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5.友人ができました…多分

 ここまで予想通りの展開だと、笑いすら出てこない。

 たまに命に関わったり、私の身に降りかかってくるたぐいの巻き込まれ方をするのはどうにかしてほしいと本気で思った。


 幸いだということがあるのなら、となりにいたアラステアには被害が及んでいないことかしらね……。


 前向きに考えようとしてみたけれど、それで濡れたドレスがどうにかなるわけでもない。


 元から体が強くない私が濡れたままでいたら、風邪を引いてしまう。というより、濡れたドレスで帰ったらお母様が卒倒してしまう。でも着替えなんてないしどうしたら……。


 自分が巻き込まれることはあっても、それで被害を受けることは少ない私はだいぶ動揺していた。だから、


「まあ、まあ……! 申し訳ありません、フレデリカ様! どうぞこちらへいらしてくださいな!」

「へっ? キャ、キャスリーン様⁉︎ きゃあ!」

「アラステア様もいらしたのですね! どうぞご一緒にいらしてください。フレデリカ様のお着替えを用意いたしますので!」


 キャスリーン様が凄まじい速度で私のことを引っ張ってきたことに、抵抗ができなかった。


 私とアラステアはそのまま、エリス公爵家の部屋に連れていかれたのだった。









「申し訳ありません、フレデリカ様。まさかあんなふうに水が跳ね返るなんて、思ってもいなかったのです……」

「い、いえ……私のほうこそ、申し訳ありませんわ。あのような場所にいてしまい……」


 お互い謝罪を言い合う。

 そんな私の周りにはキャスリーン様付きの侍女たちがいて、せっせと着替えをしてくれていた。


 ドレスだけじゃなく下着まで濡れてしまった私は、キャスリーン様のご厚意で彼女のドレスを借りることになった。背格好が似ているからできたことだ。

 その間、キャスリーン様は本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


 キャスリーン様のせいじゃないのに……。


 きっとあの場にいたのが巻き込まれ体質の私じゃなければ、こんなことにはならなかったはずだ。なのにこんなにも謝らせてしまって、逆に申し訳なくなってくる。


「本当に申し訳ありません……次はもっと上手く仕返ししますので……もっと防御魔術と反転魔術の精度を上げなくては……」

「……え? そういうことですの?」

「もちろんです。相手のご家族には抗議文をお届けして、王家の方々にも今回の所業を録画魔導具という証拠とともにお伝えいたしますが、でなければ体がいくつあっても足りませんもの」

「なんと言いますか……大変そうで……」


 キャスリーン様にも悩みがあるんだなということで、私はその問題から目をそらすことにした。


「そういえばフレデリカ様は、魔術にお詳しいのですよね?」

「……え?」

「そうです、でしたらわたくしに、魔術を教えてくださいませんかっ? もちろん、ちゃんとお返しはいたしますので……!」

「え、あの、それはちょっと……」


 目を逸らそうとしましたが、できませんでした……いえ、分かっておりましたけどね!


「お嬢様、落ち着いてください。フレデリカ様のお着替えが進みません」

「……ですけど」

「お話なら後ほどゆっくりできますし、着替え終わってからにしてくださいな」

「……そうですね。そういたしましょう」


 救世主だと思っていた侍女さんは、敵だったようです。

 ここまできたら、もういいですわ!


「アラステアもおりますので、彼にも聞くと良いと思います。優秀な婚約者ですので、頼りになりますよ!」

「それは良い考えですね!」

「はい! 私よりも優秀ですから、きっと良いアイディアを出してくれると思いますわ!」


 無事アラステアを巻き込むことに成功した私は、内心ほくそ笑んだのだった。










 着替えも無事済んだ頃、私はアラステアの待つ客間に向かう。

 するとそこには、私のドレスに手を当て何やら呟くアラステアの姿があった。どうやら彼が、脱いだ私のドレスを持っていたみたいだ。見れば、赤色の魔術円と緑色の魔術円が煌めいている。


 赤は火系、緑は風系ですわね。


「アラステア、何をしているのです?」

「うん? あ、これ? ドレスを乾かしているんだ」

「……何食わぬ顔で魔術を行使しておりますけど、それ高等技術ですわよね?」


 燃やさないように加減をしながら下級火魔術を使い温めつつ、風魔術を使って水気を飛ばすのはかなり高度なテクニックが要求される。しかも応用中の応用だ。それをこんなにこにこ笑顔でやるとは……天才おそるべしですわ。


 でも、乾かしてくれることはとてもありがたいのでそのままお願いすることにする。


「フレデリカ、寒くない? 大丈夫?」

「はい。ちゃんと拭いていただきましたし、この通り着替えましたので」

「……すみません。膝掛けとストールを貸してくれませんか? 彼女は体がそこまで強くないので、心配で」

「もう、アラステアったら。アラステアのお父様が調合してくださる薬のおかげで、昔ほど寝込まなくなりましたのに……」


 申し訳ありませんわアラステア。軽率に巻き込んでしまって……。


 頭が冷えたからか冷静になった私は、つい勢いでアラステアを巻き込んだことを後悔した。

 私が頭の中で一人反省会を開いているところで、笑い声が聞こえる。


「ふふふ。お二人はとても仲がよろしいのですね。三年前から婚約者だと伺いましたけど、相思相愛のようで……素敵です」


 キャスリーン様は、気分を害することなくむしろとても楽しそうに私たちを見ていた。

 すると、扉が開き誰かが入ってくる。

 入ってきたのは、癖の強い黒髪と紫色の瞳を持った少年だった。


「わたしたちも相思相愛だろう? キャスリーン」

「……あら、こちらにいらしたのですね。ジェラルド様」

「さすがにあの騒ぎだからね。屋敷のメイドに案内してもらったよ」


 なぜだか分からないけれど、ジェラルド第一王子殿下まで来てしまった。

 なんということでしょう。今日色々起きすぎじゃありませんかっ?


 私はアラステアと一緒に慌てて立ち上がろうとしたけど、ジェラルド殿下はそれを制して座るように促してきた。そして話をしてくれる。


 ジェラルド殿下が言うに、あの騒ぎのせいでお茶会は早々に切り上げになったそうだ。


 まあ妥当な判断ですわね。魔術行使してくる人がいるなんて、エリス公爵家側としても一大事ですし。


 でも私としては、あんな場所で魔術行使をした彼女のほうが気になった。


 そんなに積極的でしたっけ、あの方。


 頭の中にある名簿を必死になってひっくり返していたら、ジェラルド殿下とキャスリーン様の言い争いが白熱している。


「そもそも、あなた様がわたくしを第一候補にと選ばなければ、こんなことにはならなかったのです」

「それは仕方ない。だってわたしは君が良かったのだから」

「それがこのような事態を招いたのだということがお分かりになりませんか?」

「……そうだな、確かにそうだ」

「それは良かったです。ですのでお早めに取り消していただけますと、」

「次からは君にくっついて、他の者が入る隙間などないということを見せびらかそうと思う」

「ジェラルド様、わたくしの話聞いておりましたっ?」


 ………………あのードレスも乾いたようなので、着替えて帰って良いでしょうか。


 さすがにこの言い争いに付き合うつもりはない。アラステアなんて飽きてとなりで寝ようとしているし。失礼すぎるので、揺り起こして止めているけれど。


 とりあえず、この二人の関係が一方通行だということはよく分かった。この感じからするに、ジェラルド殿下とエリス家公爵閣下が話を進めようとしている感じだと思う。


「ああ、違うよ、フレデリカ。あの二人は、一方通行なんかじゃないから」

「……え?」


 改めて二人を見てみる。


「ですから、わたくしはジェラルド様のお力がなくとも、他の令嬢を蹴散らしあなた様の妃になると言っているのです!」

「だから! わたしはそれを後押ししたいんだよ!」

「嫌です! わたくし、ジェラルド様に守られているだけのか弱い娘ではないのですよ!」


 ………………ただの惚気でしたね、はい。つまり、痴話喧嘩。


 相思相愛なことは分かったので、帰らせて欲しい。


 しかしこの言い争いは小一時間ほど続き、わたしとアラステアはその後魔術に関する意見交換をする代わりにこの二人の友人という称号を手に入れてから、無事帰宅した。

 想像以上に濃い二人で、家に帰ってからどっと疲れが体にのしかかる。


 ……友人って、こういうものでしたっけ……。


 そしてこれは完全に余談なのだけれど。

 私に水をかけた令嬢とその周辺にいた令嬢たちが、翌日風邪を引いたという話を小耳に挟み、神様っているんだなと思いました。

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