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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第五章 世界刻印術総会談編
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28・模倣神器

――西暦2097年8月8日(木)PM6:37 源神社 境内――

「こんばんわ」

「いらっしゃい。退院おめでとう、久美」

「あんまり嬉しくはないわね。不覚を取ったとしか言えないし」


 久美は両親に付き添われ、昼過ぎに退院した。神話級治癒術式グレイルの効果もあり、傷は完全にふさがっている。医者からはまだ安静にしているよう言われたが、久美にそんなつもりはない。京介達が中華連合強硬派に狙われたことも聞いた以上、黙っているつもりも、その理由もない。


「あれはどうしようもなかっただろ。委員長やアーサーさんから聞いたけど、後刻術なんかを施された術師と生成者が相手じゃ、普通ならすぐに死ぬぞ」

「なら私は、普通じゃないってことになるわけね。去年の飛鳥君や真桜の気持ち、よくわかるわ」


 飛鳥と真桜は、去年の事件のせいで、人外扱いされることが多々あった。さすがに面と向かって言われたことはないが、満場一致で昨年度のデンジャラス・カップルに選ばれたことが、その証拠だろう。しかし今では敦やさゆりも1年生に恐れられているし、久美も心当たりがないわけではない。だがよりにもよって、飛鳥に言われるとは思ってもいなかった。


「あ、あの……水谷君のお姉さんですよね?」


 そう思っていると、見慣れない少女達がいることに気がついた。


「ええ、そうよ。あなた達は?」

「は、初めまして!私、御崎紫苑って言います!」

「私は長谷部花鈴です!水谷君とは同じクラスなんです!」

「へえ、そうなんだ。馬鹿な弟だけど、よろしくしてあげてね」


 入院中、といっても昨夜だが、真桜がオウカに友達ができたと喜んで電話をしてきた。どうやらそれが、この子達のようだ。だが京介のクラスメイトなら、かなりの迷惑も被っているはずだ。


「は、はい!」

「はい、じゃないだろ。何をよろしくするんだよ?」

「細かいことは気にしないの。あ、私は長谷部琴音です。花鈴とは双子で、新田君のクラスメイトです」

「似てると思ったら、双子だったのね。浩と同じクラスってことは、平和でしょ?」

「平和ですね。花鈴や紫苑が、また水谷君が暴走したって何度も言ってましたし」

「馬鹿な弟で、本当にごめんね。またこいつが暴走するようなら、遠慮なく私に連絡してもらって構わないから」

「俺を再起不能にするつもりかよ!?」

「その方が平和になるでしょ?」

「そういえば水谷君、確か入学式で真桜先輩に求婚してたよね?」

「なっ!?」

「み、御崎!ここでその話をするな!!」


 勝が慌てて紫苑を止めたが、既に手遅れだった。


「え?」


 紫苑も何のことかわからなかった。だが飛鳥も真桜も久美も、思い出すだけで腹が立つ話に、思わず殺気が漏れてしまった。


「あんた達……怯えさせてどうすんのよ……」


 さつきがこめかみに手を当てながら、かなり本気で呆れていた。だがわずかとはいえ殺気を浴びてしまった紫苑は、今にも泣き出しそうだ。


「え、えっと、その……ごめんなさい!!」


「御崎さん、だっけ?ごめんね。でも悪いのはすべて、この馬鹿な弟だから、あなたは全然悪くないわ」


 紫苑は何も悪くない。悪いのはすべて京介だ。そこに疑いの余地は微塵もない。飛鳥も真桜も久美も、本当に悪いことをしてしまったと、心から反省した。


「飛鳥が言った通りでしょ」

「あいつ、面倒見はいいんだが、ああやって威圧することもけっこうあるからな」

「京介君や二宮君には特にね」

「あ、あはははは……」


 紫苑はまだ震えている。花鈴や琴音は何も言えず、ただ笑うことしかできなかった。


「みなさん!ご飯できましたよ!」

「おっと、できたか」

「え?オウカが作ったんですか?」

「ああ。水谷の退院祝いだからって、すげえ張りきってたぞ」

「それは嬉しいけど、あんまり嬉しくない理由ね」

「素直じゃないわねぇ」

「今更でしょ」

「好き放題言ってくれるわね」

「別にいいじゃない。それより、せっかくオウカが腕を振るってくれたんだから、早く食べましょう」

「そうそう」

「そうね。その前にさつき先輩、委員長」

「なに?」

「少しお話があるんですが、いいですか?」


 だがその瞬間、さつきと雪乃に緊張が走った。


「ええ……」

「わかったわ。ごめん、真桜。先に行ってて」

「よくわかりませんけど、わかりました。久美、主役なんだから、早く来てよ」

「わかってるわよ」


 真桜達も二人の、いや、三人の様子がおかしいことは気になったが、久美が相手にした二人の男のうち、一人は刻印後刻術が施されていた。おそらくはそのことだろうと思い、真桜は料理を並べるために、居間へ向かった。紫苑も何とか立ち直り、花鈴や琴音も手伝うつもりのようだ。飛鳥や敦、さゆりはその後をゆっくりと歩いている。

 だが久美は、昨晩さつきから話を聞かされた。だから今日、ほとんど無理矢理退院したと言ってもいい。


「先輩……本気なんですか?」

「本気よ。止めても聞かないだろうし、勝手に行動を起されるだけよ」

「だからって、なんで!」


 昨夜聞かされた話は、あまりにも衝撃だった。京介を理由に、自分が狙われることは予想していたし、事実としてそうなった。だがそのために、なぜ彼女がそんなことをしなければならないのか、久美には全く理解することができなかった。


「落ち着いて、久美さん。私達だって、そんなことにならないよう、最善をつくしているから。あの子達に泊まってもらったのも、それが理由よ」

「あの子達には悪いけど、ご家族まで巻き込むわけにはいかないからね。それにここなら安全よ」


 紫苑や花鈴、琴音が二日続けて源神社に泊まることには、理由があった。真桜は善意かつオウカのためを思って提案したのだが、さつきや雪乃はそれだけではない。もちろんオウカのためという理由は、二人にもある。だがそれ以上に、三人の家族に被害が及ぶ可能性を排除したかったのだ。幸いにも両家のご両親は、飛鳥や雪乃達のことを知ってくれていた。だから安全だと思い、許可を出してくれていた。弟を狙われた久美にも、それは理解できる。だが……


「でも真桜は……いえ、飛鳥君やさゆり、井上君も何も知らないんですよね?」

「ええ、教えていないわ。できることなら、本当のことは教えたくないの。そんなことをする前に、決着がつく可能性だってないわけじゃないから。でも、ここまできてしまったら……」

「覚えておきなさい、久美。何かを成そうとしている人を止めるには、それ以上の覚悟が必要だということを。その覚悟がなければ、誰にも止めることはできないのよ」

「七師皇でさえ、あの人を止めることはできなかったの。三剣士がまだ日本に残っているのも、それが理由の一つよ」

「だから三華星や四刃王だけじゃなく、あの人も?」

「ええ」

「久美さん、私も気持ちはよくわかるわ。だけど私も直接お話をさせてもらって、止められないって思ったし、その証拠も見せてもらったの。私がアーサーさんと一緒に動いているのは、前世論だけじゃなく、そのことも理由なの」

「……わかりました。納得はできませんが、私も最悪の事態だけは防ぐよう努力します」

「ええ、お願い。これ以上あの子に、重い十字架を背負わせたくはないから」


――西暦2097年8月9日(金)AM5:10 源神社 境内――

 早朝の源神社境内で、影が揺らめき、その中から不審な人影がいくつも現れた。


「ここか?」

「間違いありません」

「忌々しい三上めが……。私がどれだけ辛酸をなめたことか……!」

「圓大人、ご無念は我々も同様です。特に祖国を裏切り、なおかつ七師皇とまで呼ばれている白林虎や、日本軍と内通していた王星龍は、八つ裂きにしてもたりません」


 現れたのは中華連合強硬派のトップ 圓鷲金とその取り巻き達だった。


「まったくだ。だがまずは、三上の息子を殺す。ブリューナクの生成者が誰かはわからぬが、日本の生成者であることに違いはない。ならば見せしめのためにも、奴の息子の首がもっとも効果的だ」


 鶴岡八幡宮や海浜公園の襲撃に失敗し、ほとんどの手勢を失ってしまったため、わずか十人となってしまった強硬派だが、取り巻き達を含め、全員が生成者でもある。源神社が一斗の実家であり、自分達の作戦をことごとく潰した飛鳥の生家であることを、綿密な調査で突き止めた圓達は、今までの失敗を取り戻すためにも、そして新たな作戦のためにも、源神社襲撃を決定した。


「その首を持ち、奴を動かし、再びこの国に内戦を起こさせるわけですな」

「そうだ。過激派などとは比べ物にならん混乱が起きる。我々はそれに便乗し、この国を内側から奪い、制圧する」

「夢ってのは、寝てる間だけ見るもんだと思ってたんだがな」

「白昼夢ってやつじゃないの?」


 だが早朝だというのに、自分達以外の声が境内に響いた。


「だ、誰だ!?」

「誰だも何も、人ん家に不法侵入しといて、何言ってんのよ」

「三上飛鳥!三上真桜!」

「井上敦と一ノ瀬さゆりもいるのか!」

「私達のことも知ってるんだ」

「あんま嬉しくはないな。さすがにこの人達ほどじゃないだろうが」

「何だと?」

「何で私を指さすのよ?」

「み、水谷久美!馬鹿な!お前は重症を負っていたはずだ!!」

「その通りだけど、とある事情で今日のお昼に退院してきたのよ。っていうかそこまで知ってるのに、なんで知らなかったの?」

「そこまで教えてもらえるような、良好な関係じゃないってことなんでしょ。別にどうでもいいわよ」

「ようやく会えたな、圓鷲金」

「お、お前達は!?」

「久世雅人!久世さつき!」

「三条雪乃!アーサー・ダグラス!ジャンヌ・シュヴァルベまでいるだと!?そんな馬鹿な……!!」

「朝っぱらからけっこうな人数を引き連れてきたわね。まだ寝てる子達もいるのに、そんなに騒がしくされたら、起きてきちゃうじゃないの」

「そんなに騒がしくするつもりはありませんけどね。おっと、連絡が来た。もしもし?ええ、目の前にいます。わかりました」

「なんだって?」

「圓鷲金、だったな。後ろを見ろってさ」

「後ろだと?」

「ば、馬鹿な……!」

「ミシェル・エクレール!セシル・アルエット!名村卓也まで!!」

「残念だったな。お前達の行動はお見通しだ」

「リンクス・マインドを放置しておけば、すぐに行動に出ると思っていたが、まさかこんなにあっさりと姿を見せるとは思わなかったな」

「戦力差は明らかです。大人しく投降するなら、命までは奪いませんが?」

「それにここに来たのは、俺達だけじゃないぞ」

「な、なんだと……?」

「久しぶりだな、圓鷲金」

「き、貴様らは!?」

「王星龍!李美雀!馬鹿な!帰国したはずではなかったのか!?」

「白将軍の命令で、私達は連盟本部に残っていたのよ」

「白将軍はアイザック・ウィリアムが神戸沖に軍艦を駐留させていたことから、お前達の背後にいるのがあの男だと予想された。だからこそ、私と李少尉に残るよう命じられたのだ」

「白林虎……!またしてもあの男か!」

「ユ、圓大人……!」

「王星龍や李美雀だけではなく、刻印三剣士までが揃っていたとは……。奴め、何故教えなかった……!構わん!ここで始末すればいいだけのことだ!」

「はっ!」

「静かにしろよ。近所迷惑だろ」

「大丈夫よ。音は響いてないから」

「逃がすつもりもないしな」

「確か星龍さんが、あんたのことを“傲慢鷲アオマンジュ”って呼んでたわね」

「ああ。奴が政権を握ってからというもの、逆らうような市民は次々と捕らえられ、投獄された。そのために中華連合でも、奴を慕うような国民は存在しない」

「当然ですが、捕らえられた人々は既に解放してあります。無実の罪どころか、ただの言いがかりで投獄されたのですから」

「なるほど、確かにぴったりの異名ね」

「ご、傲慢だと!?ふざけるな!」

「自覚症状なしってことね。めんどくさいなぁ」

「だな。しかもこんなメンツが揃うんなら、俺達、まだ寝ててもよかったよな」

「本当にね。もうひと眠りしてこよっかなぁ」


 敦もさゆりも、本気でそう思った。この場には三剣士が揃っているだけではなく、三華星のさつき、四刃王の卓也、サクレ・デ・シエルと呼ばれるセシル、さらには中華連合の四神が二人もいる。むしろなぜ自分達まで叩き起こされたのか、本気でわからない。


「ふざけるな!」

「別にふざけてはいないんだけどね。だって私達、この中じゃどう考えても最弱だし」

「さらに私は、病み上がりだしね」

「そんな俺達の防御術式を突破できないあんたらも、どうなんだろな」


 強硬派は多数の攻撃系術式を発動させたが、すべてが敦、さゆり、久美の防御系積層術によって防がれた。


「余裕あるじゃない、三人とも」

「無駄話は後でもいいだろう。これ以上時間をかければ、本当にみんな起きてくるぞ」

「もう何人かは起きてるけどね。瞳さんがサウンド・サイレントを使ってくれてるから、外で何が起きてるかまではわかってないと思うけど」

「なら尚更、時間をかけられないな。勇斗にも悪い影響しか与えない」

「確かにね。で、どうする?」

「無論、私達がやる」

「これは中華連合の問題ですから、皆さんの手を煩わせるつもりはありません」

「いや、これは日本の問題でもある。俺がやろう。ミシェルやアーサーに、これ以上手間をかけるつもりもない」

「別に気にしないけどな」

「僕もお世話になっていますから、これぐらいは構いませんよ」

「三剣士が相手なんて、もったいないでしょうに」

「なら、俺達がやります」

「あんた達は論外。それならあたしがやるわ」

「またそういうことを言うんだから」

「でしたら、私がやります」

「ジャンヌさん?」

「私達の運命を変えた元凶とも言えるのが、この男です。だから私には、その権利があると思いますけど?」

「まあ、確かにな」

「星龍さん、李少尉、お二人としてはどうだろうか?」

「ジャンヌ・シュヴァルベにそこまで言われてしまえば、我々としても手出しすることはできないな」

「だけど、本当にいいの?」

「構いません。セシルさん、ミシェルさん……いいですよね?」

「あなたがそれを望むなら」

「使ってほしくはないけどな」

「え?どういうことなんですか?」

「見てもらえればわかります。驚きますよ」

「それはどういう……」


 真桜やさゆりが戸惑っている中で、ジャンヌはクリエイター・デ・オールを生成した。だがジャンヌは、そのクリエイター・デ・オールにさらに印子を込めた。そしてクリエイター・デ・オールは、聖女の旗から禍々しい剣へと変貌を遂げた。


「そ、それは!?」

「ダ、ダインスレイフ!?」

「嘘……でしょ……」

「あれがダインスレイフ……。ですが、あの魔剣は……」


 飛鳥や真桜、敦、さゆりが驚くのは当然で、それは初めて刻印神器を見た美雀も同様だ。魔剣ダインスレイフ。二心融合術によって生成されたフランスの刻印神器。だが……


「そ、そんな……。ダインスレイフは、あの時私達が!」


 ダインスレイフは、飛鳥と真桜のブリューナクによって、完全に消滅した。そのダインスレイフが再び生成されるなど、予想外にも程がある。


「ダインスレイフだと!?フランスの刻印神器が……なぜここに!?」


 圓達強硬派も、驚きを隠せない。刻印神器を相手にすることになるなど、思ってもいなかった。


「で、ですが圓大人!ダインスレイフは、二心融合術によって生成された刻印神器のはずです!ジャンヌ・シュヴァルベだけで生成できるわけがありません!」


 ダインスレイフはブリューナクと同じく、二心融合術によって生成された刻印神器であり、ジャンヌ一人で生成することはできない。だがジャンヌのクリエイター・デ・オールは、自分達の目の前で姿を変えた。その禍々しい姿は、まさに魔剣と呼ぶに相応しい。



「その理由は、地獄で考えなさい。私の弟が案内してくれるはずだから、迷うことはないわよ!」


 そしてジャンヌは、アポカリプスを発動させた。闇属性の神話級術式は、境内を闇に包み、圓鷲金をはじめとした中華連合強硬派を飲み込んだ。その闇は朝日に照らされながら、ゆっくりと周囲と同化し、やがて境内は元の景色を取り戻した。神槍事件の最重要人物の一人、中華連合強硬派の圓鷲金は、こうして歴史の闇に葬られた。


「ジャ、ジャンヌさん……なんで、ダインスレイフを……」


 だがそんなことは問題ではない。今ジャンヌが手にしているのは、間違いなくフランスで見た魔剣。あの時、ジャンヌの左手の刻印やクリスの刻印を道連れに消滅したはずの、呪われた魔剣だ。


「これはダインスレイフじゃありません。似てはいますが、別物です。模倣神器型刻印法具、とでも言うべきでしょうか」


 だがそのジャンヌは、手にしている剣が刻印神器ではないと語った。

「模倣……神器……」

「ダインスレイフ・レプリカ。私達はそう呼んでいます。これはフランス政府も知らないことです。報告するつもりはありませんし、その必要もありませんが」

「でも……神話級を使える刻印法具なんて、聞いたことないですよ!?」


 先人達が遺したA級以下の刻印術や、生成者が多大な苦労の果てに開発したS級術式と違い、神話級は生成者の印子を受け、刻印神器が発動させる。そのため開発する必要も、試験を受ける必要もない。再現することも不可能ではないが、A級以上の処理能力と制御能力、そして印子を必要とする。にもかかわらず、強度や精度は神話級の足下にも及ばない。

 だがジャンヌが発動させたアポカリプスは、圓鷲金をはじめとした強硬派生成者達を一瞬で葬り去った。その術式は、間違いなくフランスで見た闇属性神話級術式そのものだった。


「刻印神器でしか、使えないはずなのに……」

「だから模倣神器なのさ」


 ミシェルもセシルも、ダインスレイフ・レプリカの存在を知っている。だが軍にも政府にも、存在は報告していない。ジャンヌはフランス政府や軍の刻印神器推奨派によって選ばれ、弟と共に二心融合術を発動させ、ダインスレイフを生成した。だが同時に、弟を殺め、多数の人を犠牲にしてしまった。ミシェルもセシルも、そんなジャンヌをこれ以上推奨派の好きにさせるつもりはないからこその行動だった。


「みんな、終わったの?」

「お姉ちゃん!」


 そこにドルフィン・アイで状況を見ていた瞳が勇斗を抱き、オウカを連れてやってきた。


「オウカ。瞳さんも」

「勇斗君、起きちゃったんですか?」

「ええ。でもこの時間に目が覚めるのは、そんなに珍しくないわ」


 勇斗は瞳の腕の中で、元気よく暴れている。瞳も勇斗を落とさないよう、何度も抱き直していた。


「瞳さん、勇斗君をお借りしますね」


 だがそんな瞳から、突然ジャンヌが勇斗を奪い取った。


「え?ゆ、勇斗!」

「ジャ、ジャンヌさん!何を!?」


 突然のジャンヌの行動に、誰もが呆気に取られ、動けなかった。


「ごめんなさい。真桜さん、この子の命を助けたければ、私と戦って」


 続くジャンヌのセリフに、真桜は何を言われたのか、まるでわからなかった。


「えっ!?」

「もちろん、ブリューナクを使ってよ」

「な、なんでそんなことを!?」


 だがジャンヌは止まらない。しかもブリューナクの生成まで要求している。飛鳥も何が起こっているのか、まったく理解が追いつかない。


「忘れてはいないでしょう。私がダインスレイフに操られていた時、あなた達を……ブリューナクを狙っていたことを」

「だからって、なんで今なの!?」

「まさか、まだダインスレイフの意思が残ってたんですか!?」

「いいえ、これは私の意思よ。どうするの、真桜さん?あまり時間はないわよ」

「……飛鳥、お願い!」

「わかった……!」


 勇斗はジャンヌがしっかりと抱いているため、迂闊に手を出せば巻き込んでしまう可能性が高い。勇斗は勇輝の大切な忘れ形見だ。見捨てるという選択肢は最初からない。助ける方法は一つだけ。


「ここじゃ人目につきすぎるし、あの子達まで巻き込むかもしれないから、材木座の海岸へ行きましょう。あそこなら私達の結界を張れるから」

「その前に勇斗君を返してよ!」

「ダメよ。この子を返したら、あなたは生成しない。それぐらいはわかるわ」

「そ、そんなことは……!」

「先に行ってるわ。勇斗君のためにも、早く来てあげてね」


 そう言い残すとジャンヌはフライ・ウインドを発動させ宙に浮かび、シャドー・ミラージュによって周囲へ溶け込むように姿を消した。


「ジャンヌさん!」

「飛鳥、真桜。あたしは瞳さんと一緒に、後から行くわ。あんた達は先に行って」

「はい!」

「さつき先輩、私もご一緒します」

「私も行きます」

「お願い。さゆり、あんたも来て。敦は飛鳥達と一緒に」

「はい!」

「わかりました!」

「お姉ちゃん!私も行きます!」

「俺も行く。ミシェル」

「言われるまでもない」

「僕も行きます」

「李少尉はさつきさん達と共に、彼女を護衛しろ。私は彼らと共に行く」

「了解しました」

「名村さん、申し訳ないが、残ってるみんなをお願いします」

「わかった。任せておけ」

「よし。急ごう!」

「はい!」

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