第八話 大鉱脈の利益争奪戦
この小説、執筆するよりも設定を決めるので時間を取られますね。
いや、嫌いでは無いんですけどね。 設定作るの。
ただ、執筆作業が遅くなるので本末転倒というか……。
婚約披露宴の翌日、ピュセル様と僕、そしてボルナレフさんはジェスター皇帝陛下の書斎に呼び出されました。
僕達は皇帝陛下にソファーに座るよう促され腰を下ろします。
「ラージック王国がマナ・クリスタル大鉱脈の利権に口を挟んできやがった」
と、ジェスター皇帝陛下は開口一番面白く無さそうな顔で僕達に告げてきました。
「でも、鉱脈の利権て冒険者ギルド等に登録していて、尚且つそれを発見した発見者のものになるんじゃなかったんですか?」
「本来ならばそうだ。 それにラージック王国から横槍が入らないようにピュセルが迅速に動いてくれた御陰でそれを防げたと思ったんだがな……ラージック王国はレーウォンとボルナレフの所属を盾にしてきやがったんだ」
「所属を盾に……とはどういう事ですか皇帝陛下」
ピュセル様がジェスター皇帝陛下に問う。
「ボルナレフはラージック王国にある工房に所属し、レーウォンに至っては男爵家との絶縁はレーウォンの勘違いで今だ男爵家の跡継ぎはレーウォンであり、ラージック王国所属の貴族である。 そして、宰相と従兄弟であるレーウォンの母親、プリム男爵夫人とはレーウォンが幼い頃、互いの子供同士を婚姻させると約束していたと宰相のカダルがそう言って来やがったんだよ!」
「そんな阿呆な!? わては既に師匠に工房からの独立を認められとるのに! その証明書かて既に職人ギルドに提出してまっせ!」
「僕だって勘違いなんてしてません! 確かに父は僕を絶縁しましたし、そもそも僕とカダル宰相の娘が許嫁なんて今初めて知りましたよ!」
僕とボルナレフさんは皇帝陛下の語るカダル宰相の話しに思わず叫んでしまいました。
「落ち着け二人共! 驚く事はまだあるぞ。 ……ボルナレフ、お前ん所の師匠は数日前、仕事中に高所から足を踏み外して落下――頭を強打して亡くなったそうだ。 今詳しく此方でも調査させている」
「なッ!? そんな阿呆な!!」
ボルナレフさんは椅子から立ち上がって驚愕に目を見開き、呆然自失状態だ。
師匠をとても尊敬していたボルナレフさんのショックは如何程のものか僕には理解できないが。
「レーウォンについてはお前の父親がわざわざ宰相達と一緒に来て俺の前でそう証言した」
「えッ!? 父が来ているのですか!?」
僕も驚愕して思わず目を見開きます。 今更何の権利があって僕の幸せの邪魔をしに来やがるんですか父様!
「それでもお前たちがマナ・クリスタル大鉱脈の権利の持ち主というのは変わらん。 ボルナレフについては向こうも少し調べれば取り込みが無理なのは分かるはずだ。 なら、攻めるのはレーウォンだな。 なにせどちらが本当の事を言っていて、どちらが嘘をついているか証明できん。 場合によってはカダルが自分の娘をレーウォンの第二夫人にねじ込んで、マナ・クリスタル大鉱脈で得られる利益を少しでも掠め取るつもりかもな。 そしてカダル経由でラージック王国の国庫に入るという訳だ。 そうすればラージック王国でのカダルは宰相として、またステファン侯爵家として権勢は盤石なものとなる」
「皇帝陛下、カダル宰相の婚約封じの策は私に任せて下さいませんか?」
と、ピュセル様がなにか思いついたのかジェスター皇帝陛下に具申する。
「ほう、 どうするつもりだピュセル?」
ピュセル様は僕とボルナレフさんをチラッと横目で見る。
するとそれに気づいた皇帝陛下は僕達に、
「レーウォン、ボルナレフの二人はもう下がっていいぞ」
と言って執務室から退出を促された。
どうやら僕達が居てはお邪魔なようです。
皇帝陛下のお言葉通り僕達は執務室を退出します。
ボルナレフさんは先に宿へと帰り、僕はピュセル様を控室で待ちます。
一時間程でしょうか? ピュセル様が控室に僕を呼びに来ました。
「さあ、レーウ君帰りましょうか」
僕達二人は帝国首都に滞在する為のローゼンクロイツ辺境伯の別邸に馬車で戻ります。
ローゼンクロイツ辺境伯領には大陸側から攻めれられた時に国境を守護する拠点の城と普段生活している本邸の屋敷があります。
辺境伯領の城は当然の事、帝国首都――帝都レインジュエルにある皇城――ドゥゴール城の異様な巨大さには敵いませんが領全体が要塞化しています。
別邸は広大な敷地に建つ大きな屋敷の本邸に比べると小じんまりしていますが、僕の実家に比べれば三倍の大きさです。
道中、僕はピュセル様が仰っていたカダル宰相の娘の婚約封じの方法が気になって訪ねました。
「う~ん、今はまだ言えないのです。 ごめんなさい。 ただ、ちょっと私達の婚姻の時、ややこしくなると思いますが……」
「面倒な手を使うんですか?」
「面倒と言えば面倒ですけどそれは……いえ、今話すのはよしましょう。 でもレーウ君が思うようなややこしい面倒事では無いですよ」
「そうですか。 それは良かったです」
「ああ、それと沙霧姫が暫くウチの屋敷に滞在するのでそのつもりでいて下さい」
「あれ? 沙霧姫ってお城の方に滞在するのでは?」
「色々とありまして、その……そういう事になったのです。 兎に角、沙霧姫とは仲良くして下さいね」
何でしょう? ピュセル様が言い淀んでいます。 何かあるんでしょうか?
「分かりました、ピュセル様」
屋敷に着くと既に沙霧姫が十数人のお供の人達と共にいらしゃっていました。
「今日からこの屋敷に世話になるよ! これから宜しく頼むね、レーウォン殿!」
「はい、此方こそ宜しくお願いします。 沙霧姫様」
「しかしピュセル、あの話し本当に本人に言わなくて良いのかな?」
「それは……確かにこのような大事な話し、本来なら本人に伝えておかねばなりませんが、ラージック王国側――特にカダル宰相の度肝を抜いて対応させない為には情報は極力秘匿したいのです」
「そうか」
「?」
沙霧姫が僕の方を見てピュセル様と何やらヒソヒソ話しをしています。 なんでしょう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝の早朝、僕は屋敷の庭で日課の剣術の鍛錬を行っていました。
鍛錬に使う木剣は僕手ずからトネリコの枝を削り、木剣にも使える長杖、木剣長杖に初級属性魔法である硬化と上級属性魔法の魔力増幅を上級付与魔法を複合し、魔法回路のスキルで作製したスクロールを使って魔法の力を宿らせた物です。
それだけにこの長杖にはとても愛着を持っています。
ちなみに武具ランクは中級です。
僕が鍛錬をしているところへ沙霧姫がポニーテールに三つ編みをした髪型で護衛を伴って遣って来ました。
沙霧姫も刀術――東方の独特の形状をした刀と言われる剣――の鍛錬をするそうです。
其処で沙霧姫は僕と地稽古をしないかと提案してきました。
軽く流す程度ならと了承しましたが、それは間違いでした。
互いに少し間合いを開けた位置で対面し剣を構えます。
それが稽古の始まりの合図になりました。
瞬間、沙霧姫の木刀が腕ごと消えた。 否、凄まじい剣速で沙霧姫の木刀が袈裟斬りの軌道で襲い掛かって来た。
何故軌道がわかったかというと体捌きを見て瞬時に判断したからです。
反射的に後退して避ける。 ですが沙霧姫の木刀はまるで生きているかのように変幻自在の軌道を描き僕に迫ってくる。
「凄い! 姫様の初撃を避けた!」
「あの一撃でどんな人間でも沈むのに!」
ちょっと警護の人! 見てないで止めて下さい! 沙霧姫明らかに本気で僕を殺りに来てますよ!
「ほう! これを避けるのかい! ならばこれはどうだ!」
今度は沙霧姫の体が振れます。 残像です! 沙霧姫の余りの早さに残像が生まれています! これはもう僕に対処出来るレベルではありません!
「こ、降参です! 負けましたッ!」
僕の敗北宣言で沙霧姫の動きが止まります。
「な、何ですか! さっきの速さ! 全く見えませんでしたよ!」
「そうかな? でも……レーウォン殿の体は私の動きに反応していたよ」
「え、そうですか?」
「隙あり!」
沙霧姫が僕の頭上目掛けて木刀を振り下ろす気配を感じ、木剣長杖を頭上に斜めに構え、衝撃が走ると同時に木刀を受け流しながら素早く回転させます。
直後、パァーン!と乾いた音が聞こえました。
ここまでの動作は全て脊髄反射で僕の体が勝手に動いてくれたのです。
乾いた音を発した僕の木剣長杖と沙霧姫の木刀は持ち手を残して砕けていました。
「「……」」
僕と沙霧姫は沈黙。
僕は呆然として膝を折り、砕け散り地面に落ちた木剣長杖の破片を無意識に手で拾い集めてました。
「ぼ、僕の木剣長杖があぁぁぁ~~~~~~~~~~~~!?」
我を忘れて思わず大声をだして叫んでしまいました。 この木剣長杖すんごく気に入ってたのに……グスン。
僕の情けない大声で屋敷からピュセル様が長髪をシニョンに整えたばかりの髪型姿で屋敷の衛兵と一緒に大慌てで駆けつけて来ます。
「一体どうしたんですか!?」
「私がレーウォン殿と稽古しをていた時にちょっと巫山戯てレーウォン殿の大事な木剣長杖とやらを砕いてしまったのだよ。 ……すまないレーウォン殿」
「え! レーウ君、沙霧姫と稽古したんですか!? それだけで済むなんて凄いです!」
「へ? どういう意味ですか?」
ピュセル様は沙霧姫にスキルカードを僕に見せるよう促した。
そして、その内容は――
◆スキルカード
【氏名】 白宝 沙霧
【年齢】 十九歳
【体力】 伝承級>MAX
【魔力】 伝承級>MAX
【戦術系スキル】
刀術《極級>MAX》
二刀流《超越級>MAX》
槍術《超越級>MAX》
忍耐力《超越級>MAX》
【固有スキル】
努力の人
呪術刀《極級>MAX》
【知識系スキル】
西欧大陸共通言語
【技術系スキル】
レムスの操作《超越級>MAX》
戦術指揮《伝承級>MAX》
家事《上級>MAX》
裁縫《上級>MAX》
料理《上級>MAX》
「……なんですか、これ?」
「見た通りです」
なんじゃこりゃあぁぁぁーーーーーーーーーーーー!?
沙霧姫、全スキル限界まで成長してるよ! 中には成長限界が極級ランクもあるのに! この人、人間じゃないよ!
あ、いや、二つ成長してないのか? 西欧大陸共通言語は分かるとして……この『努力の人』ってスキル、成長限界は表示されてないし……。
「この『努力の人』ってなんですか?」
「スキルが三倍の早さで成長を遂げる稀少スキルだよ。 このスキルは能力が固定なので成長はしないけどね」
「このスキルの恩恵で沙霧姫はこの若さで全スキルが限界まで成長しているのです」
凄い……ていうか羨ましい! 沙霧姫! どうか貴方の爪の垢を僕に下さい! そして煎じて飲ませて下さい!
「その沙霧姫を相手に木剣が砕けるだけで済むなんて、流石、剣術の成長限界が極級のレーウ君です!」
「なに! それは本当なのかい!」
「レーウ君」
「あ、はい」
僕は沙霧姫にスキルカードを見せます。
「おお! これは凄い! 流石、私の見込んだむ……コホンッ!」
「?」
なんでしょう? 見込んだむ? なにか言いかけて誤魔化したような感じです。
「それよりその大切にしていた物、いずれなにか代わりのもので賠償しよう」
「いや、良いですよ。 これも寿命だったんです。 素直に諦めます」
「いや、駄目だよ! それでは私の気がすまない! どうか詫びをさせてくれないかい!」
「いや、でも……」
「頼む! レーウォン殿!」
僕と沙霧姫の押し問答にピュセル様が割って入る。
「レーウ君。 素直に沙霧姫のお詫びを受け取りなさい。 でないと切りが無いです」
「……分かりました、沙霧姫。 その申し出を受けます」
「そうか! 受け取って下さるかレーウォン殿! 決して損はさせぬものだよ!」
沙霧姫の言葉にゾクリッ!と一瞬背筋に寒気が走りました。
なんでしょう? とても不吉な予感がします……。