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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第五章 世界刻印術総会談編
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26・金と銀

「来るぞ!」

「まだ子供だと思っていたが、見事な腕だ」

「さすがはグリツィーニア・グロムスカヤの娘、と言いたいが、それが精一杯のようだな」

「えっ!?」


 京介達はオウカの母を知っているし、会ったこともある。

 だが紫苑、花鈴、琴音は知らないどころか、偶然会っただけなのだから、むしろ知っていたら、そっちの方が驚きだ。


「あなた……七師皇の娘だったの!?」

「知らなかったのか?その小娘はロシアの七師皇グリツィーニア・グロムスカヤの一人娘だ。何故こんな所にいるのかは知らんが、こちらとしては好都合だ」

「ママは……関係ないでしょう!」

「関係あるのさ。お前を人質にとれば、グリツィーニア・グロムスカヤはお前を助けようとする。つまり我々の言うとおりに動かすことができるということだ。これが好都合でなくてなんだというのだ?」

「ママは……絶対にテロリストなんかに屈しない!その結果私が死んでも、ママがあなた達を皆殺しにするだけよ!」

「勘違いしてもらっては困る。確かにここにお前がいるのは予想外だったが、お前を殺すつもりはない。生きたまま人質になってもらう。ああ、命の心配しなくともいい。お前には生きたまま、我々の下へ来てもらうことになるからな」

「そんなこと、死んだってするわけないでしょ!」

「構わんよ。代わりに、お友達が死ぬだけだからな」

「!?」


 オウカは躊躇った。時間を稼げば、真桜かジャンヌが来てくれるだろう。だがいくら二人でも、マーキュリーの結界を破るには時間がかかるはずだ。その時間で自分を捕らえ、京介達を皆殺しにすることは、生成者が二人もいる以上、難しいことではない。


「ダメだ!」

「しゅ、瞬矢君?」

「ここで君があいつらについていっても、僕らが助かる保証なんてどこにもない!」

「そうだね。むしろ目撃者である僕らを、生かしておく理由なんてないはずだ」


 浩も続いた。オウカを人質にし、ニアを自分達のいいなりにしようとするなど、国際問題どころか四度目の世界大戦にすら発展しかねない。そんな重大事の目撃者を生かしておく理由など、何一つない。


「それに、仮に助かったとしても、誰かが犠牲になって、だなんて、寝覚めが悪すぎるわよね」

「顔見知り、というわけではあるまい?見ず知らずの他人を助けるために、自分の命を犠牲にするとでも言うつもりか?」

「そんなつもりはないわよ!だけど目の前でそんなこと言われて、放っておけるわけないでしょ!」

「揃いも揃って、お人好しだな。俺も同じ考えだが」

「なら、決まりだな」

「ええ!」

「みんな……ありがとう!」


 紫苑、花鈴、琴音とは、偶然の上に偶然が重なった出会いだった。だが見ず知らずの自分を助けるために、全員が自分の愚かな行為を止めてくれた。嬉しかった。これだけで、この国に来て良かったと思えた。オウカの目の端には、うっすらと涙が光っている。


「礼はこの場を切り抜けてからにしてくれ」

「上手い飯でも作ってくれれば、それでいいぜ」

「京介も勝も、遠慮ないね。だけどオウカさん、そんなものはいらないよ」

「そうね。確かに私達は初対面だけど、困ってる人に手を差し伸べることぐらいはするわよ」

「お前が言っても、説得力ねえけどな」

「うるさいわよ、二宮」

「交渉は決裂か。残念だな。せっかくの命を無駄にするとは」

「まだまだ未熟、しかも見れば、半分は術師ではない。実戦経験もなさそうだ」

「ではその娘は、お前達を殺してから連れていくことにしよう」


 交渉決裂に異議はない。だが勝算もない。そもそも相手が誰なのかもわからない。


「それにしても、何なのよ、あいつら。日本人なの?」

「いや、中国人だと思う。そんな話を聞いたばかりだし」

「な、なんで!?」

「この場を切り抜けられたら、教えられるんだけど……」

「難しいのはわかるけど、そうも言ってられないか……!新田君、指示をお願い!」


 紫苑の言うとおりだ。まずはこの場を切り抜けなければだが、一流の術師に生成者が相手となれば、難しいどころの話ではない。しかも自分達は、一介の高校生に過ぎない。オウカ、京介、瞬矢、そして浩の四人は術師だが、一流には程遠い。だが浩は1年生でありながら風紀委員に推薦されたし、刻印術試験でも学年トップの実力者だ。この場で指揮を執る者は、浩しかいない。紫苑はそう考えた。


「わかった!生成者は後回しで、まずは術師を倒そう!」

「よっしゃあっ!」


 不本意ではあるが、浩も承諾した。風紀委員の活動で、多少の実戦経験は積んでいる。革命派襲撃事件では何もできなかったが、自分のできることをやったと、先輩達には褒められた。だが同時に、刻印術師としてのプライドが傷つけられた。先輩達は一流の術師に匹敵する実力を持っているが、術師ではない。

 確かにあの時は余裕がなかったし、自分が先祖返りであるため、同世代の術師より覚悟は薄い。だがそんなことを、言い訳にしたくはない。


「京介、スランプだって言ってる暇はないよ。頼りにしてるんだからね」

「ああ……!」


 京介も異議を唱えなかった。いままでの京介なら、自分が指揮を執ると主張していただろう。その京介の顔からは、迷いや焦りの色が消えている。本当に吹っ切れたようだ。


「勝、佐々木君、長谷部さんは左側を、僕と京介は右側の敵を攻撃するから、オウカさんと御崎さん、長谷部さんはそのまま防御をお願い!」

「わかりにくいから、私は花鈴、あっちは琴音でいいわよ」

「ご、ごめん」


 確かに琴音はオウカ、紫苑と共に結界の展開を続けている。だから花鈴が攻撃を担当することはわかっている。だが琴音と花鈴は双子だ。緊急時に同じ名前で呼ばれてしまっては、確かに紛らわしい。


「謝るのは後にしよう」

「だな。先手必勝で行くぜぃ!」


 だが花鈴がスチール・ブランドを発動させたのに対して、勝はオゾン・ディクラインを発動させてしまった。特に相克関係の強い術式のため、積層術にすらなっていない。それどころか花鈴のスチール・ブランドが酸化してしまった。だが瞬矢の発動させたライトニング・スワローが錆びた鉄を伝わり、徐々に威力を増しながら男へと向かった。


「ほう、思っていたよりやるな。だが甘いな」

「げっ!」

「二宮!なんでオゾン・ディクラインなんか使うのよ!?」

「わ、悪ぃ!」

「大丈夫だよ。瞬矢君のライトニング・スワローで、積層術にはなっていたから。だけど、そのライトニング・スワローを防ぐなんて……」


 ライトニング・スワローは、男の発動させたコールド・プリズンによって防がれた。土属性術式との相克関係を無効化することのできる術式だが、水属性術式に変わりはない。当然、火属性術式への相克関係もある。


「相克関係かもしれないってこと?」

「多分だけど。危ない!」

「あ、ありがとう!」


 オウカが発動させたエアー・シルトによって、コールド・プリズンの侵食はかろうじて防がれた。オウカの予想通り、男は水属性に適性を持っているようだ。積層結界にエアー・シルトまで発動させたため、積層結界の強度はさらに増したが、長時間展開し続けられる自信はない。余裕はないが、オウカはチラリと京介の方に目をやった。


「これでもダメなのか!」

「くそっ……!」


 京介のスノウ・フラッドと浩のクレイ・フォールによる積層術が、生成者の男によって防がれたところだった。浩のセリフから推察するに、何度も積層術を防がれてしまっているのだろう。


「……浩」

「何?」

「効くかわからないが、一つだけ策がある。佐々木達にも手伝ってもらわないといけないが……」

「わかった。みんな、一度下がって!」

「りょ、了解!」


 浩の合図で、全員が積層結界内へ集まった。


「京介、策って?」

「浩のラウンド・ピラーとオウカのガスト・ブラインドでスクリーンを作り、それを俺のブルー・コフィンでさらに覆う。そこに勝のエア・ヴォルテックス、花鈴のクリムゾン・レイ、琴音のアイアン・ホーン、御崎のブラッド・シェイキングで相応関係を作り出して、佐々木のライトニング・スワローで積層術を完成させ、あっちの男を攻撃するんだ」

「それってつまり、防御を捨てるってこと?」

「そうしよう。まずは一人でも減らさなきゃならないし、余波で手傷を負わせられるかもしれない。みんな、京介の指定した術式、使えるよね?」

「使えることは使えるけど……」

「まだ覚えたばっかりなのよね……」


 紫苑は高校入学と同時にブラッド・シェイキングの試験を受けた。同じクラスということもあり、京介も紫苑も、互いがブラッド・シェイキングを習得していることは知っていた。

 だが花鈴と琴音が試験を受けたのは、夏休みに入ってからだ。京介の指定した術式だったのは偶然だが、クリムゾン・レイもアイアン・ホーンも、B級の中では比較的試験の難易度が低い。だから京介が指定したのだろうと紫苑は思った。


「私も手伝う。ウイング・ラインなら、同時に発動させることはできるから」

「僕もダイヤモンド・スピアを使う。それで足しになると思う」

「つまり、私達の攻撃術式を全てぶつけるってわけね」

「ただぶつけるだけじゃなく、積層術にしてな。どうする?」

「どうするもなにも、やるしかないでしょう」

「決まりね。それじゃ浩君!」

「うん!」

「頼むぜ、二人とも!」


 積層結界を解除すると同時に、オウカがガスト・ブラインドを、浩がラウンド・ピラーを発動させ、一瞬遅れて京介がブルー・コフィンを発動させた。三つの術式は京介の注文通り、男達の前に大きなスクリーンを作りだし、こちらの行動を隠しながら、コールド・プリズンも防いでいる。


「ほう、面白いな」

「目隠しのつもりか。子供だましではあるが、意外と考え付かない組み合わせだな」

「今だ!」


 浩の合図に、勝がエア・ヴォルテックスを、花鈴がクリムゾン・レイを、琴音がアイアン・ホーンを、紫苑がブラッド・シェイキングを発動させた。高熱によって解けた鉄の塊が、分子運動を加速させ電離し、酸素の渦によってさらに勢いを増した。そこに瞬矢のライトニング・スワローが発動し、電離した炎を纏い、巨大な鳥となった。その鳥にオウカのウイング・ラインと浩のダイヤモンド・スピア、京介のブラッド・シェイキングまでが加わり、巨大な鳥は巨大な怪鳥となり、男達に襲い掛かった。


「なっ!?」


 とっさに生成者達が発動させたスプリング・ヴェールとアース・ウォールの積層結界によって、ライトニング・スワローの威力は削がれた。だがそれでも完全ではなく、稲妻を纏った炎の怪鳥は、積層結界を貫きながら飛び去った。


「やったか?」

「二人倒れてるな……」

「一応、成功みたいね」

「他の連中も、無傷じゃないみたいだね」

「小僧どもが、なめた真似をしてくれたな!」

「生きて帰れると思うなよ!」


 予想外の積層術によって手傷を負わされた生成者達は、怒りに震え、生成していた拳銃状と短剣状の刻印法具から、それぞれ水と土のS級術式 深渊海シエンユアンハイ大地牙ダティーヤを発動させた。


「S級術式!?」

「水と土か!オウカ!!」

「わ、わかってる!!」


 オウカは慌ててカーム・キーパーを発動させ、紫苑と琴音もそれに倣い、先程と同じ積層結界を作り上げた。さらに瞬矢がオウカと同じカーム・キーパーを、勝と花鈴がエアー・シルトを、京介は紫苑、浩は琴音と同じ術式を使い、さらに強度を高めた結界だが、二つのS級術式の前に、無残にも砕け散った。


「きゃあああっ!」

「な、なんて……威力!」

「後悔しても遅いぞ!ただでは殺さん!じっくりとなぶり殺しにしてくれる!」


 男達は再び、S級術式を発動させた。オウカ達は積層結界には程遠いが、それぞれの防御術式を発動させ、敵のS級術式に備えた。

 だがそれは、自分達の防御術式に届くことなく、突然発生した氷の壁によって防がれた。


「な、なんだ……これ?」

「これって……クレイ・フォールとブルー・コフィンの積層結界!?」

「せ、積層結界なの!?」

「なんて精度なの……。私達が全員で発動させたやつとは、比べ物にならない……」

「しかも防御系じゃないのに、S級を防ぐなんて……」

「い、いったい誰が……」

「まさか……これって!」


 全員が驚いた。自分達が全員で発動させた防御系の積層結界を破ったS級術式を、干渉系である術式の積層結界で防ぐことなど、余程の実力がなければできるものではない。それだけの実力を持つ術師は限られているし、近くにいるとなれば尚更だ。


「ば、馬鹿な!俺達のS級を、干渉系で防いだだと!?」


 S級術式を防がれた男達も、当然だが驚いている。S級術式は生成者の切り札であり、多大な努力の果てに開発した術式でもある。そのS級術式が破られるなど、激しくプライドを傷つけられる重大事だ。

「いい加減にしなさいよ。こっちはとっくに、我慢の限界を超えてるんだからね!」


 そこに突然、声が響いた。同時に景色が歪み、光を呼び込み、浮かび上がった影が実体となり、二人の少女が姿を現した。


「な、何っ!?」

「えっ!?」

「み、三上先輩!?」

「ジャンヌさんも!?」

「なんで……影から!?」

「み、三上真桜!ジャンヌ・シュヴァルベ!」

「な、何故だ!?マーキュリーは破られていないはずだ!」

「簡単なことよ。私達は最初から、マーキュリーの中にいたの。シャドー・ミラージュで隠れてたけどね」

「な、なんでそんなことを!?」

「最初はすぐに助けるつもりだったんだけど、あなた達のやろうとしてることに興味があったからだよ」

「なんて言ってるけど、真桜さんを抑えるのは、けっこう大変だったのよ。だけどいい加減、私も限界だったわ」

「あ、ありがとう、ございます……」

「お姉ちゃん!」

「オウカ、仲良くできそうで良かったね。それじゃ、ジャンヌさん」

「ええ」


 安全を確認した真桜とジャンヌは、クレイ・フォールとブルー・コフィンの強度を上げ、安全を確保してから、男達に激しい殺気を放った。


「さて、私の後輩達をここまで可愛がってくれたんだから、それなりのお礼はしないといけないよね?」


 いつもの真桜からは想像もつかないほど、冷たい声が響いた。浩はもちろん、京介も瞬矢も勝もオウカも、背筋に冷たいものが流れた。紫苑、花鈴、琴音は殺気にあてられてしまい、抱き合いながら震えている。


「ふ、ふざけるな!ヴァルキリー・プリンセスやエクリプス・ソレイユといえど、小娘ごときが俺のマーキュリーを破れると思うなよ!」


 それは相対している男達も同様で、特に生成者ではない術師達は、完全に腰が引けてしまっている。


「そう?確かにマーキュリーを使えるのはすごいけど、無理してるんじゃないの?本当に使おうっていうなら、せめてこれぐらいはやらないと」


 真桜はブレイズ・フェザーを生成すると同時に、マーキュリーを発動させた。真桜のマーキュリーは、ゆっくりと領域を拡大させ、男の発動させたマーキュリーを内側から吹き飛ばした。

 そこに旗竿状装飾型刻印法具クリエイター・デ・オールを生成したジャンヌのヘルヘイムが発動し、非生成者の二人と倒れた二人を闇に包みこんだ。そこへ吹き飛ばされたマーキュリーの余波が集束され、闇の中に灼熱と極寒の地獄を生み出した。


「ば、馬鹿な!!」


 真桜がマーキュリーの余波を大気へ還元し、ジャンヌがヘルヘイムを解除すると、そこにいたはずの男達の姿はなく、代わりに炎の柱と氷の柱が二本ずつ立っていた。


「す、すごい……」

「あんな……簡単に……」

「な、何が……どうなったのよ!!」


 紫苑、花鈴、琴音にとって、目の前の光景は信じられなかった。真桜は同じ学校の先輩だが、直接戦っている所を見たのは、これが初めてだ。一流と言われる実力を持っていることも、七師皇から称号をもらったことも知っている。

 だが相手と同じ術式を、相手以上の精度で発動させ、内側から吹き飛ばすことができるとは思わなかったし、その余波を利用して攻撃するなど、考えたこともなかった。にもかかわらず目の前の二人は、不可能だと思っていたことを実行し、一瞬で四人の術師の命を奪った。残っているのは生成者の二人だけだ。


「あとはあなた達だけだね。せっかくだし、新術式の実験台になってもらおうかな」

「もしかして、飛鳥君が言ってた術式のこと?完成したんですか?」

「完成はしてたんですけど、使う機会がなかったんですよ。けっこう処理能力に印子を割かれちゃうので」


 そう言うと真桜はシルバー・クリエイターも生成し、刻印融合術を発動させた。


「あ、あれが……!」

「三上先輩の……融合型刻印法具!」

「ええ、ワンダーランドって言うの。それじゃジャンヌさん、やっちゃいましょうか!」

「ええ!」


 ジャンヌは土性S級干渉広域対象術式プラティヌ・エクストレームを発動させた。クリエイター・デ・オールは真桜のシルバー・クリエイター同様、物質生成系と呼ばれる刻印法具であり、金を生成する。

 ジャンヌは生成した金塊を次々と接触させ、細かく砕くと同時に、熱を発生させ、男へ向かって撃ち出した。命中した金の塊は金箔となり、男の全身を覆い尽くした。金は、熱伝導、電気伝導率が高い。空気との摩擦や接触時に発生した微弱な電流を増幅させ、金の像となった男を灼熱の炎で燃やし、巨大な雷で貫いた。そして雷が地面に吸い込まれ、炎が消えると、それを合図にしたかのように像から金が剥がれた。金箔が剥がれると、そこには最初から何もなかったかのような空間が現れ、落ちた金は地面へと吸い込まれ、消えていった。

 同時に真桜が発動させたのは無性S級広域干渉対象術式シルバリオ・コスモネイション。対象の周囲に闇を作りだし、生成した銀によって夜空を再現しているが、当然それだけでは終わらない。

 落下を始めた銀の星は流星となり、摩擦熱によって発生した炎を纏いながら、次々と男に降り掛かった。同時に闇の結界内には極寒の世界が形成され、男の自由を奪っている。氷によって自由を奪われた男は、なす術なく銀の流星をその身に浴び、炎と氷という、真逆の熱エネルギーを限界まで宿し、氷り付きながら燃え尽きた。


「終わりね。雅人さんの術式に似てるけど、参考にしたの?」

「あと、お母さんのも少しだけ。夜空に輝く流星をイメージしてみました。オウカ、京介君、大丈夫だった?」

「は、はい……」


 あれだけ凄惨な術式を発動させ、相手の命を奪ったばかりだというのに、真桜もジャンヌも、まるで世間話でもしているようにしか見えない。それが紫苑達の恐怖を、さらに増幅させた。


「そっちの子達には、ちょっと刺激が強かったかな。あなた達も大丈夫?」


 だが答えがない。それも当然で、紫苑、花鈴、琴音は偶然巻き込まれただけであり、完全な被害者だ。三人とも、震えながら泣いてしまっている。


「やっぱり、やりすぎだったかしらね」

「あんなもの見せられたら、誰でも泣きますよ……」


 京介や勝、瞬矢も何度か見たことはあるが、完全に怯えてしまっていた。あれだけのことをすれば、それも無理もない話だ。


「さすがに新田君は、慣れてきてるね」


 浩も青い顔をしているが、悲しいかな、慣れてしまっている自分がいる。


「それも、どうかと思いますけどね」

「ちょっと待っててね」


 そう言うと真桜は、刻印具を取りだし、通話機能をオンにした。


「もしもし、飛鳥?今海浜公園なんだけど、京介君達が強硬派に襲われたの。うん、大丈夫だよ。だけど同級生の女の子が巻き込まれちゃったの。え?いいの?それじゃ連れて帰るね。え?瞬矢君?いるけど、どうかしたの?え?瞳さんが?わかった、伝えとく。それじゃあ後で」

「真桜さん、飛鳥君はなんて?」

「みんな連れて来いって」

「みんなって、御崎さん達もですか?」

「うん。巻き込まれちゃったわけだから、話せる範囲で事情は説明するよ。それから瞬矢君」

「は、はい?」

「瞳さんが探してるって。だから一緒に来てくれる?」

「わ、わかりました」

「それじゃ、行きましょっか」

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