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スターダストクロノス外伝―闇の中の瞳―  作者: 桐森 義咲@きりたん
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4話 生きたい、生き残りたい

 目を開けた時、とてつもない虚無感に襲われた。

 あぁ……やっぱり、そうなんだ。神様は残酷だなあ……。

 自分の二つの目から頬を伝う涙を感じ取る。

 辛いなあ、本当に何も見えないや…………何も、何もかも。

 願いとは裏腹に現実は容赦なく私へと突きつけられる。

 私の瞳が写す世界は、昨日と同じ、一片の光も通さない漆黒の闇だった。


 もう見る事はできない。大好きだったラノベも、お父さんとお母さんの笑顔も、美紀の顔も、夏美さんも……もう見られない。みんな、みんな大好きだったのに。

 私は涙を流しつつも、喉の奥から声を出す。


「ごめんなさい、やっぱり……私の目、見えないみたい」


 泣き声が聞こえた――体に衝撃が走る。強く強く、私を抱き締めてる。でも誰かわかるよ……お母さんだね。


「っ――こんな事って、ありかよ……」


 美紀の声、美紀も泣いてくれてるの? ごめんね……でも、私の為に泣かないで。


「海、ちゃん……」


 あぁ……夏美さんにも、悲しい思いさせちゃってる……ああ、なんでこうなったんだろう? 本当、嫌になるな。



 その後、私は恐らく看護師さんに点滴を外されたり、トイレに行ったりと少しだけ忙しい時間を過ごした。

 その中で思った事は、もう一人じゃ何もできないという事。

 どんなに取り繕っても、今の私じゃ一人でトイレにすらいけない。お母さんに手を握ってもらい、トイレへ案内されるのは高校生となった私にとって、この上なく恥ずかしいものがあった。顔から火が出るというのは、まさにこの事を言うのだろう。

 でも、そんな事は言ってられない。

 この闇は私を恐怖へと陥れるのに、十分だったから。

 それでも私はみんなに心配をかけないよう笑顔を作る。みんなには私の笑顔が見えてるだろうから。


「う……うっくぅぅ…………う……み……」


 お母さん、ごめん。泣かせちゃったみたいだね……逆効果だったかな……。


§


 それから美紀は泣いているお母さんを落ち着かせる為、共に部屋から出ていったようだ。

 どうやら夏美さんは残ってくれてるみたい。でも、わからないから声を掛けてみる。


「夏美さん、いますか?」

「……ええ、海ちゃん。ここにいるわ」


 その声に、私は少しだけ安心する。見えなくても、そこに居てくれる……。夏美さんなら、こんな馬鹿げた話も聞いてくれるだろうか?

 私は恐る恐る、言葉を口に出してみる。


「よかった……あのね、夏美さんは……その、異世界転生って信じますか?」

「よくライトノベルで使われる設定ね、星時も確かそうだったかしら……?」

「いえ、星時の主人公は死んで、あの世界に行ったわけじゃないから転生じゃなく転移なんです」


 私がそう言うと、夏美さんは申し訳なさそうな声で話を続けてくれた。


「ごめんなさい、勉強不足で……。えっと、異世界転生を信じるか……だったわね? そうねー……夢があるとは思うわ、信じるかどうかって言われると難しいけれど」


 そう言われ、私は妥当な答えだと思った。現実離れしすぎているもん。異世界転移、転生なんてやっぱりあり得る事じゃない。わかってる、だけど……私は。


「私、もしかしたら、昨日……行けるんじゃないかって思ったんです。もしも、あのまま死んでいたら転生して、私の好きなラノベの世界に行けるんじゃないかって――」

「海ちゃん……」


 私がそう言うと夏美さんは、落ち込んだような声を出す。

 夏美さんの表情まではわからないけど、多分……引かれた。唐突な話だし、現実味もない……無理もないよね。傍から見れば、ラノベの読み過ぎで頭がおかしくなってるんじゃないかって言われそうだもん。私だって、そう思う。


「夏美さん、ごめ――」

「あら、もうこんな時間、ごめんなさい……もうそろそろ、お店に戻らないと……」


 私が謝ろうとした時、夏美さんは遮るようにそう言った。夏美さんの気分を害してしまったかもしれない。

 段々と足音が遠ざかっていってしまう。そして引き戸を開ける音が聞こえると、少し声が遠くから聞こえた。


「私は、海ちゃんに異世界転生してもらわなくてよかったと思っているわ。それって海ちゃんはこっちの世界では死んでしまうって事でしょう? 海ちゃんが死んじゃったら、私も気が気じゃなくなると思う……」

「…………」

「……それじゃ、またね」


 夏美さんは最後にそう言うと、引き戸が閉まる音が聞こえた。

 部屋には一人になってしまった。


「死んでしまう……か」


 確かに異世界系のラノベは色々と種類がある。特に転生系は主人公がトラックで轢かれたり何かしらの事故で亡くなってから、この世界とは全く違う神様の加護によって違う世界に飛ばされたり。私の場合だと……目に障害を負って、錯乱し、病院の窓から転落死になるの? 待て待て、死んだからって転生できるって決まったわけじゃない。あれはフィクションなのよ、そもそもここが何階かわからないし。


「大丈夫……私はおかしくない……おかしくなってるわけじゃない……」


 私は自分にそう言い聞かせる。そして固唾を飲み込み立ち上がると、窓を求め、歩き始めた。

 別に死ぬつもりなんてない。けれど……そう、なんとなく。なんとなく、ここが何階か気になっただけ。目が見えないから、絶望したから、死にたいって思ったわけじゃない。

 ……あれ? 私、今、何を考えてるの?

 私の左手の指先に何かが当たる。


「あ、これは……ガラス? じゃあここが窓――」


 右手もガラスへ付けようと手を伸ばした瞬間、私の腰のあたりに何かが当たる。窓枠……? 窓が開いていた?

 嘘、落ちる――。

 そのまま私はバランスを崩し、窓の向こう側へと身を投げ出した。


 すごい風圧が顔に当たる、でもまだ衝撃が来ない、つまりここは一階ではない。そう思った時、脳のリミッターが外れたのか、様々な事が思い浮かぶ。

 今の私の体はどういう状況なの? 頭から落ちてるの? ダメ、このままじゃ本当に助からない! なんとかしないと、なんとか――。


 ふと私の脳内に、夏美さんの言葉が蘇る。


『私は、海ちゃんに異世界転生してもらわなくてよかったと思っているわ。それって海ちゃんはこっちの世界では死んでしまうって事だもの……海ちゃんが死んじゃったら、私も気が気じゃなくなると思う……それじゃ、またね』


 私はその言葉を心に刻みつけ、笑顔を作った。

 全くその通りだよ夏美さん……死んじゃったら、お母さんたちも悲しむよね。私は……生きたい。絶対に生き残るよ!




 私は自分に翼を生やし、空を飛ぶイメージを固める。

 すると、本当に背中から真っ白な翼が飛び出すのが見えた。


「うそ、本当に? いけるの……?」


 私は翼を羽ばたかせた。空へと急上昇する。それと同時に空へと手を伸ばし、確信した。

 いける、この空の向こうへ飛んでいける。見えるよ、あの空の向こうの真っ赤な夕日が、見えるから……。

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