腕力強化と身体保護に振り分けて強化すればこのとおりじゃ。」

 

 手の甲を見せながら、何でもない風に言われてしまった。

 

 「いきなりそんなこと言われても、ぼくにそんな戦士の真似事みたいな・・・。」

 「できるじゃろう?ほれ、その杖でなら。」

 

 デルゲンビスト様はぼくのヒノキの杖を指している。杖術で応用しろということか。

 

 「あれ?ぼくデルゲンビスト様の前で体術は見せたことないですよね。」

 「ある程度“使える”ことはその杖の普段の扱いを見ればわかるわい。」

 

 なんか、デルゲンビスト様が武芸の達人みたいなことを言い出した。しかも当たっているのが怖い。

 

 「んと、やってみます。」

 

 ぼくが杖を使うのはあくまで身を守り、魔法で反撃するまでの時間を稼ぐため。破壊力なら魔法を乗せればいい。

 

 とはいえ、モンスター相手にただの棒を振り回して時間稼ぎにもなるはずはないから、ぼくでも当然身体強化や、杖へ魔力を通しての武器強化をして、威力やスピードを高めることはしている。

 

 ロックシュート自体はぼくでも使える。人によって回路構成のアレンジは違うけど“土”“固まる”“飛ぶ”で“地よ礫となって貫いて”、だ。

 

 そしてこの“土”“固まる”で一旦魔法の発動を止めておいて、コントロールした石や土塊を浮遊させ、最後の“飛ぶ”で射出する。しかし今回は止めたところまでだから・・・。

 

 「“地よ礫となって”」

 

 目の前まで浮き上がった拳大の土塊から、魔法の発動を止める。すぐに土塊は落下を始めた。

 

 ここで間を開けずに身体強化と杖への魔力強化。

 

 土塊は今、あご下あたりだ。

 

 杖を半回転させて勢いをつけ、体を軽くひねることでさらに加速させて振り抜く!

 

 「せっ!」

 どっ

 

 威力はおそらくデルゲンビスト様の半分くらいだけど、自分でも驚くくらいうまくいった。見るとデルゲンビスト様も驚いているようだし、ニトさんまで今度はこっちを見て固まっている。

 

 「お師匠様の腕力魔法を真似できる方が存在するなんて・・・。」

 「できると思って教えたが、まさか一回目とはのう。魔法と体術の技量と身体強化、それに素の身体能力と本当にうまく鍛え上げておるようじゃな。」

 

 ものすごく驚かれて、そして褒められている。ぼくにとって魔法の修業とは師匠の教えしか知らなかったから普通だと思っていたけれど、もしかするとすごい英才教育を受けてきたのだろうか。さすが師匠、常識の一歩上をいっている。

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