第十四話 ファーヴニル
うわはははっ! これでストック使いきったぜ! ……はい、すいません。
頑張って他の小説と一緒に執筆していきますです。
あの後、僕は辛うじてジェスター皇帝陛下やアクタイン軍務大臣に試作騎に乗る新兵さんに操作方法と慣らし運転をする時間を一時間頂けました。
もし、これが現行の操作方法のレムスなら時間は全く足りませんでしたけどね!
ちなみに今現在セキュリティは切ってます。 だって一々搭乗者が変わる度に登録し直すの面倒ですから。
今は新兵――アスマさんに試作騎の操作方法のレクチャーをしている最中です。
「――と、いう感じで動かせばいいだけですから。 簡単でしょう?」
「……はあ、確かに簡単ですが……大丈夫なんですか? その、この後――サー・ルディンと模擬戦をするのでしょう? しかも、もし私が負ければ、その、ラズメイル様はピュセル様との婚約を……」
「勝つか負けるかは重要ではありません。 この模擬戦は試作騎が現行の帝国製レムスの性能を上回っている事を証明する為に行われるものです。 そしてこのレムスならばそれが可能です。 貴方はただ今まで訓練で培ってきたものを出しきれば良いだけです。 ほら? 簡単でしょう? それに僕とピュセル様については貴方が気にする事はありません。 貴方が負けてもピュセル様が、そして事の元凶たる皇帝陛下が責任を取って対処して下さるでしょうから」
僕は爽やかな笑顔を浮かべ、アスマさんを安心せさるように優しく語り掛けます。
一番最後の言葉はハッキリ強調して言って。 ……だって、これに関して僕、悪くないもん。
「……分かりました! 不肖の身なれどこのアスマ、全力でやらせて頂きます!」
それから一時間後――
工廠内のテスト場には皇帝陛下、皇太子殿下、各部門の大臣達、各騎士団団長、副団長が臨時特設会場で試合が始まるのを今か今かと待ちわびてます。
そしてテスト場中央の少し後ろでは第一騎士団団長サー・ルディンが駆るシュバルツが、対面には僕が建造に携わったアスマさんが駆る試作レムスが刃引きしたロング・ソードとナイト・シールドを互いに構え、睨み合ってます。
皇帝陛下が直々に試合開始の合図を出すそうです。
「では両者、試合位置につけ!」
シュバルツと試作騎が試合開始位置につきます。
「試合開始!」
開始の合図と共にシュバルツは試作騎に猛然と突っ込んで行き早速一太刀浴びせます。 が――剣が当たる直前、試作騎はヒラリと剣をかわしてみせます。
「サー・ルディンの攻撃を避けただと!」
「馬鹿な! なんだあの動きは!」
「一兵士の、しかも新兵が出来る動きではないぞ!」
その試作騎の予想外の動きに特設会場の観客達は驚きの声を上げます。
なにせサー・ルディンはドゥゴール帝国で一番の武を誇ると言われる程、武術やレムスの操作に卓越した技術を有しています。
しかもその動きは一度や二度ではありません。 サー・ルディンが駆るシュバルツの攻撃を全て――そう、全てかわしているのです。
その動きはまるで熟練したレムス乗りのように。
しかも、盾を一切使わずに。
暫くシュバルツの猛攻は続きますが、シュバルツの動きは段々目に見えて悪くなってきました。
此処で試作騎の新兵さんが攻撃に転じます。
シュバルツは盾で剣戟を防ごうとして――盾ごと腕を砕かれる。
「な、なんだと!」
「シュバルツの……盾を、腕ごと砕いた、だと!」
「なんだ! あの試作騎のパワーは!」
「し、信じられぬ!」
またもや特設会場で驚きの声が上がります。
其処からの試作騎の攻勢は圧倒的でした。
だらりとだらしなく地上に垂れ下がる、砕けて言う事を聞かない片腕を振り回しながらシュバルツは試作騎に目掛けて剣を振り抜く。
此処で初めて試作騎は盾を使い剣をいなします。
そして間髪入れずにシュバルツの持つ刀身の腹を打ち据える。 シュバルツの剣はあっけなく折れました。
シュバルツは試作騎により一方的に頭、右足、左足、腰と次々に装甲ごと部位を粉々に打ち砕かれていきます。 残る部位は搭乗席のある胸部部分のみ。
て言うかアスマさんストップです! でないとサー・ルディンがミンチに成っちゃう!
「ハッ!? いかん! 試合終了! しょ、勝者、アスマ!」
その状態になり漸く皇帝陛下は試合終了の合図と、勝者の名を上げました。
「直ぐに救護班をシュバルツに向かわせよ!」
軍務大臣が大声を張り上げて指示を飛ばします。
救護班によりボロボロの状態のシュバルツの中から引きずり出されるサー・ルディン。 頭から血を流し、救護班の担架に担がれ医務室に運ばれて行きます。
その光景をボー然とした状態で眺める観客達。
その観客達の中から一人の女性が飛び出し、担架に運ばれていくサー・ルディンの後を追い付き添います。 サー・ルディンの家族か恋人、ひょっとすると奥さんかもしれませんね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕とアスマさんは今現在、皇帝に謁見する為の順番を待つ控室にて待機しています。 僕は皇帝陛下と謁見する機会が良くあるので最近慣れてきたのですが、僕の隣に座るアスマさんは緊張でガチガチです。
「落ち着いて下さい、アスマさん。 紅茶でも頂いたらどうですか? とても美味しくて落ち着きますよ」
僕は緊張をほぐす為、アスマさんにお茶を勧めます。
「ラ、ラ、ラズメイル様! どうしましょう! 僕やり過ぎちゃいましたよね! 第一騎士団団長であらせられるサー・ルディンに怪我を負わせてしまったのですから!」
今度はあわあわと動揺し慌てだすアスマさんを落ち着かせるよう出来るだけ柔和な笑みを浮かべて話し掛けます。
「心配無いですよ。 確かに怪我はしていましたが、打撲とかすり傷程度で命に別条はないし後遺症も残らないとの話ですから。 それに貴方は自分の与えられた仕事をやり遂げただけで褒めれこそすれ叱責される事はないですよ」
「あ、そうでしたか! 良かった~!」
ホッと安堵の溜息を吐くアスマさん。
あの鬼神の如き苛烈な戦いを見せた人と同一人物とはとても思えませんね……。
と、丁度其処へ皇帝付きの執事長セバスチャンさんが僕達を呼びに来ました。
「レーウォン・R・ラズイメイル様、アスマ様、皇帝陛下がお待ちです。 どうぞ、謁見の間へおいで下さい」
僕達は指示された通り、謁見の間へと向かいました。
謁見室――
ジェスター皇帝陛下が玉座に腰を掛けて頬杖を付いています。 玉座の直ぐ左にはミスティ皇后陛下が、そしてその更に左側には軍務大臣が控えていました。
さすがはピュセル様のお母上と思える程にお美しい容姿を持っています。 でも気の所為か、ミスティ皇后陛下は額に青筋を浮かべ怒気を放っています。 皇帝陛下と軍務大臣がその迫力に萎縮している感じです。
普段は穏やかで気さくな方なのに一体どうされたのでしょう?
僕とアスマさんは皇后陛下が纏う異様な雰囲気に顔を引き攣らせます。
怖い! すんごく怖い! 出来たら此処から一刻も早く逃げ出したい! それが僕とアスマさんの共通認識です。
と、此処で皇帝陛下ではなく皇后陛下が話しの口火を切りました。
「コホンッ! レーウォン・R・アズメイル並びにドゥゴール帝国兵士アスマよ! 皇帝陛下の下された難問と試練を良くぞ乗り越えましたね。 皇后であり、宰相でもあるわたくしも鼻が高いです」
あ、皇后陛下って宰相も兼任していたんでした! ピュセル様が紹介してくれた時、確かそう聞いたのを思い出しました。
元々は皇后陛下が北方大陸より嫁いで来た直後、宰相が急逝したのに後任が中々決まらず、皇帝陛下が冗談で皇后陛下に、『じゃあ、暫く代わりしてみない?』なんて言ってみたら本当に引き受けた上に宰相としての能力が優秀すぎて、他の宰相候補の方々が有能な皇后陛下と比較されるのを嫌がり、最終的には誰も宰相の任をを引き受けず、現在に至るという話しです。
「褒美としてレーウォンにはかねてからの約束通り、飛翔騎体のレムスの開発、建造及びドゥゴール帝国国内の魔法研究開発関連の閲覧も許可します。 ただし、それら技術は国外に漏らさず秘匿する事を義務付け、軍に飛翔騎体の技術提供を要請します。 宜しですね?」
「はい、承知しました」
「宜しい。 では、兵士アスマよ。 そなたには騎士の称号と騎士爵の地位を与えます。 ……所属はレーウォンの騎士として任じますが……宜しいですね?」
「は、はい! 謹んで受け賜ります!」
はて? アスマさんの所属が何で僕なんでしょう? 普通、皇帝の直臣が他の領の者に仕える事など無いのですが……。
「……所属について二人共疑問に思うでしょうが、これもアスマの身の安全の為です」
「「身の安全の為?」」
僕達は同時に首を傾げます。 あ! もしかして――
「アスマは我が帝国が誇る騎士サー・ルディンを打ち負かし、尚且つ少々ではありますが怪我も負わせました。 サー・ルディンを慕う者達が、それについて大いに不満を抱かせてしまいました。 サー・ルディン本人はそのような不満や恨みは持っておりませんでしたが――今回の事で周りの者が暴走し、アスマの身に危険が降りかかる恐れがあります。 故にアスマの身柄を一時、国から離してレーウォンの騎士にするのです。 これが第一の理由」
第一の理由? 他にもあるのでしょうか?
「其処からは俺が話そう……」
皇帝陛下が皇后陛下の話しを引き継ぎます。 あ! 皇后陛下に睨まれて皇帝陛下の体がビクって震えた!
そして皇帝陛下は公式の場で喋る他所行きの口調で僕達に語りだしました。
「ウオッホン! これは以前から白宝国と計画していた事だが、中央大陸に共同で調査隊を派遣しようという案があったのだ。 それを近々実行に移す事に決まった。 中央大陸は二人共知っての通り約千年前――魔王と勇者の戦いの影響で大陸が崩壊し未曾有の大災害を引き起こされた。 以降、その内陸に侵入を試みた者はいない。 いや、冒険者等で小規模ではあるが侵入を試みた者はいるにいるのだが帰って来た者はいなかった。 だが――今から約三週間前の事だ。 中央大陸のノース、サウス、ウェスト、イーストのそれぞれ端に四つ在る自治都市の内、白宝国の影響力が強いウエストに一人だけ生還者が現れた。 その者は北限大陸の宗教国家ステラテス神教国の調査隊員だったのだが、その者の証言だと内陸の中央に巨大な地下都市が存在し、一度は其処の兵士に捕まったんだが命からがら何とか逃げ出したそうだ。 で、此処からが問題だ。 その者は其処であるものを見たそうだ。 それを証言した翌日――その者はベッドで死体となっている所を自治都市の兵士に発見された。 死因は毒殺、だ。 犯人は何者か現在も判明していない。 が、その犯人の検討は付いている。 恐らく情報流出防止の為、ステラテス神教国が刺客を差し向けたのだろう。
其処で本題だ! お前達に勅命を言い渡す! お前達は白宝国との合同調査隊の隊員として表向きには中央大陸の内陸の地形や生態系、遺跡の調査をし、可能なら遺物等も回収して来る事! だがしかし、本命は飽く迄も白宝国の者達と協力してそのあるものを内陸に在る地下都市から回収、もしくは破壊だ! その任にお前達が付いて貰う!」
今度は逆に皇帝陛下の話しを皇后陛下が引き継ぐ。
「そのある物とは一体のレムス。 嘗て勇者が魔王を倒す為に操った勇者専用騎体――ブレイブ・ハート。 それをステラテス神教国よりも先に手に入れるか、それが叶わなければ破壊して下さい」
僕とアスマさんは皇帝陛下と皇后陛下の突拍子もない話に思わず呆気に取られてしまいました。 まさか、ブレイブ・ハートが現実に存在するなんて信じられません!
僕は念の為に皇帝陛下、皇后陛下の御二人方に確認を取ります。
「あの……失礼ながらブレイブ・ハートが存在する証拠は在るのでしょうか? 僕には、その……とても信じられ無いのですが……」
「お前の気持ちは分かる。 俺達だって白宝国の沙霧姫からその話しを聞かされた時はそうだったからな。 ――しかし、これを見れば嫌でも信じざるを得ん……」
その言葉を合図にセバスチャンさんは綺麗な布に包まれた物を僕の所に態々持って来て、その包んである布を一枚一枚丁寧に捲くり、やがてその中身が全貌を晒す。 それは何か生物的な――爬虫類の鱗状の破片。
「これは?」
「これこそがその証拠、刺殺された調査隊員が持っていた古代竜エンシェント・ドラゴンの鱗の破片だ。 白宝国から依頼されて内の研究機関の専門家に調べさせたが――本物だった」
「エンシェント・ドラゴンの!?」
伝説ではブレイブ・ハートには今はもう絶滅してこの世に存在しない古代竜エンシェント・ドラゴンの素材を使って作られたモノだと多くの古文書等では記されています。
まさか、本物だとは……。
「ブレイブ・ハートの回収は理解できますが、破壊――というのはどうしてですか?」
「未確認だがステラテス神教国が勇者召喚の儀式を成功させて異世界より二人の勇者を召喚したとの情報を手に入れたからだ。 もし、この話が本当なら奴等がブレイブ・ハートを手に入れたら何をしでかすか分からん。 何せ奴等は自分達こそこの世界の真の支配者だと宣っている狂信者共だ。 しかもそいつ等、説法でもって三万以上の人間を洗脳して皇后であるミスティの祖国ラトレイヤの大半を占領しちまって一方的に独立を宣言、勝手に自分達の国を作っちまったもんだから笑えねえ。 だから奴等がブレイブ・ハートを手に入れるのを何としてでも事前に阻止したいんだよ」
「なるほど……。 それは理解しました。 しかし、その他にもアスマさんを僕の騎士にする理由があるように先ほど仰っていましたが……」
「それは……ほれ、あれだ。 中央大陸調査にアスマを同行させりゃあ、その間に模擬戦騒動のほとぼりが冷めるだろ? 勿論、アスマ以外の奴も派遣はするが。 まあ、そう言う訳だ」
「元々は軍務大臣が己の職責を逸脱して面倒な提案を皇帝陛下に進言しなければ、このような騒動にはならなかったのです。 軍務大臣。 貴方は軍務卿と良く話し合って人選と補給物資、レムスとマナ・シップの調達やその他の計画を練って下さい。 決して不備の無いように。 もし、不足の事態に陥れば速やかにかつ柔軟に対処するように。 ピュセルの婚約者であるレーウォンに何かあれば貴方を始め一族の者全員が処罰の対象に成るものと思いなさい。 良いですね?」
軍務大臣に向かって微笑みを湛えた顔を向けてますが、その表情とは裏腹に目から途轍もない強さの怒気が放出されています。
あ、軍務大臣も皇后陛下の怒気に当てられて体がビクッと震えた。
止めて下さい皇后陛下。 すんごく怖いです、それ。 お願いですから僕に向けないで下さいね? 向けられたら僕、確実にチビリますから。
「はい! 身命を賭しましてその役目、全う致します!」
軍務大臣も皇后陛下の迫力に呑まれてとても萎縮していますね。 いい気味です。
「さて、レーウォン。 貴方に今回この大役を仰せ付けたのは貴方がピュセルの婿として相応しい事を内外にアピールする事も兼ねています。 危険な任務ですが、どうか乗り越えて下さいまし。 例え失敗しても生きて無事に帰って来て下さいね。 あの娘の為にも……」
ミスティ皇后陛下はとても穏やかで優しい笑みを讃えて僕を激励してくれました。
「おい! レーウォン! それはそうとあの量産型レムスの名前、決めてあるのか?」
「いいえ、まだです。 それが何か?」
「ならば俺が命名してやろう! あのレムスの名はファーヴニルだ!」
ファーヴニル――それは嘗てレムスの技術を伝えた異世界の神が住まう地に古より伝わりし伝説の魔竜の名前。 そして以後その名を冠したレムスはドゥゴール帝国を長きに渡り守護する世界屈指のレムスとなるのでした。