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スターダストクロノス外伝―闇の中の瞳―  作者: 桐森 義咲@きりたん
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2話 それは、突然訪れた

 学校帰り。私は大通りの近くにある、ここに寄るのが日課になっている。


 そう! 本屋さん! 目が悪くなっても、ラノベが見られるなら私は本望だよ!

 小さな書店だけど、ここは本当にお気に入りの場所だ。心は落ち着くし、何より私の素が出せる数少ない場所の一つでもある。一つはここの書店、二つ目は自宅、三つ目は……美紀と居る時だろうか? それくらいしか思いつかない私は一体……。


 そんなネガティブな考えを振り払い、自動ドアを潜る。

 すると世界は一変する。まるで異世界の小さな図書館みたいな場所。

 二階まで吹き抜けで天井が高く、黒を基調にした淡く光る星空のような壁紙、明かりは少なく薄暗いが本を見るのには全く苦労をしない。本自体が明かりを放っているのかと勘違いするほど文字が見やすいのだ。

 入ってすぐ右にはレジがあるのだが、手渡し台に置いてある私の頭ほどある光る不思議なキノコの照明。私的にはこれがすごく怪しく思う。本を発光させているように見せているのはこれなのかもしれない。触ってみた事はあるが、妙に柔らかく本当にキノコなのかも。

 次に左前にある、二階へと続く螺旋階段。その中央にある天井まで届きそうな大きな木、地面から生えているように見えるのだけど、本当にインテリアなのだろうか? そもそもこんな小さな書店にどうやって入れたのかすら理解ができない。


 二階にはよく分からない難しい本ばかりで上がることは滅多にないが、一階から見ているとたまに男の人が居るのを見かける。ここでよく見かける人なんだけど、私から話しかけた事はないし、男の人も私に話しかけてくる事はなかった。

 私は目線を上げ、一階から二階の様子を覗く。…………どうやら今日は居ないみたい。

 上げていた目線を下げ、私は少し前へ歩むと書店らしく、ちゃんと人気ラノベが綺麗に並べられているテーブルがあった。テーブルの端には星を象った二つの吊りランプが左右対称で置かれてあり、他の場所よりも明るい。

 やはり人気作が置いてある場所、目につきやすくしているのだろう。

 テーブル左右には奥に進める真っ直ぐな通路があり、本棚が並んでいる。

 私が右通路を覗くと、いつも顔を合わせている店長さんが本の整理をしていた。丁度本の整理が終わったのか店長さんは私に気が付くと、笑顔で話しかけてきてくれる。


「あら、海ちゃん、また来たのー? いつも飽きないわねー」

「こんにちは、夏美さん! えっへへ、来ちゃいました!」


 彼女はここ金木書店の店長、金木(かねき) (なつ)()さん! 性格はおっとりしていて髪は栗色、長さは背中の辺りくらい。口元に一つ小さなほくろがあって、それでいて美人! 確か二十三歳になるって言ってたかな……。私と違って、すごくお淑やかだし……これが大人の余裕と言うやつなのか! 私も見習わないと!


「海ちゃん、私をまじまじと見つめてどうしたのー?」

「ひゃいっ⁉ あ、いえ! なんでもないです!」


 観察していたのがバレたのか、変な声が出てしまう。

 そんなおたおたする私に夏美さんは思い出したかのように両手を叩くと、本の話を始めてくれた。


「あ、海ちゃんが好きなライトノベル……えぇっと、星時だっけ? 新刊を買いに来たのよね。今日が発売日だったし……」

「そうでした! 小説サイトでは、あんまりポイントが高くないですけど、私、大好きなんですよねー! 星時本編も好きですけど、私は特に外伝の『黒の書』! 書籍化が決まった時は自分の事のように喜びました!」


 私はテンションが上がり、しばらく夏美さんと星時の事を話した。

 星時って言うのは、私のお気に入りのラノベで本当の題名は『スターダストクロノス―星に願いを、時に祈りを―』。略して星時!

 でも私は本編の星時ではなく、外伝である。『スターダストクロノス外伝―黒の書―』が大好き!

 物語は主人公である自称天才大魔導士ルミナが、自分の願いを叶える為に王都にある星の秘宝を奪おうと単身で宣戦布告するんだけど、わざわざ宣戦布告したから逆に討伐対象にされちゃって逃げ惑いつつも、試行錯誤を重ねて戦っていく話になっている。

 私はそんなおっちょこちょいなルミナが大好きだった。しかし今日はその話とは違う、本編である星時最新刊の発売日。本編の方も好きだから実は前々からチェックをしていて、この日を待っていた。


「うふふ……海ちゃんは、星時が本当に好きなのね」

「えっへへ……わかりますか?」


 饒舌に話してしまった私は照れながらそう言うと、夏美さんはレジの後ろに回り、しばらくして星時の新刊を持ってきてくれる。


「はいどうぞ、海ちゃん。これの外伝の方は、もう随分出てないわねぇ……」

「ありがとうございます、夏美さん! ですよねぇ……早く続き読みたいなぁ、先生頑張ってくれないかな?」


 私は本を受け取り会計を済ませると、夏美さんと少しの間談笑した。

 私の話をこんなにも聞いてくれる夏美さんは友達が少ない私にとって癒しだ。けれど一応は仕事中、邪魔しては悪い。

 そう思うと私は、話を打ち切って帰る準備を始める。


「夏美さんとお話するの、すっごく楽しいです。でも、あまり話しているとお仕事の邪魔になっちゃうと思うので、そろそろ帰ろうかな……」

「そんな、大丈夫なのにぃ……ん、でも、確かにそろそろ仕事に戻らないと、他の子から怒られちゃうかもしれないわね」

「でしょ? ほらほら、それじゃ夏美さんもお仕事に戻って戻って!」

「あん……見送りくらい――」

「いいですってば!」


 私は名残惜しそうにする夏美さんの背中を押して仕事に戻らせる。

 でも、こうやって名残惜しそうにしてくれるのは、私の話を夏美さんも楽しく思ってくれているからだろうか……? でも、実は私の方が名残惜しいんだよぉー!

 それから夏美さんは諦めたようにしょんぼりすると私の方を振り向いて、満面の笑顔で頭を下げてくれる。


「仕方ない、仕事に戻るわねぇ……ありがとうございましたぁ。また来てね、海ちゃん」

「また明日も来ると思います! それじゃ!」


 私も夏美さんの笑顔につられて、顔の表情が緩む。

 うぅ……夏美さんの笑顔は女の私にもわかるくらい眩しい。そんな笑顔に見送られ、私は手を振ると、自動ドアを潜った。

 不思議な書店、金木書店を出るともう外は暗くなりかけていた。


 こんなに暗い……少しって思ってたのに、夏美さんと随分話してたんだなぁ……。

 そんな事を思いつつも私はポケットに手を入れ、スマホを取り出し現在の時間を調べる。

 もう十八時か、早く家に帰って新刊見ようっと! やっぱり本編も気になるんだよね! あっ……と、その前に黒の書、小説サイトにアップされていないかなぁ……

 書店の前にある街路樹辺りまで歩くと、そこで立ち止まりスマホを操作していく。

 そして作者のページへと飛んだ。


「あ、活動報告に書き込みがある……なになに? え……嘘……⁉」


 そこには、『スターダストクロノス外伝―黒の書―』の打ち切りのお知らせが書いてあった。

 理由は、物語の続きがかけなくなったー⁉ ごめんなさいで済めば警察はいらないよ! 先生、もうちょっとだけ頑張ってよ!

 残念感からか私は大きなため息をつき、項垂れる。


 ラノベが打ち切りになるとか、もう何年も続編が出ないとかよくある事だけど……まさか自分が好きなラノベがこんな事になるなんて、予想していなかった。思ったよりショックが大きいし、でも本当に続きの物語が書けなくなって打ち切りにしたのだろうか。


「……憂鬱だー。黒の書、大好きだったのに……はぁ……もう帰ろ――」


 私は残念感を胸にしまい込み、顔を上げて歩き出そうとすると、不意に目に痛みが走る。

 何かゴミでも入った――いや違う。この痛みはそんな生易しいものじゃない。


「いっ……痛い! 痛いっ!」


 人目もはばからずその場で叫ぶ。そのとてつもない痛みに私は動く事ができなくなり、目を押さえ蹲った。堪えられない程の痛み、私の身に一体何が起こっているの?

 ――痛い、痛い! 痛い痛い痛い痛い!

 痛みの中、どうにか助けを呼ぼうと押さえた手を目から離し、視界を開く。

 目が霞み、景色が歪んでる。 眼鏡落としたの……? 何なの、痛すぎて動けない……誰か……誰か、助け――

 そして次の瞬間、私の意識は闇に引きずり込まれるように途絶えた。

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