第十二話 新型試作騎
さて、僕は今皇都にある軍用レムスの工廠にやって来ました。
警備はとても厳重で当然関係者以外立ち入り禁止です。
僕は工廠の入り口で警備兵に呼び止められます。
「止まれ! 此処は軍関係施設だ! 子供が来る所ではない!」
僕はすかさず皇帝陛下直々の許可証を提示します。
「!? これは! し、失礼しました! ラズメイル様! 連絡は受けておりますので少々お待ち下さい!」
兵士は慇懃に僕に対応してくれます。 暫くして警備兵に連絡を受けた工廠の責任者――頭が禿げかけた中年のオジさん――が遣って来ました。
「あ! お待ち申しておりました! ラズメイル様! わたくし、ムスタンと言います! ど、どうぞ、工廠の中にお入り下さい!」
汗をカキカキそれをハンカチで拭き取りながら僕を工廠内まで案内してくれます。
どうやらこの人は汗っかきのようですね。
工廠内に在るレムスの製造ラインを順番に見て行きます。 特にレムスを構成する重要な部分、フレーム、アーマー、ジェム・スライム、レムス・コアの四つのユニット。 ついでにレムス専用の武器製造現場も見学します。
ボルさんが以前言っていたように素材は良い物を使っていますね。 フレーム、アーマー、レムス専用の武器。 これ等にに使われている金属は魔法金属と通常の金属を混ぜた合金製です。 仕上がりも悪くありません。
しかし、問題はそれに使われている魔法技術です。 正直、これは……この技術の低さは頂けませんね!
フレームの各関節駆動部と操作装置の多さと複雑さ、ジェム・スライムに使われる主要素材。 そして、肝心のレムス・コアといったら、無駄に不要な部分が多い癖に必要な部分が最低限しか無い記号部品に加え、滅多矢鱈と長くて太過ぎる記号配線図の魔法回路。
記号配線は長すぎると魔力信号が流れるのに時間が掛かるし、短ければ魔力信号がその分速く流れます。
太さも太過ぎれば魔力信号が流れ難い上に魔力が余分に必要だし、細すぎれば断線の恐れがあるとても繊細なものです。
最適な長さ、太さにすればこれだけでもレムス・コア、延いてはレムスの性能が上がります。
しかし、これで良く動作不良を起こそしませんでしたね? それがとても不思議です。
ムスタンさんがこのレムスに関して概要を説明してくれます。
「この騎体の名はシュバルツと言いまして、性能はこの表の通りです。 はい」
◆騎体名 シュバルツ
標準級
陸上型
動出力 下級
機動力 中級
耐久力 上級
持久力 下級
操作性 下級
索 敵 下級
積載重量 x4
「……」
ハッキリ言って想像以上の性能の低さです。
ラージック王国の旧式でも、もう少し性能が上でしたよ。
「あのー……ラズメイル様?」
僕の無言、無表情に心配そうにムスタンさんが声を掛けてきます。
「……レムスの主要ユニット、装甲であるアーマーはそのままで問題ありません。 問題は他のユニット、フレーム、ジェム・スライム、レムス・コアです。 フレームに関しては各関節駆動部と搭乗席の操作パネルの簡素化、ジェム・スライムの主要素材の変更、レムス・コアの再設計と量産体制の見直しが必要です」
「そっ、そんなにあるんですか!?」
「違います。 たったこれだけです。 フレームは今のシュバッルツをベースに使います。 その上で各関節駆動部を減らし強度を上げ、搭乗席の操作パネルはジェム・スライムを使い計器類の表示画面を直接タッチして操作したり、レムス・コアに搭乗者の思考を同調させる魔法回路を組み込んで複雑な操作を省略します。 ジェム・スライムについては確かドゥゴール帝国にはトネリコのトレントが生息してましたよね? それの樹液を採集して使います。 トネリコのトレントは通常のとトレントより柔剛性に富んだ皮膚や筋、筋肉を形成できます。 これを利用しない手はないでしょう。 レム・スコアに付いては僕が見本を作ります。 それを見本にして量産体制を構築、強化して頂きます」
「あ、あの! トネリコ・トレントについてですが、今日、冒険者ギルドが討伐隊を組織して討伐に向かう予定なんですが……」
申し訳無さそうに話すムスタンさん。 ちょ! それはマジ拙い!
「トレントの討伐って……人の生活圏内に生息してるんですか!?」
「ええ、そのトネリコ・トレントが生息してる辺りの森の魔力濃度は通常より濃くて、放っておいたらドンドン増殖するんですよ。 だから、半年に一度討伐する事になっているんですが……。 トネリコは色々と利用価値もありますし、冒険者達にとっては稼ぎ時なんです」
そんなに増殖スピードが速いのか……なら!
「その冒険者ギルドにトネリコ・トレントの樹液集めの依頼、今から出せませんか?」
「今からですか!?」
「はい! 新型を作る上では必ず必要になる素材ですから! 一滴でも多く樹液を確保したいんです!」
「わ、分かりました! 今から急いで冒険者ギルドに使いを出して、トネリコ・トレントの樹液集めの依頼を申請させてきます!」
「頼みます!」
その後、何とか冒険者ギルドに依頼をねじ込む事ができたのですが、薬剤師達が樹液を利用して薬効を高めるエリキシル剤等の薬品を作るので職人ギルドと樹液の配分で多少揉めましたが何とか必要数を確保できました。
「ふう! 樹液の確保はギリギリ危機一髪でしたが何とか新型騎体を建造する目処がたちましたね! 今日はこれ位にして明日から新型試作騎の製作に取り掛かりましょう」
という訳で暫くは、帝都にあるローゼンクロイツ辺境伯の別邸に泊まる事になったんですが……。
扉を使用人の人が開けるのと同時に二人の人物が僕の前に立っていました。 ムーナとムーロです。
「あれ!? 何で二人がいるの?」
「ピュセル様に頼まれたんよ!」
「多分レーウがレムス関係で皇帝陛下から直々に勅令が下るやろうから手伝ったって欲しいってな!」
ムーナとムーロが答えます。
「という事はボルさんも?」
「いや、兄ちゃんは工房に必要な道具やレーウに頼まれとるレムスに必要な素材の収集しとるさかい来てへんよ!」
「でも、その様子やとピュセル様の言う通り、皇帝陛下から何か命令されたんか?」
僕はムーナとムーロの二人に事情を説明します。
「「飛翔騎体の建造!?」」
二人共、綺麗にハモって驚愕で口をあんぐり開けたままになってます。 そんなに開けて顎が外れませんか?
「兄ちゃん、うち等に秘密でレーウのレムス建造の準備しとるの見て何かとんでもないもん作ろうとしとるのは分かってたけど……」
「まさか、飛翔騎体作ろうとしてたなんて、さすがのわいもびっくりや!」
「で、その飛翔騎体建造の条件で他国に劣ってる帝国製の軍用レムスを義務付けられちゃいまして……素材は今日中に揃える事ができたんで、明日からその製造に取り掛かるんです」
二人は俯き何か考え込んでしまいました。
そして二人は顔を見合わせて互いに頷くと僕に向かって真剣な目で話し掛けるけて来ました。
「レーウ、うち等もその試作機作る手伝いさせてくれへん?」
「これでもわい等、兄ちゃん程やないけど少しは役に立つで! な! 頼むわ、レーウ!」
「で、その心は?」
「「レムスに革命起こしたレーウの技術を見てみたい!!」」
さすが双子。 考えてる事も喋るタイミングも息ピッタリです。
「……一応、皇帝陛下に進言してみますが駄目なら諦めてくださいね?」
「「わかった!」」
そう言う訳で僕は明日、皇帝陛下に二人を試作騎開発のメンバーに入れて良いか許しを得にお城へと赴く事になりました。