第十三話 なんでそうなるの!?
ストックをちょっと放出します。
という訳でお城に直接行き、お城の入り口詰め所で皇帝陛下に言付けを衛兵の人に伝えて連絡して貰った所、直ぐに皇帝陛下からの返事が来て『人事についての裁量はお前に任せる』との下知を頂けました。
なので二人を早速レムス工廠に連れて来てムスタンさんとのレムス建造の打ち合わせに参加してもらいました。
僕からの説明が終了した後、ムーナが難しい顔をして質問します。
「むー、それだと騎体は今あるシュバルツ? の、マイナーチェンジになるけど、レーウの説明やと新型の性能はレムス・コアにもの凄く依存してまうやんか。 それやと最低でもムーロレベルの技師でないとレムス・コア作れへんようになるで。 そんなんやと量産が難かしゅうて出来ひんのとちゃう?」
「それは僕が先に説明したように今までとは全く違う構造を持つレムス・コアを使うから問題は解決するよ。 それに印鑑型の魔道具を使えば印鑑を押すように誰でも簡単に短時間で魔法回路を焼き付ける事が出来る仕組みにしてあるから大丈夫だよ」
「それの現物てあるん?」
「あるよ!」
僕は自分のレムスに使う為に作って置いたレムス・コアの予備と印鑑型の魔道具を取り出す。
レムス・コアは今まで球状をしたものが殆どだったが、僕の作ったレムス・コアは立方体をしている。
僕は立方体のレムス・コアの両端にある金具を取り外し、レムス・コアを分解いていく。
四角い食パンをスライスした形の板に成ります。 それを六枚並べます。
その内、三枚には既に魔法回路を書き込んであります。
一枚目は各駆動部や各センサー、ジェムス・ライムの制御。 二枚目はマナの生産と貯蓄の制御。 三枚目はレムスの新たな機能として思考制御によるレムスの操作とその学習能力機能、そして搭乗者以外が操作できないセキュリティ・システムの魔法回路を組み込みました。
ただ、これは飽く迄僕のレムスのコアの予備として作ったものなのでフライト・ユニットの制御の為の魔法回路は組み込んでいません。
勿論、このレムス・コアの実証実験は既に済ませています。
なにせローゼンクロイツ辺境伯領では僕のやるべき仕事はありませんから時間が有り余っていましたし、領の騎士団の廃棄寸前のレムスを貰って、騎士団所属の整備技師さんに改造を頼んで好き放題実験しまくりでしたから。
そう言えば領の騎士団の人達に試しに乗って貰ったらもの凄く興奮して詰め寄られましたね。 これいつ実用化するんだ!って。
その事を話したら、ムーナやムーロ、ムスタンさんに唖然とされました。
「と、言う訳でムーナとムーロは僕の指示に従って騎体の製作に取り掛かるから。 あっ! ムスタンさん、トネリコ・トレントの樹液はいつ頃此方に入荷しますか?」
「それなら昼頃、ジェム・スライムが一つ分作れる量が入ってきますです! はい!」
「じゃあ、レムス一騎分のジェム・スライムを作れますね、入荷次第僕がジェム・スライムを作ります」
「分かりました! はい!」
その後、僕達は打ち合わせ通り作業にとりかかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
と言っても昼前にはフレームの改良は終わってしまいました。 もちろんフレームの性能チェックは完璧です。
僕達は早めの昼食をとってのんびり作業場の休憩室で、この工廠で働いている他の作業員の人達とレムスについて熱く語り合いました。
其処へ工廠の責任者、ムスタンさんが飛び込んできました。
「ラズメイル様! トネリコ・トレントの樹液を貰って来ましたよ!」
以外に早く入荷したなと思っていたら、態々ムスタンさんが冒険者ギルドに自ら取りに行っていたそうです。
どうやら試作騎のレムスが動くところが早く見たくて待ちきれなかったようです。
「では、ジェムス・ライムを作れますね」
僕はジェム・スライムの原料の魔法生物、略して魔物の心臓から取れる魔石を砕いて粉末にしたものを持ってきてもらい、作業用の容器に入れらているトネリコ・トレントの樹液に少しずつ混入しながら、撹拌棒で魔石の粉末を撹拌して混ぜていきます。
魔石の粉末とトネリコ・トレントの樹液がまんべんなく混ぜ行えたら、最後の仕上げに初級付与魔法の魔力付与を使用して完成です。
完成したジェム・スライムは大人の握り拳ぐらいの大きさでとても硬くて半透明でまるで宝石みたいです。
ですがこれをレムス・コアを内蔵したフレームにセットしてレムス・コアの魔力を通すとジェム・スライムは途端にドロドロに溶け出してスライム状になり体積が膨張します。 これがジェム・スライムの名の由来です。
ジェムスライムがフレームを包み込んで騎体の筋肉や筋、皮膚となり素体を形成します。
この素体状態の騎体に外殻装甲であるアーマーを被せ、オプションを付ければレムスの完成です。
「新型試作レムス……出来ましたね」
「まさか二日で完成するとは思いませんでした……。 はい……」
と、言う訳でまずは性能テストです。
工廠にある性能試験機で性能を測ります。
その性能データに皆目を丸くして唖然とします。
「……嘘やろ。 こんな性能のレムス」
「いや、現実やでムーナ姉……」
「し、信じられません! まさか! こんな! こんな! はい!」
今日は半日性能テストに費やしました。
テスト作業が終了後、皆大興奮です。
今日、ちゃんと眠れますかー? 明日から実証実験ですよー。 事故を起こしたら大変ですからねー。
次の日、工廠内の外にあるテスト場で実証実験開始。
工廠内の作業員全員がテスト場の端っこに集まって見物に来ています。 これで失敗したら大恥ですね。 ですから作業員の皆さん、お願いですから自分達の仕事に戻って下さい!
パイロットはまず初めに僕が努めます。 最初に搭乗し、操作に問題は無いか? 制御に違和感は無いか? 試作騎をドンドン動かしてチェックしていきます。
試作騎に問題はありません。 それどころかまるで自分の体のよう……とまではさすがにいきませんが、操作性は中々のものです。
その日は休憩を挟みながら、テスト項目を熟してそれにチェックを入れていきます。
結果は全て合格です。
作業員の人達はそれを知って大歓声を上げていました。
明日からは僕以外の人、騎士団や兵士の方達に実際に乗ってテストしてもらいしょう。
と、言う事で皇帝陛下に報告がてら実験搭乗者を融通してもらう為、お城に登城して皇帝陛下にお願いに参ります。
「――という訳で試作騎をテストしてくれる人を貸して下さい」
ジェスター皇帝陛下は目を丸くして僕の報告を聞いています。 報告が終っても暫く放心状態でした。
「……」
「あのー、皇帝陛下?」
「ハッ! いやいやいや! ちょっと待て! 試作騎が完成するの速すぎやしないか!?」
「先程も申しましたが騎体はシュヴァルツをベースに使用し、一番製作に時間が掛かるレムス・コアに至っては僕がラージック王国に居た時から設計していたものをドゥゴール帝国にて製作、繰り返し十分試験をしたものを使用したので短期間で完成させる事が出来ました。 試作騎の性能テストや実証試験は合格したので、後は他の者でも操作に問題が無いかテストするだけです。 なのでどうか人材をお貸し下さい」
「…分かった。 ちょっと待ってろ。 おい、セバスチャン! 軍務大臣を呼んでこい!」
ジェスター皇帝陛下は執事長に命じて軍で一番偉い人を呼びに行かせます。
……あの執事長さん、セバスチャンて言うんだ。 まさに執事長の名前の王道ですね! などと分けの分からない事を考えながら軍務大臣を待ちます。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「テスト・ライダー……で、御座いますか?」
「そうだ。 試作騎が完成したんで誰か寄越してくれないか?」
訝しそうに僕ををチラリと見て皇帝陛下と話しをするロンベルト・G・アクタイン軍務大臣。
灰色の髪を整え、瞳が翡翠色したロマンスグレーで男前です。
軍務大臣は嘆息すると『では騎士と兵士を一名ずつ……』と言って渋々了承した。
「おう! そうだ! 俺も明日、見に行くから模擬戦の用意をしとけ!」
僕に向けて皇帝陛下は宣言した。
「模擬戦……ですか? 陛下のスケジュールの方は宜しいいのですか? それにそうなるともう一騎、試作騎を急いで建造しなくてはなりませんが……」
「スケジュールの方はどうとでもする! それに相手は現行騎のシュヴァルツでいい! 模擬戦で試作騎との性能差を見てみたい!」
「そうなるとシュヴァルツ一騎、確実にスクラップになって使い物にならなくなりますが宜しいですか?」
軍務大臣の眉がピクリと動く。 あ、何かやな予感。
「大言壮語を吐くのもいい加減にしてもらおう! ラズメイル殿! 幾らレムスに革命を起こしたピュセル殿下の許嫁とはいえ口が過ぎると言うもの! ならば現行騎には第一騎士団団長のルディン・N・トルデアを、兵士には今年配属されたばかりの新兵をその新型試作騎とやらで対戦してもらおう!」
其処で軍務大臣は皇帝陛下に向き直り進言する。
「もし、サー・ルディンが勝てばラズメイル殿とピュセル皇女殿下との婚約を考え直して頂きたい! 願わくば婚約の破棄をどうかご再考下さいませ!」
「良し、いいだろう! ただし、新型試作騎に乗った新兵が勝ったら今後、俺とこいつのやる事に一切口出しするな! いいな!」
「え!? へ!? はあ!?」
思いっきり話が別方向に行ってます。 それに動揺するしかない僕。
あのー! お二人で盛り上がってる最中ですいませんけど! 当事者の僕の意志が無視されてるんですけど! 勝手に話を進めないで下さいません? 後でピュセル様に知られたら大変なんですけどね! 主に僕が!
「その条件でいいでしょう! くれぐれも後悔なされませぬよう! 皇帝陛下!」
「それは此方のセリフだ! ロンベルト! 覚悟しておけ!」
かくして僕の思いとは裏腹にとんでも無い事態になりました。
僕は心の中で思わず叫びました。
助けて! ピュセルお姉さーん!