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4.友人関係はなかなか難しい

 残念なことに、私の嫌な予感は命中してしまった。


 マーシュさんへの嫌がらせが、本格化したのだ。


 教科書がなくなったり、マーシュさんにだけプリントが配られなかったり。また、実技中にうっかりを装って、彼女に水を浴びせようとしたり、などなど。よくもまあそんなことができるな、という嫌がらせが目の前でおこなわれる。


 本当にすごいわね。キャスリーン様って別に、自分の身に降りかかったことだけをご両親に報告なさってるわけじゃないわよ? あなたたちみたいな子どもがいる貴族の方々にも目を配って、もしものときは縁を切る方なのよ?


 しっかり記録に残っていると知ったら、いったいどんな顔になるのだろうか。それとも、自分たちが悪いことをしている自覚がないとか。


 前世の嫌な記憶が思い起こされ、私は「あり得るな」と思った。

 大抵、いじめている側はそれを悪いことだと思っていない。遊びの延長だと考えてるのだ。


 一応周囲に気づかれないよう気をつけつつさりげなくフォローしているのだけれど、私の巻き込まれ体質によって水の玉が飛んできたときなんかは、理不尽にもマーシュさんが怒られるらしい。逆ギレにもほどがある。飛ばさなければわたしが巻き込まれることもなかったんだから、飛ばさないのが一番じゃないかしらね……。


 マーシュさん自身も抵抗しようとしないので、事態は悪化するばかりだった。


 キャスリーン様が「抵抗しないと相手がつけあがりますのに」と怒っていたけど、こればかりはどうしようもない。性格の問題だ。

 ただわたしとしては、他の人たちが気づかないようなタイミングでお友だちになって、援助したいのだけれど……。


 その機会は、割と早くきた。


 私とマーシュさん、ついでにアラステアは、同じ部活に所属することになったからだ。


 精霊研究部という部活は、ここ最近になって作られた部活動らしい。第一王女様が嫁がれる隣国が精霊大国なのが一番影響しているみたいだ。一つ上の学年にいる王女殿下も、この部に所属している。


 アラステアとマーシュさんはもちろん、虹眼(こうがん)持ちだったからスカウトされたわけでして。

 私の場合はアラステアに誘われたのもあるけど、植物を育てることができると聞いて飛びつきました。


 まさか、学院で庭仕事ができるなんて! 一般的な貴族令嬢はやらないって聞いてかなり落ち込んでたから、余計嬉しい!


 学院で花を育てるのは諦めていたのだ。代わりに、長期休暇時に家に帰ったら、めいっぱい愛でようと思っていた。


 精霊たちは花の香りにつられてやってきたり、花を代償にして力を貸してくれる。なので精霊研究部では、花を育てるのは必須らしい。


 だから私は、アラステア、マーシュさんと一緒に、先輩たちの後をついて行っていた。

 今は校舎裏にある温室に移動中。そこが主な活動場所になるのだとか。


 本当にラッキーなのは、精霊に興味がない一年生が多いせいか私たちの他に一年生がいないというところ。

 これなら、マーシュさんとも気軽に話せる。


 ちょっとドキドキしながらも、私は最後尾で肩身狭そうに俯いて歩くマーシュさんの横に来た。

 アラステアも楽しそうに笑いながら、歩く速度を落として私たちの前までくる。


「ごきげんよう、マーシュさん。まさか同じ部活に入れるなんて思いませんでしたわ」

「ご、ごきげんよう、マクファーレン様。そ、そんな、恐れ多いです……」

「あら、ここではフレデリカと呼んで? せっかくの部活仲間ですもの。仲良くしたいわ」

「あ、え、あっ……」

「ごめんね、マーシュさん。フレデリカって意外と押しが強いんだ。でもいつまでも苗字呼びじゃアレだし、部活やってるときくらい名前で呼ばない? ほら、何事も形からって言うし」


 私が何をしたいのか分かっているらしく、アラステアも乗ってくれた。さすが私の頼れる婚約者ですわ!


 そんな感じにぐいぐい話を進めた結果、私はマーシュさん呼びからエフィー、アラステアは名前&さん付け、エフィーは私たちのことを名前&様付けで呼ぶことになった。


 ちょっと無理矢理だったけど、呼び方って意外と心の距離にも繋がるもの。大事大事。


 歩きながら、私は自分にそう言い聞かせていた。

 それにしても、この学院は本当に広い。クラスから温室までが遠いのが難点かしら。


「ねえエフィー。私できれば、クラスでもエフィーと話したかったのよ」

「……え?」

「だけれどあまり近づくと、他のクラスメイトたちがまた何か言って、エフィーの迷惑になるかもしれないでしょう? だから、少し遠慮していたの。できる限りフォローはしていたつもりなのだけれど、嫌ではなかったかしら」

「そ、そんな! すごくありがたかったです! プリント、本当にありがとうございました。フ、フレデリカ様がご配慮してくださらなかったら、わたしもらえていなかったと思います……っ」

「……そう。なら良かったですわ」


 お節介が要らぬ火種を生むことを、私は前世で痛いほど理解している。その火種が原因で私は命を落としたからだ。

 だからとても心配だったのだけれど、見る限りでは嘘をついているように感じなかった。


 ぽそりと、エフィーがつぶやく。


「私も、皆さんみたいになりたいです……もっと、自信を持ちたい」

「あらあら。入学試験で三位になれたのに、もっと欲しいとおっしゃるの? 私、負けられませんわね」

「え、あ、ち、違うんです! えっと、そ、の」

「……フレデリカ。エフィーさんをいじめるのはどうかと思うよ?」

「……え」

「あら、ひどい言いがかりですわ」


 アラステアがからかってくるので、そう肩をすくめる。本気で言っていたのに。

 するとエフィーが、顔を真っ赤にして慌てふためいた。


「あ、ほんと、違うんです! わ、私、平民ですし、皆さんと吊り合うことなんてないですし、おこがましいとも思うのですが、その……フレデリカ様が『友だちになりたい』と言ってくださったこと、本当に嬉しかったのです。ですから、フレデリカ様の友人だと胸を張れるくらい、強くなりたいと思いました。……いざその場面になったら、きっと固まってしまうのでしょうけれどね」


 エフィーはそう、力なく笑う。


 彼女がここまで固くなり何も言えなくなってしまうのは、それだけ傷つけられてきたからだ。そんな人に、もっと頑張れとは私は言えない。


「……その日が来るまでは、秘密のお友だちですわね」


 だから、エフィーの負担にならないようできる限り言葉を選びつつ、そう笑みを返した。


 そんなときだ。


 ――ぱしゃっ!


 頭上に影がかかったのは。

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