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――一方、若村の方はというと……



 1階の厨房の鍵を何ら躊躇いなく開けると、そこには調理台をテーブル代わりに食事をする青年がいた。コック服を着ているので彼がシェフと見て間違いない。


「……だ、誰?!」


 彼の目は恐怖のせいで完全に泳いでいる。


「俺はここのメイド。格好見れば分かるでしょう?」


「……お、男?!……メイドなのに男……?!」


「何?男がメイドやったらいけないわけ?」


「……えっ、オカマ……??」


「オカマじゃねーよ!!」


 若村が僅かにドスの聞いた声を響かせると青年の顔色が青くなる。そして、持っていた箸を落とす。


「あっ、悪い、悪い。食事の邪魔して」


 若村はそう言って、青年に歩み寄り、彼が落とした箸を拾う。青年は今にも泣きそうな顔で若村を見る。


「だ、誰なんだ、お前……」


「人に名前を聞くときは自分から名乗ろうって習わなかったの?……西園寺俊介さん……?」


「……なななな、なんでそれを知ってるんだよ?!」


「なんでってゆうか……君のおばあちゃんに頼まれて……君のこと探してたんだよ」


 青年……西園寺俊介の顔は血の気が引くように更に青さを増し、瞳孔は震えている。彼にとって、それほど祖母の存在が恐怖ということかもしれない。


「さっ、こんなとこに居ないでさっさと帰ろう!」


 そう言って、若村は俊介の腕を掴んだ。


 ――その時だった。



 ――“バンッ”……


 という衝撃音が鳴った。ホテルそのものにも鳴り響いたデカイ音だったが、無線機のイヤホンからもデカイ音が鳴り響いて若村は思わずそれを外した。


「なんなんだ、今の音……」


 耳に残る音をかき消すようにほじり、イヤホンを付け直した、丁度その瞬間だった。


「……うぅっ?!」


 若村の隙をついて彼の後方にまわった俊介は、若村の腕を後ろ手に束ねて、自身の体重をそこにかけた。

 こうなると自然と若村は俊介が食事をしていた調理台に上半身を打ち付けることになる。


「動くな!」


 俊介はそう言って若村の頬に包丁を当てた。


「離せ!」


 若村が抵抗しても、一向に怯まない。しかし、若村としては俊介のことはともかく、一刻も早く蓼科の元へと向かいたかった。


 先程聞こえたのは恐らく“銃声”――だとしたら蓼科が誰かに撃たれた可能性がある。霧島はお部屋でスヤスヤしているはずだから……このホテルには別の誰かがいる? 窮屈な体勢で若村は思慮している。


「悪いけど君には此処で死んでもらう。僕は西園寺家に戻るのは絶対に嫌なんだ――!!」



 俊介の怒号のような悲鳴が辺りを駆け回った――。




[つづく]

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