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立浜高校探偵部  作者: 中上炎
探偵部の冒険
14/93

6.生徒会の醜聞④

 「全員動くな(・・・・・)

 「ま、待って下さい! 僕はそんなことしてません!」

 「……そうだ。そもそも後輩には動機が無……」

 「動くなと言ったんだ(・・・・・・・・・)


 音ではない。意思だ。能登会長の言葉には確かにそれが込められており、僕はもちろんちと先輩ですら思わず動きを止めてしまっていた。


 この人を見誤っていたのかもしれない。あの冷徹人形の兄なのだ。


 「春茅君。大人しくして貰おうか? 君には今重大な嫌疑がかかっている……!」

 「それは……」


 一睨みで僕を牽制した能登会長はスマートフォンを取り出すと、どうやら愛梨先輩に連絡を取り始めてみたいだ。


 その間に一息ついた僕の頭脳が高速回転を始める。


 ……おかしい。おかしいぞ! 何で、どうして探偵部のシャープペンがこんな場所にあるんだ!? まさか……生徒会の自作自演……!?


 いや……それは無いと思う。だって、僕は無実だし、予算だって返せない。だから能登兄妹の責任は明らかなわけで……。っていうか、そもそも先輩方はそんな性格じゃないと思うし。……秋風ならやりかねないけど。


 ……落ち着け。重要なのはそこじゃない。


 「兄さん? 呼びましたか?」

 「愛梨……。重要な手がかりを掴んだんだ。手を貸してくれ」


 あのシャープペンは貴重品だけど、予備が無いわけじゃない。僕の持ってる分だって、ちと先輩から入部記念に貰った物だ。


 …………そう。僕が一番怪しいのは確かだけど、その次に怪しいのがちと先輩なのだ……。


 迂闊なことは言えないぞ……。


 「愛梨、探偵部の部室に行け。春茅君の筆箱に探偵部のシャープペンがあるか確認するんだ」

 「待て。それなら私も行こう。生徒会にも監査は必要だろう?」


 その言葉に一緒にやって来たメガネザルが鼻を鳴らすものの、愛梨先輩は静かに頷くだけだった。


 「先輩……! 僕はっ!?」

 「大丈夫だ。後輩には動機が無い。それに分室の鍵を開ける手段もない」


 あぁぁ! 良かった! ちと先輩は僕の無実を信じてくれてるんだ! うぅぅ、先輩が傍にてくれるだけで、僕は100人力だよ。


 そうして力強く頷いたちと先輩が愛梨先輩と2人で分室を出て行き、部屋には5人と生徒会員だけが残される。そう、一人立場を決めかねていた奴がいたのだ。


 「あら? 動機ならあるわよ?」


 僕は思わずギョッとなって秋風を向いていた。


 「だって生徒会と探偵部でしょ? 今までずっとぶつかり合ってきた仲じゃない。先輩の気を引く為に生徒会の権威を失墜させようとして……あり得ない話じゃ無いと思うけど?」


 秋風ェェェ!? こいつ、土壇場で僕を裏切ったな!?


 「待ちなさいよ! 後輩君はそんな子じゃ……!?」

 「あら、米原先輩……犯人を庇うんですか?」


 秋風の言葉にマイ先輩は思わず黙り込んでしまった。状況が状況だけに、みんな暗黙のうちに僕が犯人だと思い込んでいるのだ。


 まずい……!? この状況はヤバすぎる。このままじゃ、……僕は本当に無実の罪で退学になってしまう!? 万が一そんな事態になったら……僕はもう一生ちと先輩と話すことはおろか、会うことさえもままならない!


 どうにかして、謎を解かなければ……!!


 鍵は秋風だ。抜け目ない彼女のことだ。僕を犯人と誘導しているには理由があるはずだ。例えば僕を追い出せば、彼女はまた学校での権力を確保することが出来る。そして……真犯人を恐喝して思いのままに操ることだって。


 「妹が戻ってくるまでに、論点を整理しようか」

 「……手短にな。犯人が分かったんだろ? 早いところ帰らせろや」


 そして、安村先輩は既に僕が犯人だと確信しているようだ。マイ先輩も半信半疑。僕に味方は……いない。


 そんなみんなの注目を集めるように、そして追い詰めて自白させるように能登会長は僕を壁際へと追いやった。


 「今回の窃盗事件、鍵は三つだ。犯人は分室の鍵を開けることが出来て、かつ探偵部のシャープペンを持っている人物で……」

 「会長! それだけではありません! 分室にはマイケルがいます! 泥棒は間違いなく、生徒会員以外の生徒を恨むマイケルから引っかかれている筈なんです……!!!」


 あぁぁぁぁ!!! もう! 陰気眼鏡猿はうるさいな! 気が散って思考に集中できない! 大体、能登会長は最初から3つって言ってたじゃないか! 待ても出来ないのか!?


 「……見て下さい! こいつゥゥゥゥ! 腕に引っ掻き傷があります! これが犯人の動かぬ証拠ですよ!!!」

 「違います! これは!? さっき能登会長達と一緒に部屋に入ったときに引っかかれたんです!」

 「秋風ぇ!」

 「はい! それは間違いありません! ……もっとも、その時にできた傷跡が何本かは分かりませんけれど」


 ニヤニヤ笑った秋風が陰気眼鏡猿を煽って僕への疑いを色濃くしていく。


 「大体僕は鍵を開けられ……」

 「んなことは些細な問題よぉぉ! 鍵は探偵らしくピッキングでもして開けたんでしょ! 引っ掻き傷は再び引っかかれて誤魔化したのよ! なにより、こいつのシャープペンが室内にあったのが動かぬ証拠だわぁ!」

 「いい加減にして下さい! そんな事言われたら、誰だって犯人になり得ます! 第一……」

 「2人とも落ち着くんだ。愛梨と千歳が帰ってくれば、答えは明らかになる」


 そうして、僕の人生でも屈指の居心地の悪い時間がのろのろと過ぎていくこととなった。


 やがて、僕にとっての女神が足早に分室へと戻ってきていた。ちと先輩の顔は相変わらず美しく……混乱し……なによりも絶望に染まっていた。


 「貴女からどうぞ?」


 変わらない無表情で愛梨先輩が促すと、ちと先輩は信じられないといった顔で静かにそれを口にした。


 「千歳、春茅君のシャープペンはあったのか?」

 「先輩! 僕のシャープペンはあったんですよね!? ありふれた緑色の筆箱に入れてる奴です!」

 「…………その……後輩のシャープペンは……」


 僕はその言葉を、まるで死刑宣告でも受けたかのように聞いていた。


 「……無かった…………私にも分からない……すまない」

 「……っ!? そ、そんなはずは……!? だ、だって僕はついさっきまで……!?」


 思わず目の前が真っ暗になって、気がつけば膝から崩れ落ちていた。他ならぬちと先輩の口からそれが飛び出たのだ。僕は……一体どうなって? はめられた……のか?


 それを秋風はやや驚いた風に見ていた。


 「ほら見ろぉぉぉ!!! やっぱり犯人はこいつよ!」

 「ち、違います……違うんです。僕にも分かりませんけど……」

 「そんな見え透いた嘘をつくな!!! これこそ決定的な証拠じゃない!!! これで探偵部も終わりよ!!!」


 愛梨先輩だけがもっともだと言わんばかりに頷いた。


 あれ? なんでだろう? 目頭が熱くなって……前がよく見えない……。


 「そんな!? 本当に身に覚えが……」

 「じゃあシャープペンはどう説明するのよ!?」

 「し、知りません。でも、あれは数年前の学祭で配ったものらしいです。他の誰かが持っていても……」

 「馬鹿かお前はァァァ!!! 生徒会の記録では、最後に探偵部が学祭に出し物を出したのは3年前なんだよォォォ! この意味が分かるかァ!? つまり、それを持ってる生徒は全員立浜高校を卒業してんだよ! 貴方たち探偵部を除いてねェェェ!!!」


 駄目だ……。陰気眼鏡猿の言葉に反論が出来ない……。なによりマズイのは……仮に僕が無実を証明すると、次に疑われるのはちと先輩ということだ……。先輩にご迷惑をおかけするぐらいなら……僕は……。


 周囲からは悪意だけが隙間なく押し寄せてくる。まるで汚物を見るかのような視線。きっとこのことは一生忘れないだろう。


 何も言えなくなってしまった僕に対し、佐山は勝ち誇ったように宣言した。


 「でも安心しなさい春茅君。大人しく罪を認めてお金を返すなら、退学で済むよう先生方には進言してあげましょう! 学校側としても生徒から犯罪者が出るのは避けたいところですしね……ね!!!」

 「ぼ……僕は……本当に…………」

 「それともあれ!? 犯人は葉巻女の方なのかしら!?」

 「違います! ちと先輩はそんな人じゃありません!」

 「今のが自白よォォォ!!! こいつ、自分が犯人だと言ったわァァァ! 秋風、聞いてたわよねェェェ?」

 「問題ありません」

 「……ち、違います!? 今のはそう言う意味じゃなくて……!?」

 「じゃあ、犯人は葉巻の方なのかしらァァァ?」


 何も……言えなかった。……終わったな。


 ……ちと先輩。それに、歴代の探偵部の方々。申し訳ありません。どうやら、無能な僕のせいで……輝かしい…………探偵部の、歴……史は……ここで……。……ッ先輩……。ちと先輩ッ。


 「なんだこいつ!? 泣いてんのか!? マジかよ、男が泣くか!?」

 「馬鹿みたい……キモッ!」


 あぁ、他の生徒会員から向けられる罵声が遠い。でも、そんなことはどうでも良いんだ。


 ちと先輩……お慕いしてました。ずっとずっと。4月に貴女の勇姿を見たときから、僕はずっと貴女だけのことを考えてきました……。でも、それも今日で終わり……。


 本音を言えば貴女の隣を、それが叶わないなら、せめて……貴女の近くで働きたかった……。でも……うぅっ! でも、それも無理そうです……。高校中退の中卒、しかも窃盗疑惑まであったら、真っ当な職にも就けないでしょう……。


 僕に出来るのは……貴女の邪魔にならないように……。


 あぁ、涙が止まらない……。こんなのって……無いよ……。


 そこで僕にハンカチが差し出された。……愛梨先輩だった。


 「っえ……?」

 「落ち着きなさい。皆さんも、彼を犯人と決めてかかってはいけません」


 僕は相当追い詰められているらしい。不覚にも、敵の言葉にも暖かいものがこみ上げてくるのだ。


 何より、愛梨先輩の顔は優しかった。人形のように作った顔ではない。本当の気持ちが、慈しみが心の底から溢れていたのだ。


 ハンカチで顔を隠して周囲を見る。能登会長は成り行きを見守っている。中立だ。


 ちと先輩は……嬉しいことに動揺しているみたいだ。それこそ、思わず身体の震えを堪えるかのように、自分で自分を抱きしめている。でも、それゆえ普段の観察力や推理が発揮できないようだ。


 安村先輩はどうでも良さそうに外を見て、マイ先輩は不安そうにちと先輩の方を向いていた。


 他の生徒会員達は僕へと向けてあらん限りの恨みをぶつけていて……秋風はとても悔しそうに僕へとウインクしていた。そう。悔しそうだったのだ。


 そう。彼女には犯人が分かっているんだ。それだけじゃない。多分愛梨先輩にも分かったんだろう。だから秋風は恐喝を諦めてウインクしたんだ。でも、どういうことだ?


 探偵部には分からず、生徒会員には分かる。


 そこで僕の脳裏を稲妻が閃いた。そういうことだったんだ。


 分かったのだ。僕にも犯人が。


 ……考えてみれば、そんなに難しくはない。シャーロック・ホームズ曰く、”他のあらゆる可能性がダメであれば、どんなに起こりそうもないことでも残った事こそが真実”なのだ。


 「愛梨先輩……どうやら、この事件は解決したようですね?」

 「えぇ、全く。彼には丁重にお詫びしないといけません」


 謎は解けたのだ。


 立ち上がった僕の目に光が宿っているのに愛梨先輩は気づいたらしい。無言で秋風に向かって首を振ると、静かにちと先輩の隣に立って観客に徹し始めていた。


 「先輩……聞いて下さい。犯人が分かりました」

 「後輩…………本当なのか!? ……分かった、信じよう」


 それで十分だ。見れば能登会長が口を開きかけた生徒会員達を鎮め、マイ先輩はぐっと親指を突き立ててくる。


 「そもそも、この犯人の狙いは不自然です。生徒会を狙うのであれば、わざわざリスクを冒して探偵部の備品を置いたりしないでしょう。探偵部を狙うのであれば、そもそも告発文なんか送らないでしょう……。つまり、犯人は最初から生徒会の権威を失墜させると同時に、探偵部も壊滅させるつもりだったのです。過去の因縁を隠れ蓑にして」

 「はぁァァ!? そんなことよりあんたが犯人だと考えた方が……」

 「佐山、静かに」


 同時にちと先輩が告発文を取り出しだ所で、再びの能登会長の威圧感。なるほど、この人もただ慕われているというだけの理由で生徒会長になったわけじゃないんだ。……どうでも良いけど、戦う職業に向いてそう。弁護士とか。


 「なるほど! 確かに後輩君の言うとおりだわ。探偵部大好きな後輩君が、それを選んだりするはずがない! ……でも」

 「分かってますマイ先輩。物証を一つずつ説明します」


 ポイントは……前に能登会長が言ったとおり3つ。


 「犯人は生徒会分室の鍵を開けられる人間です。これは僕には無理です。ピッキングなんて出来ないですし……そもそも分室の存在を知らないんですから」


 それを聞いた生徒会員達の表情が変わった。いや、戻ったというべきなのかな。それはともかく、分室の存在を知ってるのは生徒会員だけ。そして、彼らは間違っても最大のライバルである探偵部にそれを漏らしたりはしないだろう。


 「2つめ、猫。これは……僕にはどうしようもないです。入ったら引っかかれますし、傷跡は今更何を言ってもしょうがないでしょう」


 問題は次だ。


 「最後にシャープペン。これが最大の鍵です。泥棒が入ったのは一昨日。対して僕はこれを、今日の放課後に入るまでは授業で使っていたんです! 何故シャープペンが分室にあるのか? 従って答えは簡単です。さっき6人で入ったときに犯人が仕掛けたんです……!」

 「……なるほど。後輩、私にも話が見えてきたぞ」

 「僕のシャープペンを犯人が手に入れることが出来るのは、生徒会の臨時監査の時だけです! あの時の人混みに紛れて出しっ放しになっていたシャープペンを盗んだんです!」

 「……ふふ! やるわねぇ春茅君。さ? 犯人を地獄に突き落としてさしあげたら?」

 「……それはともかく、告発文の筆跡等から犯人は男です。6人の中の男は僕、能登会長、安村先輩の3人。でも僕は鍵を開けられないし……」


 同時に佐山が丑の刻参りにでも行きそうな、凄まじい憎悪を浴びせかけてくる。こらえ性のない奴め。


 「能登会長にも無理です。会長は臨時監査にいませんでした。シャープペンを持ち出す機会がありません」


 それが答えなのだ。彼が怒り出すよりも先に、僕は正面から敵に向かって宣戦を布告した。


 「従って、犯人は安村先輩と言うことになります」

 「え? ……嘘、まさか安村が? ないない。だってこいつは……」


 マイ先輩を口止めするかのように、彼は僕に向かってハンカチを投げ返してきたのだ。


 「……おいクソガキ。覚悟は良いな? 後で覚えてろよ? それはともかく、お前さっき自分で言ったじゃないか? 俺にだって無理だ……」

 「いいえ、安村先輩だけが可能なんです」


 そこで安村先輩はチラリとだけ能登会長を見た。彼や生徒会員は皆、その事実を知ってるはずなのだ。


 「…………確かに分室のことは知っていたさ! なにしろここは元園芸部室なんだからな! だが同好会に格下げされたせいで生徒会に取り上げられて、そのことではらわた煮えくりかえったのも事実だ……だが」

 「当然、鍵が一個だけじゃ不便だから複製を取っていたのね?」


 秋風の言葉にピクリとだけ安村先輩の顔が引き攣った。


 「だが、俺の身体に傷はない! どうやってあの猫の守りを突破したって言うんだよ!?」

 「それは、キャットニップ……ですね?」

 「……っ!?」


 そう。キャットニップ。ちと先輩の葉巻の原料であり、立浜高校園芸部の花壇にも植えられているハーブである。昔はお茶だったらしい。服用すると弱い幸福感を与える効果がある。そしてなにより……


 「キャットニップにはマタタビと同じように猫を魅了する力があります。このハーブを使ったんですね?」


 だからこそ、キャットニップの植えられた花壇は厳重に柵で守られているのだ。守られてはいるけど、それでもやっぱり猫による被害が出る。……逆に言うと、少しなくなっても、ちと先輩は疑わないって事だ……!


 見ればちと先輩は全てを理解したのか、顔を屈辱と怒りに塗れさせて安村先輩を見ていた。彼はそれに必死で弁明する。


 「馬鹿な!? あれは千歳が勝手にやってることだ! ハーブのことは俺にはさっぱり……」

 「分からない……なんて言いませんよね、先輩? 私の記憶では、臨時監査の時に『そんなことも知らないのかよ』とおっしゃったはずですが?」

 「……ッ!? ち、違うんだ。千歳……俺は……こんなはずじゃ」


 僕はシャープペンも引っ掻き傷もあるけど分室に入れないし、能登会長は鍵も猫も突破できるけどシャープペンがない。


 そこで尚も言おうとしたところで、秋風が当然のようにさらっとスカートのポケットからICレコーダーを取り出す。……多分、中には臨時監査の時の音声が収録されてるんだろう。そして……謎が解けなかった暁には、それと今までの音声とセットで恐喝するつもりだった……と。


 「安村! あなた……。貴方が千歳に惚れてたのは知ってたわ! それに挫折したのもね!! でも、だからといって後輩君まで巻き込むなんて見損なったわ! 恥を知れ!」


 ……薄々気づいてはいたけど、それが動機かな。窃盗事件で注目を集めて生徒会の落ち度を指摘すると同時に、分室の不当な占拠を訴える。そして恋敵である探偵部の僕にもダメージを与えることが出来る。全て決着してからお金を戻しておけば、これ以上ないほど生徒会にも探偵部にも大打撃だ。進入が出来る安村先輩なら、事が終わったあとにこっそりと戻すことだって可能なはず。


 探偵部と生徒会両方を敵に回した理由はこれか。なるほど、僕に対しては辛く当るはずだ。


 「うるさい! 俺は……俺は千歳の傍にいられれば良かったんだ!? なのに……あいつ、平然と! 俺の越えられなかった距離を平然と越えやがって……百花どころか家にまで!? 軽く試練を乗り越えやがった!!」

 「いい加減にしなさい! 生徒会はともかく、後輩君には筋違いも甚だしいわ! 彼が千歳について行こうとどれだけ努力してるか知らないから、そんなことが言えるのよッ!!!」


 正義に燃えるマイ先輩が平然と安村先輩の胸ぐらを掴むと、人目も気にせずにビンタを食らわす。その気持ちの込められた一撃は効いたようで、安村先輩は倒れ伏して起き上がろうともしなかった。


 ……だけれど、何故かその顔は憑き物が落ちたようにも見える。マイ先輩はそんな彼を冷たい瞳で見下していた。


 でも、それは温情といっても良いかもしれない。なにしろ、ちと先輩は怒りのあまり愛梨先輩すら及ばないほどの能面のような無表情になっていたのだ。


 ……ちなみに、能登会長はマイ先輩の言葉に苦笑いを隠せていない。


 そこから先は語るまい。


 かくして、僕はどうにか窮地を乗り越えることが出来たのだ。


next→花婿疾走事件

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