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第十五話 風の神エンリル

 すいません! ネトゲに夢中で更新が遅れてしまいました!

「――と、言う訳で僕のレムスの建造に早速取り掛かってくれますか? ボルさん」


 僕はローゼンクロイツ辺境領に戻るとピュセル様とボルさんに事情を説明し、直ぐ様ボルさんの工房で僕専用のレムスの建造に取り掛かってもらうようお願いしました。


「道具も素材も丁度揃たし、それは構わんけどな。 しかし、えらいこっちゃなあ。 中央大陸の調査かあ……。 あそこ南暗黒大陸程やあないけど、相当危ないらしいからなあ。 分かった! ほんじゃあ一丁、今からでも直ぐに作業に取り掛かるわ!」


「有難うございます! ボルさん!」


 ボルさんは僕の無茶な要求に快く引き受けてくれました。


「ほんじゃあ、わいの方はレーウの装備の作製に取り掛かるわ!」


 ムーロも僕の頼んだ長杖や防具作りに取り掛かってくれるようです。


 その間にムーナにはレムス・コア、フライト・ユニット・コアの魔法回路の仕組みを詳しく解説しながら、時間の合間に僕の杖に仕込む魔法回路をマナ・クリスタルに書き込んでそれをムーロに渡しておきます。


 ちなみにアスマさんには皇都レインジュエルでの人事異動の手続きとファーヴニルの試作騎――ファーヴニル零式のアーマーの改良及び換装完了次第、トネリコ・トレントの樹液を持って此方に向かうよう頼んでおきました。


 事前に皇帝陛下にお願いしてトネリコ・トレントの樹液を工廠から分けてもらい、その(つい)でにファーヴニル零式をアスマさんに支給してくれました。


 ファーヴニル零式の性能と装備は以下の通りです。


 ◆騎体名 ファーヴニル零式


 標準級

 陸上型


 動出力 上級

 機動力 上級

 耐久力 上級

 持久力 上級

 操作性 上級

 索  敵 上級


 武装 右手 ロング・ソード《片手持ち・中級》

     左手 ナイト・シールド《片手持ち・中級》


 積載重量 x8

     ショート・ソード《片手持ち・中級》

     ランス《片手持ち・中級》

     クロス・ボウ《片手持ち・中級》

     クォレル《10本セット》 x3


 此処までハイレベルなレムスは十字大陸群の中でもドゥゴール帝国内でしか存在しないでしょう。

 ただし量産騎では持久力――レムスの稼働時間はマナ・クリスタルを零式よりも一回り小さい物を使いコストを抑えるので一段性能が低くなり、その分どうしても稼働時間は短くなりますが。ですがそれでも二十四時間連続稼働――丸一日動き回れるのですから十分でしょう。


 ちなみに零式の連続稼働時間は計算上百六十八時間――約七日――一週間動き回れる計算です。


 そして世代交代し無用の長物と成った旧式のシュバルツはアーマーを取り外して回収し、鋳潰して再び新しいアーマーに生まれ変わり新式のファーブニルに取り付けられ、装甲を外して素体状態のシュバルツは民間に格安で払い下げられます。


 本来ならシュバルツのジェム・スライムやフレーム、高価なマナ・クリスタル製のレムス・コアも分別してリサイクルしたい処なのですが解体費用が嵩む為それなら素体の状態で売り出せば解体せずに済み、民間のインフラ整備等に役に立つ上にお金まで手に入り一石三鳥です。


 僕は試作としてシュバルツのパーツを流用しましたが自作のパーツも多数在る上、その中にはシュバルツの部品と自作した部品を一つの部品として一体成型した方が時間もコストも掛からずに済むものも在ります。 要は”新規に建造した方が色々お得”と言う理由(わけ)なのです。


 魔石の粉末はオーガ・キングさんから採取したものを使います。 何せ高純度の魔石ですからね。 使わない手はないですし、良質のジェム・スライムが作れますから。


 「しっかし、わての工房で手掛ける初めての仕事が古の飛翔騎体と言うのは萌えるわ! そうなるとこの工房も箔がつくでえ!!」


 ボルさん……”燃える”じゃなくて”萌える”なんですね……。 はしゃぐボルさんを横目に見ながら僕は騎体の構造に問題が無いか確認していきます。


 「でも飛翔騎体の技術は一応帝国のトップシークレットなんで皇帝陛下の許可無く持ち出す事は出来ないですからね。 例外的に沙霧姫の弟君であり白宝国の君主である青海(せいかい)国王陛下に結納品代わりに収める飛翔騎体でもレムス・コアをブラックボックス化して引き渡しますから。 ピュセル様の兄君であられるエリシオン皇太子と白宝国の第一王女で沙霧姫と青海国王陛下の姉君の麗羽(くれは)姫との婚礼の際にエリシオン様専用にと贈られた水陸両用のレムス”レヴィアタン”もコアはブラックボックス化されてましたから」


 今の処水陸両用レムスを建造可能な技術を持つ国は白宝国だけです。

 でも、レヴィアタンのコアの回路図と仕組み――なんとなく予想はついてるんですが。


 「ああ、そう言えばそっちの建造もせなあかんのやな。 ……仕様はどうする?」


 「そうですね……時間もないことですし今建造している僕の騎体と基本設計は同じにしましょう。 ただし、アーマーは騎体性能に問題が生じない形状で大国の君主に相応しい意匠を施して差別化すると言う事で」


 「う~ん……装甲の装飾かあ……。 白宝国の事はわて分からんからピュセル様と要相談やな」


 「其処は御二人にお任せします。 僕は調査隊メンバーと中央大陸への航路の選定や調査に必要な機材やら物資やらの調達を相談しなくてはならないので。 でも先ずは騎体が問題なく稼働するかの検査です。 幸い皇帝陛下より検査に必要な場所と機材の使用許可――レムス工廠の検査場を借り受けて検査を行いそれにオブザーバーとして飛翔船(マナ・シップ)のベテラン職人さんを派遣してもらいアイデアや問題点といった意見を出してもらえるようして下さいましたからね」


 問題点の洗い出しは絶対に必要なことですからね。 其処にベテラン職人さんの意見を元に改良すれば大抵の事故は未然に防げるものです。


 「それなら白宝国の王さんの献上レムスもその検査結果を元にすればスムーズに建造できるわな」


 などと話をしていると僕達の居る工房内の作業場にピュセル様が遣ってきました。

 珍しいことに何処か強張った顔付きをしています。 何かあったのでしょうか?


 「レーウ君切りの良い所で作業を終了して下さい。 城より皇帝陛下の使者が屋敷に来ていて私とレーウ君に大事な話があるというのです」




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「やあ!元気かい? レーウ君。 私はちょっと疲れたよ。 ハハ……」


 屋敷に戻ると”皇帝陛下の使者”としてジェスター皇帝陛下の息子にしてピュセル様の兄君であられるエリシオン皇太子様が来ていることに度肝を抜かれました。


「エリシオン様!? 何で此処に居るんですか!」


「んん? レーウ君、私の事は義兄さんと呼んでくれて構わないんだよ? 何せ君は我が妹ピュセルの正式な婚約者でいずれ婚姻を結ぶのだから。 それに私も君のような義弟ができてとても嬉しい。 ささあ! 遠慮せずに呼んで下さい! 義兄さんと!」


 エリシオン様は凄腕のライダーであり優秀な政治・経済学の専門家でもある温厚でマイペースな人です。 マイペース過ぎて時々周りの人達からうざがられているようですが……ピュセル様から聞いた通りの人ですね。


「兄様。 あまりそのようなことをしつこく言うとレーウ君が引きますよ。 それより何があったのですか? 皇太子であられる兄様が態々父様の使者としてやってくるなんて」


 神妙な面持ちで話すピュセル様。


「いやね、ちょっと――ほんのちょっとなんだよ? 問題が起こってね。 レーウ君に可及的速やかにその問題の対処に関して助言が欲しくて取り急ぎ私が父上に命じられてマナ・シップで飛んで来たんだよ」


 エリシオン様、最後に言った冗談にはツッコまないんでドヤ顔は止めて下さい。


 しかし、何だかとっても嫌な予感がしますね。 色々と。

 エリシオン様が乾いた喉を潤す為にお茶を一口飲んだ後、ため息混じりに話し始めました。

 そして僕のその予感は見事的中しました。


「実は五日前、最新型のマナ・シップが盗まれてね。 それもレーウ君達が探索に使用する筈だった船が、ね……」


「いやいや! それ、ちょっと処の問題じゃあないですから!」


 皇太子様のボケに思わずツッコんでしまいました。 これ、公式の場でやったら不敬罪だからね?


 今回の探索は白宝国との合同で行われます。 役割分担としてまずウチが船の手配をする。 当然、周辺大陸でもドゥゴール帝国でしかマナ・シップは建造されていないので当然といえば当然ですが。

 厄介なことにウチの役割であるその船が盗まれただなんてドゥゴール帝国の沽券に関わる一大事です。


「そもそも、誰が何の目的で船を盗んだのかまだわかっていないのですよね?」


「いや、それは直ぐに判明したよ。 侵入した賊の一人を捕らえることが出来てね。 その賊の人相から北限大陸の出身者で先ず間違いない。 ……そして 此処からは内密だよ? その賊を尋問して得た証言からなんとその賊の中にステラテス神教国が召喚した勇者がいたのだよ。 どうやらステラテス神教国がウチと白宝国合同の中央大陸調査隊の話を聞きつけてそれの妨害工作としてマナ・シップを盗みだしたらしい」


 皇帝陛下から聞かされた件の宗教国家ですか。 まさか妨害行動を起こすとは思いませんでしたよ。 となると益々中央大陸に何かありそうですね。 怪しいですね。


 僕が考え事をしている間にピュセル様がエリシオン様に尋ねます。


「盗まれたマナ・シップの追跡は行ったのでしょう? なら直ぐにでも追いつくのでは? マナ・シップの飛行速度はともかく航続距離には限界がある筈。 ましてや新造仕立ての船。 

それ程長く飛行できるマナ・クリスタルは積んでいなかった筈です」


 そのピュセル様の問いにエリシオン様からとんでもない答えが帰ってきました。


「そもそも盗まれた当時、マナ・シップにはマナ・クリスタルは積まれていなかった。 侵入に気づいた衛兵が逸早く知らせたものだからそんな暇は無かった筈だよ。 現に船の横に置いてあった専用の大型マナ・クリスタルは手付かずで放置されていた。 だから飛ぶ筈がないのだけれど――追跡に当たった船の艦長によると物凄いスピードで此方の追跡をあっという間に振り切ってみせたそうだよ。 レーウ君はこの謎が解けるかい?」


 僕は首を横に振ります。


「情報が足りないので何とも言えませんが、もしかしたらステラテスになら巨大マナ・クリスタルを必要としない技術があるのかもしれません」


「そうか……我が国の専門家と同じ意見だよ」


 マナ・シップともなると動かすのにマナ・クリスタルは優に3x3x3m以上の大きさの物が必要になります。 それなくしてどうやって動かしたのか謎です。


「それで解決してもらいたい問題って何ですか?」


 正直、予想はできるけどそれは無茶というものです。


「君にマナ・シップの建造の手助けをしてもらいたい。 時間は三月」


「ちなみに盗まれた新造船の建造期間は?」


「設計期間も合わせると三年だね」


「無理ですよ!? 時間が無さ過ぎです!」


 そう、無理です。 幾ら何でも年単位でかかる建造期間を僅か九十日で行うなんて。 それに僕はレムス専門であって船はズブの素人。 建造に携われるレベルじゃあないです。


「無理は承知の上だよ。 ただ設計に関しては盗まれた船をベースにするから時間はかからない。 問題は建造期間なんだよね。 君の言う通り足りなさ過ぎる。 其処で君の知恵を借りにきたんだよ。 何とか時間を短縮して船の性能を落とさず工期を短くする方法を考えてみて欲しい」


「それってやり過ぎると僕が職人さん達に嫌われてヘタしたら仕事してくれなくなりますよ?」


「その辺は私が間に入って調整するよ」


 工期を短縮する方法だけならいくらかはあるんですが……。 試しに出来るかエリシオン様に訪ねてみると――


「……確かにそれは難しいね。 職人達から反発の声も上がるだろうし」


 やはり無理ですか。


「だがしかし! 難しいけど面白い! 今まで無かった発想だよ! 上手くいけば船の性能を落とさず工期も期間内で済むかもしれない!」


 エリシオン様はその日の内に僕のアイデアを携え帝都レインジュエルへとんぼ返りしました。


 大丈夫かな?




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 それから一月が経ち漸く僕専用のレムスが完成しました。


 その姿と言ったら威風堂々とした佇まいながら僕を惹きつけずにはいられない――要するに超格好良い! 単に見た目が格好良いだけでなく性能も折り紙つき――超イケてるう!


 ハッ! いけない! 感動のあまり頭がラリってしまいました。


「これで後は帝都にある工廠で試験と調整を重ねるだけやな」


「そうです! この騎体を帝都に運ぶ手続きと準備は既に済ませてあります! 早速帝都にレッツらゴーです!」


「おおう!? 張り切ってんなレーやん。 何時もは冷静やのに。 やっぱり自分専用のレムス持つのは心躍るもんか?」


「そうですよ! 何せ魔法学園在学中に何度も設計を見直し描き直ししながら何時の日かこれを作って乗り回すのを夢想してましたから! その夢が漸く叶うんですよ! これが興奮せずにいられると思いますか!!」


「わっ、分かった! 分かったから! 興奮して唾飛ばしながら喋らんといてくれ!」


「ハ~ッ! ハ~ッ! 理解して頂けて幸いです!」


 その後、僕達はレムス用運搬台者に僕の飛翔騎体を載せ、その上に雨避けの幌を被せます。 一応、この騎体は国家機密に当たるので人目に触れないようにする為の処置です。

  ローゼンクロイツの騎士達に護られながらローゼンクロイツ領軍の広大な敷地内に停泊しているドゥゴール帝国軍の補給・輸送用マナ・シップ”ワイバーベリー号”に載せます。

 その作業中に艦長と副艦長が僕に挨拶に来てくれました。


「レーウォン・R・ラズメイル殿ですね? 私がこの艦を預かるゲイル・リッターであります。 こっちは副長のリーベン・エンデです」


 艦長に名を告げられた副長が僕に敬礼し、改めて自ら名乗ります。


「リーベン・エンデです」


 艦長は中肉中背の少し白髪が混じった黒髪の初老の男性で副艦長の方は精悍な体つきのくすんだ茶髪で整った顔立ちのイケメンです。

 副艦長、さぞかし女性にモテるんでしょうね?


 艦長がワイバーベリー号に積まれる幌に目を向け僕に訪ねます。


「アレが例の騎体ですか?」


「ええ、そうです」


「アレの輸送に我艦が選ばれた時、一目拝見できると思っていたのですが……あれでは拝めませんな。 残念です……」


 目を細め幌を被せている騎体を見つめガッカリしている艦長。

 

「艦内でも可能な起動試験をするのでその時にでも御覧下さい」


「おお! 宜しいのですか?」


「どうせ工廠では多くの人に見られますから。 ただ、余り人に喧伝しないで下さい。 現段階では一応国家機密ですから」


「無論です!」


「艦長もレムスが好きなんですね」


「今でこそマナ・シプの艦長なんぞしとりますが昔はレムスのライダーでしたから!」


「へ~、そうだったんですか」


 ゲイル艦長のライダー現役時代の話で盛り上がる僕と艦長。

 話の途中、不意に副長が僕に訪ねてきます。


「処でこの騎体の名前は決まっているのですか?」


「はい! この騎体の名はエンリルです!」


「ほほう! 風の神の名前ですか! それは良い名前です」


 艦長は感心して何度も頷きます。


 エンリル。 それは風と旅を司ると言われる神話に登場する神様。

 風の神と僕のレムスを重ねあわせ、何処までも広がる青空を自由に飛び回る姿を僕は夢想する。


 出来たら一週間ごとに更新していきたいと思います。

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