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第十話 自由無き自重知らずな自由人

 ラージック王国との問題が解決して一週間。


 沙霧姫は『嫁ぎ先が決まった事を報告してくるよ!』と言ってとても嬉しそうに天駆ける船、飛翔船(マナ・シップ)で白宝国に帰って行きました。

 結局ボクは沙霧姫とも婚姻する事になりそうです。


 僕は最近、ボルナレフさんとは友人としてボルさん、レーやんと呼び合う仲になりました。 ボルさんが滞在している宿に尋ねた時、ラージック王国のお師匠さんが残した工房の事を話してくれました。


 ボルさんのお師匠さんが残した工房は残った兄弟弟子達と此処ドゥゴール帝国首都――帝都レインジュエルに集まって協議した結果、兄弟弟子達が協力して運営していく事で決着がつきました。

 ボルさんはラージック王国の工房と提携して職人を融通しあうそうです。


 そして、僕達はローゼンクロイツ辺境伯領に帰ってきました。

 ……それは良いのですが、とても暇です。 正直やる事ありません。

 かと言って、この領から出たり冒険者ギルドで仕事の依頼を受ける事はピュッセル様より禁止されています。 理由としては『レーウ君の立場は今が一番不安定な時期です! 何かあってからは遅いのです!』だ、そうです。


 ですので僕は屋敷から理由なく外に出る事が余り出来ません。 屋敷から出られても護衛の人が十人もついて来るのです。 正直鬱陶しいです。


 ですが今日は普段政務でお忙しいピュセル様と一緒にお出掛けです。

 ボルさんの工房が今日、漸く完成したのです。

 そのお祝いと、以前ボルさんに頼もうとした仕事の依頼をする為でもあります。


 ボルさんの工房に近づくと人集りができていました。 建築に関わった大工さんやラージック王国のボルさんのお師匠さんの所に居たレムス工房の見習い技師さん達の中にボルさんの姿がありました。


「おめでとう御座います、ボルナレフさん」


「おめでとう、ボルさん。 漸く念願の工房が持てましたね!」


「おう! ピュセル様にレーやん、来てくれたんやな! 細やかやけど酒と料理も用意したんや! 食べてってや!」


「はい! ……でも結構人が居ますね?」


「工房建ててくれた大工やわての弟弟子の他に隣近所やこの領で知り合った奴らに片っ端から声掛けたんや!  お! そうや! ピュセル様とレーやんに紹介したい奴等が居んねん! お前等! ちょっとこっち来い!」


 ボルさんに呼ばれて二人の人物――ボルさんと同じドワーフ族の少年少女が此方に振り向いた。


 一人は少年で僕と同じ位の歳くで既に髭を伸ばし始め、背は僕よりもやや低い。 もう一人は少女――僕より背丈が低く、ヘタすると幼女に見える――が遣って来る。

 二人共、ボルさんと同じ赤茶色の髪をしている。 もしかして――


「こいつ等、わての末の双子の妹と弟やねん。 二人共、三年前に家出してきてな。 わてを頼て遣って来て、ウチの師匠に弟子入りしたんや」


「うちはムーナ言います! 今年で十四です! その節はウチの兄ちゃんを助けてくれたそうで有難うございました! うち、レムスの設計技師しとります。 今後共、よろしゅうお願いします! ピュセル様、レーウォン!」


 ムーナは礼儀正しくペコリとお辞儀して挨拶をしてくれました。


「此方こそよろしくです! ムーナちゃん!」


「よろしくね。 ムーナさん」


「ムーナでいいよ。 レーウォンとは同い年やん!」


「じゃあ、僕もレーウでいいよムーナ」


「そう呼ばせてもらうわ、レーウ!」


「で、わいがムーロや! ムーナ姉とは双子なんで歳はおんなじや! わいはレムス関係は操作系以外の他のスキルこそ兄ちゃんやムーナ姉には及ばんけど、一通りなんでも(こな)せるで! それと、親父に修行させられたさかい一応は人用の武具防具も作れるで! これからよろしゅう頼んます! ピュセル様、レーウ!」


「よろしくです! ムーロ君!」


「よろしく、 ムーロ」


 自己紹介が終わったんで、僕は本題に入ります。


「ところでボルさん。 以前言っていたレムスの建造の件、お願いできますか?」


「婚約披露宴で言っとった奴か? ええよ! ……ただ、まだ道具や素材が揃うてないから仕事に掛かるんはそれからやけど、ええか?」


「構いません。 別に急ぎじゃないんで。 ――それとこれが例のレムスの設計図の写しです。 いやー、元の設計図が千年前の物で余りにも保存状態が悪くて、処々擦り切れて文字や回路図が消えてたり虫喰いの穴が沢山ありましたけど、それを何とか補完して復元しましたよ! その上、文字や記号が古代中央大陸文字だったんで訳すのにも苦労しました! あ! ちなみにレムスの武装もあったんで写したんですけど。 見ます?」


「さよか。 ほんならちょっと見せてくれるか?」


 ボルさんは僕から僕が建造して貰いたいレムスの設計図の一部を受け取ります。

 何気なく目を通していたボルさんの目が段々見開かれ、それに伴い体の震も大きくなります。


「レ、レーやん! こ、これ、もしかして! あ、いや! 此処じゃ拙いな! ちょ、ちょっとこっち来てくれ! ピュセル様も一緒に!」


「兄ちゃんどうしたんや!?」


「様子が変やで?」


「な、何でも無い! お前等は建築祝い楽しんどけ!」


「「兄ちゃん!!」」


 ボルさんはムーナとムーロの呼び止める声を無視して僕とピュセル様を何処かに連れて行きます。

 僕とピュセル様が連れて来られたのは、テーブルと椅子が置いてある応接間に通されました。


「此処は個室やから話し聞かれても大丈夫やろ……」


「どうしたんです? ボルナレフさん?」


 ピュセル様は首を傾げて尋ねます。


「レーやん! これッ! このレムス! 飛翔騎体(フライト・タイプ)やん!!」


「飛翔騎体って、なんです?」


 ピュセル様が小首を傾げる。


「要するに空飛ぶレムスの事や!」


「なっ!?」


 驚愕し唖然とするピュセル様。


 ボルさん、ピュセル様が驚くのも無理もありません。 飛翔騎体とは空を自由に飛ぶ事が出来る天翔けるレムスです。

 飛翔騎体は約千年前、中央大陸が崩壊する切っ掛けとなった魔王と勇者の戦い以前に存在していたそうです。

 中央大陸滅亡直後もまだ存在していたそうですが、年月を重ねるごとに破損や経年劣化等で数が減り、現代に至っては一騎も存在していません。


 そもそも飛翔騎体は中央大陸のとある技術大国で生まれ、その国が建造技術を秘匿し、その国でしか建造出来ませんでした。

 その後、今までどの国々でも飛翔騎体を建造する事を挑戦してきましたが成功した国は一つもありません。

 その為、現在では勇者専用騎体のレムス――ブレイブ・ハートと共に伝説として語り継がれています。


 ちなみに水中潜行騎体(ダイバー・タイプ)もあり、東方大陸の国々で今も建造されています。 お金さえ積めば一般人でも手に入れる事ができるレムスです。

 

「そうですよ。 それがなにか?」


 僕はさも当然という感じで答えます。


「それがなにか? と、ちゃうで! これ確かアストラ魔法学園にあった古い文献から出てきたもんの設計図の写しやろ! ファルス王子に聞かれとったから、これでまたラージック王国が国際問題にしてくるで!!」


 ボルさんは国際問題に発展する事を恐れているのでしょう。 僕を怒鳴りつけます。


「ああ、それなら問題無いですよ。 初めに言った通り設計図の保存状態が悪くて擦り切れて消えてたり虫喰いで肝心のフライト・ユニットのコアの回路設計図が無かったりで僕がその部分を補完したんです。 つまり、技術的には僕の完全オリジナルですね」


「フライト・ユニットのコアの回路設計図が無かったって……ほんじゃあどうやって補完したんや?」


「あるでしょ? 空を飛ぶ属性魔法が」


「空を飛ぶ魔法……まさか!? フライ!?」


 ピュセル様が正解を言い当てます。


「そうです」


「いやいや!? 幾らなんでもフライじゃあレムスは空飛ばんやろ!?」


「……それがそうでもないです。 私も聞きかじっただけで詳しい事は秘匿されていて分かりませんが、飛翔船(マナ・シップ)もフライを原理にそれを応用して飛んでいるそうです」


 ピュセル様が僕の変わりに答えてくれましたが――そうです。 飛翔船も恐らくフライの応用で空を飛んでいます。


「だからフライを飛翔船ではなくレムス用に制御回路に組み込み調整すれば良いんですよ」


「でも、今までもフライト・ユニットの製作は成功しても肝心要の飛翔騎体は墜落してもて全部失敗に終わっとるで?」


「それは今までフライト・ユニットだけをフライの効果対象にして制御を行って飛ばしていたからですよ。 レムスもフライの効果対象にして飛ばさなければそりゃ墜落もします」


「言われてみれば確かにそやな……」


「それを防ぐにはフライト・ユニットにフライの魔法回路を組み込むんじゃなくてレムス・コアにフライの魔法回路を直接組み込むんですよ。 フライト・ユニットのコアにはレムス・コアとフライト・ユニットのコアを繋ぐデバイスに飛行に必要な補助バッテリーとその出力と効率を高めるブーストの役割の魔法回路だけを書き込めば良いだけですから。 他の方法としてはフライト・ユニットのコアにマナ・クリスタルではなく魔石を代替に使用する手もあります。 その場合ば充電式の魔法回路を一つ追加する必要がありますけどね」


「魔石は魔力生成能力がないから魔力切れを起こすけど、魔力が切れてもレムス・コアに使われとるマナ・クリスタルの魔力生成能力で魔石に魔力を充電すればええだけやからな! 性能は落ちるけど、コストは抑えられるから安つくで!」


「それと、僕のレムスの武装にはこれを作って欲しいんですが……」


「これか? これやったら既存の奴を巨大化したみたいなもんやから割と簡単に作れるで」


「後もう一つ、ボルさんて腕の良い鍛冶屋を知りませんか? 僕の使ってた杖が壊れちゃったんでオーダメイドで剣術も使える長杖を魔法金属を使って作って貰おうかと思いまして……魔法の効果はマナ・クリスタルをコアに使えば自分で好きなように魔法回路を組み込めば良いだけですから」


「それやったらムーロに作らせよか? あいつ武具防具の鍛冶技術は親父に仕込まれて相当なもんやからな」


「あ! じゃあ、お願いします。 後、他にも……」


 僕はボルさんやムーロに作って貰う物を相談しながら注文しました。 結構なお値段になりましたが、な~に僕にはマナ・クリスタル大鉱脈で得らる利益があるんです。 これ位は安い安い!




 一方、その頃――


 ラージック王国ではオルフェウス王太子は長患いの病の為に床に伏せたと言う建前で王位継承権を剥奪、代わりに第二王子ファルスが正式に王太子となり、アストラ魔法学園の理事長代理に就任した。


 ファルス王子は真っ先にアストラ魔法学園付属の図書館で司書に頼んでレーウォンの書物の貸出記録をチェックしてレーウォンが言っていた古い文献を探し当て、レムスの設計図を発見したが――


「うわ! これは酷い! 文字や設計図、回路図が消えかけてる上に虫喰いだらけだ! よくこんなので写せたなー。 これじゃあ無理だ……」


 あわよくばその設計図でレムスを建造しようと画策したが、レムスの設計図がこれではとてもではないが建造などできはしない。


 ファルス王太子はこの設計図からレムスを建造する事を即諦めた。


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