表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪の味方

悪の味方 -1-


「追い詰めたぞ。悪魔の手先"デーモン矢倉"!」


廃ビルの屋上まで逃げてきたが、案の定後が無くなってしまった。


ここに逃げてきたことがそもそも俺の間違いだったな...


後ろを振り返ると、赤、青、緑、黄、桃... カラフルなタイツを身に包んだ戦闘員達が俺にそれぞれの獲物を向けていた。


赤は刃の側面にギザギザの付いた剣


青は刺した後に内蔵でも引き出しそうな返しの付いた槍


緑は当たると酸が撒かれる弾の入った2丁拳銃


黄は打ち面に針を沢山生やした100kgのハンマー


桃はトゲトゲの沢山ついた鞭


仮面で表情は分からないが、あの仮面の裏ではこれから俺にどんな拷問をかけて殺そうかとにやにやしているはずだ。


(昔はこいつらもこんなんじゃなかったのにな...)


俺は現状を嘆いた。




------


3年前のことだ。

日本の怪人達の5年以内再犯率が80%を超えた。

このことで非難を一身に受けた"防衛省"は、ある法の廃止案を議会に提出した。

それは"怪人における特別人権法"の廃止である。

これは国民の大半の支持を得て、間を置かずして可決となった。


このときから、怪人達の凄惨たる日々が幕を開けた。


今までは、病人のように扱われていた"怪人"は、人間では無くなった。


戸籍を失い、職を失い、家を失い、家族や友達を失った。



ニュースや週刊誌では防衛省所属の戦闘公務員達が怪人を殺害していることが連日報道された。

このことについて政府は当初ダンマリだったが、3か月程経った頃、当時の防衛大臣がようやく国民に対して会見を開いた。

大臣はこう言った。



「そんなに騒ぎ立てることですかね。我々はただ害虫退治をしているだけです。」



当初、これは社会問題となり、怪人達に哀れみを持つ人々も多かった。


しかし政府主導の怪人へのネガティブキャンペーンも連日報道された。

過去に怪人が行った凶悪な事件の概要、被害者の関係者達の悲痛な叫び...


徐々に怪人を擁護する国民の声は少なくなっていき、日本全体が怪人を"排除"する方向に傾き始めた。



俺たちは地下に隠れたり、僅かにいる怪人を擁護してくれる人達の力を借りて、何とか命からがら生き延びていた。






------




5人の戦闘員がゆっくりと俺に近づいてきた。


「さあ、どんな声で鳴いてくれるのかしら」 桃色が言った。


「初めは俺にやらせてくれ。弾を新しくしたんだ。効果が見たい」緑色が言った。


「いや、俺にやらせろ。最近ご無沙汰で溜まってんだ。我慢できねぇ」青色が言った。


「おいどんは最後に頭を潰させてほしいだす。あの感触がたまらないでごわす」黄色が言った。


「おい。お前らくれぐれもすぐに殺すんじゃないぞ。じっくりとやろう」赤色が言った。



(ここで俺も終わりか)


俺は自分の死を悟った。


(嬲り殺されるくらいなら、自分で命を絶ってやる)



俺は後ろに向かって走りだすと、2mほどの柵を跳躍して飛び越え、ビルの真下へ落ちようとした。


しかし、空中で足に何かが巻き付き、俺は屋上のコンクリートに叩き落された。


「ぐはぁ」


凄まじい痛みに悶絶する。



「あらあら、逃げれる訳ないじゃない。考えが甘いわね」

桃色の声が聞こえる。


右足には桃色の鞭が絡みつき、その鋭い棘が脹脛(ふくらはぎ)の肉を抉っていた。


(これはもう逃げられない...)


そのことを悟った俺は、痛みを堪えてその場に立ち上がるとファイティングポーズを取った。


「おっいいねぇ。やる気じゃん。そう来ねえとな」赤色が言った。


「何だったら、こいつ怪人化させようぜ。」青色が言った。


「こいつの怪人化の条件は"人助け欲"らしいわよ。それで、さっき怪人化したのね。」桃色がタブレット端末を見ながら言った。


「ほーん。だったらよ...」


緑色はそう言うと隣にいた桃色の首を片手で掴む。



「ちょ...ちょっと何するのよ。」


「いや、なに。ちょっとお手伝いをしてもらうだけさ。本気ではやんねぇよ」


緑色は桃色の首に掛けた手に力を込め始めた。


桃色の体が地面を離れる。


「あんた....ちょ...まじで....やめ...」桃色は足をばたつかせて抵抗している。鞭とタブレットが地面に落ちる


「うわぁ。なんだか堪んなくなってきたな。まじで殺しちまうかも」緑色が興奮したように言う。


他の奴らはその異様な光景を何も言わずに見ていた。


(こいつら...狂ってる)


俺は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。


これは、"奴"がやってくる合図だった。


俺は胸に手を当てて、グッと力を込めて握り込み抵抗する。


(だめだ。やめろ。奴らは敵だぞ。助ける必要なんてない!)


桃色の抵抗は段々と小さくなってきていた。


「おい!いいのか矢倉!本当に殺しちまうぞ!」緑色が俺に叫んだ。


(助ける必要なんてない!助ける必要なんてない!)


俺は必死に自分へ訴えかけるが、自分を制御できなくなる気配を既に感じ取っていた。


桃色が遂に何の抵抗も示さず、ぐったりするのを見た瞬間に全身に熱が走るのを感じた...





悪の味方 -1- -終-
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ