第十六話 エンカウント
PCのWindowsXPの調子が本格的に悪くなってきたので急遽7にアップグレードしました。
本来ならPC自体新しいモノに替えるつもりでしたが時間と置き場所がないので諦めました。
それでも今は快適です。
輸送艦ワイバーベリー号の貨物室内――
幌を取り去り仰向けにして寝かせた状態のエンリルに乗り込み、艦長以下見物人が居る中で起動試験を行います。
サポートはボルさんに――僕がダンジョン・コアから即興で作り出したレムス・コアのガラテアです。
ガラテアは意思を持ち何故か喋ることができます。 それにこれは後から知ったのですがガラテアは必要な機能を拡張、回路を形成するかと思えば不要になった回路を消し去ることが出来る。
つまり回路の書き換えが可能だというのですからびっくりです。
現在のマナ・クリスタルを元にしたレムス・コアでは不可能なのですから。
これはやはりダンジョン・コアという特殊な素材を使ったためでしょう。
実に興味深い。 今後の研究課題に加えておきましょう。
ガラテアをエンリルのレムス・コアと繋げて異常がないか確認してもらいながら作業を進めます。
『親父殿、今の処問題はない。 やはり実際に動かしてみないとわからないな』
ガラテアの意見に首肯しながら。
「ということは、今の処起動には問題無いということですね?」
ガラテアに確認を取ります。
「普通に動かす文には問題ないぞ。 ただ空を飛んだことがないから私もそちらは分からないな」
「まあ、其処は工廠に着いてからじっくり試験すれば良いのですよ」
操縦席近くで足音が近づいて来るのが聞こえる。
この足音はボルさんですね。
「どや、問題無いか?」
「起動には問題ありません。 今までのレムス同様に動かすには問題はないようです。 やはり騎体を飛ばして見なことには分かりませんね」
「まあ、それだけでも大したもんやけどな。 普通は背部にユニットを増設しただけで不具合出まくりやで」
僕は苦笑いして。
「確かに。 あのエラー探しはキツイですからね。 ヘタしたら一つ潰せば三つに増えたりしてたまったものではないですよ。 あ、起動試験は終了したんで片付けましょうか」
「そやな。 ……すんませ~ん! この騎体に幌被せるんで手伝おて貰えますかあ」
ボルさんはエンリルの回りで見学している作業員の人達に声を掛け、エンリルに幌を被せるのを手伝ってもらう。
僕は操縦席から這い出てて起動試験を見守っていたこの艦ワイバーベリー号の艦長と副長の下に行く。
「どうやら問題は無さそうですな。 しかし、遂にレムスも空を飛ぶ時代が来るのですな。 いやはや、実に楽しみです!」
「ただ昔に戻るだけとも言えますけどね。 何せ遥か昔はレムスが飛び回っていた時代ですから」
「しかし、我らは皆その時代に生きていた訳ではないので知りません。 我らにとって今、生きている時が新しき時代になるのですから」
艦長は興奮気味にそう言いますが僕にはそうなのか良く分かりません。
何せ僕は作りたいレムスを考えただけですから。
「そう言えば今回、エンリルの輸送にあたって遠回りするのはやはり例の勇者を警戒しての事なのですか?」
僕の質問にゲイル艦長は隣に居たリーベン副長に視線を向けて頷き、副長がその意を受けて代わりに答えてくれる。
「そうです。 レーウォン殿の仰られる通り万が一にも破壊、ましてや強奪されては帝国の威信に関わります。 それだけならまだしも、もしも強奪された後、騎体から技術を抜き取りそれを利用され周辺国にもその技術が伝わってしまえば我ら帝国は政治、経済、軍事等ありとあらゆる面での優位性を失います。 それだけは何としてでも防がねばなりません。 そのために今回は万全を期して囮の輸送艦を三隻用意し、それをそれぞれ別ルートで航行させています。 流石にこれ以上詳しい内容は軍事機密ですので話せませんが」
申し訳無さそうに言うリーベン副長。
「構いません。 それに無事に帝都まで送り届けてくださる為の処置に対して感謝こそすれ不満を言えば罰が当たります」
「そう言って頂けると有難いです」
僕はゲイル艦長達に今後のスケジュールを確認後、後から合流したボルさんと昼食を取る事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜、二十時過ぎ――
夕食を摂り終えた僕とボルさんは割り当てられた部屋で寛いでいた。
普段なら自分で作った肴で火酒を手酌で飲んでいるボルさんは仕事関連の移動期間中は非常時に備えて禁酒します。
これがそこいら辺の普通のドワーフなら例え仕事中であってもお酒は欠かしません。 もしも彼らドワーフに禁酒なんぞ強要したらそれこそ暴動に発展します。
それくらいドワーフにとって酒はなくてはならないものなんですね。
そんなドワーフの中でもボルさんは変わり種でとても真面目です。
今は代わりに酒と同じくらい好きな煙草を専用のパイプでふかして楽しんでいます。
一方、僕は窓から外の夜景を楽しんでます。
上空から遥か眼下に見える地上の景色を眺めて只々感動するばかり。
昼や夕方に見た景色はとはまた違う顔を見せる地上。
夜闇の中、星の僅かな光に照らせれて時折蠢く巨大な何か。
好奇心を掻き立てられますね。
覚醒法昼は昼で初めて見る地上の景色に目を奪われました。
場所によっては雨と晴れの境目が見られる珍しい現象。
日が沈む夕暮れ時には太陽が徐々に地平線の向こう側に沈んでいく。
茜色から徐々に青さをましてやがて夜が訪れる。
不気味で、不思議で、それでいて神秘的な地上堪能世界。
普通に暮らしていては経験できないとても貴重な体験。
僕はこの感動を生涯忘れることはないでしょう。
ああ、そういえばそろそろワイバーンの生息域に突入する時間ですね。
ワイバーンは昼行性なんで今は寝床でぐっすり熟睡中です。
まあ、ワイバーンが飛んでてもこのワイバーベリー号の高度300mには上がってこれません。
安心ですね!
ゾクッ!
「はひゅうん!」
突然、僕の背筋が冷たいもので撫でられたような嫌な感覚に襲われました。
「うわっ! どうした、レーやん。 変な声出して」
僕の奇妙な悲鳴に驚いてパイプを取り落とすボルさん。
「いや……、なんだか急に悪寒に襲われて……」
「風邪でも引いたか? 最近、忙しかったからなあ。 はよ休んだほうが良いでレーやん」
「そうさせてもらいます……」
僕はボルさんの言葉に素直に従い備え付けのベッドに潜り込む。
やはり今までの疲れもあったのか直ぐに睡魔が襲い、僕の意識は深い眠りへと落ちていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二十数分後――
輸送艦ワイバーベリー号の艦内全域い非常事態を知らせる警報音が鳴り響く。
その音に僕は深い眠りから覚醒する。
正直、まだ眠い。 全然寝足りない。
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる。
「一体なんなんですか~?」
僕の問いかけにボルさんが答えてくれます。
「正体不明のなんチャラが急速接近中とか何とか言うとったで」
「正体不明~?」
いけない。 僕、まだ寝ぼけてます。
しかし、はて? こんな高度で空を飛ぶものなんて何かありましたかね?
正直、僕には思いありません。
「とりあえず艦橋に行って艦長に尋ねてみましょう。 状況が分からないとどうしようもありませんから」
「分かった。 ……その前にレーヤん、これでも噛んで眠気覚まし」
そう言ってボルさんが僕に錠剤を三粒渡してきました。
「何ですか? これ」
「眠気覚ましのタブレットや! これ噛んでみ? 一発で目が覚めるで」
ボルさんにお礼を言いタブレットを口の中に放り込み噛み砕く。
瞬間――まるでブリザードが発生し吹き荒れる様な感覚の刺激が口内を蹂躙します。
「あひょん!?」
「アハハ、びっくりして目が覚めたやろ? わてもそれ、初めて口にした時はびっくりしたで!」
口内を蹂躙した刺激が収まる頃には爽やかで優しいミントの清涼感に包まれます。
規程の刺激が安らかな眠りを許さない厳冬期ならば今は暖かな南風が優しく頬撫でる麗らかな春。
二段構えの覚醒法で眠気スッキリ!
おお! これは良い物だ! 後でボルさんに購入先を聞いておこう!
そう心に決めて僕達は艦橋――ブリッジに向かいました。
ブリッジ内――
ブリッジに向かう途中、鑑が急加速して体を激しく揺さぶら れるもなんとか無事に辿りつけました。
ブリッジでは周辺状況を観察する観測員らしき船員が大声を張り上げ、艦長や副長と慌ただしくやり取りをしています。
「駄目です! 謎の発光体、艦の後方に張り付いて振り切れません! しかも先程より速度を上げています!」
「発光体のものと思われる高密度の魔力検知! 尚も増大中!」
……何かとんでもない自体になってますねえ。
正直、聞きたくないけど艦長――は艦の指揮で忙しそうなのでリーベン副長に何があったかを思い切って尋ねてみましょう。
「我々にも分かりません。 ワイバーンの生息域に侵入して三十分――つい先程です。 突如我が艦の後方約1kmの地点に魔力によるものと思われる光輝く謎の発光体が出現しました。 今、我が艦はその謎の発光体に追尾されています」
「その発光体? 正体は分からんのですか?」
ボルさんが当然の疑問を副長に尋ねる。
「魔力光が強すぎて判別が出来ないのです。 ……ただ、竜種の魔力に質が近いようです」
「ドラゴン!? 此処ってドラゴンも居るんですか!?」
僕の問にレーベン副長は頭を振る。
「いいえ、いない筈です。 此処は竜達の生息域から離れていますし、帝国に住まう竜達とはドゥゴール帝国建国時、初代皇帝が竜達と自ら平和協定を結んでいます。 なので純血の竜種は人を襲わないんです」
「純血? じゃあ、もしかして後ろの奴って、亜種の方では?」
竜の亜種は凶暴で知能が低く、本能のまま生きているので人の言うことなんて聞きません。 生き物を見かけたらとりあえず襲って喰う。 それが奴ら竜の亜種です。
ちなみにワイバーンも竜の亜種です。
あ、でも、竜の亜種って体は頑丈で筋肉は異常に発達してるけどその反面、魔力が低いもしくは無いのが一般的なんですが。
まあ、何事も例外はありますけどね。
「可能性はあります。 ただ先程も申しました通り、姿形が確認できないので断定は出来ません。 が、しかし、もし亜種ならばこの魔力の高さと量。 厄介極まりないですね……」
レーベン副長、奇譚のない意見を有り難うございます。
……相手が竜の亜種と仮定するなら話し合いの余地なし。 と、なると問答無用で襲われますね。
これは万が一に備えてエンリルの起動準備をしておいた方が良さそうです。
一話で完結させたかったのですが文章量が多くなったので分けます。
次回は主人公がレムスでの初戦闘です。