ひとりぼっちと世界の中で
気がつくと、俺はそこにいた。
さっきまで、この世にいなかった。ましてや記憶すらないのに。
でも、いくつかわかることがあった。
・自分は、誰かの願いにより、生まれたこと
・その願いをもつ者とは、離れている可能性があること
・自分の寿命は、願いが消えたときということ
・自分には、家族も名前も、それ以外の情報も、全てないこと
・言葉やある程度の知識が身についていること
まぁ、俺は精密な形のある人工知能みたいなもんってことだよ。
でも、今言った通り、他人には名前があって、俺にはない。考えないと怪しまれて、面倒なことになりそうだからな……。
よし、決めた。今日から俺は……。
高浦 光樹
由来は…なんとなくだ。すこ~しかっこいい名前にしたかっただけだ。
とりあえず、名前は置いておいて……。
肩掛けバッグをあさって、何かもう少し、自分の存在を他人に近づけられるものを探す。
中からは、月道高校の転校用シートと制服、約十万円の入った財布とスマートフォンが出てきた。しかも、財布の中の保険証には、さっき自分で考えたはずの名前がしっかり印刷されていたし、生年月日まである。8月18日生まれ?
もしかしたらと思い、スマホで今の日時を確認する。
――8月18日、午後6時48分。
やっぱり。カミサマが変なイタズラしたんだよ……。
そして、脳内にインプットされていた歳、16歳と生まれた年も一致した。こんな境遇に、少し恐さを覚える。
すると。
ぎゅるるるる
俺の体から音が出た。
腹減ってんのかよ?それぐらい満たしてから俺を放ったっていいじゃん?
力が出ず、細い路地に座り込んでしまう。
あぁ、誰か……。
「あの、大丈夫ですか?」
ひとりの青年に声をかけられる。俺より少し大きくて、髪が茶金。もしかして、ヤンキー……?
「聞こえていますか…?……あっ、もしかしたら不審人物だとでも思ってますか…?別に、連れ去って飢えさせようなんて思ってませんよ?」
違った。ヤンキーが自分のこと不審人物だと思ってる?なんて言うわけないからな。
「ごご、ごめんなさい!勘違いしてしまったみたいで……」
「ふふ、別にいいですよ。そんなの慣れっこなんで」
男って、ふふって笑うっけ!?たしかに、他人と接するの初めてだけど、覚えている常識内にそんなのないよ!?
「で、話戻しますが…大丈夫ですか?」
腹が減って、家族も家もない状態。これは明らかに大丈夫じゃない!
「大丈夫じゃないですね…」
「どこかおかしいところはありますか?僕ならできる限り協力しますよ?」
やっぱりヤンキーじゃなかった。確実にいい人だった。正直に言います。
「ごめんなさい、腹が減りました…。あと、家もわかんなくて……」
「…迷子ですか?」
「…っ、違います!あの、引っ越してきたんですけど、途中で事故ってしまって…。親がそのまま死んで、警察も協力しようとしてくれたんですけど、忙しそうだったし、高1だから大丈夫!って大口叩いたらこの結果です……」
即行お話劇場part1!即行で作った話にしては、上出来だと思う!でも、この設定を貫き通さないとだめになっちゃた……。
彼は少し考え込んで、スマホで誰かにメールを送る。すぐに返信の音がした。
「ご飯はうちで食べる許可が下りました。家が見つかるまでうちに住むかは別だけど…」
「やっぱ連れ去ろうとする不審者じゃないですよね!?」
「あっ、ごめんなさい!紛らわしかったですよね……」
すごく申し訳なさそうだったので、多分大丈夫な人だろう……。
「ご飯、お願いします。そういえば、まだ自己紹介してませんでしたね。僕は高浦 光樹、高1です」
「高1…同い年なんですね。僕は福山 瑠葦。半分日本で、1/4アメリカとロシアのハーフ(?)です」
…高1!?背高いしなんかメッチャ大人の装いしてるけど!?そしてハーフと呼べるのかその血は!?
「同い年なんですか!?全然見えない!大人っぽいですね!」
「それもよく言われます。両方この見た目が原因ですよね……。それと、同い年なら敬語やめましょ?堅苦しいの嫌いなんで」
「そうだね〜」
にしても、敬語やめにくい!年サバ読んでるようにしか思えない(あとで学生証見せてもらったけど、ちゃんと高1でした)!
「どこの高校行くの?」
「月道高校だよ」
「月道なの?俺もそう!」
俺、なんかこの人と合う気がする(勘)!
そんな感じで色々話していたら、いつの間にか瑠葦の家についた。
「ただいま~」
「お邪魔します」
「どうぞ〜」
瑠葦のお母さん(たぶん)が出てくる。母さんがアメリカとロシアなのかな?
「今日ってご飯なんだっけ?」
「バンバンジーよ!ふたりとも、たくさん食べて!特に瑠葦!あんた身長175あるのに体重57しかないんだから!」
「おい!言うなって!」
目だけで俺に「言わないで」って言ってるっぽかったけど、気にせず奥へ。
「ねぇ、光樹!?無視しないで!」
目がすごく怒ってた。かなり威圧される感じの目だった。
謝ってから、手を洗って机を囲む。
瑠葦の食べ方がすごい上品!?やっぱ社会人じゃないの!?
「光樹、しばらくはうちに住めたほうがいいよね?」
すると、瑠葦が俺に耳打ちする。同性なのに、ドキドキしちゃうんだけど(同性愛したいわけではない)!?
「うん、できるものなら……」
「まかせて」
瑠葦はまた食事に向かう。タイミングを伺っているようだ。
「父さん、光樹泊めていい?」
「っ、何言ってんだ急に!?」
瑠葦がため息をつく。若干呆れてるだろ…?
「転校してこっち来たら、事故っちゃったみたいで。家の場所わかんないまま、親が亡くなちゃって…。しょうがないでしょ?窮地に立たされてる人を放っておくなんて、俺にはできないけど?」
「迷惑かけるってわかってるけど…お願いします!」
瑠葦のお父さんがため息をつく。ダメ…かな……?
「いいわよ!落ち着くまで好きなだけ泊まっていきなさい!」
口を開いたのは瑠葦のお母さんの方だった。
「おい!?何勝手に決めてんだレイシュ!?」
「いいじゃない!光樹くんは困っているのよ!?餓死させるつもりかしら!?」
「さすがに規模でかすぎるだろ……」
瑠葦に冷静なツッコミをされていた。もう、親子関係逆転してるだろ……。
「わかった、泊まってよし!そのかわり、寝起きは瑠葦の部屋でやれ!」
良かった……。
「ありがとうございます!」
「ありがと、父さん」
安心して、またまた食べる。うまい……。
「あっ、名前言ってませんでした!俺は…」
「知ってるわよ。高浦 光樹くんでしょ?私はレイシュ」
「俺は武だ」
レイシュさん…武(たける)さん……瑠葦……。今更だけど、すごい字だな!?
会った時から思ってたけど、福山家はみんなキレイだな!?それはつまり、瑠葦は王子の領域に達したということである。声もキレイだし、初日から「何だこいつ!?」っていう状態である。
「光樹くん。親が事故で亡くなられたって瑠葦が言ってたけど、警察には行ったの?」
「はい。でも忙しそうだったので生活面の協力は断りました」
そもそも警察なんか行ったら俺が怪しまれるよ!なんて、一生口に出さないけど。
「家と荷物はどうするの?」
「家は、俺一人じゃとてもじゃないけどローンが払えないので、別の所有者を探してもらうことにしたんです。荷物は、引越し業者がどこだったかわからないので諦めました……」
即行お話劇場part2!悲しい雰囲気を醸し出す俺。うーん上出来!
「ごちそうさま」
「瑠葦早っ!!」
瑠葦が二階に上がる。部屋が二階なんだろうか?すると、布団を抱えて下りてきた。俺のために…?優しい……。もう神だこいつ……(ついに人間ですらなくなった)。
瑠葦の部屋であろうところに布団を置いて、瑠葦はまたやってきた。
「服もないよね?」
「うん……」
「じゃあ探しとくわ。Mで着れるよね?」
「あぁ、よろしく」
そう言って、瑠葦はまた部屋に戻る。瑠葦が色々世話してくれるから、俺が生まれたばっかの赤ん坊に思えてきた(※今日この世界にやってきたので、間違ってはいない)。
急いで俺も食べて、手を合わせる。そして瑠葦の部屋に駆け込んだ。
*
9月の頭。体育祭の練習と勉強の両立が大変な時期。
ここでもカミサマのイタズラが発覚した。なんと、高浦 光樹という人が、もともとこの学校に来ることになっていた。恐ろしい。
でも、なりきって、怪しまれないようにするために、口に出さなかった。
今は、英語をやっています!
瑠葦がすぐ隣の席で見守ってくれるので、なんか心強かった。
そして、ここ数日で、またいくつか瑠葦の発見があった。
①制服を着れば、高校生に見える。ただ、中学卒業してすぐの1年生というより、やけに大人じみた3年生のようだ。
②割と文武両道。ただ、本人曰く、社会と家庭科(料理のみ)は苦手らしい。英語・音楽・保体はトップクラス。実は筋トレしてる。
③軽音部所属。バンドを組んでおり、パートはVocalとGuitar。毎日、ギターとマイクを持って、学校に行っている。歌唱力は抜群。
④かなり痩せているが、1日3食しかも多めに食べている。きっと、歌うし運動するしでその分カロリー使ってしまうんだと思う。
次のことが、一番目立つ。
⑤とにかくモテる。廊下を歩けば声をかけられ、ボーッとしてたら女子に囲まれる。チャラ男の分類ではなく、生まれもったキレイな顔、色っぽさ、時折優しいところなど、言い出したらキリがないほどの魅力で惹きつけている。
ほぼ、完璧人間だった。抜け目を上げるなら、話が上手くないくらいだが、それが可愛いと魅力値に足されてしまう。
いやいや、真面目に授業受けろよ、俺!
「光樹、それ接続詞違うよ」
瑠葦に指摘される。わっ、本当だ……。
「光樹、前合ってたのにfreeの r が l になってるよ」
…あれ?俺ってバカ?少し自分を過信しすぎてたようだ。
時は少しずつ進み、授業が終わった。
実は、ある相談をしようと思っていた。
「瑠葦、実は俺、バイトしようと思うんだ」
「そうなの、なんで?」
「今、瑠葦んちに住まわせてもらってるけど、ずっとそのままじゃいけないだろ?だから、一人暮らしするためのバイト」
「そう、頑張って」
あれ?なんか今日冷たくね?
すると、瑠葦は寝始めた。瑠葦の寝顔は家でもよく見るけど、今日のなんか可愛い。
他のクラスの奴が、教室の中に入ってきた。
「瑠葦ー、国語の教科書借してー!」
あいつは……瑠葦のバンド、4thの連矢。
眠そうに目をこする瑠葦に、連矢が近づいて、机をあさる。
「いてっ」
瑠葦が連矢に強烈なつねりをくらわせていた。寝起きなのに、もともと起きている人をつねっていた。普通、逆だろ……。
「うるさいわ、馬鹿野郎。俺らも次、国語だから、別の人に借りろ。この恥さらし」
「瑠葦って俺にだけ暴言吐きまくるよね!?いてっ、頭殴るなよ!」
それは連矢のせいだろ。人のことを考えないお前のせいだろ。小学生でもわかることだ。
瑠葦が連矢の襟を掴んで、教室の外につまみ出していた。それで仕事が終わったかのように手をはたいた瑠葦が席に着いたとき、ちょうどチャイムが鳴った。
*
気付けば、吐く息が白くなっていた。
冬休み中に、一人暮らしを始めることにしたので、現在最終荷造りです。
「光樹、ご飯できたって」
「あぁ、ちょっと待ってて」
段ボールのフタにガムテープをを貼り、キッチンに向かう。もう、この家での夕食は最後か……。
「今日は、ちらし寿司を作りましたー!」
「おっ、うまそう!」
そうはしゃぐ俺の隣で、瑠葦はすでに手を合わせていた。
俺も席に座って、ちらし寿司をよそう。
その味は、いつでも帰っておいでと言っているようで、なんだか悲しく思えてきた。そんな俺の感情を読み取ったのか、瑠葦が俺の目を覗いた気がした。
食事と風呂を終え、瑠葦の部屋に入る。俺の荷物が入った段ボールがたくさん積み重なっていた。
明日ここを出れば、もう瑠葦と長い時間に二人でいられるわけじゃない。――だから、一番そばに居てくれた瑠葦には、知っていてほしいんだ。俺のことを。
「瑠葦、ちょっと来てー」
どう言いたいことを伝えればいいか。どうしたらわかってもらえるか。難しい話だから……。
「何?光樹」
いつも通り、優しい笑みを浮かべる瑠葦に、重い話を言わないといけない。
一回唾を飲み込んで……。
「ひとつ、瑠葦に嘘をついていて……。――俺は、普通の人間じゃないんだ……」
「……は?何いってんの急に」
やっぱりそういう反応になるよね……。でも、言ったからには話はやめない。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺か誰かの願いでつくられた、ニセモノの人間。だから、家族はいない。親が死んだってのも、助けてもらうための嘘で……」
瑠葦がひとつ、ため息をつく。……怒ってる…よな……?
「つかなきゃいけない嘘もあるだろ」
「……え?」
「だから、自分や人のことを守るためには、嘘もつかなきゃいけないだろって話。光樹は自分の居場所を作るために嘘ついたんでしょ?怒る理由なんてないでしょ」
許してくれた……。
予想外の回答に、涙が流れてきてしまう。
「ちょっ、光樹?なんで泣いてんの?」
「だって…絶縁されても仕方ないって思ってたもん……!こんな展開になると思わないしっ…!」
「そう簡単に絶縁しないよ。もっとひどいことされないと…ね?」
瑠葦はホントに神的な優しさだった(連矢以外に)。
「あと、俺をつくりだした奴の願いが消えると、同時に俺も消えるから。そうなったら……ごめんな」
「わかった。今の話、言わない方がいい?」
「言わないで、俺が消えるまで」
「うん」
瑠葦と部屋を出て、テレビを見ようと思った。最後だからと言わずに、変わりなく過ごしたくなったから。
*
時が流れるのは早く、あれから約1年が経っていた。
土曜日なのに、今日もバイト。まぁ、家にいてもひとりだし、楽しいから別にいいけど。
昼飯を食べた腹を撫で、駅の方向へ真っ直ぐ歩く。ここ数日はとても冷え込むらしいが、街は活気で溢れていた。
ふと、隣に目をやる。すると……。
ドンッ
同い歳ぐらいの女子が転びそうになって……。反射的に手で受け止めていた。
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫でしたか?」
「はい…」
彼女は顔を上げて、小さくおじぎをして、そのまま歩いて去っていった。
人の多いこの街じゃ、たまにあることなので、気に留めずに再び駅へ歩き出した。
*
すぐ週明けはやってきた。
「みんなー、今日からの転校生がいるんだー」
なるほど、一瞬のホームルームはそれが目的か。
テキトーに扉へ目をやると、見たことある子がいた。でも、名前がわからない。見覚えはあるのに……誰?
「菜坂 梨央です。今日からよろしくお願いします」
そう言って、その子は小さくおじぎした。
……あ。この子、おととい(?)に転びそうなのを助けた子じゃね?そうだそうだ。名前を覚えてないのはそのせいだ。
梨央が一番後ろに設けられた席に座ると、担任はすぐいなくなり、代わりに数学の先生が入ってくる。
号令をほとんど気にせず、教科書を開く。先生はしょっぱなからみんなに言わせるととてつもなく難しい問題をやれという。でも、俺にとってはなんともなかった。
終了の合図がかかっても、左右と前の人、見える限りは終わってなかった。
「わかった人いるかっ?始めっから難しすぎたか〜?」
そのセリフを言う先生の顔と声が異常なほど憎たらしかったので、手を挙げる。
「先生、その問題僕がやります」
敬語を使ったけど、ホントは悪を成敗する気分だった。
でも、その前に力尽きて寝そうだった。生憎、最近寝れてないのだ。
「おい、高浦っ!高浦 光樹っ、寝るな!」
うるさい先生に向け軽くチョップし、黒板に解答を写す。
「た、高浦っ……!なんでそんな解答通りに解けるんだよ!正解率3%の問題だぞっ!?おかしいだろ!?」
「おかしくなんかありませーん」
いや、脳……考えがおかしくないだけだ。体の元気が少しずつなくなって、疲れ気味になって……。――もうすぐ、終わるんだとわかっていた。
*
あれから2週間ぐらいしか経っていない。でも、その時感じたことが、現実になっていた。
放課後、現実を知った俺は、教室の隅で腰を下ろした。
……誰にも、気づかれないように。
今、騒がれると、嫌だから。明日、瑠葦経由で事実を知ればいいだろう。あいつはモテ男な上に、嘘はつかないから。
ああ、だから早く……。
あ……。気づかれてしまった、菜坂に。
「光樹、早くしないと部活お……どうしたの、その身体っ!?」
そうだ。俺の身体は透明になって。
――消えかけていた。
「黙っている事があるんだ。今、これを見ればわかると思うけど。"高浦 光樹"は存在しない。人の願いでつくられた、形と感情のある、人工知能ってこと」
彼女は、口を開けて立ち尽くしてしまった。当たり前だ。
「願いが消えれば、俺は死ぬ。そういうこと。だから、悲しまないで?もともといない存在なんだから」
「でもっ…!2週間だけだけど……一緒にいた、仲間だよ!悲しくないわけ無いじゃん!」
必死になって、止めようとしてくれた。でも、抗えない運命なんだ。
「瑠葦に、伝えて。『光樹が消えた』と。あいつはすべてを知ってる、唯一の友達だから。ごめん、さよなら」
感情も、きっと最後だ。だから、みんなに感謝を。
大家さん、先生、友達、レイシュさん、武さん、ありがとう。そして……。
一番近くで支えてくれて、いつも優しくて、笑いかけてくれたあの人の名前を。
つぶやく。
「――瑠葦……」
*
ふと、目を開けた。あれ……?
現実ではなさそうだが、感情は忘れてなかった。なぜか身体もある。まるで、別世界に飛ばされたかのような。
あたりは宇宙のように無限に広がっている、紫色の空間だった。しかも、歩ける。泳ぐようにするのではなく、無いはずの地に、足をつけるような。しかし、厳密に言えば、感覚など無かった。
「意味がわからない」
俺以外いないのだ。謎の頂点にいる感じだ。
「瑠葦……もう一回、もう一回だけでいいから……。俺を助けて」
まず、この世界に瑠葦はいないだろうし、そんなこと言って助けられるような、甘い世界じゃない。でも、何かに縋るしか無いんだ。
なんで俺だけ、ニセモノなの?
なんで俺だけ、無いものがあるの?
なんで世界は、こんなにも残酷なの?
誰か、教えてよ。
来世は、本物の人間でいさせて。本物であれば、普通でいいから。
そう思ったのも束の間、すぐに眠りについていた。
*
あれからどれくらい彷徨ったのだろう?
いつしか時の感覚を忘れていた。
でも、意識は完全に薄れず、逃げられずにただ疲れて。そんな日々の繰り返しだ。
今日もそうなると思っていた。けど。
一筋の光が見えた。
やっと、本当の死に辿り着けるのかな。
今では、死すら希望に思えた。この、苦しい空間から、逃げ出せるのなら。
――何も出来ないまま、死んでいいのか?
人として、大事なものが欠けていた。そもそも人じゃないのだから、死んでしまっていいだろう。
本当の別れだ。
光に手を伸ばして、そっと目を閉じる。
みんな、バイバイ……。
白い光に包まれた。
*
「あれ……?」
地に足がつく感覚がした。――おかしい。俺は、今度こそ死ぬはずじゃ……?
視界が点滅している。そんな目を力いっぱい擦って、もう一度目を開ける。
夜の、神社か?見たことのある景色のような……?
"本物の人間にさせてやった。我は、名もなき神だ。ただ、お前が可哀想になっただけだ。感謝などするな、神の気まぐれだと思え"
耳の中で声がした。でも、振り返ったところで誰もいなくて。
けど、現実だろう。人の声がする。向こう側には、色とりどりの光が見える。祭りでもやっているのか?はっ!
みんなが俺の復活を歓迎してくれてるのか!
目を閉じて。再び目を開いた。
「高浦光樹、第二の人生スタートってこと?」