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鬼屋敷の怪・二

 赤が眩しい程の夕日だ。

 巨大な円が輝きながら落ちていく。


 鬼屋敷を訪ねるのに夕刻を選んだのに理由はない。普通の感覚を持った常人であれば、昼間を選ぶだろう。だが隼太は普通の常人ではなかった。少しの思案の後、隼太は恭司も伴うことにした。助手的な立場で自分の補佐するところを望む。


 小学校のチャイムがうら寂しく鳴る。


 近くを通る電車の音、踏み切り音。


「気味悪い家だな」


 恭司が評した通り、くだんの家は古めかしく如何にも妖し気な洋館だった。

 黒と白を基調とした意匠に、蔦がびっしり絡みついている。


 赤い残照が恭司の端整な顔を照らす。厄介なものを見る目で、彼は鬼屋敷を見ていた。


「入れるのか?」

「鍵は壊れている」


 見ろ、と隼太が顎をしゃくる先には、木製の扉が半開きになり、風もないのにキイ、キイ、と音を立てて揺れている。まるで訪問者を歓迎するかのように。

 しかしその歓迎は鬼の腹の内に人間を呑み込もうという意図からくるものだろう。ふ、と笑みをこぼし、隼太は率先して把手に手をかけた。恭司もあとに続く。


「うわ……。中は一段と凄まじいな」


 玄関ホールの上に座すシャンデリアには蜘蛛の巣が盛大に垂れかかり、調度の類は全て埃を被っている。中でも特筆すべきは、人形の山だった。

 西洋、東洋を問わず少女の人形が、それもかなり精巧なものがそこらじゅうに散乱している。縮緬(ちりめん)、刺繍、天鵞絨(ビロード)、レース。華やいだ衣装も埃に塗れてまるで灰かぶりだ。彼女たちを救う王子はいるのだろうか?


「ここの家主、文豪は人形のコレクターでな。父祖が華族の流れだった生まれも幸いして豪奢な邸に金に糸目をつけず人形を蒐集した。奴にとっては文筆業など只のお遊びだったのさ。なぜならそうしないでも悠々と暮らしていけるだけの財が奴にはあったのだから」


 恭司は人形を避けながら、そして隼太は人形に頓着せず踏みつけながら歩く。

 目指すは屋敷の主が首を吊った書斎だ。


「大方さあ? 犯罪者たちの巣窟にでもなってるんじゃないの。神隠しってのも、胡散臭いレッテルを貼った言い回し――――」


 ふ、と恭司の声が途切れる。


「恭司?」


 隼太が振り返った先には誰もいなかった。

 恭司の足跡が、途中まではくっきり埃の跡に見て取れる。

 そこから不意に消失している。


 獣の唸り声のような声が大音声で響いてくる。書斎からだ。


「……成程。只の人間の仕業ではないらしいな」


 恭司も歴戦の青年だ。些少の油断があったとは言え、彼を消すとは。

 一時的な芸当だろうが間違いない。


 この件にはコトノハが関与している。





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