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3.いじめ現場にきてしまいました

 学院生活が始まってから、早くも一週間が経過していた。


 マーシュさんの一件以降、私の周りは穏やかなものだ。私個人としては、パーティーの夜にもらったあの薔薇とメッセージカードが、何よりの大事件だったけれどね!


 ただ本当に意外だったのは、アラステア、キャスリーン様、ジェラルド殿下、そしてマーシュさんと同じクラスだったにもかかわらず、特に問題が起きていないということ。

 勉強についていけないなんていうこともなく、「あれ? このまま平穏無事に、学院生活送れてしまうんじゃないの?」と、私は油断しきっていた。









「あなたみたいなのが三位だなんて、やっぱりおかしいわ。親の力を使って不正したんじゃないの?」

「そうよ! 絶対おかしいわ!」

虹眼(こうがん)持ちだからって優遇されてるのよ!」


 ………………まあ、そう簡単に行きませんわよね。


 昼休み。

 せっかく晴れているのだから、人の多い場所じゃなく開放的な外でご飯を食べましょうよ! というキャスリーン様の意見に乗ってひと気の少ない庭に来た結果がこれだった。


 入学一週間目にして、巻き込まれ体質作動だ。


 会話からも分かる通り、いじめられているのはマーシュさん、いじめているのは他の令嬢たちだろう。キャスリーン様に噛み付いていたうちの一人もいるので、そういうのが好きな人かもしれない。


「一代限りの男爵家ごときが、生意気なのよ!」

「どうせ魔法省にいる父親のコネでしょう? 場違いなのになんであなたみたいなのがこんなところにいるのかしら」

「ち、父は関係ありません! わたしの父は、立派な人です! 不正なんてっ」

「うるさい! 口答えしないで!」

「っ、きゃっ!」


 そこまで近づいていないにもかかわらずこんな会話が聞こえるなんて、ほんとどうなのかしら……。


 貴族令嬢としての立場をわきまえていないし、何より見苦しいと思う。


 もちろん、こんな状況で猪突猛進、いじめられたら百倍返しのキャスリーン様が黙っているはずがない。

 指輪、ブローチ、ピアス、ブレスレット……と記録魔術を埋め込んだそれらに魔術を送り込み笑顔で割り込もうとしたとき、アラステアが手を掴んで制した。


「キャスリーン様、少し待って」

「あら、なんです? 見てしまったからには突撃する他ないではありませんか」

「もちろん止めるよ。馬鹿馬鹿しいし。じゃなくてね、キャスリーン様じゃなく僕が行こうと思うんだ」

「……アラステア様が?」

「うん。僕が行ったほうが、彼女たち的には効果的でしょ?」

「……なるほど、確かに。分かりました。わたくしたちは近くで待機しておきます。ちゃんと録画はしておきますね」

「うん。フレデリカをお願い」


 それだけ言い残し、アラステアはつかつかと歩み寄る。


「ねえ、どうしたの?」


 そしていつも通りの笑みで、彼女たちにそう問いかけた。

 みんなが一斉に振り返り、アラステアの存在に驚愕する。


「エ、エマニュエル様⁉︎」

「ど、どうしてここに……っ」

「ああ、うん。みんなで外で昼食をとろうかなと思ってね」


 そう言いつつ私たちのほうに視線を送るあたり、アラステアは相手が嫌がるポイントをちゃんと分かっている。

 その証拠に、私たちを見たいじめっ子たちは顔を真っ青にした。

 すると、となりにいるキャスリーン様が満面の笑みを浮かべ手のひらを振っている。やだ怖い。


 だけど何より怖いのは、にこにこ笑顔とほんわか口調でいじめっ子たちに話しかける、アラステアだった。


「それでさ、虹眼がどうとか、親がどうとかって聞こえたから、ちょっと気になってね。ほら、僕も両親共々魔法省勤めだし。僕自身、虹眼持ちだしね。だから、僕の悪口だったのかなって」

「そ、そそ、そんなことは!」

「え、でも、僕は首席だし。もし親のコネを使ったって彼女が疑われるなら、必然的に僕にも疑惑の目が向かないかな?」

「あ……そ、それ、は……」


 彼女たちがガクガクと震え始める。その顔は、ちょっと可哀想になるくらい青白い。


 なるほど、アラステアが「僕が行ったほうが効果的」だと言ったのは、こういうことからだったのね。


 確かに、マーシュさんに対しての悪口の内容からして、アラステアが行ったほうが彼女たちの心を抉れるだろう。だって彼女たちが言ったこととアラステアの立場って、どれもだいたい合致しちゃってるんだもの。


 何より怖いのは、アラステアの態度が普段と何も変わらないこと。のんびりのほほんとしてる。

 でも今のいじめっ子たちにとってそれは、恐怖心を助長させる要素の一つになってしまっている。


「し、しし、失礼いたします……!」


 結果、いじめっ子たちは敵前逃亡を図った。


「あ、行っちゃった」

「……行っちゃった、じゃありませんわ。どんな結果になるのか、分かっていてやっているでしょうに」

「まぁね。これに懲りたら、いじめなんて馬鹿なこと考えないで、勉強頑張ってくれたらいいな」


 あいっかわらずのマイペースっぷりに、今はなんだか救われる。

 その一方で、マーシュさんは芝生の上で尻餅をついたままほうけていた。


 このままにしておくわけにもいかないので、彼女の前で中腰になり手を差し出す。


「お手をどうぞ、マーシュさん」

「え、あ……えっ⁉︎」

「あら。それとも、一人で立てます?」

「あ、はい! 大丈夫です! この通り、丈夫ですので……!」


 そう言うと、マーシュさんは弾かれたように勢い良く立ち上がる。

 それを確認した私は、ほっと胸を撫で下ろした。


「それは良かった。お怪我がないようで何よりですわ」

「は、はい。助けていただき、ありがとうございます……」

「礼ならアラステアに言ってくださいな。ほら、アラステア。マーシュさんがお礼を言いたいと言っておりますわよ」


 後ろにいるアラステアを見てみたら、彼は芝生の上に敷いた敷物の上に座り、黙々と持ってきたサンドイッチを食べていた。


「んー? ふぉれひ?」

「……しゃべるときは、口にあるものをすべて食べてからにしてくださいませ」

「ん……ごめんごめん。お腹空いちゃって、つい」


 どうにもアラステアは昔から、食い意地が張っている。


「まったく……」

「ごめんって。それで、僕にお礼だっけ? 気にしなくていいよ。当然のことだもの。それよりフレデリカ、お昼にしようよ。あ、マーシュさんもどう?」

「え、あ……わたし、は……その、食堂に行っている暇がなかったので、持ってきていないんです……」


 どうやら、食堂に行く前にいじめっ子たちに捕まり、ここに連れてこられたみたいだ。不憫。


 この学院で昼を取る方法は二つあって、一つが食堂で作ってもらったものをこうして外で食べるというもの。もう一つが食堂で食べる方法だ。朝と夜は学生寮の食堂で食べるので、外で食べることができるのは昼だけになる。


 私はポケットにしまっておいた懐中時計を取り出し、時刻を確認した。


 昼休みが終わるまで、残り三十分。

 ここから食堂に行くとなると距離があるし、何より頼んだものがすぐに出てくるわけじゃない。食べられない可能性が出てくる。


「……マーシュさん。私のものを半分差し上げますから、ここで食べていきません?」

「え……そ、そんな、恐れ多いですっ」

「ですけれど、このままだとお昼食べれないかもしれませんわよ?」

「あ……それは……」


 そんなやり取りに飽きたのか、ジェラルド殿下とキャスリーン様が敷物に座り食事を始めてしまった。


「マーシュさん、フレデリカ様。早く食べましょう〜。午後は乗馬ですから、食事をとらないと大変なことになります」

「……ということですから、どうぞいらしてくださいな」

「……はい。失礼いたします」


 おずおずといった感じでマーシュさんも輪に加わり、私たちは昼食を食べる。

 手早く自分の分を半分にしていたら、マーシュさんの紙ナプキンの上にキャスリーン様がサンドイッチを乗せていた。


「わたくしのも差し上げます」

「あ、ありがとうございます」

「あ、じゃあ僕のもあげる」

「えっ」

「ふむ。ではわたしもだな」

「で、殿下まで、そんな……」


 何かしらこれ。餌付けしてるみたいで面白いわ。


 マーシュさんの食べ方も小動物っぽいので、余計そんな感じがする。

 するとマーシュさんは、目を大きく開き私のほうを向いた。


「そうです、マクファーレン様! 先日はドレスを貸してくださり、どうもありがとうございました……! メイクだけではなく髪までやっていただいて……パーティーに間に合ったのは、マクファーレン様のおかげです」

「いいのですわ。それに、準備を手伝ったのは私ではなく、私の侍女たちですもの。気にしないでくださいな」

「は、はい。それで、借りていたドレスなのですが……いつお返ししたら良いでしょう……?」


 そういえば、すっかり忘れていた。


「そうですわね。今日の夜に、中庭に来てくださいます? そこで受け取りますわ」

「はい。本当にありがとうございました……」


 終始腰が低いマーシュさんを見て、なんだか苦笑してしまう。

 すると、キャスリーン様が不思議そうに言った。


「マーシュさんは三位で入学なされたのですから、堂々としていたら良いのに」

「……キャスリーン様。誰しもがキャスリーン様のように毅然とした態度でいられるわけではありませんのよ」

「そうだな。だがそんなところがまた良い。さすが、わたしが惚れた女性だ」

「殿下、惚気ないでくださいませ」


 適当にたしなめつつ、私は肩をすくめた。


 マーシュさんの場合、爵位の低さと散々色々と言われてきたことが原因で、こんなにも縮こまってしまっているのだろう。


 先ほどもいじめっ子たちにも言われていたけど、マーシュ家は確かお父様が魔法省勤めの優秀な魔術師で、虹眼持ちだから男爵位が与えられているのよね。


 虹眼持ちはこの国において貴重だ。だから爵位が与えられる。

 しかもマーシュさんは父親の地を色濃く受け継ぎ、虹眼を所持してる。なのに一代限りの男爵位だ。魔法省に就職すると同時に爵位ももらえるはずだけど、現状ではないからだ。


 つまり今のマーシュさんは実質、平民と同じ立場にある。なのにこれから優遇される未来が決まっていた。腹立たしいと思う人入るだろう。後ろ盾がないために、マーシュさんは嫉妬にさらされているのだ。


 だからか、マーシュさんはいつも自信なさげに俯いている。今だって極力会話に混ざろうとせず、静かにサンドイッチを口にしていた。


 確かに、このメンバーの中にいては肩身が狭いだろう。誰かに見られていたら、きっと生意気だと言われることだろうし。


 いくら時間がないからって、誘ったのは間違いだったかしら。


 まぁこんな場所だし、そういう視線に聡い殿下が何も言わないので、きっと誰もいないと思うけど。


 なので私が個人的に心配したのは、別。


 それは――


 ……私たちが助けたことで、また何か起こらなければ良いのですけど。


 マーシュさんに、さらなる被害が向かわないか。それだけだった。

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