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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
探偵部の事件簿
41/93

3.3人の学生②

 僕と姫乃ちゃんが1年生の教室に辿り着くと、そこではモモちゃんが席に座ったまま頭を抱えていた。広い教室内には既に他の生徒は居ないようだ。


 ――懐かしいな。机は横に6列、縦にも6列、クラス全部で36人、去年と同じだ。1年生で理系と文系がまだ分かれてないから、僕たち2年生よりもクラスの人数が多いみたい。それに……席替えもまだなのか、座席は入学時と変わらないあいうえお順のままだ。


 ちなみに、モモちゃんの席は右から2番目の列の先頭だった。可哀想に。


 「うぅぅぅ……どうしよう……。明日の科目は数学……私が一番苦手な……そしてえのっきーやドビュッシーが得意な数学――」

 「お嬢様ぁぁ! お気を確かに! まだ負けたわけではありません!」


 同時に駆け寄る姫乃ちゃん。モモちゃんはそれに気付いたのかゆっくりと後ろを振り向き……僕と目が合った。


 「って、リョウっち!? 何で居るの!? …………まさか姫っち、私がふざけて言ったカンニング疑惑を真に受け取っちゃった!?」

 「えぇっ!? お嬢様……あれは冗談だったのですか!?」


 姫乃ちゃんは自分の失態に気付くや真っ青になる。だけれど、僕には直ぐに分かった。モモちゃんの言葉はただの強がりなのだ。どうやら、困っているのは本当みたい。


 「話は聞いたよ。モモちゃん、調子はどう?」

 「うぅ……良くないよ。だって数学嫌いなんだもん! そりゃ必死でやるけどさ……」


 どうやら乱れに乱れた机の上の惨状が彼女の本心をそのまま表しているみたいだ。それに……とても興味深い事実が一つ。


 今回は時間が無いし、ちゃっちゃと話を進めよう。


 「えーんえーん! リョウっち! こうなったら一晩かけて私に勉強を――」

 「――カンニングの証拠は見つかった?」


 僕の言葉にモモちゃんはピシリと固まった。


 やっぱりだ。だって、本気で勉強するなら家に帰るか図書室に行くだろう。それをしてないって事は、何か教室に用事があるはずなのだ。


 ……例えばカンニングの証拠を見つけ出そうと探しているとか。


 「ぐぬぬ……リョウっちはこの私が勝負に負けた悔しさのあまり相手のカンニングを疑うような女だと申すか!?」

 「見つからなかったから実力で負けたと思って凹んでたんでしょ?」


 僕の言葉が図星だったのか、モモちゃんはガックリと崩れ落ちた。


 「でもさー、おかしいと思うんだよね。さゆうぎの奴……そんなに頭良くないはずなのに……。テスト期間こそインテリぶって眼鏡かけ始めたけど、テスト前まではどこにでもいるムッツリスケベ……」

 「さゆうぎ?」

 「あ、うん。今回の決闘相手。珍しい名字で”左右木”って書いて”そうき”って読むんだって。でも読めないから皆”さゆうぎ”って呼んでるの」

 「……単にお嬢様が初日にさゆうぎと連呼してそれがクラスに定着しただけのような……」


 姫乃ちゃんの言葉にモモちゃんは視線を逸らした。逸らしつつも、両手を股の間に押しつけ、上目遣いで何かを期待するようなポーズを作ってるし。……少しは余裕があるのかも知れないな。


 「それで、”えのっきー”と”ドビュッシー”っていうのは?」

 「あ、それはね。さゆうぎに勉強教えてる2人のことだよ! えのっきーは榎本淳也(えのもとじゅんや)、ドビュッシーは土橋香織(つちはしかおり)って言うの」


 ドビュッシー……。名字“どばし”じゃなくて“つちはし”なのに。って言うかモモちゃん、どばしとつちはし読み間違えて渾名つけたんだ……。哀れな。何でだろう。何故か同情が湧き上がる……。


 「でもね? さゆうぎの机や椅子を調べてみたんだけど……怪しい証拠はなにもなかったの……」

 「そうなると……なるほどね、少しずつ分かってきたよ」


 そう。とってもスマートな僕には、この時点で決定的な事実を既に把握しているのだ。間違いの無い事実である。


 僕がそう言うと、モモちゃんは目を丸くし姫乃ちゃんは喜色満面の笑みを浮かべた。


 「凄いです先輩!」

 「さっすがリョウっち! それで私はどうすれば良いの?」


 そう。事態はとってもシンプルなのだ。僕がモモちゃんに言えることは一つしか無い。


 「勉強するんだよ……!」

 「……は?」

 「……えっと、先輩?」

 「いくらカンニングを見破っても、肝心のテストで負けたらどうしようもないし。っていうか、姫乃ちゃんも最後の科目で負けそうだと思ったから来たんだよね?」


 姫乃ちゃんは思わず目を逸らし、居たたまれない空気が場に立ちこめる。


 とても気まずいけど、事実なんだよね。




 「ぐぬぬ! いつまでもおバカと思うなよー!」


 モモちゃんは涙目で捨て台詞を言うと、あっさりと桜田さんのリムジンに乗り込んで帰って行った。一方、僕は姫乃ちゃんと2人で高校の廊下を歩いている。


 もちろんカンニングの調査のためと……姫乃ちゃんに聞きたい事実があったのだ


 「姫乃ちゃん。そのさゆうぎ一味のことで知ってることを全部教えて」

 「あ、はい……。でも、全部ですか?」

 「そう、全部。必要か必要じゃないかは僕の方で判断するよ」


 何しろ今回の事件、最大の問題は僕自身がさゆうぎ氏らカンニング疑惑の当事者に直接コンタクトできないのだ。森亜事件の時と同じく、どんな些細な情報でも欲しい。


 一方の姫乃ちゃんだけど、彼女も一応は僕のことを信頼してくれたのか、失礼とも取れる僕の言葉にも特に反抗は見せなかった。そのまま指を顎に考えながら思いを巡らしている。


 「えっと……そうですね……まず”さゆうぎ”こと左右木要(そうきかなめ)君……今回のお嬢様の決闘相手です。出席番号は11番で、所属はサッカー部です。典型的な運動系の方と申しましょうか……。あ、私やお嬢様とは出身中学も違い、接点はほとんどありません。テスト期間で気合いを入れてるのか眼鏡をかけています。目つきが悪くて……私は少しだけ……苦手です」


 姫乃ちゃんの情報は思ったよりも詳しかった。だけれど、残念なことに手がかりの多くは覚えていないようだ。例えば制服の着こなしや友達との会話の内容が分かれば大きな助けになったのだけれど……人見知りの姫乃ちゃんにお願いするのは酷かな。


 「テストの前後に不審な動きは無かった? 例えば消しゴムで机や手のひらに書いた文字を消してたとか……」

 「いえ……無いと思います。……もちろん私もテストの合間はお嬢様と話しているので、絶対とまでは言えませんが……」


 そうなると、今のところ証拠はないということか……。いや、一つ、


 「トイレには行ってなかった?」

 「……? そう言えば榎本君と行ってましたね……でも、それはおかしいことなのでしょうか?」

 「それはテストの科目ごとに?」

 「はい」


 怪しい。男は女と違ってトイレに行く頻度が少ないのだ。友達と二人連れ……でも、これも証拠とは言えない。


 「それから”えのっきー”こと榎本淳也(えのもとじゅんや)君です。彼はさゆうぎ君とは対照的で温和な感じの男の子です。勉強もそれなりに出来ると見ました」

 「……どうしてそう思うの?」

 「あ、はい。えっと、彼は私達と同じく立浜中学の出身で、同じクラスになったこともあるんです」


 なるほど、えのっきーはモモちゃんや姫乃ちゃんのことを知ってるって事か。しかも勉強が出来てさゆうぎと行動を共にしている……。カンニングペーパーの作成を手伝っている可能性は充分って訳だ。


 「榎本君はさゆうぎ君と同じサッカー部で、その縁で仲良くなったみたいです。よく2人でお昼を食べています。二人揃ってスポーツ刈りなので、なんだかてるてる坊主が並んでいるようで可愛らしいです」

 「なるほどね……それで、最後が?」

 「はい、”ドビュッシー”こと土橋香織(つちはしかおり)さんです」


 そこで姫乃ちゃんはおもむろに廊下で立ち止まると、少しだけ難しい顔をした。彼女がこの顔をするということは、ちょっと言いにくいことがあるのかもしれない。


 ……もう目的地も近いし、止まったのは好都合と言えるかも。


 「土橋さんは他の運動系の2人と違って、とても真面目なタイプの方です。所謂ガリ勉という奴で、髪型は三つ編みで化粧もほとんどしていないのが特徴です。自由奔放なお嬢様とは対照的……と言いますより水と油の関係でして……クラス委員の座を争うなど、4月以降なにかと衝突することが多くありました。私もあの釣り目に睨まれると不覚にも怯えてしまいまして……」


 それで、モモちゃんが庇うように立ち塞がり、尚更揉めごとに繋がっている……とかありそうかも。


 「……ということは、同じ立浜中学の出身?」

 「あ、いえ。違います。確かかなり離れたところの中学のご出身で、実力で立浜高校に入ったみたいです。部活は……分かりません。帰宅部かも知れません。放課後は図書館で勉強しているのを見たこともあります」

 「それは……筋金入りの真面目さだね」


 それこそ中学までは髪を染めてサボりの常習者だったモモちゃんとは大違いだ。そして……それはさゆうぎにも言える。サッカー部二人が仲良いのは分かった。お互い運動系だし、気が合うんだろう。


 ――では、何故そんなさゆうぎ達と真面目な彼女に繋がりがあるのか? 引っかかるな。


 「……モモちゃんはドビュッシーに関しても口にしていたけど、どういう繋がりが? 特にさゆうぎ達との繋がりが見えないんだけど」

 「……分かりません。でもでも、彼女が決闘に肩入れしてさゆうぎ君に勉強を教えているのは確かみたいです。先週くらいからずっと3人で勉強をしていました」

 「……他にドビュッシーのことで分かることは?」

 「……そうですね……でも彼女は真面目なタイプなので、カンニングみたいな不正行為には手を貸さないと思いますよ? 彼女は勉学で立浜高校に進学したことにプライドを持っていますので……それを傷つけるような真似は絶対にしないはずです。


 ……あ、あと優等生なので先生にも信頼されておりますね。反面クラスメイトからは……微妙です。厳しいばかりでお嬢様と違って遊びの要素がないので……結局クラス委員にも選ばれませんでしたし……。あ、それから出席番号は16番で……生徒会の座を狙ってるという噂を聞いたことがあります」


 なるほど。生徒会のボランティアか。それなら帰宅部というのも頷ける。……そして、面倒な相手かも知れないって可能性も出てきたわけだ。


 「ど、どうでしょうか先輩……私……お役に立てましたでしょうか?」


 僕がぼんやりと考えていると、姫乃ちゃんは不安そうに僕を見上げていた。その瞳はまるで迷子の子供のように濡れている。


 無実の人にカンニング疑惑をかけてしまっているのか。しかしだとしたら、自分はお嬢様と離ればなれになってしまうのではないか。


 ……良くも悪くも自由奔放にして唯一無二の個性を持つモモちゃんの存在は、影に隠れがちな姫乃ちゃんにとっても大きいのかもしれないな。


 「大体分かったよ。……だから次は助言を仰ごうか?」

 「助言……ですか? でも、ここは……」


 そう。そこで姫乃ちゃんは廊下の一角にある小さな部屋を前に、不安げに佇んでいた。僕もこの部屋にあまり良い思い出はないし、出来れば来たくない。でも、もしカンニング情報があるとしたら、ここだと思うのだ。


 「生徒指導室……ですか?」

 「うん。担当のクマちゃん先生は言動はがさつだけど、とても面倒見が良い先生だから」

 「……あの、それって矛盾してません?」

 「しっ! だからあの先生は結婚できないんだよっ」

 「春茅ァァァ!!! またお前かァ!?」


 などと話していると、生徒指導室の扉がバァンと開かれると同時に先生の怒りの叫びが廊下に轟く。紛う事なき縄張りを侵されたクマの如き咆哮だ。


 もちろん姫乃ちゃんは知らない先生の怒気に晒されて一瞬で涙目に変わっていたので、背後に隠すことにする。


 「あ、先生。どうもです」

 「どうもではない! まったく……! 暇つぶしに煽りに来る千歳がいなくなったと思ったら、また新しい問題児とは……」

 「そうですよ…………先生、学校の扉だって備品なんだから大事に扱いませんと……」

 「私じゃない! お前の話だ春茅ァッ!」

 「ね? がさつでしょ? でも、とっても良い先生だから、怯えなくても大丈夫だよ?」


 僕が優しく言って聞かせると、姫乃ちゃんは泣き笑いのような何とも言えない顔で必死に頷く。一方クマちゃん先生は僕の隙の無い言葉に封殺されたのか、恋人に逃げられた独身OL見たいな顔で百面相していた。


 「先生! コーヒー飲みに来ましたっ! 淹れて下さい!」

 「……くそっこいつ、会う度に余計なところまで千歳に似ていく……探偵部の血筋か」


 と言いつつ、やっぱり面倒見の良い先生は僕たちを指導室に淹れると、無言でコーヒーを入れてくれた。学習したらしく、今度はあまり苦くなかった。




 「ふむ、つまり探偵部はカンニングの疑いを探っているということか……」


 コーヒーで一服。姫乃ちゃんが平然とコーヒーを飲んでいる中、僕はというと底の方に溜まっていた苦みの塊に四苦八苦していた。ちびちびと飲む。……駄目だ。コーヒーって奴は好きになれそうにない。


 「そうなんです。そういうのは先生の管轄だと思いまして」

 「まぁその通りだ。だがな春茅、お前の期待には添えないかもしれんぞ?」


 椅子に並んで座った僕たちを尻目に、クマちゃん先生は真面目な顔を取り戻していた。


 「あのな? 結論から言うと、カンニングを見つけるのはそんなに難しいことじゃないんだ。私も現場を見たわけじゃないから断言はできんが……壮司ヶ谷の担当教諭は何も言わなかったのだろう?」

 「……あの…………その……その通りです」

 「……ならば、カンニングは濡れ衣の可能性が高いな」

 「しかし先生。相手の点数の増え方は不自然です。疑うのも当然では?」


 僕の言葉にクマちゃん先生は難しい顔をした。そうしておもむろに立ち上がると、書棚に押し込められた無数のバインダーの内の一つを取り出してめくり始める。


 「春茅の言い分も分かる。私もカンニングを疑うだろう。ましてや試験決闘なんて面白そうなことをしているんだ。状況的にはあり得る話だ」

 「では?」

 「だが、だ。春茅、教師の立場になって考えてみろ? 私達教師は試験中基本的に暇なんだ。教室の一番前の教卓で、それこそカンニング探しくらいしかやることがない」


 ――でも、見落とす可能性だってありますよね?


 僕がそう言おうとした所でクマちゃん先生は人差し指を振った。


 「考えても見ろ? 教師の位置からは全生徒の姿が見えるんだ。しかも皆テストに集中しているから同じような姿勢になっている。その中でカンニングをしようとすれば、どうしたって不自然な動きが必要になる……」

 「……しかし、机や指に答えを書いておけば……」

 「その為の見回りだよ。カンニングを見分けるのは簡単なんだ。事前に作ったカンニングペーパーを見てる奴は、教師が近づくとそれを隠す。隠して答えを書けなくなるんだ。言い換えれば教師が近づいた時だけ解答の動きが止まり、離れると動き出す奴が怪しいということになる」


 そこまで言うとクマちゃん先生はニヤリと笑った。


 ――頭の中でクマちゃん先生の言葉を反芻してみよう。


 ……間違っているとは思えない。確かに先生の言う通りだ。少し離れたカンニングペーパーを見ようとすれば動きで分かり、動かなくとも見える所にカンニングペーパーを仕込めば、近づいてきた先生に対して隠さなくてはならない。


 そして、姫乃ちゃん達の先生は疑わなかった、と。


 「あぁこれだ。これが過去一番良く出来たカンニング……の疑惑だな。そうそう。今のお前達みたいに点数で張り合っていた女子が負けたくない一心でカンニングペーパーを作ったんだ……誰にも見えないところにな」

 「誰にも見えないところ……ですか? しかし、そんな所に書いては自分も見えないのでは?」

 「いいや、見える。自分だけは見ることが出来て、他人が見たら破滅を覚悟しなくてはならない。そんなカンニングを考えた奴がいたのだよ」

 「あの先生……それは一体どこに?」


 勇気を出しておずおずと尋ねた姫乃ちゃんに対し、クマちゃん先生はさもおもしろいだろう? と言わんばかりの母熊のような笑顔を浮かべ、言った。


 「ミニスカートの中だ」

 「ひぅ……セクハラです。まさか……女の先生にセクハラされるなんて……」

 「なるほど確かにそこは見えない……って破滅ってそういう意味なんですか!?」


 姫乃ちゃんが思わずスカートの裾を抑えて、先生と距離を取っていた。まさか先生……結婚できないってそういう……?


 「そうではない!? そうではないが、その通りセクハラなんだ。当時の担任が男性教員でな……カンニングに気付いたは良いが逆にセクハラだと責められて慌てて私達女性教師に助けを求めてきたんだよ……」

 「あぁ、それで……調べたんですね?」

 「うむ。女子更衣室でスカートをめくってな。……もちろんそこに文字は書かれていなかったよ。……水性ペンで書いてたらしくてな。教師が離れた隙に汗や唾で消してしまったんだ。幸いにも袖にインクが付着していたからセクハラ疑惑は払拭できたが……カンニング自体は誤魔化されてしまってな……。


 それからだよ。立浜高校では厳しいカンニング対策マニュアルが作成されている。そのさゆうぎとかいう奴は男なんだろ? 男じゃ無理だ。学ランは長袖長ズボンで、言い換えれば身体に文字を書くスペースはほとんど無い。かといって紙に書いて仕込めば教師からは一目瞭然だ」


 ……なるほど。つまり、さゆうぎ達はカンニングペーパーを見ることすら出来ないって事か。


 「……よく分かりました」

 「ではな春茅。なにか画期的なカンニング手法が見つかったら教えてくれ? マニュアルを改訂しなくてはならんからな」


 僕たちは小さくクマちゃん先生にお礼を言うと、いそいそと生徒指導室を出た。廊下に出た瞬間、姫乃ちゃんに腕を引っ張られる。


 姫乃ちゃんは……危機的な状況に追い込まれたのか、必死になっていた。よく見れば可哀想に涙まで浮かんでいる。


 「先輩……ど、どうしましょう!? 私……このまま……お、お嬢様と離ればなれに……!?」

 「大丈夫だよ、姫乃ちゃん」


 そんな彼女を落ち着かせるように、出来るだけ優しくゆっくりと呟いた。


 お陰で彼女はどうにか落ち着きを取り戻したは良いけれど……今度は疑問で一杯になっている。だから、僕の次の言葉は当然こうなるわけだ。


 「カンニングの仕組みが分かったんだ」


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