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第二十一話 失敗は成功の母?

2017 3/12 タイトルを地脈大洞窟から龍脈大洞窟に変更しました。


 ガラテアの愛称テアですが、筆者本人も忘れるぐらい印象が薄かったので無かったことにします。 さ せて下さいお願いします!


 サンプル保管庫と銘打たれた部屋。 その室内には様々な道具や機材の試作品が所狭しと置かれていた。 その一角に鉱石のサンプル、鉱石を精錬、加工された金属板のサンプル品が名称が書かれたラベルの棚に保管されていた。


 僕達は保管されていた鉱石や金属サンプルを漁ってみるもありきたりなものしかありませんでした。


「レーやん、やっぱり目星いもんは無さそうやで……」


 うっ! 工廠なら何かしら使える金属とかあるかもと思ったんですが、そうそうご都合主義は起きませんか……。


「ムスタンさん、サンプルはこれで全部ですか?」


「そうですね……後は失敗例の見本が有りますが。 何なら見てみますか?」


「失敗例?」


「はい、画期的と思われた物でも実際精錬、加工してみれば使えない。 そんな典型的な失敗例の金属サンプルですね」


「それは面白そうな物ですね。 もしかしたらヒントになるような物があるかもしれません」


「分かりました。 失敗例のサンプルはこちらになります」


 ムスタンさんは僕達が今居る場所から奥まった所にある棚に案内してくれる。 失敗例のサンプルが保管されている棚は成功例のサンプルが保管されている棚の2倍以上の大きさだ。


「結構多いんですね」


「それはそうです。 失敗を何百、何千と繰り返して漸く一つの成功例が出来るか出来ないかですから。 失敗例のサンプルは整理してこれでも大分減らした方ですよ」


 ムスタンさんは備え付けの台に上りサンプルを取り出してくれる。


「ああ、それは分かります。 成功に近づくには数え切れない実験が必要ですもんね」


「はい! そうなんです! そうなんですよ~! なのに上の連中ときたらそれを理解せずに一朝一夕で作れとか気軽に言ってくれるものでして、はい! この通り、私の頭はストレスで禿げてしまいましたよ、はい!」


 ムスタンさん、自虐ネタは良いですからサンプルを落とさないで下さいね。


 ムスタンさんが棚から取り出した失敗サンプルを僕とボルさんはそれらを受取り床に順に並べ、それをムスタンさんが解説してくれる。


 こんな失敗例のサンプル、物珍しいけど目ぼしいものは……う~ん、やはりオリハルコンに手を出すしか無いんでしょうか? 悩みどころです……うん? 


 失敗例のサンプルに一つだけ金属だけでなく缶が添えられたものがありました。 今までこんな付属品はありませんでした。 何でしょう、これ?


「ムスタンさん、この缶は何ですか?」


「はい? ……ああ、それは金属補強剤ですね。 塗料のように塗って金属の保護と強度補強をするものでして、はい」


「それ凄く便利そうですね」


 でも、これって失敗作だよね? 何が問題なんだろう?


「ところが乾燥すると皺が寄って塗った金属との間に空間ができてしまうんです、はい……」


「宛が外れたな、レーやん」


 ボルさんは僕がさぞ残念がっていると思ったのでしょう。 しかし、僕はこれに光明を見出したのです。 もしかしたら、これ、まだ改良できる余地があるかも。


「これの主成分は何ですか?」


「え~と、確か……通常のトリネコとトレントの樹液の混合物、それにアダマンタイトです、はい」


「アダマンタイトやて!? ようあんな屑石使こうたな! そんなもん失敗するに決まっとるで!」


 ボルさんが呆れるのも無理はありません。 アダマンタイトとはこの世で最も硬いと言われているんですが、剛性にのみ特化した金属で金槌なんかで叩くとその衝撃があっという間に内部に伝播し蓄積して耐久値を超えてしまい簡単に砕けてしまうんですよね。 もう少し柔性があればオリハルコンの代替素材に成り得たのに。  しかもこれ、オリハルコンとは逆にその辺の山に行けばゴロゴロ転がっているので希少価値なんてありませんし。


「元々は研究員が安価で簡単に素材の強度を高められないかと考察と実験で生まれた産物でして、はい。 私としては良い着眼点だと思いてまして、まだ研究を続けて貰ってます、はい。 ……しかし、上手くいってないのが現状でして、はい……」


 ムスタンさんの話しは最後の方になると尻すぼみになる。


「研究が行き詰まっているのですか?」


「それもありますが……その、噂ではそれ以上に研究員の上司や先輩に研究が邪魔されているとか……」


「要するに、イジメ、ですか……」


「私の口からは何とも……」


 下っ端は何処でも苦労してるんですね。 かく言う僕もその口です。 だからといって、工廠長のムスタンさんやましてや僕なんかが口出しするともっと酷い事態になりかねません。 どうしたものか……。


「そうだ! その人に直接あって研究の事、色々聞きたいのですが可能ですかムスタンさん?」


「あ、はい。 出来ますよ。 今からお呼びしましょうか?」


「お願いします」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 サンプル保管庫から応接室に場所を移し、大理石でできた頑丈そうなテーブルを挟み、革張りのソファーに腰掛けて僕とボルさんは件の研究員さんと対面したのですが――


「まさか、研究員が女性の方とは……」


 しかも僕より少し年上、まだ二十歳にもなってないでしょう。 分厚い丸眼鏡を掛けた薄茶色の長髪を一本に束ねたお下げの少女がオロオロと動揺しています。 何をそんなに動揺しているのでしょう?


「えっと、僕はレーウォン・R・ラズメイル。 隣はレムス職人のボルナレフです。 貴女に伺いたい事が――」


「あ、あのっ! 私、やっぱりクビなんでしょうか! 研究所に入ったばかりとは言え成果が何も出せていないのですから仕方ないのですがでもでもそれには色々と事情があるんです! 研究に必要な素材が中々手に入らないし機材も順番待ちが長くて使えないですしそれにそれに同僚や先輩研究員の方から研究の協力の見返りに身体を要求されたり――」


「落ち着きなさい、マリアン! 別に君をクビにするつもりはないですよ、はい。 ただ、君の研究についてラズメイル様が君に訪ねたい事があるだけです、はい」


 ムスタンさんは捲し立てる彼女の話を強引に切って何とか落ち着かせます。 しかし、そこまでされているのですか。 身分差別や性差別――特に性差別は実力や能力、身分の上下関係なく男性は女性をとかく下に見がちです。 しかしそれでは人類の発展を目指す研究者としては愚かとしか言いようがないですね。


「貴女が研究している塗料型の金属補強材を僕の開発した飛翔型レムスの装甲とフレームに使わせて頂きたいのです。 それで研究がどの程度進んでいるのかお伺いしたくて、ムスタンさんにお願いして貴女をお呼びしていただいたのです。 えっと――マリアンさん?」


 彼女の顔色が瞬く間に青くなり身体が震え、動揺の上に緊張が加わったようです。 どうしたんでしょう?


「ヒッ、ヒイィィィッ! す、すみません! すみません! 私、名前も名乗らずに! あ、あの! 私、マリアンと言います! 去年、帝都のアルスター学院を卒業して頑張って一般枠で帝国の研究機関に就職したんです! 研究について大した成果は出せてませんが、それでも私の分かってる範囲で何でも話します! だから身体だけは堪忍してください!」


「こ、これっ! マリアン! レーウォン様に失礼ですよ!」


 急に悲鳴を上げ、先程よりも尚一層捲し立て怯えて必死に僕に強く訴えるマリアンさん。 ――て、身体って何ですか!? 僕はそんなに好色で女性に餓えているように見えるのでしょうか?


「あの……僕、別に貴女の身体が欲しい訳ではないんですが……。 研究の事さえ教えてくれればそれで……というか、僕、どうして初対面の貴女に其処まで言われなくてはいけないのでしょうか?」


「え? えっと……」


 言い淀む彼女に僕はアストラ魔法学園で覚えた必殺”涙目で訴える”を発動させた。 この技でおねだりしたら教授達、特に女教授は大抵僕のお願いを聞いてくれます。 特にミーシャ先輩やライトハルト先輩には効果絶大だったんですよね!


 僕は両手を軽く握りしめて胸の前に持ってきて、目に涙を溜め瞳を潤ませてマリアンさんを上目遣いで見詰めます。


「!? じ、実は上司や同じ部署の研究員の同僚や先輩からレーウォン様はマナ・クリスタルの莫大な利権を使ってピュセル様や白宝国の沙霧姫様を買ったって話を聞かされて……」


「いい加減にしなさいマリアンッ!! レーウォン様に何という事を言うのですか!! この方はその様なゲスな事をする方ではありません!! とても立派な方なのですよ!!!!」


「す、すみません!! すみません!!」


 僕の必殺技に堪らずマリアンさんは素直に話してくれました。 マリアンさんの話にムスタンさんは本気で僕の為に怒ってくれているようだ。 普段温厚な人が怒ると迫力がありますね。 マリアンさんはムスタンさんの余りの迫力に平謝りです。 それにしても――


「大丈夫ですよ、ムスタンさん。 僕がマリアンさんに話して欲しいとお願いしたんです。 他の人がそう言っただけで別にマリアンさんが言った訳ではないですし。 それに、そんな中傷を一々気にしてたら切りがありません」


 僕は気にしない風を装いながら内心では其奴等いつか痛い目に合わせると心に誓いました。


「で、ですが……分かりましたです、はい……」


 不満そうに返事をするムスタンさん。 それにしてもムスタンさん、他人である僕の為に本気で怒ってくれるなんてとても良い人ですね。 そんな人、ピュセルお姉さんを除けばミーシャ先輩やライトハルト先輩以来です。 正直、嬉しいです。


「この話は此処で終わり。 さて、僕の望みは貴女が行っている研究の進捗と成果の情報です。 ――が、余り進んでおられないようですね? 因みに失敗の改善方法は思い付いるのですか?」


「あ、はい、そのう……」


 いけませんね。 先程の事でマリアンさんが萎縮しています。 どうすれば……


「レーやん、レーやん。 この娘の研究の事ばっかりやのーて報酬の話もしたらなアカンで! 研究者言うんは成果のわりに見返りが少ないもんや。 そういう話でやる気出させたらな!」


 ボルさんが片目を瞑り右手の人差指を左右に振る。 さり気なく僕に助け舟を出してくれているようですが、それ、不自然ですよボルさん。 ですがその意見に感謝です。


「そうですね、ボルさん! すみません、気が付きませんでした! 報酬についてですが、もし今の研究が上手く行ったら僕から金銭の支払いは勿論、今後貴女の研究をバックアップしたいと思っています」


 彼女の能力がどれ程のものか今の僕には分かりませんが、大体の予想は付きます。 一般に公的機関に入る為の試験を受ける場合、”一般枠”と言うのは一般市民である事を示します。 そして、もう一つの富豪や貴族が受けられる”推薦枠”に比べて国の公的機関に就職するには途轍もなく難しく狭き門なのです。 一般市民の場合、相当優秀でなければ国の公的機関に採用なんてされません。 しかも彼女は”アルスター学院”の卒業生。 アルスター学院と言うのはドゥゴール帝国内で一番の名門で各分野のスペシャリストや優秀な騎士を育成し数多く排出しているのです。 そんな彼女が無能な訳がありません。


「えっ!? その話、本当ですか!?」


「勿論です! 僕としてはジェスター皇帝陛下に直訴して貴女を引き抜きたいくらいですよ!」


 などとおべっかを述べて彼女を持ち上げると、彼女が上手く話に喰い付いてくれました。 これで緊張も解れてくれれば良いのですが。


「あの! 実はある程度は失敗に付いて予想は付いているのです! アダマンタイトだけでは乾燥した時、柔軟性に乏しく、また補強した素材に上手く張り付いてくれないのです! それで解決策としましては――」


 自らの研究内容を夢中で話してくれるマリアンさん。 どうやら狙い通り上手く行った様です。


 話を聞きながら何となく彼女の胸に視線が向く。 此処で僕はある事実に気付く。


 デカイ!


 マリアンさんはパッと見、容姿はとても地味なのですが、胸は以外にデカイ。 このデカさは狭霧さんには届かないもののピュセル様は余裕で超えてます。 これだけでも十分な収穫です。 マリアンさん有り難う! 良いものを御持ちですね!


 などとアホな事を考えている途中、もう一つとても重大な問題に気づいた。 僕は直ぐにマリアンさんの話を手で合図して止めます。


「あ、あの?」


 困惑するマリアンさん。 


 ボルさんにマリアンさんが身に付けている着衣の一番上のボタンに向かって指差す。


「? ――っ!?」


「気づきましたか、ボルさん」


 僕は自分の上着のポッケトに手を入れ、折り畳まれた羊皮紙を取り出す。


 それは魔方陣が描かれた巻物(スクロール)。 僕はそれを広げて目の前のテーブルの上に置き、起動させる。


「ふぅ~、これでよしっ、と……」


「どうかされたのですか、ラズメイル様?」


「その嬢ちゃんの実験用の作業服の一番上のボタンに盗聴用の天の属性魔術が付与されとったんや」


「僕もたった今気づいたとこです。 なので上級魔法結界を発動させました。 もう声を出して大丈夫ですよ」


「!? そっ、そんな! 何時の間に! それじゃあ私の今までのって――」


「会話が聞かれていた可能性は高いでしょうね」


「で、では! 我々が先程していた話も全て聞かれているのですね、はい!」


「そういう事です。 マリアンさん、すみませんが調べさせてくれませんか? あ! 脱ぐのはその作業服だけでいいです! 他の服は着たままでも十分調べられますから!」


 マリアンさんは着ている服を下着も含めて脱ぎ始めたのでそれを慌てて制止します。 気持ちは分かりますが男の僕達が居る前でそれは拙いでしょう。 この人、随分な慌てん坊さんですね。


 僕はマリアンさんに不自然な魔力の流れが無いか確認する。 これでも僕は付与魔術は得意なのです。 スキルレベルも極級までげられますから。


 うん、大丈夫。 今身に付けている物で不審な物はありません。


「問題なのはこの服に使われている一番上のこのボタンだけですね。 上手く隠蔽されてますが僕の目は誤魔化せませんよ」


「それにしてもよう気付いたな、レーやん。 こんなんわてでも言われな気付かんで。 しかも前もって

魔法結界のスクロールまで持っとるとは思わんかったわ」


「昔、アストラ魔法学園の生徒だった時に理事長代理だったオルフェイス元皇太子にこの盗聴魔術で何度か僕の研究成果を盗まれた事がありまして。 その時の経験で多少用心深くなったんですよ。 この魔法結界のスクロールも用心の為に持ち歩く様になったんです」


 偉そうに話してますが、実際はマリアンさんの御胸様に目が奪われて偶然見つけたなんて口が裂けても言えません。


「す、凄いです! ラズメイル様……」


「自慢できる事ではないです」


「でもでも、一目でこんな高度に隠蔽された魔術を破るなんて誰にでも出来るものじゃありません! 流石、レムスに革命を(もたら)した天才です!」


 尊敬の眼差しで僕を見詰めるマリアンさん。 僕は堪らず視線を逸らす。


 やめて! そんな純粋な瞳(眼鏡で見えないけど)で見ないで! 僕はそんな人間じゃないんです!


「……レーやんが視線を逸らすのは何か邪な事を心に秘めてる時やけど、今はどうでもええ。 で、これからこの件どうすんねん、レーやん?」


 何時の間に其処まで僕の事を理解したんですかボルさん!? 貴方はピュセル様ですか!? 僕の逆らえない人がどんどん増えていきます……。


 僕はガックリと肩を落としながらマリアンさんの実験用作業服をムスタンさんに渡してお願いする。


「……ムスタンさん、こういう時の為に帝国には公的機関の内部調査を専門とする機関がありますよね? 其処にこれを渡して調べて貰って下さい。 天の系統の属性魔術は便利ですが、属性魔術の中では最も扱いが難しいので使える人は限られます。 ですが盗聴はそれ程遠くまで出来ません。 良くて精々1km圏内です。 犯人は直ぐに特定できるでしょう」


 盗聴距離は短い。 恐らく内部の人間の仕業だろう。


 「はい、そうですね。 そちらにお任せしましょう、はい。 ……所でどうしました、ラズメイル様? お元気が無いようですが……」


「いえ、何でもないです……。 今日は此処までにして詳しい話は明日にしましょう……」


 明日、再び工廠に集まる事を確認して僕達は解散した。


 あれからまたお医者様に見て貰ったのですが、翌日の朝、母方の叔父が心筋梗塞でデイサービスの車の中で急死。 病院に母とともに向かったり、お通夜や葬儀の話し合いで葬儀場に行ったりで忙しくて静養が中々出来ないです。 まあ、こればかりは仕方ないのですが。

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