第9話
最近どうにか5000文字は超えるようになりました。
よろしくお願いいたします。
※5/23 最後の部分の経過日数を変更しました。
初顔合わせの翌日。
どういうわけか、本宮殿に泊まってしまったのだが、これからどうしたものか。
普段であれば、朝の訓練をする時間だ。
自分はいつも通りの時刻に起きているが、多分他の人は起きていないのではなかろうか。
大人たちは結構遅くまで飲んでたからな……
流石に子供に夜更かしはきついので、子供勢は皆、途中退場したのだが。
しかし、大変だった。
結局、エリーナやアレクは同い年なので、特に仲良くなったが。
しかし、婚約なんてまだするつもりはないが、大丈夫だろうか。あの二人。
ふと、横を見る。
ヘルベルト、ハリー、アレク、そして僕の順でベッドに寝たはずなのだがな……
兄者と兄様は寝相が悪い。
そしてアレク、お前が枕を奪ったのだな。何抱きついている、全く……
子守をしている気分だ。いや、間違ってはいないが。
ベッドから起きて着替える。
全身のストレッチをして、柔軟性を維持しておく。
その後は瞑想だ。
ステータスのCONとCAPを上げるための訓練である。
一年間毎日していたので、既にこれは日課になった。
本当はこの後、剣の訓練をするのだが、流石に自宅ではないので自重するしかない。
……そういえば、宮殿内はどこに行ってもいいといわれていたな。
朝食の七時までには戻ると走り書きをし、部屋を出る。
時間の感覚が前世と変わらないのはありがたい。
まあ、一年が三百六十日なのはびっくりしたが。
ちょうど三十日で一ヶ月になるのだが、六年で三十日溜まるので、七年目だけ十三ヶ月になるんだったかな。
さて、部屋を出て廊下を歩くと、ある人物に出会った。
エリーナである。
「おはよう、エリーナ。早起きだね」
「おはようございますわ、レオン。どこに行かれますの?」
お互いに挨拶をする。
エリーナに笑顔を向けてみる。
おや、赤面せずに笑顔で返されたぞ。愛らしい笑顔だ。
いや、何をしているんだか……
「これから少し剣の訓練をしにいこうかと思っているんだけど……どこがいいかな?」
ここは実際に住んでいる彼女に聞くのがいいだろう。
「そうですわね……近衛騎士の訓練場とかはどうでしょう?」
なるほどな。
ふと、そばに目を向けると、衛兵が立っているので、使っていいか聞いておこう。
「おはようございます。少し訓練のため訓練場に入りたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「おや、おはようございますレオンハルト殿。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
親切な衛兵の人だ。
「じゃあ、少し行ってくる「私も行きますわ」」
……かぶせられた。
大丈夫なんだろうか。いくら王宮でも一人で出歩いては拙いんじゃ……
「大丈夫ですわ。私もよく行きますし……一緒に訓練しませんか、レオン?」
うーん。どうかねぇ。
思案していると、エリーナの目がうるうるしてきた。
「……ダメ、ですの?」
「イヤ、イイヨ」
女の子に泣かれるのは弱いんだよ!
まあ、エリーナは僕が守れば……あれ、一緒に訓練?
「エリーナ、剣使ってるの?」
「ええ。といっても細剣ですわよ? 大きなのは使えませんから……」
意外と武闘派なのね、エリーナ……
* * *
しばらく歩くと、訓練場に到着する。
綺麗にされており、整備も十分行われている。
二人で訓練標的を準備し、それぞれの型や打ち込みを練習する。
エリーナは器用に標的を突いていく。
人体であれば、柔らかく、急所である部分を連続の突き動作で、ほぼ同じタイミングで当てていく。
女の子が頑張っていると、負けたくないという気持ちになってくるな。
いつもの片手剣を握り、標的を狙う。
僕はいつも、通常の片手剣より細身の剣を使う。
叩きつけるのではなく、斬り捨てるように。
流れる動作で関節部を、弱点を狙う。
かれこれ一時間は経っただろうか。
二人とも結構汗をかいたが、もう少し動きたい気分だ。
「エリーナ。模擬戦をしてみよう」
せっかくなので二人で模擬戦を行うことにした。
木剣ではなく、刃を潰した模擬剣で闘う。
「レオン、負けませんわよ?」
「当然だ。本気でやろう。このコインを投げるから、地面に落ちた瞬間から勝負だ」
——キイィィィィン
コインを弾く音がする。
コイントスをして、落ちて地面についた瞬間に模擬戦を始める。
相手だけでなく、コインにも注意を払う。
意外とできそうでできないのだ。
コインに集中すると、相手から目を離してしまう。
相手に集中すると、出遅れる。
だが、彼女ならばできるだろう。
なんとなくそう思っていた。
こう考えている間も、コインは地面に向かって落ちてゆく。
視線が交錯する。
お互い、剣を持つ手に力が入る。
――コインが落ちた。
それを視覚でも聴覚でもない、何か別のところで感じた僕らは、お互いに動き出した。
* * *
最初の数分は激しく、火花を散らしながら剣を合わせた。
お互いの手数や、巧妙な技――もちろん子供のレベルだが――を使って相手の動揺や隙を窺った。
だが現時点での実力が拮抗しており、決着がつかない。
そうすると、今度は無駄には手を出さず、読合いに近い状態となっていく。
……これじゃ埒があかない。
仕方ないか。
そう思いながら、剣を納めたように腰のあたりに寄せ、適度な脱力と共に腰を沈める。
いわゆる、「居合」だ。
もちろん、前世の自分は剣道なんて経験がなく、かつて友人に見せてもらったものの真似だが。
もちろんエリーナは警戒している。
一見無防備に見えるが、そこで飛び込んでこないのが流石である。
だがこのままでは変わらないことが分かっているのだろう。
細剣を身体の前で八の字に回すと、弓を引くかのように、顔の近くで剣を持つ右手を引き、左手を刀身に添えて構えた。
お互いの闘気が高まる。
何が引き金になったのか。
お互いの汗が地面を打つ音か。
遠くの扉の音か。
一瞬。
二人の影が一つになり、すれ違う。
僕は剣を一閃し振り抜いた形で。
エリーナは右手を伸ばし、一点を突いた形で。
だが、エリーナの手には剣がなかった。
ぎりぎり、僕の居合もどきが彼女の剣を弾き飛ばしたのだ。
お互い振り向き合い、僕は彼女に剣を突き付ける。
「……負け、ですわね」
「……どうにか、な。怪我はないか、エリーナ」
もし怪我をさせていては拙いので確認する。
「ふふっ、大丈夫ですわよ?」
「……よかった」
ホッとため息をつき、笑いかける。
とにかく精神的に疲れた。
父と戦うときと違い、本気を感じた。
お互いに笑いあい――座り込んだ。
「はー、つっかれたー!」
「つっかれましたわー!」
あまり見せられる姿ではないな……
* * *
しばらく休憩をした後、王家の私室に戻ることにした。
そろそろ朝食の時間でもあるので、水を浴びて、着替えてから王家専用の食堂に向かう。
「おはようエリーナ、そしてレオン。朝からデートかね? 俺に何も言わず?」
何故か仁王が目の前に立っていた。
「おはようございます、ウィル叔父様。デートではありませんが、一緒に訓練してました」
「おはようございます、お父様。デートならもっと良いところにしてもらいますわ?」
「むぅ。返しがつまらんぞおまえたち! それでも王族か!」
理不尽だろ。
お笑い芸人じゃないんだぞ。
「確かに! 申し訳ございませんわお父様! ご指導お願いいたしますの!」
エリーナさん……それはちゃうねん。
なんか、エリーナがやる気になっている……
「お前も鍛えてやるぞ! 王道とは笑いも含めて王道だ! 一つもおろそかにしてはならん!」
「マリア叔母様-、フィオラ叔母様ー。こっちで陛下が暴走してますー」
「あ、バカ! それはダメだと――「あ・な・た?」ああああー!」
あっという間にウィル叔父様が引っ張っていかれた。
フィオラ叔母様がこちらに微笑む。
「ごめんなさいね? あの人ったら朝、早起きしたのに二人がいなかったから、拗ねていますのよ?」
「あー……それはすみません……」
いくら早いとはいえ挨拶くらいすべきだったか。
後で謝っておこう。
* * *
朝、少々騒動があったものの、どうにか平和に過ごすことができた。
叔父上も謝ったら滅茶苦茶上機嫌になったからな。
これから両親も叔父上たちも仕事である。
まあ、下の階に移動するだけなのだが。
そのようなわけで子供たちはそれぞれ勉強や鍛錬を始める。
ハリー兄やヘルベルト兄者は、多分鍛錬に行ったのだろう。
僕はエリーナやアレクと共にゆったりとした時間を過ごす。
三人で本を読み、おしゃべりをする。
平和な時間だ。
……と思ったら、兄たちが来襲してきた。
「おい! 何やってんだ! 外に出て遊ぶぞ!」
「さあ行こうかレオン。朝はエリーナと遊んだんだろう? 今度は俺たちの番だよね? ん?」
まったく……はしゃぐのは構わんが、勉強はどうした。
あと二年はあるとはいえ、ちゃんとしているんだろうか。
「いいか? 今から俺たちは流離いの剣士だ! 外で冒険者ごっこをするぞ!」
ヘルベルトが拳を突き上げて宣言する。
こいつ……アホの子か……!?
横ではハリー兄が笑っている。何企んでんだか。
「じゃあ、クエストを説明するよ。
これから俺たちはムザート伯爵夫人のレッスンがある。だが、俺たちには任務がある。それはこの王宮で起きる数多の戦闘(勉強)を回避しつつも、かけがえのない宝物(遊び時間)を得る時間だ! 諸君の働きにかかっている!」
ハリー兄はノリノリでクエストなんて言っている。
だがそれって、つまりは授業を受けたくないから、本宮殿内から出て離れで遊ぼうと。
そういうことだろう?
しかし、大丈夫か?
意外と叔父様や父なら気にしなさそうだが、母上に見つかると怒られるぞ?
「……大体、なんでよりによって今日はダンスのレッスンなんだよ。俺、ムザート伯爵夫人は苦手だぜ」
「俺も苦手だよ、ヘルベルト。よくレオンは平気で受けてたよね……」
いや、ダンスって必要じゃないか。楽しいし。
「あら、レオンもムザート伯爵夫人に教わったんですの?」
「ああ。しかし、『も』ってことはエリーナも?」
「ええ、そうですわ。アレクも習ってますのよ。パートナーをしてくれていましたの」
「なるほどね。僕はセルティ姉がパートナーだったな」
同門なのか。まあ、大抵の貴族はそうらしいが。
「今度お相手をお願いできるかな、エリーナ。時にはしっかり練習しないと忘れそうだよ」
「あら、是非お願いしますわ!」
よし! パートナーをゲットだぜ!
流石にいつもセルティ姉では困る。ここはエリーナをパートナーにしていれば、何か式典で踊るときも一緒に参加して、そばに付いていることができるのだ。
「おいそこ! イチャイチャすんな! 行くぞ!」
ヘルベルトが僕らをせき立てる。
「あ、まってよ〜、おにいさま」
アレクがヘルベルトたちを追いかける。
しばらく周りを窺いながら、兄とヘルベルトが本宮殿から離宮への道を進む。
まあ、離宮というのはうちの家族が滞在する離れなのだが。
そうやって、後は離宮まで一本道のところまで来た。
「ふう。ここまで来たら大丈夫だね。さ、遊ぼうじゃないか」
あ、ハリー兄。それはフラグだ……
「あら、お二人とも。ここで何をしているのです? 今日はダンスのレッスンでしてよ?」
「「うえっ!?」」
「どういう声を出しているのです、殿下。そしてハリー卿、先ほど何とおっしゃっていましたかしら?」
背が高く、独特の縦ロールにされた薄紫色の髪。
非常に珍しい、極彩色の羽根飾り。
輝かしいモノクル。
……一言で言うと派手で奇抜なんだが。
間違いない、ムザート伯爵夫人だ。
「お久しぶりでございます、ムザート伯爵夫人。その節はお世話になりました。お元気そうで何よりでございます」
「私からもご挨拶申し上げますわ、クラリッサ先生」
「あらあらあら! エリーナ殿下にレオンハルト卿ではございませんか! お二人ともお元気そうで何より。最近はダンスされてますかしら? 貴方たちは本当によく練習されていましたからね、あっという間に卒業してしまわれて……
久々に見たいですね。ええ。すぐに陛下に許可を取ってきましょうそうしましょう。この二人のことも報告しなければなりませんし」
相変わらず口調が速い。
あっという間に話されるので、聞き逃すまいとするのが大変だったな……
そして、「陛下に報告する」のところでうなだれた二人。
サボると後が怖いんだぞ。いい勉強になったな。
……意外とこの二人には効かないのかもしれないが。
ともかく、ムザート伯爵夫人と共に歩いて(約二名は連行されて)陛下の元に移動する。
ムザート伯爵夫人から陛下に取り次いでほしいとのことで、エリーナと共に、国王の執務室の前に立った。
「陛下、レオンハルト・フォン・ライプニッツであります」
そう扉の前で口を開く。
すると中から「入っていいぞ」との言葉が聞こえたので、扉を開け入室する。
胸に手を置き、頭を下げ、貴族の礼をとる。
次男とはいえ公爵家の一員。爵位はないが、成人前なので準貴族扱いである。
ちなみに成人したら任意で貴族籍を外れ、平民になることもできるが、余程の馬鹿か、問題児でない限り、上級貴族の子供は何かしら役職に就くので、法衣貴族になるのが通例だ。
「どうしたレオン、ハルトよ」
いくら陛下の執務室で、僕が親族とはいえ、ここは公的な場所だ。
愛称で呼ばないでくださいね、王妃殿下から怒られますよ?
「実は、ムザート伯爵夫人がお話ししたいことがあるとのことです。恐らく、ヘルベルト殿下……のことについてと予想いたしますが」
本当はうちの兄様のこともあるんだけどな。
流石にここでは言わない。
「あ、あー……そうか。分かった。応接室で話そう。……セバスティアン、頼む」
「はい、陛下」
叔父上は隣に立っていた補佐官に声をかけた。
いかにも執事の雰囲気だが、王様付の補佐官、つまりは官僚の一人ということだ。
「さ、エリーナ殿下、レオンハルト卿。ご案内いたします」
そう言われ、一緒に退室する。
少し離れたところに立っていたムザート伯爵夫人と、連行されてきた二人の阿呆と共に応接室に向かう。
おっと、阿呆ではない。兄者と兄様だ。
しばらく出された紅茶を楽しんでいると、陛下が部屋に入ってきた。
「すまんな、待たせてしまった。しかし、相変わらず元気そうであるな、ムザート伯爵夫人。さ、座り給え」
「突然お邪魔いたしまして申し訳ございません、陛下。そして、陛下もご健勝そうで何よりでございます」
陛下が座ってから、促されて皆座る。
ちょっとハリー兄とヘルベルト兄者の顔色が悪いが。
結局、ヘルベルト殿下とハリー兄は怒られるのだが……
どうも陛下は二人をかばっている感じだった。
そして、エリーナと僕はダンスを踊り損ねた……何のために陛下のところに行ったんだか。
「まったく……殿下もハリー卿も、誰に似たんだか……
そこは似てほしくなかったんですがね……」
そんなムザート伯爵夫人の呟きは虚空に消えた。
* * *
顔合わせから一ヶ月ほどたった。
今日も本宮殿でいとこたちと遊ぶ。
父は平日領地に行き、休日は王都に来ている。
なんか、単身赴任の父親みたいだ。あながち間違っていないが。
夕方になり、官僚たちは屋敷に戻る。
普通、そろそろ父と共に離宮に戻るのだが……
今日は叔父様たち一家と一緒に夕食だそうだ。飲み事はないようだが。
しばらくエリーナたちとお喋りしつつ、夕食の時間を待つ。
すると、部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
そう声をかけると、「失礼します」との言葉と共に一人の男性が入ってきた。
セバスティアンだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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