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第十九話 一夜明けて帝都に到着

遅ればせながら明けましておめでとうございます。 本年も宜しくお付き合いくださいませ。


※タイトルの”王都”を”帝都”に変更しました。

 徹夜明けで太陽の光が眩しい今日この頃。 皆さんどうお過ごしでしょうか?


 僕の乗っていたドゥゴール帝国の飛翔船(マナ・シップ)、軍用輸送船”ワイパー・ベリー号”は精霊竜の襲撃を受け破損した船体を作業員さん達が一生懸命応急修理をしている真っ最中です。


「ぶ~、ぶ~! 濡れちゃったじゃない! 冷たいじゃない! 新しい服買ってよね! ねっ、たらね!」


「「「「……」」」」


 僕達の前には金髪を水で濡らして地面に座り込んだ僕と同じ歳位の少女が僕に向かって文句を垂れたいた。 その光景に僕、ボルさん、ワイバー・ベリー号のゲイル艦長、リーベン副艦長はなんとも言えない顔をする。


「まさか、伝説の精霊竜が人になれるなんて……」


 そう呟いたのは副館長のリーベン副長。


 彼女、”アルメア=トライヴァント”は風と雷の精霊竜”リンドブルム”。 母の仇を追って帝国までやって来たのだ。 其処でワイバー・ベリー号を見つけて”母の敵、覚悟!”と襲撃したのである。 勿論それは誤解……と言いたいところですが、実は彼女の母を倒し亡骸を運び込んで逃げ去ったレムスが乗り込んだ船はどうやら帝国で盗まれた船体みたいなのです。 特徴も彼女の証言と一致していると艦長が話してくれました。


 ちなみに、何故彼女が濡れているかというと、沼に落ちた際に沈んだエンリルの装甲やらワイヤー・アンカーやらの装備をお願い(強制)して拾ってきて貰ったのです。


「で? どうします、ゲイル艦長? 彼女がワイバー・ベリー号を襲撃したという事はドゥゴール帝国に敵対するのと同じ事。 このまま逃がす事は出来ませんよ」


 僕はそうゲイル艦長に進言する。 だって此処まで酷い損害を出しているんです。 許す訳にはいきません。 これはエンリルを大破させられた恨みから言ってる訳ではありませんよ? ええ、決して恨みからではね。 ふふふふふ……。


 それを聞いたアルメア嬢はビックリお目々であたふたと言い訳する。


「ちょ、ちょっと! ちょっとちょっと! わ、私は別にあんたらの国に喧嘩売った訳じゃないわよ! さっきも言ったけど私はお母さんの敵と勘違いしただけだから! わざとじゃないんだからね!」


「と、彼女は言っていますが怪しいですね。 なら、襲撃する前に敵かどうか確認してからでも遅くは無いでしょう? それをしなかったという事は……」


「しなかったという事は?」


 アルメア嬢は僕の言葉を復唱した後、ゴクリと生ツバを飲んだ。 しかし、此処で彼女を可哀想に思ったのかゲイル艦長が助け舟を出す。


「まあまあ、ラズメイル殿。 彼女に痛い目に遭わされて荒れているお気持ちは分かりますが、幸い人的被害も無かった事ですしその位で勘弁してあげて下さい。 それにアルメア嬢に何かしたとあっては帝国内に住む竜達が黙っておりません。 ……もし仮に、黙っているよう部下達に厳命しても人の口に戸は立てられません。 何処から話が漏れるか分かりませんよ?」


 と、意地の悪い顔で僕を諭す艦長。


 むう。 僕の心情はゲイル艦長にバレていましたか。


「分かっていますよ、ゲイル艦長。 ただ、僕も酷い目に遭わされたのです。 意地悪の一つもや二つ言ってもバチは当たらないでしょう?」


「まあ確かに。 しかしアルメア嬢、ラズメイル殿の言葉ではないが君をこのまま見逃す事も出来ないのもまた事実。 我々と 同行願えるかな? 何、悪いようにはしない。 ドゥゴール帝国は竜達と契約を交わし、共に共存する国だかから皇帝陛下もきっと良いように取り計らってくれるさ」


 彼女は怯えながら上目遣いでゲイル艦長に尋ねる。 少々脅しが過ぎたようですね。 僕もまだまだ未熟です。


「本当? ホントに本当?」


「ああ、本当だとも。 さあ、風邪を引くといけない。 身体を拭いて服を乾かそう。 レーベン副長、私の部屋に彼女を案内したまえ。 なあに、私は何時も艦橋にいてあまり艦長室を使わないのだから」


 孫を慈しむ好好爺のような眼差しを向け優しく彼女に語りかけながらレーベン副長に指示を出す。


「分かりました艦長」


 アルメア嬢はレーベン副長に連れられ、ワイパー・ベリー号の中に消えていった。


 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 その後、ワイパー・ベリー号は我々を乗せて一旦池を離れ、別の開けた場所に移動した。


 池の側だと水を目当てに危険な魔獣や魔物が出没しますからね。


 その移動した場所でどうにかワイバーベリー号の応急修理が完了し、出立したのがお昼頃。 大破したエンリルを僕はボルさんと一緒に大急ぎで応急修理しました。 何せ此処はワイバーンの巣のド真ん中。 予めに三騎のレムス”ファーヴニル”を、ワイパー・ベリー号の載せていたとはいえ流石に戦力不足。 その証拠に何度かワイバーンの群れの襲撃に遭い危うい場面も在りました。 エンリルの応急修理が間に合わなければ危なかったですね。


 御陰げでただでさえアルメア嬢との闘いでボロボロだったエンリルが更にボロボロになってしまいました……。


「シクシク………。 僕のエンリルが~。 僕のエンリルがこんなボロボロに~……」


 ワイパー・ベリー号の格納庫の中、満身創痍で横たわる僕の愛騎であるエンリル。


 ワイパー・ベリー号の作業班長はじめ、作業員達が僕のエンリルの修理を手伝ってくれますが、装甲板や内部部品等、資材が無いものや修復・復元部材のシェル・ジェルが不足している為に出来る事が限られてしまいます。


 そんな状態のエンリルを前に地面に両手をついて項垂れている僕。 


 一日前はピカピカに磨かれて新品だった装甲が今や傷だらけで所々脱落している。


「帝都でお披露目する前になんつうか、歴戦の貫禄?がついたやないかレーやん。 それに実戦で運用試験できて、問題点の洗い出しが出来て、次いでにワイバーンの素材が沢山手に入って万々歳やん。 だから元気出しーな」


「そうですとも! ラズメイル様とエンリルの活躍の御陰で精霊竜を撃退して尚且つ襲い来るワイバーンの群れを尽く狩り尽くしてくれた御陰で我々は皆死なずに生き延びる事が出来たんです! 自慢できますよ!」


 必死になって落ち込んだ僕を慰めてくれるボルさんとワイパー・ベリー号の作業員班長さん。 確かにワイバーンの素材は魅力的ですが今の僕には気休めにもなりません。


 輸送船の艦内で出来得る限りの修理を粛々と行う僕。


 ううっ! 今度はっ! 今度はもっと頑丈でドラゴンでも傷つかないレムスを造ってやる!


 僕はそう心に強く誓いを立てた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 あれからは何事もなく無事に帝都に到着したワイパー・ベリー号の乗組員と僕とボルさん。


 帝都の飛翔船(マナ・シップ)専用軍港にてジェスター皇帝陛下、ジェスター皇帝の皇后兼宰相のミスティ様、エリシオン皇太子、ロベルト軍務大臣以下ドゥゴール帝国の重鎮さん達と共に東方大陸にある白宝国の姫であり僕のもう一人の許嫁、白宝 沙霧(ハクホウ サギリ)様が僕達を態々出迎えてくれたのですが。


 後部船体の大穴を修理した後のワイパー・ベリー号や格納庫から搬出されたボロボロの帝国軍用レムスのファーヴニル、ファーブニルより更にボロボロな世界初のレムス、エンリルを見た皆様は唖然となりました。


「……一体何があった?」


 直ぐに立ち直った皇帝陛下が状況確認の説明を求めてきた。 ゲイル艦長が僕を交えて直接皇帝陛下にこれまでの経緯を説明する。


 レーベン副長はゲイル艦長からアルメアを此処に連れてくる様に指示を受けて今この場には居ない。


「恐れながら御説明させて頂きます。 我々はワイバーンの巣がある領域の上空にて伝承に語り継がれる精霊竜リンドブルムの子竜と遭遇、襲撃を受けました」


「はあ? 精霊竜? あ、いや、報告を続けてくれ」


 皇帝陛下は眉間に皺を寄せて素っ頓狂な声を上げた。 だが、取り敢えず話は報告を受けた後、と判断したのだろう。 ゲイル艦長に訝しみながらも報告の続きを促す。


 「しかしながらその子竜、帝国の建造途中であったマナ・シップを強奪した賊が子竜の母親を狩る際に使用したようで、我々をその賊と勘違いし襲撃した模様です。 その子竜の襲撃をラズメイル殿が開発なされた飛翔騎を自ら操縦し身を挺して子竜の暴走をお止めになられました。 その後、ワイバーンの領域近くに不時着したワイパー・ベリー号は応急修理を行い、その間、ラズメイル殿が我が軍のファーヴニルと共に護衛を買って下され襲ってきたワイバーンは全て返り討ちなされました。 御陰で人的被害はゼロ。 倒したワイバーンは全て回収してあります。 それでその肝心の精霊竜リンドブルムなのですが」


「逃したのか? まあ、逃げられても仕方のない相手だが……」


 逃げられていたら精霊竜と証明しようがなっかでしょう。 全てが嘘とも言えないが本当とも言えない。それではゲイル艦長や僕は周りから疑われていたでしょうね。


「いいえ、御同行願いワイパー・ベリー号で我々と共にこの帝都に来ております。 何せ伝承の精霊竜が相手ですので我々では判断がつきかねます」


「そうだろうな」


「ですが陛下」


「ん?」


「今回の事はマナ・シップを強奪された我々帝国にも否が無いとは申せません。 ですから――」


 其処でロンベルト軍務大臣が横からゲイル艦長に厳しい叱責の声を上げた。


「貴様! 陛下の御前だぞ! 口を慎め!」


 大臣にとって部下の部下、そのまた部下が生意気にも陛下に対して意見を述べたのだ。 見過ごす訳にはいかなかったんだろう。 しかし、陛下は大臣を手で制し、宰相がまあまあと大臣を宥める。


「いい。 許す。 で?」


「今回の事はお互いの誤解により生じた不幸な事故、と将官は愚行いたします。 ですので精霊竜には何卒寛大な処置をお願い致します」


「分かっている。 相手が相手だ。 精霊竜リンドブルムとやらに無体な事をすれば帝国に住む竜共が黙っていないだろう。 奴等にとって精霊竜は王にも等しい存在だ。 だからと言ってこっちも舐められる訳にもいかん。 まあ、帝国が保護したとか何とか言って精々奴等に恩を売っておく材料に使うだけだな」


「そうですか」


 ホッとした様子のゲイル艦長。 この人、きっと孫とかいたら甘やかすだろうな。 とか思っていたら、丁度レーベン副艦長がアルメア嬢を連れて来た。


 人の姿では流石に精霊竜とは分からないだろうと思ったのですが、ジェスター皇帝陛下達は彼女が竜である事を一目で見抜きました。


 何故だろうと僕が首を傾げているとエリシオン皇太子が僕に耳打ちして”竜が人に化ける時、瞳は竜眼のままなんだよ”と教えてくれました。


 アルメア嬢の眼を良く見ると、確かに瞳が縦長の竜眼になってました。 それにしても精霊竜だけでなく他の竜も人になれるんですね。 びっくりです。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 僕は今、謁見の間にて皇帝陛下と対面しています。


 アルメア嬢は宰相のミスティ皇后に愛らしいぬいぐるみを堪能する様に抱きしめられています。 アルメア嬢は困惑していますが満更でもない様子。


 ミスティ様に可愛いです!可愛いです!と、頬ずりまでされてますね。


 随分と気に入られた様です。


 それよりもジェスター皇帝陛下から大事な話があるからと謁見の間に沙霧様と一緒に連れて来られたのですが一体どんな話なんでしょう?


「実はいい話と悪い話、もっと悪い話の三つあるんだが――どれから聞きたい?」


 何ですかそれは。 いい話より悪い話の方が際立ってますよ。 この感じだとどうせどれも碌な話じゃないでしょうね。


 「じゃあ、いい話からお願いします」


 僕は少しでもマシであろういい話から聞くことにしました。 だって、悪い話を聞くには心の準備が欲しいですもん。


「中央大陸探索が3ヶ月延期になった。 今の準備期間も合わせると半年後だな」


「それは助かります。 でも何故ですか?」


 エンリルがあんな状態です。 修復・復元部材のシェル・ジェルを使っても修理には限界があります。 正直、レムス・コア以外殆ど一から作り直しになるでしょう。 改善するべきところも多々あります。 そうなると現在の三ヶ月ではとても間に合いません。 でも、後三ヶ月期間があれば十分間に合います。


 これは渡りに船。 僕の思う様に事が進行してくれ易くなるスキル《大戦略》さんが仕事をしてくれたようです。


 ありがとう! 《大戦略》さん!


「で、悪い話だが……これは沙霧姫から説明した方がいいだろう」


 ジェスター皇帝陛下から水を向けられた沙霧姫が頷き僕に説明してくれる。


「実は、探索に使用するマナ・シップに載せる筈だった魔導砲を建造する技師長が何者かに拉致され、その上魔導砲の設計図やその他の資料の一切合財も奪われたんだ。 厳重な警護、警備体制が敷かれていたにもかかわらず、ね。 直ぐに捜索したんだけれど、賊は既に国外に逃亡した後だった。 しかも逃亡の際に使用されたのはどうや帝国から盗まれた最新鋭のマナ・シップの様だね。 これは目撃者の証言と盗まれたマナ・シップの特徴と合致しているからほぼ間違いないだろう。 引き続き捜索は続けているが、探し出すのは容易じゃない。 ただ、幸いな事に他の技師達は無事だったので時間は掛かるが完成させる事は可能なので、私が報告がてら探索期間の延長の相談に来たわけだ」


「白宝国でもそんな事が……。 と、いう事はステラテス神教国の妨害ですか?」


「まあ、そうだろうね。 ただ、まだ何を企んでいるか判明していない。 今は足元を掬われない様に気を付けるしかないね」


 ステラテス神教国。 一体どんな人達が暗躍してるんでしょう。 正直、これ以上の面倒事は御免なんですが。


 残るはもっと悪い話です。 僕的にはもうお腹一杯です。 勘弁してもらえないでしょうか? 無理ですよねえ~。  


「さてレーウォン、最後にもっと悪い話だ。 お前の故国ラージック王国の元皇太子オルフェイス・K・ラインバッハが幽閉先から姿を眩まし現在行方不明中だ。 関係者の話ではオルフェイスは以前からステラテス神教国の信者達と懇意にしていて国教であるソート教を廃止してステラテス教を新たな国教に制定しようと動いていたようだ。 脱走の手引もステラテス教の信者が絡んでいるらしい」


 げっ! オルフェウス様逃げたのかっ! 何してたんですか現皇太子さまは!


 ちなみにソート教をと言うのは僕達の世界にレムスの技術なんかを教えてくれた異世界の神様を信仰している宗教で僕やピュセルお姉さん達ドゥゴール帝国の人は勿論、十文字大陸に住む大抵の人が信者で信仰してます。


「……復讐に来ますかね?」


「来るんじゃね? アイツ、相当しつこい上に根に持つからな。 ピュセルの婚約の申し出を俺がその都度蹴ってたんだがそのうち恨まれるようになったもん、俺」


「恨まれたんですか?」


「おう! 恨まれた、恨まれた! 式典とか公式行事で偶に会った時には流石に表立って恨み言を言わねえが俺を見る目に殺気が思いっ切り篭ってたぜ! いやあ~、そのうち襲ってくるかな~とか思って楽しみにしてたんだがな!」


愉快そうに笑う皇帝陛下。 僕には笑い事でじゃないんですよ!


「だからお前も気いつけろ。 ああいう手合は何してくるか分からんからな」


「はい。 肝に銘じておきます」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ジェスター皇帝陛下との話を終えた僕は沙霧姫と一緒にエリシオン皇太子昼食に招かれました。


 一国の皇太子となると食事も豪華――という訳でもなく、メニューはパンとコンソメのスープ、メインにはほのかに香るガーリックが食欲をそそる柔らかなポークソテーのキノコソース掛けです。 まあ、これでも一般の家庭に比べれば十分に贅沢なのですが。


 昼食の後、食後の紅茶を楽しみながら探索船の建造の進捗情報を話してくれました。


「レーウォン、君が提案してくれたアイデアの御陰で随分工期が短縮できたよ! ありがとう!」


「職人さん達から不満は出ませんでしたか?」


「其処は賃金の割増と偶の酒の差し入れで対応出来たよ。 職人にはドワーフが多いからね。 だから皆張り切って仕事をしてくれたんだ。 部品の一部規格化についても職人ギルドが興味を持ってくれてね。 取り急ぎ仕事に余裕がある外の工房に部品の注文を出す事が出来たんだ。 その御陰で仕事量が大分減って仕事の効率が上がって助かってるよ」


「それは良かったです」


 僕が皇太子に提案したのは職人さん達を昼夜交替で仕事をし休みを取る事と一部の部品を外注に出す事。


 ただし、これらは難しいと僕は思っていたんですけど。


 職人さんは残業や休日仕事は余程の事がない限りやりません。 仕事をする時にはちゃんと仕事して休む時にはキッチリ休む。 残業や休日仕事をするのは未熟者の証。 しかもその分の賃金の支払いはされないのが一般的です。 故に職人さん達は”賃金分の仕事は熟すがそれ以上はやんないよー”と言う姿勢を貫きます。 ましてや夜に仕事をするなど以ての外。 彼等にとって夜は体を休め英気を養い翌日の仕事に備える時間なのです。


 もう一つは部品の一部を外の工房に仕事を出す事。 部品は全て工房が一から独自の規格を決めて作ります。 でもそれでは物作りに時間が掛かり過ぎると僕は以前から思っていたんです。 なら、良く使われる部品――例えばネジを大きさ、形、材質等の規格を工房ごとに独自に決めるのではなく、全ての工房で統一します。 そうすれば一定の品質は保たれ量産も容易になります。 コストは少し掛かるけど時間はかなり短縮出来ますからね。


しかし、職人さん達は自分の仕事に他所様の手が入る事を嫌がります。 専門外の仕事の工程を専門職に委託する事はあっても同じ同業者の力は極力借ない。 それが職人としての自負であり信条だからです。 それに工房同士、もしくは職人が所属する職人ギルドで既得権益の保護が複雑に絡み合い新しい試みが中々出来ないというのもありますね。


 今回は上手くいったようですがこういう事はまれなのです。


 これも僕の《大戦略》さんの御力が働いたのかもしれませんね。


 などと考えているとエリシオン皇太子に代わって今度は沙霧姫が僕に話し掛けてきた。


「そういえばサー・ルディンを打ち破ったアスマという才気溢れる騎士は一緒じゃないのかい?」


「色々あって今回はローゼン・クロイツに残って貰いました」


 アスマさんはその一件でサー・ルディンを崇敬する騎士達の間では評判があまり良くない。 それ故帝都に来るには問題があるのとローゼン・クロイツ領では魔獣対策で専用のレムス”ファーヴニル零式”を所有するアスマさんを鍛える名目で領主であるピュセルお姉さんが扱き使ってます。


「そうか、それは少し残念だね」


「沙霧様は暫く帝都に?」


「むう? レーウォン、私は仮にも貴方の婚約者だよ? 様は止して欲しいな。 それに此処は公式の場じゃない。 ピュセルみたいにもっと親しみを込めて欲しい。 でないと寂しいぞ……」


 唇を尖らせ、拗ねてみせる沙霧姫。 僕より年上で普段は凛とした佇まいなのに今は僕から見てもとても可愛らしい。


 僕は自然顔がほころんでしまいました。


「では、狭霧さん――では、駄目ですか? 」


 流石にまだ婚約したばかりですし、呼び捨てはハードルが高すぎる。 これで勘弁してもらいたいです。


「沙霧、さん。 うん! 今までそう呼ばれた事がないからとても新鮮だ! それでいいよ!」


「ふふふ。 良かったですね、沙霧姫」


「はい! エリシオン様!」


 沙霧様――もとい、沙霧さんはとても喜んでくれ、僕やエリシオン様に素敵な笑顔を見せてくれれました。


アメリア嬢はヒロインではないですよ? あしからず。

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