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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
探偵部の思い出
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3.森亜帝の顔④

 淀んでいる。それがそこの印象だった。


 正確にはよく分からない。何かに横たわっているようだ。まるで視力を失ってしまったかのようにその世界は真っ暗で、海中のように身体が鈍く起き上がることすらままならない。だけれど、僕は不思議と近くに佇む彼のことに気づけていた。


 「……探偵君、呪いをくらったね」


 そう、彼だ。熱病に浮かされたような億劫さに苛まれながら、僕は必死で見上げたのだ。


 「森亜……先輩……」


 在りし日の姿の森亜先輩が、無感動な表情で僕を見下ろしていたのだ。だけれど、不思議と今の森亜先輩を怖いとは思わなかった。彫刻のような顔からは、悪意の欠片も感じられなかったからだろうか?


 「それはどういう意味ですか? そもそも、どうして貴方が小室の言いなりになって人を呪うだなんて!?」

 「そのまんまの意味だよ。……あぁ、それに君は混乱しているね。とはいえ、無理もないか。あんな悪意の込められた幻覚をまざまざと見せつけられたんだ、神秘のベールに覆われて真実が見えなくなってしまうのも無理はない」


 僕がどうにか身体を起こすのと、彼が僕の目の前に立つのは同時だった。森亜帝、その姿は先ほどと瓜二つ。にもかかわらず、その顔には理性の色が宿っている。


 「結論から話そうか。これは夢だよ」

 「夢……ですか?」

 「だって、君は気を失ったのだよ? そう考えれば、別に驚くほどのことでもないだろう?」


 何故か彼の言葉はすとんと胸に落ちていく。


 自分でも分からない。ただ、森亜先輩の言うことは至極当然のように思えて――


 「それは当然だよ探偵君。夢の登場人物は、異性を除けばそれはほぼ君自身の一側面を表すんだよ。僕もそう。おそらく君自身の観察力が無意識のうちに悟ったことを、夢の中で僕という形を取って、君の表層意識に伝えているんだ」

 「……森亜先輩……何のことですか? 僕は……夢診断なんて……」


 知らない。……少なくとも意識的には。確かにずっと前に少しだけ本を読んだことがある。でも、あまりにも難しくて途中で投げ出してしまったのだ。当然その内容も覚えていないわけで――


 「夢。だから、こんなことも出来る」


 そう言った瞬間には、森亜先輩は消えていた。そして代わりにその場に現れたのは――


 「こんにちは、探偵さん」

 「神代先輩…………」


 学ランを着た神代先輩だったのだ。いや、それも僕が思わず神代先輩の顔に意識を集中すると、学ランも本人のブレザーに替わってしまう。


 「さきほど帝君が申したとおりです。あなたは無意識的には既に謎を解いてしまっています。後は……それを認めるだけ。さぁ、頑張って、私の……私達の後輩……」

 「神代先輩!? 待って下さい!?」


 同時に身体が浮き上がるような感覚を覚えた。勿論周りは暗闇だから分からない。だけれど、僕の下方では森亜先輩と神代先輩が並んで僕を見送っていて……


 「……輩…………後輩……」

 「先輩……なんですか!? よく……聞こえない」


 慌てた僕が声を張り上げるも、身体の浮上は止まらなかった。世界が徐々に光に満ちていき……


 「……後輩…………後輩……!」

 「先輩…………!」

 「……ッ!? 目が覚めたのか!? 後輩!?」


 ハッとなって顔を上げれば、そこでは泣きそうな顔のちと先輩がタオルで僕の額を拭うところだった。


 同時に視界が急速にクリアになっていく。真っ白い天井に真っ白いカーテン、なんだか薬のような匂いがする。見覚えはないけど、何処かの病院のベッドの上のようだった。


 「大丈夫か!? あぁ……良かったッ! このまま2度と目が覚めないんじゃないかと心配したぞ……」

 「ちと先輩……」


 ――なんだかご心配をおかけして、すみません。


 僕がそう言うと先輩は優しく笑って僕の頭を撫でてくれた。


 「君は……いや、あの場にいた探偵部員3名と協力者2名は全員が突如意識を失って病院へ運び込まれたんだ」

 「…………」

 「そこで5人に検査が行われたのだが……結果は白。特に危険な薬物等は検出されず、ただ全員が悪夢に囚われ意識を取り戻さなかった……」


 ちと先輩はそこで僕から視線を外すと、カーテンの向こうを見やった。慌てたような物音が聞こえてくるあたり、どうやら別の人が入院されているみたい。……もしかして、先輩の家の力で病院の一室を丸々貸し切りにしたのかな?


 「今回の事件、原因は全くの不明だ。ただ、校内が大パニックに陥ったのは確かだな。混乱を収束するのは大変だったぞ? 涼花と2人で声を張り上げてどうにか呪いに恐怖する群衆を宥めたんだ……」

 「……ということは……今日は……」


 思わず僕が口を挟むと、再び先輩は仕方のない奴め、と言わんばかりに優しく笑った。


 「今日は7月1日、日曜日だ。君は24時間近くも意識を失っていたわけだな」


 ――と、いうことはである。


 「つまり、今日中に謎を解かないと、月曜日の学校が大パニックになるって事ですね?」


 それは間違いないだろう。いや、既に状況は悪化の一途を辿ってるに違いない。あれだけ神秘を否定していた探偵部があっさり呪いに負けて病院送りになったんだ。このままでは再び学校にオカルトの嵐が吹き荒れてしまう――


 「いや、その心配は無い」

 「っえ!?」


 だけども、ちと先輩はあっさりと僕の懸念を払拭してくれたのだ。そして、言った。


 その表情は……見たこともないほど怒りに歪んでいた。


 「愛する後輩や可愛い妹をこんな目に遭わされたんだ……絶対にただでは済まさない(・・・・・・・・・)……! 小室といったな、当家はあの男を()と認識したよ。後は協力企業の力を借りて――」


 ――始末する。


 ちと先輩は暗にそう言っているのだ!


 同時に僕は慌てて口を開いていた。


 「待って下さいちと先輩! そんなことをする必要はありません!」

 「……残念だが、他に道はない。既にあの男が神秘を詐称して生徒からお金を騙し取っていたのは知っている。あとはその件で罪悪感を感じたことにして――」

 「――不要です。……だって、僕が全部謎を解いて(・・・・・)しまいましたからね」


 僕は自然と笑っていた。そうだ。昔の僕はいつだって、笑ってちと先輩に謎が解けた報告をしては、ご褒美への期待に胸を膨らませていたんだっけ。


 「ほう。流石だな後輩。だけれど、証拠(・・)はあるのか?」

 「もちろんです……それに証人だってそこに……」


 同時に隣のベッドから歓声が上がった。この懐かしい声は姫乃ちゃんの物だ。となれば答えは一つ、モモちゃんが目を覚ましたのだろう。


 「先輩、時間がありません。直ぐに学校に戻ります。答え合わせは車の中で」


 同時に着替えへと手を伸ばしていた。




 かくして、僕たちは再び立浜高校に戻ってきていた。厳密にはちと先輩と姫乃ちゃんは在校生ではないので、一旦分かれて合流してから目的地を目指して誰もいない廊下を進んでいく。


 ……その途中、僕は珍しく無言になっていた。


 謎が解けた。それはもう、見事に全て。だけれど、どうやらそれは、必ずしもハッピーな結末を迎えられるわけではないみたいで……


 「それでリョウっち……謎が解けたって聞いたんだけど?」

 「勿論だよモモちゃん。そしてモモちゃんの記憶力にもそれは懸っているんだ」


 そのきっかけは……夢の中の森亜先輩だ。ある意味盲点だったそれは、だけれど1度意識してしまえばそんなに難しくない。


 「それでだ、後輩。早速だが教えてくれ。衆人環視の中、呪われた人物だけが見た悪霊とは何だったのか、そして……本当に探偵部は呪いに負けてしまったのか?」


 体育館への渡り廊下を進む中、ちと先輩が言う。……もはや部外者となってしまったちと先輩にこの謎を解くのは難しいだろう。他ならぬちと先輩自身がそれを実感しているのか、どこか諦めたような空気が漂っていた。


 悪霊の呪い。そこだけ見れば、完全に理解の範疇を超えたオカルトだろう。でも、その厚い神秘のベールを剥がすのも探偵の仕事なのだ。


 「簡単です。だって、ちと先輩達は何も見えなかった(・・・・・・・・)のでしょう?」


 僕の問いにちと先輩は神妙に頷いた。そう。あの森亜帝の顔は僕たち探偵部だけに見えたのだ。それは間違いない。だってカルちゃんのお友達の日下部さんは、悪霊に怯える僕たちに困惑していたからね。


 「もし本当に幽霊だったのなら、あの場の他の人間にも見えていた筈なんです。ならば答えは簡単。幻覚(・・)ですよ。」


 そう。それは間違いないだろう。意外に思われるかもしれないけど、実は幻覚剤というのは僕たちの身近に存在している。例えば……観葉植物のエンジェルストランペット。これは極めて強力幻覚剤であると同時に猛毒でもある。それこそ摂取してしまえば入院は避けられないだろう。もちろん合法だ。


 ……着いた。部室棟1階、目的地だ。ここに犯人が眠っているはず……。


 だから僕は無遠慮にその一角――


 「みんな、全ての悪霊の正体、桐国紺を紹介するよ!」


 ――演劇部の部室を開け放っていた。


 薄暗い部室。至る所に大小様々な道具が保管されている空間を、モモちゃんがギョッとした顔で見た。その視線は1点に注がれている。そう、僕の予想通り中には人がいたのだ!


 「……春茅君…………? どうしたの急に? 一体何の話?」


 そう。まるで呪いに蝕まれた僕たちのように身体を横たえて休んでいた桐国さんは、それでも即座に立ち上がると気丈に振る舞ってみせたのだ。


 「ちと先輩、問題なのはどうして幻覚を見たのかではなく、どうやって小室が僕たちに幻覚を見せたのか、ということの方なんです」

 「……もちろん私だってその可能性は疑っていた。だけども、それには大きな問題点がある。もし幻覚剤を麻薬のように煙として流してしまえば、探偵部員以外にも幻覚を見る人間が出るはずだ。それが無いということは、幻覚剤は探偵部員だけが摂取した物なわけで……」

 「……!? もしかして、あの不味いクッキー!? で、でもだよリョウっち……あのクッキー、リョウっちは(・・・・・・)食べてない(・・・・・)よね?」


 そう。あのレンバスと名付けられたクッキーを僕は食べていない。だけれど、僕も幻覚を見た挙句ぶっ倒れてしまった。


 「違うよ。あれは小室が用意したフェイクだ。ね、姫乃ちゃん」


 そして、小室は共犯者を庇うためにわざわざあんなことをやったのだ。


 僕がそこで話を振ると、何かを思案していた彼女ははっきりと頷いた。


 「……あの、それは間違いないと思います。所謂合法ハーブの類いの幻覚剤は、麻薬と違って摂取してすぐ幻覚を見ることはありませんから」


 さすがは姫乃ちゃん、ハーブに関しての知識は他の誰にも負けてない。そして、それも理由の一つだったのだろう。今の探偵部にハーブに詳しい(・・・・・・・)姫乃ちゃんは(・・・・・・)いなかった(・・・・・)のだ。


 「……事情は分かった。つまり、貴方達は私がハンバーグ(・・・・・)に幻覚剤を入れたと思っている…………残念」


 そうして、渦中の人物の桐国さんは苦い顔でスマートフォンを仕舞うと、心の底から傷ついたと言わんばかりに頭を振るっていた。


 「……たしかに所謂合法ハーブの範囲で幻覚を見せようと思ったら、食後1時間以上はかかる。貴方が私の差入れを疑うのも合理的。でも、忘れないで。差入れをしたのは私だけじゃない」


 確かにそうだ。昨日僕たちが食べたのは桐国さんのハンバーグ以外にもある。才賀先輩の紅茶と、佐伯達の羊羹だ。


 「確かにそうだね。でも、よく考えてみて? 森亜帝の顔を見たのは全部で5人。僕、モモちゃん、カルちゃん、佐伯、久瀬さんだ。この内4人は全ての差入れを食べてしまっている……」

 「……なら」

 「でも、カルちゃんだけは違うんだ。カルちゃんは他ならぬ桐国さんを手伝っていたから、ハンバーグしか(・・・・・・・)食べてない(・・・・・)筈なんだ」


 唯一カルちゃんだけはハンバーグしか食べなかった。そんな彼女が幻覚に倒れたのだから、幻覚剤はハンバーグに入っていたとみるべきだ。


 だけれど、桐国さんは残念そうに頭を振るう。


 「それはおかしい。確かに狩亞は私と一緒にハンバーグ作ってた。それが故に、もし私が幻覚剤を混ぜたならあの子が気付いたはず。いいえ、もし本当に入れる気なら、そもそもあの子に助力を頼んだりしない……!」

 「いいや、おかしくないよ。だって桐国さんは合法ハーブの範囲で幻覚剤を混ぜたんだから……」

 「……何を言ってるの? 合法かどうかは関係ない。何かを混ぜるという行為自体が狩亞の目を引いてしまう」


 桐国さんは静かだった。そのあまりにも堂々とした立ち振る舞いに、どうやらモモちゃんは半信半疑になってしまっているようだ。


 「……ナツメグでしょ? 幻覚剤の正体」

 「……なに?」

 「確かに怪しい物体をハンバーグに混ぜたらカルちゃんだって気付いたはず。でも、混ぜたのが世界四大スパイスの一つ、ナツメグだったとしたら?」


 ……だから、カルちゃんは気付かなかったのだ。食べ物にスパイスを入れるのはごく自然な行為だし、何しろカルちゃんは姫乃ちゃんと違って料理が出来ない(・・・・・・・)んだから


 ――初めて桐国さんの表情に焦りが見えた。


 「姫乃ちゃん」

 「……はい。先輩の仰るとおり、甘い香りのナツメグには肉の臭み消しと同時に、取り過ぎると幻覚を見せる効用があります」


 姫乃ちゃんは白けた視線をかつての友人に送る。……さっきちと先輩は言った。小室は先輩の家の敵だと。そうなると、当然姫乃ちゃんの敵でもあるわけで……。


 姫乃ちゃんはいつの間にかモモちゃんを庇うように前に出ていた。


 だけれど、桐国さんは否定したのだ。だけども、それは保身じゃない。


 「――知らなかった(・・・・・・)

 「…………それは……」

 「知らなかった。夏だから甘みを強くしようとナツメグを沢山入れたのは事実。でも、そんな毒性があるなんて知らなかった。本当に申し訳ない……」


 自己犠牲なのだ!


 ”知らなかった”! ある意味では最強の言い訳だ。どんな行為も、それが非道な結果をもたらすと知らなければ不幸な事故で終わってしまう。


 僕は桐国さんと小室の間にどういう関係があるのかは分からない。でも、彼女が必死で小室を庇おうとしているのだけは分かった。


 「あ、あのさリョウっち……。その……1つ良い?」


 だけれど、僕が今まさにトドメを刺そうとしたときに割り込んだのはモモちゃんだった。皮肉にも人の気持ちが分かる彼女は、敵とはいえ友達の桐国さんがこれ以上無いほど追い詰められていることを察してしまったのだ。


 「……百花…………」

 「やっぱりなんかの間違いなんじゃないかな? だって紺々は自分も幻覚剤を食べたんだよ? っていうことはやっぱり知らなかったんじゃ……」

 「……だから、家に帰らずに(・・・・・・)部室で休んでいた(・・・・・・・・)んだよ。もし家に帰っていたら、遅かれ速かれナツメグの効果で僕たちみたいに気を失って病院に担ぎ込まれてしまうから」


 そしてそうなれば、探偵部以外の人間にも呪いの影響がでた事が判明してしまう。呪いじゃないことは明白なわけで。


 桐国さんはピタリと動きを止めた。ハラハラとモモちゃんが見守る中で、どうやら頭の中で考えを纏めているらしい。


 「仮にナツメグの効果で幻覚を見たとして……それが都合良く森亜帝の形を取るなんて……」


 どうやら、既に有罪を受け入れたらしい。それでもしぶとい彼女は幻覚とオカルトの因果を断とうとしているようで……


 「その為の藁人形でしょ? しかも小室が開始前にわざわざ森亜帝のことを最大の悪霊と紹介したわけなんだ。しかも丁重に作り込まれた呪いの場でもある。幻覚の対象が森亜先輩になったのは偶然じゃないよ」


 ……思い返してみよう。小室の前口上を聞き逃した佐伯だけは、あの時森亜帝の幻覚を見ていなかったはずなのだ。


 桐国さんは何も言わない。ただ俯いて震えている。……いや違う。震えてるのは確かだけど、右手がゆっくりとスカートのポケットに伸びていて――


 「――ッ!? ちと先輩ッッッ!?」

 「任せろッ!」


 同時に僕とちと先輩が一斉に桐国さんに飛びかかる。だけども、それは少しだけ遅かったのだ。


 「来ないで……」


 思わずモモちゃんが息を飲んだ。


 桐国さんは隠し持ってたナイフを自分の首に突きつけていた。正確に頸動脈に重ねられた刃は今にも柔肌を切り裂く寸前だ。


  ……僕とちと先輩の足が止まった。


 「待って桐国さん!? どうしてそんなことを!?」

 「……さようなら」


 彼女の覚悟は恐ろしく速かった。僕とちと先輩が取り押さえるよりも先にナイフで勢いよく首を切り裂こうとし――


 「小室はそんなことをしても喜ばないよ!?」


 一瞬だけ止まった。いや、手遅れなのかもしれない。白い首筋から赤い血液が筋をつくって流れ始めていて――


 「そんな説得は聞かない――」

 「――だって、神代先輩が悲しむから……!」


 そこで桐国さんは大きく目を見開いた。その隙に全てを察したちと先輩が言葉を紡ぐ。


 「やはり、君たちは生前の神代の知り合いだったんだな……。いや、違うか。2人ともあの養護施設の出身じゃないのか? 神代が収入の一部を寄付していた……」


 言わば、神代先輩は2人にとっての恩人(・・)だったんだろう。そして、それゆえ恩人を殺されて復讐を誓っていたと……。いや、違うか、そうじゃない。


 「だとすれば、尚更神代は悲しむだろう。また自分のせいで人が死んでしまったと。そうなれば当然、お前が愛する小室も喜ばないわけだ」


 そう言うと、桐国さんは死体のような無表情になりながら、ナイフを取り落とす。同時にハンカチを傷口に押し当てたあたり、とりあえず自殺は思いとどまってくれたらしい。


 そうだ。そう考えればあの2人の関係はしっくりくる。桐国紺は小室添大を愛している、だけども小室添大は――


 「ッ!? 姫乃手を貸せ! 血が止まらないッッッ!!!」

 「はっ……はい! 了解しましたっ!」


 ちと先輩が瞬く間に傷口を押さえるも、血液は見る見るうちに勢いを増して流出していく。いまや桐国さんが休んでいたマットは血の海になっていた。


 「……これは……当然の報い……ね」

 「千歳お嬢様! 救助を要請して下さい! 私はこのまま治療に当たります!」


 ちと先輩がスマートフォンを取り出して連絡取る中、僕は桐国さんの唇に集中していた。彼女は弱々しくも、僕たちに何かを伝えようとしているのだ。


 「……人を殺しそうに……った私には……お似合いの……末路…………無実の……カル……ア……謝らな…………」

 「あの時の……いや、七不思議の悪霊はやっぱり桐国さんだったんだ……」


 僕がそう言うと、桐国さんは最後に小さく笑って口元をゆるゆると動かしてから……その瞳が閉じられる。彼女の最後の呟きは……聞き取れなかった。


 ……失血による脳の酸素不足だと信じたい。


 「リョウっち!? ど、どうしよう!? このままじゃ紺々が!?」


 僕が険しい顔をしていると、泣きそうな顔のモモちゃんが縋り付いてきた。


 「……今はちと先輩達を信じよう。それより、だ」


 今にも泣きそうだったモモちゃんは、しかしながらその言葉を聞いてピタリと止まるや元に戻っていく。そう、探偵の助手の顔に。


 「ねぇモモちゃん、桐国さんが最後になんて言いたかったと思う?」


 そうして、僕は問いかけていた。多分モモちゃんも分かりきっていたのだろう。答えは直ぐに返ってくる。


 「……自分の愛した……男のこと……」

 「なら、僕たちのやることも決まってるね」


 小室に……これ以上の馬鹿な真似を止めさせるのだ。神代先輩も……桐国さんも泣かなくて済むように。


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