6.生徒会の醜聞③
「あぁ臭い臭い臭いッッ!! 何だぁぁァこの臭いはァァァッッ!?」
続いたのは最初に僕につかみかかってきた男だ。涎を飛ばす勢いで威嚇する。
「やれやれ、これだから貧乏人は教養が無いな。空気中を漂うハーブの香りが分からないとは……」
ちと先輩が正面から応戦し、特に面と向かって馬鹿にされた糞佐山の顔を引き攣るものの、すんでの所で怒りをどうにか抑え込んだようだ。
しかし、そこで愛梨先輩は僕の予想を超える手を打ってきたのだ。ただ表情どころか姿勢すら動かさずに、静かに探偵部へ向けて宣戦布告同時絨毯爆撃を仕掛けてきたのである!
「探偵部には以前から喫煙疑惑がありました。皆、探して下さい」
「ま、待って……」
「「「「はいッッッ!!」」」」
無情にも、探偵部はたった2人しかいないのだ。佐山とかいう糞女がちと先輩を勝ち誇った顔で嬲るように見る。僕はせめてもの抵抗で愛梨先輩の前に立ちはだかろうとし……
「春茅君。暴力行為は処分が下りますよ?」
「……っく!?」
歯ぎしりしながらそれを眺めていることしか出来なかった。
「落ち着け、後輩」
「ち、ちと先輩……! し、しかし……」
「大丈夫だ」
一方でちと先輩は少しの手がかりもくれてやるものかと、平然と腕を組んでいた。真っ青になって悪寒すら感じ始めた僕とは、比べものにならない度胸だ。
そうして、ちと先輩は僕にスマートフォンを向けて見せ……
「こ、これは……!?」
「後は、運を天に任せようじゃないか!」
……どうやら、僕たちはまだ負けていないようだ。そのメールには簡潔に、”今終わった”と書かれていた。
「あったァァァ!!! あったわァァァ!!! 探偵部の不正の証拠ォォォッ!!! やっぱり喫煙していたのねェェェェ!? 退学よ退学ゥッ!」
何の皮肉か、棚の奥底にひっそりと隠されていた葉巻の原材料を見つけ出したのは糞眼鏡女郎蜘蛛こと、佐山だった。緊張の面持ちで僕はそれを見ている。いけない。このままでは……。
「見つけたわァァッ!!! これこそッ! 忌々しい探偵部の不正の証拠ッッッ! ついに、ついに奴らとの決着を付ける時が来たッッッ!!! 見ていて下さい乙母先輩! 森亜先輩の仇ィィィ討ち取りましたァァァッッ!!!」
こ、こいつッッッ!!!? 今、なんて……ッッッ!?
同時にちと先輩も驚きに目を見張り、だが愛梨先輩の視線でそれを牽制されていた。
「佐山、それを見せて下さい」
「はいッ!!! もちろんです愛梨さん! 次期生徒会長たる貴女に、これを捧げます!」
どこか悔しそうな生徒会役員達を尻目に、陰気眼鏡猿は乱暴にそれを机に乗せた。同時に室内一帯に濃厚なハーブの、葉巻の香りが広がっていく。
「どういうことでしょうか? 渾名が葉巻女だからといって、本当に葉巻の材料を持っているとは思いませんでした。……覚悟は良いですね?」
引き攣った顔の僕を尻目に、愛梨先輩は乾燥してパリパリになったキャットニップをつまみ上げる。そう。キャットニップには弱い陶酔作用があり、いわゆる合法ドラッグなんだ。間違いない。僕は入部してから既に調べている。合法なのは確かだ。
問題なのは、校則で規制されているということで……
くっ……どうしよう? 秋風を呼んで分室の件を攻めるか……? 駄目だ! 今の状況じゃ、あいつは僕たちを平然と切り捨てるだろうし、仮に防いだとしても今度はあいつに弱みを握られてしまう……!?
「何のことかな?」
「……見苦しいですよ? それとも、散り際ぐらい美しくしては?」
「これは異な事を言う……それは……」
「さっきから澄ました顔しやがって!!! 生意気なのよ、あんたたち探偵部は!? 大人しく立浜高校から消えなさいよッッッ!!!」
その途端、きゅうっとちと先輩に瞳が細まり、反対に愛梨先輩の表情に僅かな動揺が浮かぶ。まずい……。僕にはこの先の展開が読めないぞ!?
そこでちと先輩がぽんと、僕の頭に何かを乗せてくれた。僅かな重みのあるそれは、ずっと前に貰った鹿撃帽だった。学校にいる間は部室に置きっ放しにしてたんだっけ。
「ふははははは!!! 笑わせるな陰気眼鏡猿! そんなんでは話にならんぞ! それでは愛梨の足下にも及ばないし……まして、生徒会長能登豪太の気を引く事も出来ないぞ?」
変化は一瞬だった。危険を察知した愛梨先輩が止めるまもなく、学校中に響き渡ろうかという屈辱の絶叫が響き渡ったのだ。
「佐山、落ち着い……」
「黙れ黙れ黙れェェェ!!!! 葉巻女の分際でェェェェッ!!! 能登会長の名前を呼ぶなァァァァッッッ!!!」
……どうやら、ちと先輩は図星を付いたらしい。あるいは逆鱗とか。
うん。確かに言われてみれば、あれだけ生徒会に狂信的な相手なんだ。生徒会というよりは生徒会長本人に忠誠を誓っていると考えるのが妥当かもしれない。
「ふん。その様子では相手にもされていないようだな?」
「うるさいうるさいウルサイィィィィィッッッ!!!! 能登会長はお忙しいからだッッ!!! お前達探偵部を筆頭とした部活が平然と不正を行うからァァァッッッ!!! 能登会長は時間を作れずにィィィッッッ!!!!」
「言ってくれるじゃない!? 横暴な生徒会に言われる筋合いはないわッッッ!!!」
途端、爆発したような轟音と共に、突如部室の扉が開かれる。そんな乱雑な開け方をする相手を、僕は一人しか知らない。そう。その長身と姉御肌で皆に慕われる、マイ先輩だッ!!!
「お、お前は……!? 昨日のバレー部の!?」
「前部長の米原涼花よッ!!! あんたは覚えなくて良いわッ! でもそこの冷徹人形ッッ!!! お前には覚えていて貰おうかしらねッッッ!!!!」
マイ先輩だけじゃない! あれは確かクロヨシや佐伯の所属する野球部の前部長に、園芸部の安村先輩、それから……多分探偵部と提携関係にある部の人達だッ!
沢山の人が部室に入ってくる中、僕は見逃さなかった。運動部の立派な体躯の中に埋もれて見え隠れする、小柄で茶髪の人影。
……モモちゃんだ。
「ご機嫌よう不細工! ムンクの叫びみたいな素晴らしい顔ね! 現実を受け止められないからブスのままなのよ! 見るだけで不快だ、帰って寝るか、美術館に展示されてろ!」
「なんだとクソガキがァァァッッッ!!!」
「佐山! いい加減に……」
「いい加減にするのはテメェら方だ!!! 良くも俺たち園芸部を格下げしやがったなッッ!!!!」
「そうよ! よくもバレー部の新しい部長をネチネチと泣くまでいじめてくれたわねッッッ!!!」
愛梨先輩の制止を促す声は、探偵部の仲間達の声によってかき消されていった。頭に血が上った佐山には届いていない。ちと先輩、これを狙ってわざと挑発したのか……。でも、これは根本的な解決には……
「リョウっちリョウっち! 大丈夫だよ。百花に任せなさいな!」
「モモちゃん……でも…………それは!?」
モモちゃんは片手にまさかの物体を持っていたのだ。そう。お湯だ。瞬間湯沸かし器にになみなみと蓄えられた、お湯である。白湯とも言うかも。って、これでどう戦えば良いの!?
「おいィィッッッ!!! 校則で茶髪は禁止されてるぞォォォ!!!? それに何だその制服はァァァ!? 良い度胸だ小娘ェェェッッッ!!!」
「はぁ!? あんた馬鹿なの!? 中学生の私が何であんたに言われないといけないの! 意味分からないんですけどーーー!!!」
「それだァァッ!!! おいお前ェェェッッ!!! 何平然と不法侵入してやがるゥゥゥッッッ!!!」
「しまったッ!? 佐山!!!」
モモちゃんはわざわざ片手を口元において、いかにもお嬢様な笑い方で相手を煽っていた。ようやく焦りを浮かべた愛梨先輩が視線どころか行動で強引に宥めるも時既に遅し。
同時に湧き上がる大ブーイング。
その間にモモちゃんと愛梨先輩の視線が静かに交錯する。モモちゃんは実に良い笑顔で、かの冷徹人形に宣戦布告をしたのだ!!!
「ぎゃはははは!!! 自分達で企画したのも忘れちゃったのーーー!? 私より馬鹿なんてどうしようもねえええええ!!! 今日は! 生徒会が企画した! 中学3年生を対象とする! 学校見学会なんですけどぉぉぉぉ!?」
「あ、そういえばそんなイベントもありましたね……」
「うん、まぁ、在校生には縁の無い催しだからな」
正確には、”学校へ行こう週間”。間違っても”学校閉校週間”ではない。それはともかく、今週はモモちゃんを含めた次代の立浜高校生が学校見学に訪れている。どうやら大義名分があるのを良いことに、各部から援軍を連れてきたみたいだ。
……しかもノリノリで頭の悪さを演じている辺り、分かっててやってるよあれ。
「うっっっ!!! いや……それは……!?」
「馬鹿なの? ねぇねぇ馬鹿なの? っていうか、馬鹿だよね?」
実に良い笑顔で愛梨先輩を挑発するモモちゃん。最初から狙いは佐山じゃなかったのか……。お湯、葉巻、なるほど。僕にも回答が見えてきた。
「あ、そっかーーー!!! だから分からないんだ!! これだから貧乏人は嫌ねッッ!」
「……どういう意味ですか?」
モモちゃんは部外者なのを良いことに平然と愛梨先輩を罵倒すると、葉巻の原料であるキャットニップをティーカップに入れ、そのまま持っていたお湯を注いだ。
「知らないの? イギリスじゃキャットニップは歴としたハーブティーだよ?」
「…………」
「はぁ!? そんなとってつけたような理由で――」
「本当なんですけど? ヨーロッパで紅茶が盛んに飲まれる前は、キャットニップがお茶の主材料だったんだし! 嘘だと思うなら、調べてみなよ。……もちろん、能があるならね?」
そして、モモちゃんは茶葉すら取らないそれを平然と飲み干して見せた。そしてそのままギャラリー全員へとキャットニップティーを配ろうとする。そこで小さく、ちと先輩が指さした。
それを見たモモちゃんがハーブティーを最初に持って行ったのは……
「安村前園芸部長。それは本当ですか?」
「アァ? 本当に決まってんだろ? 馬鹿か貴様、んなことも知らねえのかよッッ!!」
それが決定打だ。生徒会の横暴に振り回された各部の、既に引退して失う物の無い3年生達が生徒会役員達を取り囲んだのである。その輪の中心で、僕たちと愛梨先輩は対峙していた。
「……というわけだよ、後輩」
「……っていうわけなんだな! リョウっち!」
無表情の愛梨先輩に引導を渡したのは、この姉妹だった。こうして悔しそうな顔の生徒会役員達と、相変わらずの人形のように冷徹な愛梨先輩は静かに立ち去っていった。
……僕たちは、どうにかしての攻勢を防ぎきることに成功したのだ!
……正直なところ、これだけでもお腹一杯なんだけど、僕にはまだやることがあった。そう、秋風の件だ。
厄介なことに、いつのまにやら今回の騒動を観察していたらしい彼女は、こっそり僕達を誘ったのである。
「中々のご活躍ね。愛梨先輩に一撃を加えた人間は久しぶりよ?」
「当然だ。我々探偵部は生徒会にだけは負けられないからな」
どうやら秋風は、昨日わざと僕と一緒に過ごして生徒会室を留守にしていたようだ。もちろん、自分たちボランティアには聞かせられない話を盗聴する為に。まして、切れ者の愛梨先輩は会計担当であり、臨時監査で留守だったのだ。
結果、秋風は見事に生徒会分室を突き止めることに成功したらしい。
「それにしても、大勢ね」
「んだよ、問題ねえだろうが」
今この場にいるのは全部で6人。皆でそのまま生徒会の横暴を訴えるのだ。……っていうのが建前で、もちろん向かう先は拠点ではなく分室。僕とちと先輩に秋風、それから安村先輩にマイ先輩。そして最後に大物……
「この度は誠に申し訳ありませんでした……。妹には厳しく言って聞かせますので……」
まさかの能登会長だ。どうやら校内の異変を察した彼は慌てて事態の収拾に乗り出したみたいなのだ。そうして分室に向かう僕たちと鉢合わせした。ちなみに、モモちゃんは祝勝会と称してそのまま各部を遊び回っている。
「いや、まぁ謝ってくれたからそれで良いんだけどさ……よく考えたら、私達もグレーな会計をしてたわけだし……」
マイ先輩も頭が冷えたのか、特に気にはしてないようだ。
「秋風。ここ……なのか?」
「えぇ。ですよね、会長?」
さも盗聴などしていないと言わんばかりに彼女は会長へと話を振った。対面的には、僕たち探偵部に負けて仕方なく……ということらしい。ちょっと苦しい気もするけど、幸い能登会長は細かい所を気にしてないようだった。
「それにしても、僕は甘かった。まさか、そんな泥棒があったなんて」
「能登、お前は聞いてなかったのか?」
「……面目ない」
たどり着いたのは別棟体育館に併設されている部室群だ。元々は体育会系の部活の部室が並んでいたみたいだけど、現在では文化系もそれなりの数が存在しているみたい。探偵部には縁の無い話なので、ここに来たのは初めてだ。
日の当らない最上階にその部屋はあった。元々は部室だったみたいで、他の部屋と同じ倉庫みたいな作りになっている。入り口の扉のガラスは厚紙で覆われていて、中の様子を伺うことは出来ないみたいだ。
「今、鍵を開けるよ。泥棒の犯人は探さないといけないからね、それに分室の件も……そんなに不満があったとは知らなかったんだ。気をつけて……」
「知らなかった? 俺は何度もあんたの妹と話し合ったんだが!?」
「本当にすまない。……でも、妹が譲り渡さなかったのには、理由があるんだよ。それに安村君、君だってこの部屋のことは……」
同時に鍵が開き、僕は真っ先に分室へと入り込んでいた。現場が荒れる前に中を見たかったんだけど……それが失敗だった。
「痛ッッッ!!?」
「フシャァァァァァッッッ!!!!」
「後輩!? 大丈夫か!?」
腕に走る鋭い痛み。
入った僕を出迎えたのは、猫だった。まるでチーターのようにシャープな身体を持ち、人間への激しい敵意を隠そうともしない三毛猫が、自分のねぐらを守ろうと襲いかかってきたのだ。
その鋭い前足の爪は、僅か一瞬の交錯で僕の腕に3本の赤い筋を刻む。
「す、すまない春茅君! こらッ! マイケル! 落ち着くんだ!」
刻まれた線に沿って見る間に血の玉が膨らんでいき、慌てたちと先輩が持っていたハンカチでガードしてくれる。
「……猫? ……確か校舎内での餌付け行為は……」
「そう、禁止なんだよ秋風。でも、この子は事情があって……って、米原近づかないで!」
痛みに微妙に涙目になった僕の目前では、マイケルを抱きかかえた能登会長が撫でようと近づいたマイ先輩を牽制していた。
「この子はどうも人間、というか立浜高校生に虐待されて怪我をしたみたいなんだ。どうにか餌をやる生徒会員には攻撃しなくなったんだけど、それ以外の生徒を見ると未だに襲いかかって引っ掻くんだよ」
「……ってことは……私……撫でられない?」
撫でられません。意外に可愛いものが好きなのか、マイ先輩は微妙に落ち込んでいた。安村先輩がそれをどうでもよさそうに見ている。……これが生徒会が分室を貸したがらなかった理由……なのかな?
「後輩。後できちんと消毒するんだぞ? 変に悪化すると危ないからな?」
「だ、大丈夫ですよ先輩。特に動きに支障とかはないですし」
秋風だけが、鋭い視線で僕とマイケルを見ていた。
気を取り直すように能登会長は続ける。
「それで、ここが生徒会分室だよ。見ての通り中には机と椅子と、段ボール詰めになった資料の他は猫の飼育グッズしかない」
会長の言うとおりだ。分室というよりは資料庫といったところだろうか。金属製のラックが天井付近にまで伸びていて、それぞれの段に所狭しと段ボールや入れ物代わりの缶が並んでいる。よく見れば窓があるようだけど、湿気除けのためか塞がれてしまっていた。
しかし、痒いな……傷口。思わずごしごしとハンカチ越しに擦ってしまった。そう言えば、猫の爪って雑菌まみれなんだっけ?
「そして、この奥の棚に申請のあった追加予算を保管していたんだけど……盗まれてしまったみたいだね」
「鍵は誰が持っているんですか?」
「僕と愛梨だけ……の筈だよ」
……僕たちが来たとき、鍵はかかっていた。予算は缶の中に入っていたから、初見じゃ金目のものとは思わないだろうし、偶然閉め忘れた可能性も低いだろう。そして、その責任は当然鍵を持っていた能登兄妹ってことか。
「……先生とかは持ってたりしないんですか?」
僕は思わず口を挟んでいた。そう。先月の事件の教訓だ。
「無いよ。僕が持ってるのがオリジナルで、愛梨が持ってるのが予備なんだ。その愛梨も鍵は家に置きっ放しにしてたね」
「……でも、鍵がないと開けられませんよね? マスターキーとかは?」
「元々この部室棟の管理は生徒会の仕事だから、先生達も持ってないはずだよ。校舎の鍵とも別扱いだしね。なぁ安村君?」
「あぁ!? 知るかよそんなこと! ……んあ? おい能登。それより、それは何だ?」
空気が変わった。安村先輩は目ざとく何かを見つけていたのだ。それは入り口付近の部屋の隅で、金属製のラックと床の間に転がっていたらしい。微妙に段ボールの影になってるから、気づかなかったんだ。
能登会長がつまみ上げた瞬間、僕は心臓を鷲づかみにされたように震え上がっていた。
「えっ……嘘!? これは……」
「あら? これはこれは……!」
マイ先輩と秋風が別の言葉で驚く中、僕の呼吸は死人のように細くなっていく。だって……だってそれは……
「シャープペンだね……探偵部の刻印の入った」
「……ッッッ!?!?」
間違いない。僕も4月にちと先輩に貰った、探偵部の備品だ。数年前の学祭の時に発注した物で、”立浜高校探偵部”と書いてあるんだから間違いない。……ということは
「おい千歳。お前……自分のは持ってるか?」
「………………ここにある」
6対の視線からちと先輩が解放される。それは良かった。
「おい能登。喜べ、犯人が見つかったぞ」
「……探偵部は2人だけ。ここの分室を生徒会が使い始めたのは4月から。それ以降、探偵部をここに招いたことは無いはずだね」
背筋を冷たい物が走り抜けていき、あまりの嫌な予感に吐き気すら感じそうだ。おかしい。おかしいよ!? 何で!? 何で探偵部のシャープペンがここに!?
いや、待て! もっとマズイのは……
「まさか………………後輩君?」
「…………ま、他にいねえわな」
犯人は……僕ッ!?