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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
外典
90/93

不正警告の惨劇①

 問い1 下記の漢字の読み仮名を記入せよ

 (1) サンプルを頒布(   )する

 (2) 由緒(  )正しき神社

 (3) 資料が遍く(  )行き渡る……


 ……なんのこっちゃ? というのが誠に残念ながら本音だったりする。


 高1の3学期始まってすぐの教室で、私は頭を悩ませていた。ぐぬぬ、ちっとも分からないし……ってこれはモモ先輩の口癖か。


 そう。私、嵐野狩亞(あらしのかるあ)は珍しく探偵部とは無関係の所で頭を悩ませていた。学年末テストの肩慣らしともいえる……小テストだ。全教科まとめて襲ってくる小テスト集中実施期間に対して、遺憾ながら冬休み明けの頭脳はまったく勘を取り戻せておらず…………


 ――りょ、“りょうふ”でいいのかな? (2)は簡単、“ゆうしょ”でしょ? 問題は(3)の方か。なんだこれ? へ、“へんく”? でも、そんな言葉聞いたこともないし。……落ち着け、私。これは所詮小テスト。確かに成績にも直結するけれど、その影響は微々たる物なはず。別に各クラスの成績上位者に支給される奨学金を狙っているわけじゃないし、こんなテストできなくったって全然平気で……あ、これ分かったかも! みんなに何かが行き渡ったって事だよね? つまり、カッコの中には全員を表す言葉が入るはず! 間違いないよ! そう、これは――“ことごとく”だっ!


 こうして私はテスト中で誰も見てないのをいいことに、どや顔で鼻息一つ吐きながら気分良く次の問題に取りかかることにしていた。私は金髪に化粧ましましの外見から想像されるとおり、勉強は好きではない。……が、好きではないだけで不得意なわけでもなかったりする。っていうか、そうでもないとわざわざ全国屈指の進学校である立浜高校に進学したりもしないしね。


 ふんふんふーん。実にいい気分だわー。やっぱり、難しい問題を解けたときに閃きみたいのは結構好きなのかもしれない。この辺は間違いなく探偵部の影響なのかな?


 そんなことを考えながら残りの問題を片付けた私は、他のクラスメイト達を尻目にぼけっと黒板を見て過ごすことにしていた。新年早々の席替えもあって入口近くの前から2番目という立地は、もうそうするぐらいしか他にやることがないんだ、これが。


 だから自然と視線が前の女の子の後ろ姿に向かい――そこはかとない違和感を覚えた。


 んん? と思って見れば見るほど気になってくる。前の女子、赤羽さん(ばねてぃ)だ。私同様派手目な子なんだけど、入学当初からどこか言動に違和感があって印象に残ってた。さすがに金髪ではないけれど、茶色く脱色されてアップにまとめられた髪型にデコられたスマホ。全体的に緩く着こなされた制服といい、盛られた化粧といい、どう見てもギャル系なんだけど……実体は違うような気がするんだよね。


 隠れインドア派の私もあんまり人のことを言えた義理じゃないけど、ばねてぃの場合はそれとも違う。なんというか、わざとギャルっぽく振る舞っているというか……そんな感じ。最初は単に高校デビューしたてなんだとか、好きな人の好みに合わせてるんだとか思ってたんだけど……どうも違う気がする。授業中にサボって寝てたりする割に、どこか優等生的な所が鼻につくんだよね。


 実際私と幸菜の抗争が激しかったときは、彼女はそのどちらにも入らず良識派(勉強一筋)の一員として中立だったし。


 そう、その違和感は彼女の足下に集約されている。特に色白なわけでもない代わりに長い足先は……くしゅくしゅのルーズソックス(・・・・・・・)だ。




 「ってわけなんだよね……永子はどう思う?」

 「えと……つまり小テストができなかった言い訳?」

 「そこじゃないから!?」


 昼休み。私は教室の隅っこにて小憎たらしい小テストによって厳しい現実を突きつけられ、涙目になって凹んでいた。一方、永子は当然のように満点だった。まぁ、永子は小テストどころか普通のテストも満点近いし……。うぐぐ。私……馬鹿じゃないもん! っていうか、日本人に理解できない日本語を使う方がおかしいんじゃない?


 「カル……私にファッションの話を振られても分からないわよ」

 「うぅ、この間一緒にコーデ見てあげたのに……」


 とはいえ、これは永子の言い分に一理ある。永子は私とは対照的で、未だに必要最小限の化粧くらいしかしていない。というか、私が見繕わなければ化粧そのものすらしてなかったかもしれないのだ。


 「あのさ、なんで私がハイソックスを選んだと思う?」

 「えぇ!? でもファッションに詳しいカルが選んだんだし、そっちの方が可愛く見えるからでしょ?」


 ……まぁ正解だ。ちょっと反則の匂いもするけれど。


 「まあね。ハイソックスは脚を綺麗に、そして可愛く見せてくれるから、制服ファッションなら基本なの」


 実際、あの性悪幸菜ですらハイソックスだ。気味の悪いことにあの女は”七不思議設計書”の後は、不気味なほどに暴君振りがなりを潜め、絵に描いたような模範生を振る舞っている。まぁ振る舞うだけで私への敵意は隠し切れてないし、イジメの被害者達へもあたりこそ柔らかくなったものの、侮蔑感が隠せていない。この辺は男子には分からない微妙な所だろう。


 「対してルーズソックスの利点は、足下が弛んでくしゅくしゅすること。それによって脚全体を細く見せる効果があるの」

 「……たかが靴下にそんな効果が……?」


 あるのだよ明智君……! 駄目だこの子。私がしっかりファッションのイロハを教えてあげないと……!


 「でも、ルーズソックスにはデメリットもあるの。脚を長く見せる効果はミニスカートとも相性バッチリなんだけど……足首だけはくしゅくしゅする分、太く見えちゃうの」

 「あー、そりゃあそうだよね。ってことは、元から脚が細くて長いカルにはデメリットだけが目立つって事か」


 まぁ、そういうことなんだよね。私、胸は大きく脚は細くのモデル体型だから。それはともかく、問題はばねてぃの方だ。ばねてぃの脚は私と同じく細い(・・)。そして見た目は派手……つまり、それなりにファッションにも精通している以上、ばねてぃがルーズソックスの欠点を知らないとも思えない。


 ――なんかおかしくない?


 どうやらそれが、私の感じた違和感の元らしい。永子もふむふむと頷いてくれた。


 「でも、わざわざモモ先輩たちに――」

 「――なになにー? 何の話してんのー?」


 残念なことに、話はそこで終わりだった。無粋な乱入者が遠慮なく私と永子の席に勝手に椅子を持ってやってきたのだ。この呆れるほどの遠慮のなさ。あぁ、頭が痛い。


 「こんにちは、桂川君(・・・)。私たちに何かご用かしら?」

 「つれねーなー。確かに一時期幸菜の方に誘惑されたけどさー、今はカルア一筋なんだ! 前みたいにヨッシーって呼んでくれよ? で、また一緒に遊びに行こーや?」


 永子が分かるように舌打ちするのを無視するこいつは、桂川義弥(かつらがわよしや)。特に見所のない軽薄野郎だ。いや、見た目は別にチャラくないし、私の胸を凝視するのを隠そうともしない度胸に至っては逆に恐れいるけど。


 「なによ桂川。今は私がカルとご飯食べてんの。あんたは1人で便所にでも行ってなさい」

 「うわぁ、ひっでぇな永ちゃん! でも、そんなところに胸がキュンと――」

 「――キモいからマジやめろ」


 身を捻ってモジモジするヨッシーに対して、ジト目の永子はいつも容赦がない。本人曰くパシリにされてたときの報復らしいけど……残念なことにヨッシーには全く効果がなかった。というか、全身が下半身でできてるようなこいつには、なにを言っても無駄なのだ。私も諦めた。


 ……まぁ、永子を始めいじめられっ子達に土下座して謝った上、今となっては彼女たちを一切馬鹿にせず、それどころか逆に孤立しそうになった子を見つけるやフォローしてくれる所には感謝しないでもない。……全部私の身体が目的じゃなければ、なんだけどなぁ。


 「めんごめんご! そう! 本当にキュンとしたのは、胸じゃなくてチ――」

 「――言わせるかぁ!」


 気がつけばズボンのチャックを開けようとしていたヨッシーの脇腹を抓り上げていた。今日は本気で抓ったので、ヨッシーの奴もさすがに効いたらしく痛みに身体をのけぞらせてビクビクさせている。……まだ、余裕があるわね。


 「そう、本当に付き合いたいのは――」

 「――あ、嵐野さんッッ! よかったら一緒にご飯食べませんかっ!!」


 そこで呼ばれて永子と一緒に振り返れば、ちっちゃな食べかけのお弁当を持った地味な女の子。


 「そ、そうだよね、私も……」

 「私も……良かったら……だけど……」


 彼女だけじゃない。クラスの中では地味で気弱な女の子達が一斉に集まると、私たちとヨッシーの間の壁になってくれたのだ。永子なんて感動した面持ちでそれを見ている。


 「みんな……ありがとう……」

 「いいの永子ちゃんっ! それより桂川君、邪魔だからあっち行って……!」


 ……彼女たちはイジメの被害者達。そう、私と永子でスポイルして、庇っていた子達だ。探偵部の活躍によって真相が明らかにされた後、彼女たちは……どうやら、私に恩を感じてくれていたらしい。私もその後は彼女たちが再びイジメのターゲットにされないよう気を配っている。だからだろうか。こうして時々勇気を振り絞っては、私を助けてくれるようになったのだ。


 なんだろう。別に泣いたりはしないけど……胸の奥に迫るこの熱いものは。あぁ……私がやったことは無駄じゃなかったんだ……本当に……良かったよぉ。マジで泣いたりはしないんだけど……不覚にも目頭が熱くなって……


 「ほい。それじゃあアンタはさっさと席にお帰り」

 「うごご……だが、忘れるなよ! 義弥は滅びん! 何度でも蘇るさ!」

 「バカか」


 私が同じ”バ”から始まるカタカナ3文字を口にするより、永子の方が速かった。それに言ったとしても、こいつなら目を押さえて叫びながらのたうち回るぐらいはするだろう。間違いない、ツッコミ待ちなのだこいつは。はぁぁぁぁ。




 ……とはいえ、この時は有耶無耶になってしまったけれど、ばねてぃのルーズソックスの謎は解けたわけじゃない。


 私は特別にばねてぃと仲がいいわけでもない。いや、悪くもないから近くにいたら普通に会話もするし、そこそこ盛り上がる。だけれど……やっぱり彼女にはどこか壁があるような気がするんだよね。別に向こうもこっちを嫌ってるわけじゃなさそうだし、これは単純な気質の問題だと思う。


 ばねてぃは見た目とは裏腹に、もしかしたら私よりも永子に近い優等生気質なのかもしれない。実際このクラスの成績トップは彼女らしい。このままいけば奨学生に選ばれるだろうってさ。すごい。


 とにかく、だ。どうしてもそれが気になった私は……靴下の謎を突っついてみることにした。


※作中の漢字テストの答えは、上から順に「はんぷ」、「ゆいしょ」、「あまねく」です。

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