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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
外典
85/93

ホームズ対ホームズ!②

 「叔父さん、たしかトランプは3階の――」

 「――千歳ちゃんと百花ちゃんがいつも使ってた客間の机の中だ。長いこと使った記憶が無いから、そのまま入りっぱなしだろう」

 「分かりました。では、取ってきます」


 お姉がそういうなり、テクテクと席を離れて外へ向かっていく。


 私もお姉も、小さい頃に何度か寺島家には遊びに来ていて、それこそ親の目が無いのをいいことに、徹夜でおっさんの持ってるトランプやボードゲームで遊んだんだよね。懐かしい。


 そして……そこで学んだことが1つだけ。どうやら私、この手の心理戦は得意っぽいのだ。お姉が場に出たカードを一々数えて相手の手札を予測するのに対し……私の場合、相手の振る舞いを見るだけである程度の予想がついてしまうのである! えっへん! すごいでしょ?


 ――つまり……何が言いたかったかって言うと……


 「さ、カルっち、ハワイに行く準備はいーい? 国外だからパスポートが必要だかんね!」

 「もちろんです! 私は信じてます! 勝つのはもちろん……体は子供! 頭脳は大人! その名も名探偵百花――」

 「――って誰が幼児体型だし!?」


 気がつけばスパコーンとカルっちに突っ込みを入れてしまった。


 ち、違うもん! 比較対象のカルっちが大きすぎるだけで、私だって身長以外は結構成長したんだし!


 何故か居たたまれない空気が立ちこめ、叔母さんが優しい視線を向けてくる中、私たちは密かに笑い合っていた。ふふん! おっさんとリョウっちが知恵と殺気で牽制し合うなら、こっちは女子高生のユーモアで対抗するんじゃん! 


 「ところでだけど……万が一イカサマが発覚した場合はどうするし?」

 「え、イカサマ? でもモモちゃん、こんな急なゲームでイカサマなんて……」


 ……難しい。


 リョウっちの意見も分かる。というか、その通りだと思う。だけれど、だ。私たちは探偵部なのだ。当然謎解きは必須科目な訳で……


 「ほう……話が速いな。それでは、イカサマがバレた時点で敗退かつポンドの(・・・・・・・・)半分を没収(・・・・・)でどうだ?」

 「……異存無いし」

 「……え? でも、それって……」


 思わずカルっちが何かを言いたげにするものの……私が何も言わないのを察するや合わせてくれた。さすが、私の後輩だし。


 ……そう。このルール、異常なまでにイカサマに優しい(・・・・・・・・)のだ。だって考えてみて? 普通のカジノでイカサマがバレようものなら、全額没収の上、怖い黒服お兄さん達と愉快な面談に突入するっしょ?


 それがたったの半分で済むということは……意味合いは簡単。これは、ゲームはゲームでもポーカーじゃない、推理ゲームなんだし! なにより、半分没収で敗退ってことは、言い換えれば最低限の賞金はプレゼントされるってことじゃん? おっさん、こういう所は太っ腹だし!


 「……そういうことなら……僕も構いません」


 おっさんの愉快そうな仕草を手がかりにしたのか、リョウっちも直ぐにそれを理解したっぽい。これで理解してないのは……


 「ひぇぇ! 厳しいです! あなた、くれぐれもイカサマは駄目ですからね!」


 ……まぁ、叔母さんはあれだし。探偵部のマスコット的なあれだから。推理能力よりも、野生の勘で荒波を乗り切るタイプだから。


 私はそこで気付かれないようにカルっちを呼び寄せ……あれを借りることにした。テーブルの下の、しかもスカートを壁にしたやりとりだから男には絶対に気付かれない。


 ……え? イカサマ? そう、イカサマだ。だってこの3人の中なら、悔しいけれど1番お馬鹿なのは私だから。


 もちろん私は勝つ気でやる。おっさんには悪いけど、手加減する気はこれっぽっちも無い。だって、そうしないと――




 ……それからお姉が帰ってきたのは、だいたい30分くらいしてからだった。妙に遅い。ははぁん、お姉、さては大見得を切った挙句見つからず、探し回ったな?


 お姉の手には懐かしいトランプが1セット。小さい頃の私たちが遊んだ物だ。元を正せば、手品ショップとかで売っている定番のやつだったはず。


 今のお姉が着てるのはすらっとした丈のワンピースで、いかにもお嬢様風なんだけど……悲しいことに、発する色気がカルっちの足下にも及んでいないし……。カルっちはパーティーを意識したのか、大胆にも両肩全出しだ。しかもあったかい室内なので、余分な上着の類いは身につけていない。気のせいか、お姉がさっきから警戒するようにカルっちをチラ見しているような気も……?


 「それでは、最初の2枚の手札を配布する。それが終わったら、最初のベットタイムだ。ベットタイムでできる行動は同額賭け(コール)賭け金上乗せ(レイズ)降参(フォールド)だ。これを全員が同じ金額を賭けるか、降参するまで続ける」


 同時に、叔母さんが私の手元に33枚の1ポンド玉をじゃらじゃらと持ってきた。もう片方の手には、もはや青黒い暗黒物質と化した無残なお酒。……もったいない精神で飲みきるつもりっぽい。大丈夫かな……。


 「カルっち、お願いね」

 「任せてください!」


 私が小声でそういうや、スマホを弄るのを止めたカルっちが堂々とお姉の隣、リョウっちの左に陣取る。あ、しかも、わざとおっぱいが触れそうで触れないくらいの位置にいるから、リョウっちも下手に動けなくて何も言えないっぽいし。


 ……あ、お姉が無言で自分の胸を触った。やったし、効果は抜群だ!


 「……それから、各ゲーム事に硬貨1枚の参加料を徴収する。さらに、これだけだと少ないから……持ち回りで硬貨3枚を供出することにしよう。それで、最初に3枚を出すプレイヤーだが――」

 「――僕が出しますよ。このゲームを提案したのは僕達ですし……」


 ……だけれど、そういうリョウっちは、お姉と小さく合図し合っていたのだ。ははぁ、これはつまりだよ?


 「そのまま時計回りで、才賀先輩からのアクションでお願いしますね」

 「…………良いだろう。言うようになったじゃないか」


 リョウっちは、最初に3枚賭ける役になる代わりに、最後に行動するポジションを取ったのだ。考えてみれば、ポーカーは相手の札を推理するゲーム。言い換えれば、最後の行動するプレイヤーに最も情報が集まるってことだし。もっと言うと、100枚を3人で割ると1枚余る。余ったのはそのまま最初の賭け金に直行な訳で……


 「リョウっち……勝ちに来てるんだ……」


 ……リョウっちの先制攻撃、ってわけか。


 私がそういうと、リョウっちは綺麗に笑って返してきた。


 ……お姉はそのままおっさんの手札を見に行き、おばさんはカルっちの隣でリョウっちのテーブルに伏せられたままのカードを覗き込んでいる。


 ……ふふふ、良い度胸だし。この百花を虚仮にしたこと、後悔させてやるし!


 「それでは……ゲームスタートッッッ!!!」


 お姉がそう言うのと同時に、私たちプレイヤー3人は一斉に2枚の手札を取ってカードを確認する。


 ハートの3とスペードの6かぁ。微妙……。どうしようもないけど……どうにかならないわけでもない、そんな感じ。降参安定だし。


 ……そこでおっさんの手札を覗き込んだカルっちのポケットのスマホが鳴った。これはカルっちの好きなQueenの“Love of My Life”だ。そうそう、カルっちは洋楽が好きなのだ。私も勧められて聞くようになってからは……ちょっとだけ詳しくなった。


 「それでは、叔父さんからどうぞ? 現在のポットには1枚ずつの参加料と後輩の供出した3枚の硬貨に割り切れなかった余りの1枚、計7枚がありますので――」

 「――降参(フォールド)しないのなら、一番金を出してる春茅と同じ4枚以上を賭けろ、だろ? 分かっているさ。ところで、だ」


 おっさんは素早くリョウっちとお姉を見渡した。あ、ついでに私と……情けなさそうな顔になった叔母さんも。そうして……傲慢に笑って見せた。


 「良い手札だ。ポーカーで最も強い1を引いたよ」


 無視無視。寂しい中年の言葉は聞き流すに限るし。リョウっちは懸命に推理しようとしているけれど、私の場合助手のカルっち以外の言葉は聞く気がない。きっと聞いても……上手く乗せられてしまうだろうから。


 「……おめでとうございます」

 「あぁ、ご愁傷様だ春茅。お前は絵札も引けなかった(・・・・・・・・・)みたいだしな?」

 「………………」


 咄嗟のことにリョウっちは何も言えなかった。……あぁ、それは駄目だし。沈黙自体がおっさんに無言の肯定として伝わっちゃってる。不意打ちだったせいで、引っかかったっぽい。……おっさん、伊達に長生きしてるだけはあるな。


 そこでお姉が……胡散臭そうな顔を向けた。


 「言ってなかったな。どうして俺が損する可能性が高いゲームに参加したと思う?」

 「……それは」

 「勝てる確信があったからだ。森亜との戦いで進歩したのはお前だけじゃない、俺もだ(・・・)よ」

 「――あと30秒」


 各プレイヤーに与えられたシンキングタイムは1分だけ。お姉が決めたルールでは。


お姉のカントダウンを、だけれど、おっさんはこれっぽっちも意に介さなかった。


 「春茅、今お前の手札を当てて見せよう」

 「……どうぞ才賀先輩。でも、制限時間をオーバーしたら降参(フォールド)ですからね?」

 「十分だ。……お前、10も引けなかっただろう? 運のない奴だな」


 ……思わず私は、カルっちと顔を見合わせていた。なんとなく……なんとなーくだけど、たぶんおっさんの推理は当たってる気がするのだ。リョウっちは指摘された瞬間僅かだけれど視線が泳ぎ――


 「――どうでしょうね?」

 「しらばっくれるには経験が足りないな、春茅。お前9……いや8、そう8も引けなかったのか。酷い手札だ、降参(フォールド)を勧めるぞ」


 リョウっちもお姉も……渋い顔だった。……あの顔は、たぶん本音だと思う。ということはだ――


 「あと10秒」

 「賭け金上乗せ(レイズ)、14枚だ!」


 ……少しだけ、空気がざわめいた。最初にあった7枚とおっさんが追加した14枚。ポットは全部で21枚になった。


 同時に全員の視線が私を向く。言われるまでもない。私のターンだ。


 私の手札はハートの3とスペードの6。わりとどうしようもない感じだ。一応ストレートを狙えるかもだけど……現実的じゃない。というか、手札共有ポーカーだから、ストレートに有利な手札が出たってことは、私だけじゃなく他の人もストレートになりやすいってことなはず。


 しかもおっさんがレイズしやがったから、このターンはお茶を濁して最初の3枚の共有カードを確認するだけでも、おっさんと同じく14枚の硬貨が必要になる。


 こんな弱い手札で、手持ちの半分近くの硬貨を賭けるのは現実的じゃない。よし、


 「降参(フォールド)だし!」


 勢いよくそう言うと、私は手札を裏にしたまま使用済みカード置き場に突っ込んでいた。


 大丈夫。このゲームで失ったのは、たかだか参加料の硬貨1枚だけ。いくらでも挽回できる。




 「……というわけだし」

 「分かりましたモモ先輩、作戦続行ですね!」


 フォールドして余った時間はカルっちとの作戦会議に費やしていた。内容はもちろん、おっさんの推理についてだ。


 理屈は分からないけど、おっさんはどうやら助手の叔母さん以外の方法でリョウっちの手札を読んでいるっぽい。だからそれを探るために、


 「リョウっちを重点的に頼んだし」

 「はいッ任せてください!」


 バレない程度に小さく頷きあって笑った。


 「……降参(フォールド)です」


 リョウっちは一瞬だけお姉に視線を向け、お姉は小さく頷いて見せた。同時にリョウっちもおっさんも手札を使用済みカード置き場に突っ込む。もちろん、裏向きのままだし。


 「そういえばお姉、今回は共有カードの公開まで行かなかったけど……その場合裏向きのままの共有カードはどうすんの?」

 「……今回は山札が1つしかないからな。公開されなかった分は山札に戻すべきだろう」


 ……つまり、山札が無くなったらゲームセットってことか。


 「それでは……2回目に移る。分かってると思うが、参加料を徴収するからな」


 是非もない。今度はおっさんが4枚の硬貨を出して、代わりに最後に行動する番だ。同時にディーラー役のお姉が手早く手札を配ってくれる。私には机の上を滑らせて。おっさんの場合はわざわざ隣まで行って、配るやいなや覗き込んで。


 ……お姉、おっさんを正面から倒す気だし。


 「……モモ先輩の所には、誰も来ませんね」

 「うっさいし。これから活躍するんだから……!」


 ぐぬぬ……。お姉はおっさんを警戒して、叔母さんはリョウっちを警戒している。1人ぽつねんとしてるのは私だけか……。いいもん! 後で泣きを見せてやるし!


 ……おお! やった! 引いたのはハートの6とダイヤの6、いわゆるワンペアだ。言うまでも無く強い手札だと思う。だけれど……懸念もあるし。なにしろ、さっきのゲームで6を引いて使用済みカード置き場に突っ込んだばっか。


 ええっと、トランプは全部で52枚。そのうち6枚はさっき使っちゃったから、残りは46枚。だから、共有カードに最後の6が入ってる可能性は46枚分の1枚×共有カード5枚分で………………大雑把に10%ちょっと……のはず。


 そこでカルっちを見た。カルっちは余裕そうにスマホを弄っている。


 「同額賭け(コール)だし……!」


 同時に硬貨3枚をポットに突っ込んでいた。ワンペアだし、とりあえず最初の共有カード3枚を見せて貰っても良いだろう。


 次はリョウっちの番だ。リョウっちは叔母さんが楽しそうにテーブルに顔をくっつけてカードを覗くのを尻目にチラッとだけ手札を確認して……


 「同額賭け(コール)です」


 同じように3ポンド出してきた。ってことは、リョウっちの手札も悪くないってことか。カルっちに視線を送れば、カルっちが小さく頷いてくる。


 そうして、手番は最後のおっさんに回ったわけだ。もっとも、おっさんは既に最初に賭け金を支払ってるから、何も賭けなくても最初の共有カードを見ることはできるはず――


 「オールイン」


 ――だった。


 なのになのになのに! おっさんは躊躇無くそれを選んできた! オールイン、お姉の説明には無かったけど、意味は分かる……全賭けだし!


 「さ、才賀先輩?」

 「だから、オールインだ。つまり、手持ちのベットを全額突っ込んだ、ということだ。だから、この先に進みたいなら俺と同じだけの金額を賭ける必要があるな」


 「おっさん、気は確かだし!?」

 「そうですよあなた!? 春茅君……結構強い札を持ってますよ!?」


 思わず私はそう呟いていた。あぁ、カルっちをおっさんに繰り出さなかったのが悔やまれる! かといってお姉の態度から手札を割り出そうにも……お姉は一向に渋い顔を崩さない。


 「もちろんだとも。さて、百花ちゃん。時間は1分だけだからな?」


 言われなくても、分かってるし! 落ち着け、私。私の手持ちはそこそこだけれど、これ以上の進展は期待できない……。でもでも、おっさんの手元に連続して強いカードがくる確率はそんなに高くないわけで、つまりおっさんははったりかましている可能性が高いわけで――


 「あと30秒だ」

 「ふぉ、降参(フォールド)…………」


 気がつけば、そう言ってしまっていった。グッバイ、私のワンペア……。大丈夫、まだゲームは序盤だし……


 「……ちと先輩…………」

 「……無理はするな。チャンスはそのうちやってくる」


 そして、リョウっちも動揺したのは一緒だったらしい。思わずお姉と相談して……降参を決めた。


 これで再びポットに溜まった硬貨はおっさんの元へ。これでおっさんの硬貨は47枚。私が28枚でリョウっちが25枚の筈だから、早くも倍近い差がついてしまっている。


 まずいし……このままでは、楽しい海外旅行が……!


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