探偵部より、最後の挨拶
いつの間にか降り出した雨の音だけが響き渡る中、小室の奴はキョトンとして立ち尽くしていた。そんなに意外だったのだろうか? ただ、蝋燭の明かりだけがゆらゆらと僕達の陰影を壁に描いている。
「リョウっち…………それは……そんなことが、可能なの?」
「……できるさ!」
その一言でモモちゃんの覚悟は決まったらしい。何も言わずに席を立つと、僕の後ろに回ってくれた。
「馬鹿か春茅! 俺に霊能力がないだと!? ハッ! そいつらに聞いてみるといい! 俺が起こした数々の奇跡がごまんと出てくるだろうよ! それを一つずつ聞いただけで否定する? いくらお前でも無理だっ!」
……確かにそうだろう。小室の言うことは正論だ。でも、的を射ていないのもまた確か。
「もっと……簡単は方法があるよ」
「なに? ……いいだろう。言ってみろ!」
刹那、目を瞑って考えてみる。今この場にいる味方はモモちゃんだけだ。モモちゃんと僕で全員を説得することは不可能。……違う、そうじゃない。発想を変えよう。
――動機を考えるのだ。
彼らに共通する理由を断てば、小室の信仰を打ち破ることが出来るはず。そう、例えば――
「君に霊能力は無い――」
「ハッ! 負け犬の遠吠えだな! それをどうやって証明する――」
「――他でもない、霊能力者の僕が言うんだから間違いないよ」
「――ッッッ!!!?」
どうやら予想外だったのか、小室は完全に目を見開いていた。いや、小室だけじゃない。神秘を否定してきた僕の言葉に、会場中の全ての人間が呆気にとられていたのだ。
……唯一楽しそうに笑っているモモちゃんを除いて。
「な……に? お前が霊能力者だって? 何を馬鹿なことを――」
「――おっと。君がそれを言うのかい? 霊能力者ではないと証明できるって?」
「ぐ……それは……」
勿論不可能だ。だって、たった今自分でそう言ったのだから。それに……あながち間違いでも無いかもしれないしね。
――行き過ぎた科学は、魔法と区別ができないのだから。
「小室、僕は今この場にて君に魔術決闘を申し込む! 君の得意分野なんだ、まさか逃げないよね!?」
「おのれェ! ……良いだろう! 受けてやる!」
当然だ。だって小室は神秘の体現者なのだ。ここでぽっと出のインチキ霊能力者に譲っては面子がない。……予想通り。
「勝負内容は簡単! 僕が君のことで到底不可能なことをしよう! それができれば僕の勝ち、できなければ君の勝ちだ!」
「……いいだろう。だが、てめえは何をする気だ?」
何をって? あるじゃないか。たった一つだけ、おあつらえ向きの謎が。
「僕は、君の本当の名前を当ててみせる」
「……ッッッ!? 馬鹿なッ!? テメエ正気か!? 不可能だッ!?」
「だから、やるんだよ?」
そう。僕は小室の名前なんてこれっぽっちも知らない。もしかしたら秋風なら候補を数名まで絞り込んでいるかもしれないけれど、あいにくと僕はノータッチだ。
「要は読心術だよ。実に簡単な霊能力だと思わない?」
そう、まるで依頼人の素性を些細なことから言い当てるシャーロック・ホームズのように。
同時に小室の表情に余裕が戻った。自身の勝利を確信しているのだろう。
「ほう? つまり、あれか? 俺の名前を紙か何かに書いて、それを言い当てると――」
「――違う。霊能力にそんな手品みたいなまどろっこしい真似は不要だよ。今、この場で僕の告げた名前が……君のクレジットカードの名義と一致するか、それだけだ」
簡単だね。これなら何処からどう見ても余分な要素の入る余地のない……公平なゲームだ。
「……ハハハ、フハハハハハハッッッ!!! テメェ本気で俺に勝ちに来たのか!? 勝てると思っているのか!? そんな偶然で!? いいだろう! やってみろ! 春茅ッ! 俺はお前をもう少し賢いと思っていたが……それはどうやら間違いだったみたいだなッ!」
勝ち誇った顔でマントを振るわす小室に対し、僕は静かに鹿撃帽を被り直すと目を閉じた。
刹那、無意識の間に獲得した様々な情報が脳内を駆け巡る。信じよう、僕自身を。それらの中に、必ず必要な情報は眠っている筈なのだ。
――考える。……考える、考える考える考える……
僕とこいつの付き合いは長い。思い出せ。輝かしい探偵部の思い出の何処かに、そのヒントがあるはずだ――
「――あぁ……そうか。そういうことか」
「――ッ!?」
――そうして、僕は答えへと辿り着いていた。
「リョウっち……さすが……」
「……ありえない…………俺は……誰にも自分の名前を言っていない……そう、こいつらにもだッ!」
僕は小室を見た。奴は、罪人が自分の罪を直視したかのように視線を逸らしてしまう。追い詰められているんだ。そう。いくら小室でも、自分が不可能と言ってしまったことを達成されたら……言い訳はできない。
モモちゃんはいつの間にか首元のリボンをギュッと握っている。まるで……神様にお祈りするかのようだった。
「言え! 言ってみろ春茅ッ!!」
あぁ……なんだかとっても、穏やかな気分だ。
「ツカサ、でしょ?」
「…………ッッッ!!!!?」
小室の表情が歪む。よし、ここまでは大当たりだ。あとは名字だけ。でも、そっちも見当はついている。
「イド……そう、イドだ。イドツカサ。それが君の名前だよ」
たまらず小室の奴が大きく息を吐いた。その隙にモモちゃんが素早く忍び寄るや、躊躇無くあいつのポケットから財布を取って――
「――!!! す……凄いッ! 当たったし! イドツカサ……伊土 務! どういう推理なんだろう!? 全然分からないし!」
モモちゃんは歓喜の表情を浮かべると、クレジットカードの名義を高々と掲げてギャラリーの方へと見せつける。最初は信じていなかった彼らも……唯一無二の証拠に何も言えず――
「……そうだよッ! 俺のは全部手品なんだッ! 霊能力なんてこれっぽっちも無いッ!」
そうして、ギャラリーの表情の理解の色が広がったとき、伊土の奴はそう叫んでいた。
「お、お前……! 僕達を騙していたのか……?」
誰かが叫んでいた。
まるで蜘蛛の糸に縋り付いた亡者のような懇願に……伊土は嘲りで返している。どうやら決着はついたようだ。
「オカルト? 馬鹿かお前ら! そんな物が実在するわけ無いだろうが! 少しも疑わなかったのか!? だとしたら、どうしようもないノロマだな!」
「……な……な……! そんな言い方ってないでしょ!? っていうか、騙された私達に言うことがあるんじゃないの!?」
「そうだ! よくも俺達をこき使ってくれたなッ!!!」
「ち……ちがうよ……それだけじゃない……」
僕とモモちゃんが道を空けると、怒濤の勢いでギャラリー達は伊土を取り囲んで訴えている。その拍子に誰かが部屋の電気を入れたのか、あいつの作り上げた不思議な雰囲気は完全に消え去ってしまった。
彼ら彼女らの学年は様々だ。女の子のリボンを見ると、僕や伊土と同じ3年生が多いようだけど……
「オーケー? 1個ずつ行こうか? まず最初のだが……知るか馬鹿! 良い歳してオカルト? はっ! 騙される方が悪いんだよ!」
残酷なまでの真実だった。小馬鹿にするようにそれを言われた女子生徒は思わず目に悔し涙すら浮かべている。
「こき使う? お前が勝手にボランティアに参加したんだろ? むしろ善行させてやったんだ、感謝して欲しいくらいだぜ!」
「お前ェェェ……ッッ!!!」
激昂した男子生徒が小室の襟首を掴んで締め上げる。だけども、伊土の冷笑は終わらなかった。
「その汚い手を離せ愚図。生徒会長の目の前で暴力沙汰とはいい度胸だ! 大学の代わりに退学になっちまうぞッ! なーんてな!」
「ぐぐぐ…………!!!」
「そうだよ! みんな忘れないで!」
怒り狂った男子生徒が憤怒を治めようと痙攣しそうな手を必死で押し止めている。そこで1人の女の子が必死に言った。気の弱そうな女の子だった。
「お金を返して……! 学業成就のおまじないが効果無いんなら……塾に行かないと……! 大学受験の……元々その為のお金だったの……!? お願い! 返して!? じゃないと私……」
その言葉に何人かの生徒の顔色が変わった。きっと3年生なんだろう。そして、今まではおまじないの効果を信じて、勉強よりもオカルトに精を出していた……。2度と戻らない時間を浪費してしまった……。
「そうだ! この詐欺師! 金返しやがれッ!」
「良くも私達を……! どうしよう!? もう7月……受験が間に合わない……!」
「ふざけんなッッッ!!! 責任取れ!!!」
激昂する彼らからモモちゃんを庇うように引っ込める。見れば宇田の方なんて泣きそうな顔になっているではないか。
――さて、どうしたものか。
思案する僕を尻目に、伊土の奴は胸を張って言い放った。
「知るか馬ぁぁぁぁぁ鹿ッッッ!!! 塾? よせよせ! 金をどぶに捨てるようなもんだ! どのみち脳味噌に知性なんか入ってないだろうが!!」
「お前ェェェェェェ!!! いい加減にしろォォォォォ!!!」
それが限界だったのか、堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。思わず彼が腕を振りかぶり――
「待って! どうか落ち着いて!」
――気がつけば強引に割り込んで止めていた。
「春茅会長…………どうしてこんな奴を庇うんですか!? 俺達はこいつのせいで……!」
「騙されないで! 彼は、お金がないとは言ってませんよ?」
だけれど、暴力沙汰になってしまえば、治療費とか慰謝料とかの問題になってしまうわけで。
僕が怒り狂ったその瞳を直視すると、彼は思わず瞳を逸らしていた。
――後は……これで伊土にお金を返させれば……。
……だけど、そんな甘い考えが通じるわけがなかったのだ。
「ハハッ! 馬鹿か春茅! 1度貰った金を返すわけ無いだろう? 既に決して見つからない場所に隠してやったッ! この金は、こいつらに代わってこの俺が精々有効活用してやんよッ!!」
「――っ!」
――こいつ!? 何処までも諦めが悪い!?
そう思ったところで、僕に天啓が閃いた。そう、伊土がここまで拘るにはわけがあるはずなのだ。後は、それを利用して――
「春茅! 認めるよ! テメエは確かに立派な奴だった! 今この時ですら場に流されず、生徒会長として適切な行動を取っている! ……だから、止めにしたよ」
「……どういう意味だ?」
「お前の前で誰かを騙すのは無理そうだ。だからオカルト研究会の復活は、卒業してからにする」
悪の続行。それが伊土の宣言だったのだ。もちろんギャラリーの感情を逆撫でする行為であり、怒り心頭の生徒達はあいつを取り囲み……だけれど、それすらもあいつの手のひらの上であり、ただただ憎悪や怨念ばかりが渦巻いている。
「じゃあな春茅! 俺は身を隠すことにした。紺も知らない秘密の隠れ家だ。この学び舎で敗北したことは残念だが……俺は諦めない。絶対に諦めないッ! だから――」
「――その必要は無いよ」
あいつの言葉を遮ってやると、不思議と皆が道を開けてくれた。言葉になんかならなくても分かる。皆追い詰められて必死なのだ。
追い詰められて、行き場を失って、必死になって助けを求めているのだ。
だから、それを見逃すわけにはいかないだろう。
「……どういう意味だ?」
「これで終わりだよ。……君の目的は達せられたはずだから」
僕がそう言うと、伊土の顔が怪訝そうに変わる。きっと想像だにしていないのだろう。自分の動機が読まれているなんて……!
いや、その可能性に思い至ったのか、視線が見る見るうちに力を宿していき――
「君がオカルト研究会なんて面倒なことをやってる動機は1つ。
どんなに汚れても良い、神代先輩にもう一度会うためだ。だけれど、君に霊感は無い。だから……他人を頼ることにした」
向かい合った僕とあいつ。その表情が驚きへと変わった。そう、それがオカルト研究会なんていうあくどい宗教を復活させた理由のはずなのだ。
「すなわち、本当の霊能力者ならば即座にインチキを見破るだろう。そして、その悪質さ故に敵対するだろう、ってね!」
だから、こいつは今この時も悪を行っているんだ。悪事千里を走る。悪ければ悪いほど、本当の霊能力者が目の前に現れやすくなるのだから。
「………………お前……本当に……どこまで……」
「君と桐国さんは……養護施設の出身で、小さい時から力を合わせて生きてきた。
でも、それは言わば負けの決まった人生だ。孤児達は普通お金のない養護施設で育ち、学費の安い高校に通うのが精々。その未来は明るくない。自分達はどうしようもない人生を歩むしかない、そう思って諦めていたんじゃないかな……
……あぁ、もちろん今の君たちには立浜高校の成績優秀者に認められた授業料の免除制度があるから、それを使っているのだろうけど……それは結果論だ。
そうして諦めていた時……彼女に出会った。暗い未来に絶望していた君たちは、彼女の不思議な力に魅了されたんだろう? 神代実子。霊能力じゃない。あらゆる気持ちを察し、胸の奥底にこびりついたモヤモヤに共感してくれた彼女の人柄にだ。そして……だからこそ、愛する彼女にもう一度会いたかったんだ。優しい彼女が死んでしまったから……」
伊土の奴はわなわなと震えながら僕を見ていた。……いや、ちょっと違うか。僕の少しだけ後ろを見ているような感じがする。……そこには食い物にしてきた生徒達しかいない筈なんだけど。
「それが……それが何だって言うんだッッッ!!!!」
「……っ!?」
「あぁ、そうだよッ!!! 全く、お前ほど腹が立つ奴は初めてだッ!! どうして俺が隠したいことを平然と見抜ける!? どうして易々と人の心に土足で踏み入れる!? どうして……俺達の人生がゴミみたいだって共感できる!? お前とお姉さんじゃ大違いだッッッ!!!」
「……だって、君だって気付いて欲しかったんだろう?」
「…………ぅ……!?」
どうやら心がグチャグチャになったらしい。あいつの言葉は僕を見ていない。まるで……そう、神代先輩に見咎められて必死に言い訳をしているような……。
「僕も神代先輩も大きな差は無いと思う。変わったのは、疚しいことができた君の方だよ」
「……ぅぁ…………!」
混乱が頂点に達したのか、伊土は何も言わなくなってしまう。
――さて、推理の時間だ。
そして、どうやら今回の推理は一味違う。どうやら正解なんて無くて、けれどもしっかり納得させられる物でなくてはならない。……ここで伊土を失うわけにはいかないからね。
「……もういい……春茅……充分だ」
「良くないよ。まだ一つ残ってる」
いつの間にか部屋は静まり返っていた。蝉たちは雨が降り始めたのに合わせて黙り込み、雨音も窓の壁を越えられていない。ただ夏の熱気と冷房が混ざり合って、生暖かい風が吹き抜けている。
「君の願いを叶えよう。目的は神代先輩に会うことだろ? ……だから、僕が彼女の言葉を言い当てて見せる」
「………………それは……」
そう。僕の霊能力で。
予定調和と言っても良いかもしれない。伊土はずっと、それを求めて全てをなげうってきたのだから。
「不可能だ……彼女は既に死んでいる。大体、お前はお姉さんに会ったことが無いじゃないか。お前の知ってるお姉さんは……全部又聞きだ。出来る訳がない」
「それは君が判断すれば良いよ」
尚も言い淀む伊土を無視して僕は思いを馳せていた。多分だけど……神代先輩の言葉は難しくないと思うのだ。だって……優しい人だったから。
――あぁ、でも……これは……そうかもしれない。ある意味当然の結果と言うべきか……
そして、僕は静かに口を開いた。
「神代先輩は…………何も言わないと思う」
当然だ。大勢の人を傷つけた相手にどんな言葉を投げかけるというのだ。むしろ優しい言葉が必要なのは被害者の方なのだから。
伊土の奴は……馬鹿みたいに口を開けてポカンとしていた。
「……代わりに優しく抱きしめてくれるんじゃないかな。荒んだ心のままナイフを振り回す、いつまでたってもひとりぼっちのままの君を……」
「………………ッ!!!」
感極まったのか、伊土の奴は背中を向けると壁に向かって俯いたまま何かを囁いている。
だけれど、あいつに時間は残されていない。そう。あいつは自分の罪に向き合わなくてはならないのだ。
「何だか良い話っぽくなってるけどよ……」
そう。加害者が納得するのと被害者が納得するのは全く別の話なのだ。
「そんなことは俺達には関係ない! 金だよ金! どうしてくれんだよ俺達の人生をよぉぉ!!!」
「そ、そうです会長!!! お金がないと塾に……いや、今から行った所で……間に合わない……か………。………どうして……こんなことに……?」
聞こえてくる絶望に思わず目眩がした。騙されたとはいえ、受験のための時間を浪費してしまったのは大きい。そして……それを取り戻せる見込みも無い。今から塾に行っても、それは他の人と同じ土俵に立つだけで、リードできるわけじゃないのだ。
まして……普通の勉強よりもオカルトに縋るような相手……決して勉強が得意なわけでもないのだろう。
「……伊土、悪いんだけどさ……お金は――」
「――無理だ。確かに一部は残ってるが……そこのテーブル含めて手品の舞台設計に使ってしまった金額の方が多い。全額返したところで、塾代にはほど遠いだろうよ」
一縷の望みを託した僕の問いかけは……無残な結果に終わっていた。思わず身が引き締まる。
そうだ。これは今までのお遊びみたいな推理とは違う。一歩間違えれば人生が狂ってしまう、現実の問題なのだ。
「……ふざけんなッッッ!!! お前が働いて返せば……」
「無理よ……私達何人いると思ってんの? 全員で分割したら、こいつ一人のバイト代では月々の塾代を賄えないわ……」
「ぐすっ……ぐすっ……! 甘い言葉に騙された……自分が嫌になる……いっそ……死んじゃおうかなぁ……?」
「リョウっち……………………」
何かを言いそうになったモモちゃんを静かに制する。それは、根本的な解決にはならないだろうから。
「………………」
「ちょっと……何とか言いなさいよッ!!」
「そうだ! 小室……お前……!!」
皆、絶望していた。そうして、彼らは最後に僕を見たのだ。行き場のなくなった生徒の最後の心の拠り所、生徒会長に。
「小室……じゃなくて伊土に払わせれば良いか」
「……会長? ……その通りですけど……こいつには無理ですよ」
「……そうじゃない」
解決すべき問題は表層の部分じゃない。根本的な所の方なのだ。小手先の課題を解決して悦に浸っている時間は無い。
「みんな、問題はお金じゃないよ」
「し、しかし……お金がないと塾に……!」
「そう。その通り……」
僕がそう言って口元に手を当てると、皆の視線も集まった。
「彼にやらせるのが最善だ。それは間違いないはず……!」
「だから……お金は……」
「お金じゃない。学力の方だよ……!」
モモちゃんが小さく、あっと叫び声を上げた。どうやらタネを見抜いてしまったらしい。
……そう、お金というのは手段であって目的じゃない。何故彼らが返金を求めているのか? それは、大学に合格するため――学力のための筈!
僕は伊土を見た。つられてあいつも僕を見た。みんながあいつを見た。
「だから……伊土に講師をやらせれば良い。そう、生徒会で生徒主導による勉強会を立ち上げよう。伊土は……孤児の出で……立浜高校には奨学金で通っている。そう、このレベルの高い立浜高校でトップクラスの学力を持っている筈なんだ! 下手な予備校講師よりもずっと向いている……!」
もちろんお金の返却は後回し。どのみち正確な金額の算出には時間がかかるはずだ。返金は……それらが終わってからでも遅くはないはず。
だけれど、そこでギャラリーの一人が口を挟んできた。
「会長……しかし……こいつは信用できないですよ!?」
「……僕もやる」
思わず驚きの声が上がった。
……でも、それ以外に方法はない。まさか発案者が企画に参加しないわけにもいかないだろうし。
「……会長自らがですか……!? しかし……その、会長自身の勉強はどうされるので!?」
「時間の浪費にならないくらい質の高い講義を行えば良い、それだけだよ。なぁ伊土?」
「てめえ……正気か? 俺は講師なんてやったことない。できるかどうかなんて……」
「……君は、失敗を恐れるあまり、失敗を取り戻すチャンスを見逃すの?」
「……ッッッ!? ……良いだろう! そこまで言うならやってやんよ!」
そう言うと伊土はテーブルの上に何かを勢いよく放り投げた。あいつのスマートフォンだった。
同時に僕もスマートフォンを取り出し、電話をかける。相手は一応僕の副官の……
「俺の連絡先だ。全員メモしておけ! あぁもう! 会長殿が日時を決めたら改めて連絡するから!」
「あ、秋風? 今ちょっと良い? 君の力を借りたいんだけど――」
にわかに室内は色めき立った。ギャラリーの皆は今だに半信半疑で伊土のことを疑っている。だけども、少なくとも僕の本気だけは伝わったようで……
「嫌なら連絡網形式だ! 好きにやれ! それから、各自学力を申告しろ! 俺は講義の内容を考えるから……」
「うん。大至急やりたいことが出来てね……脅しても良いから速やかに生徒会員を集めて……」
とんとん拍子に話を進めていく僕達に対して、ギャラリーの皆半ば呆気にとられているようだ。
そうして、電話を終えた僕はモモちゃんを見た。
「ねぇモモちゃん。人間を救うのは……いつだって”同じ”人間だよ。神様は……自ら助くる者を助くんだ……」
「…………うん!」
彼女は……笑った。向日葵のような、元気で明るい笑顔だった。
「……なんだか、一生分の思い出を貰った気分だし! そう、リョウっちと過ごした、探偵部の思い出……。私……先輩と同じ刻を過ごせて良かった!」
そう、僕達は一歩ずつ進んでいく。先人達の冒険学び、今現在の事件を解いて、思い出胸に、未来へと……!
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