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壁魔王と干物女  作者: 椎名 秀平
1/9

魔王は転移する(半分だけ)

祝!初投稿!

宜しくお願いいたします。

混沌とした空間の中で、淡く青白い炎に照らされた漆黒の鎧。

かつて、幾千幾万もの勇者と相みまえ、そしてそれを打ち倒してきた存在は、その場にいるだけで飲まれてしまいそうな威圧と、殺気をかもしだしていた。


「今宵もご機嫌うるわしゅう、魔王様」


鎧の眼下にひざまずく世話係の魔物は、年老いて皺だらけの手を組み、揉んだまま、今日もご機嫌を取っていた。

世界樹の枝から作り上げたその杖に宿る魔法は、大都市をも軽く吹き飛ばすほどのまがまがしい力を兼ね備えてはいるものの、そんな彼さえも、目の前に鎮座する魔王には手も足も出ない。


「良きかな、ジャベリン」


ただ何気ない一言、その一言に込められた禍々しい気を感じながらも、彼ジャベリンは微笑む。

世話役とはいえ、彼も実力屈指の魔導士である。

普段であれば、自分の空間に籠って魔術の研究に熱が入っているところだが、今日は違う。

彼には、その圧倒される気に耐えながらも、魔王に謁見する大きな理由があった。


「それは何よりでございます、魔王様。本日は研究の成果をご報告に」

「ほう、あの異世界をつなぐ魔術の研究か」


鎧の奥で輝く眼光が鋭くなり、石造りの古城と王座を光が包む。

感情の起伏だけでもこの放出量こそ、歴代屈指といわれた今生の魔王たる所以なのだ。


「はい、遂に完成いたしました」

「誠か!」


魔王の期待に応える、それは魔王に生み出され、魔王の元で生きるものにとっては生命線であり、そしてなにより悦びである。


「いかにも。小動物ですでに実験は成功しており、配下の魔物での成果も芳しい。成功に御座います。」

「良くやったぞ!ジャベリン!!」


思わず立ち上がった魔王のせいで突風が襲う中、ジャベリンはにんまりと微笑んでいた。

300年、魔族にとっても決して短いとは言えないその年月をかけ、さまざまな世界の理を学び、そして絶え間ない実験によってようやく日の目を見る魔術は格別である。


「これを待っておったのだ、さあジャベリンよ。我を異世界へと案内せよ。」


異世界への進出、それはこれまでの歴代魔王が誰も成し得なかった偉業でもある。

ランランと輝く目を大きくしながら、魔王が豪快に肩を揺らす。


「お待ちください、すぐに準備が整いますゆえ」


使い魔に魔法陣を描く道具と、さまざまな部品を運ばせなくては。

ジャベリンは、急いで立ち上がると、手を鳴らして使い魔に指示を送った。


***


「魔王様、それではこれより転送の儀を行いまする」

「うむ、早くするのだ」


一世一代の大事業である。

多くの配下の魔物や魔族が控える中、王座の前には大きな魔法陣が描かれていた。

ジャベリンが杖に魔力を込めると、魔法陣がほんのりとした光を放ち始める。


「魔王様、これより転送は一瞬に御座いまする。実験により、異世界ではこちらよりも数段発達した生活レベルを兼ね備えた、平和な社会であることがわかっております。」

「そうか!新しい技術や知識、魔術があるかもしれぬな。その世界、我が掌握してみせるぞ、ジャベリン」

「頼もしいお言葉に御座います。」


ジャベリンはそう言いながら、自らの手に召還した声の魔物の口を使って、詠唱を行う。

鮮やかな色。魔法陣が一際強く輝きだす。


魔王は少し空を浮遊すると、ゆっくりとその中心に降り立った。

「いってらっしゃいませ、魔王様。後はきっちりこのジャベリンめが」


言いかけて、ふと視界の端に映った光景に、ジャベリンは心臓が止まりそうになった。

いや、彼に心臓があるのかどうかは怪しいものだが。

今はそれは置いておこう。


そこには、魔王の異世界への門出を祝っていた魔物たち、そのうちの鼠の魔物の一匹がいた。

下位の魔物は、上級のものとは異なり、そこまで知能が高くないものもいる。

そんな一匹が、魔法陣の描かれた石畳を、その強靭な歯で咀嚼していた。


「何をしてるんだ!魔王様の転送の最中だぞ!」


声に我に返った鼠の魔物は、ジャベリンの威圧によって古城の奥へと逃げてゆく。

意思疎通という点において、難のある下位の魔物は、力こそ強いが考え者である。

「まったく・・・」

気を取り直して、詠唱に入ろうとするジャベリンを呼ぶ、配下の魔物の声。


「ジャベリン様!!暴走してます!」

「なにっ!」


詠唱を中止するが、魔法陣の輝きはどんどん増していく。

「なぜだ!!」

「魔法陣がかけています!さっきのラッティーがかじった・・・」


見れば、さっきの魔物の咀嚼で、魔法陣の制御部分が見事にかけてしまっている。

ふとあのネズミの名前に殺意が沸きかけるが、今はそれどころではない!


「いかん!われらも飲み込まれるぞ!陣を消せ!古のインクだ!ビャクランギクの液で消すんだ!!」

一斉にわっと詰め寄る魔族たち。


光り輝く魔王を中心に、必死に雑巾のようなもので床をこする魔族の面々は、どこか日常的な雰囲気すら感じられる。


「ジャベリンーーー!大丈夫なのか!!!」

「まま魔王様、大丈夫です!!!おい、お前もっとそっちにも液をのばせ!!消すんだ!!!」


無敗の魔王軍の必死の清掃により、徐々に輝きを失う魔法陣。

よかった、転送前に間に合ったか。


ほっと胸をなでおろすジャベリン。


魔族たちもいつになく汗だくになりながら、光が消えるのを待つ。

やがて、すべての光が収まったその先。


薄暗い古城の王の座の真ん中で。


上半身だけ消失し、きれいに中途半端に宙に浮いた魔王が、ぽつねんととりのこされた。


「・・・・・・。」


誰も言葉を発することはない。

ただわずかにばたつかせている足が、彼が無事であることを物語っている。


丁度きれいに引っ掛かったような状態になってしまった魔王。

しばらくばたばたしていたが、やがて亜空間ごしに、くぐもった声が王座にもれる。


「じゃべりん、いす」

「あ、はい」


はじかれたように返事をするジャベリンは、宙に浮いたまま地につかない足を補佐するため、手早く下半身に王座をはさんだ。


あ、もうちょっとうえまでがっつりささえたほうがいいかな、なんか魔王かわいい、そんな妄想の中、一世一代のくぐもったデカい絶叫が古城にこだました。


「ジャベリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!」

「す、す、す、す、すみませーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!」


***


壁だけ魔王。

その伝説は、末代まで末永く語られている、一つの喜劇であり、悲劇である。

あるものは彼を馬鹿だと蔑み、あるものは類を見ない知識と革命によって、魔族はおろか世界を変えたと称賛する。


かくして。

そんなちょっとコミカルな、魔王の異世界探検物語が幕を開けた。

初投稿はうれしいものです。

有難うございます。

気ままにアップしていきます。


次回は、いよいよ転移先で日本人と遭遇。

「おっさん、あんただれ?」

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