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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第五章 世界刻印術総会談編
88/164

22・闇蠢

――PM20:02 鶴岡八幡宮 社務所――

「待たせたな」

「瞳さん!よかった、無事で」

「飛鳥君のおかげよ。それより、どうしたの?」

「さっきの襲撃者の正体がわかったのよ。あら、その子は?」

「私の弟です」

「は、初めまして!佐々木瞬矢です!」


 まさか七師皇や三剣士がいるとは思わなかったのだろう。瞬矢はガチガチに緊張してしまっている。


「佐々木君、瞳先輩の弟だったの?」

「新田?水谷と二宮も。なんでここに?」


 だが同級生もいた。安心すると同時に、なぜここにいるのかという疑問も沸いた。


「真桜先輩が舞を奉納するから、見に来てたんだよ。そしたら巻き込まれて、無理矢理ここに連行されたんだ」

「久美姉に有無を言わさずにな。それに比べて佐々木の姉ちゃん、優しそうだよな。羨ましいぞ」

「勝、それってどういう意味かしら?」

「すぐに手を出すからだろ!威圧するなよ!」


 聞き捨てならない勝の一言に、久美が笑顔で黒いオーラを撒き散らしているが、飛鳥達にはお馴染みの光景となりつつある。


「そこ、後にしなさい。瞬矢君、だったわね。浩君達の同級生だったのね」


 さゆりが突っ込みを入れるも、見慣れた光景なのであまり興味はない。興味があるのは京介達の同級生だという事実だ。


「ということは、オウカの同級生ってことね」

「オウカ?」


 言われてみれば、見慣れない金髪美少女が二人いる。だが一人は見るからに年上だ。だとすればもう一人のことだろう。日本人っぽい名前をしているということは、ハーフなのだろうか。


「私の娘で、真桜ちゃんの妹よ。九月から明星高校に留学することになってるから、仲良くしてあげてね」

「えっ!?」

「そ、そうなんですか!?」


 予想の斜め上の答えに、驚かずにはいられない。見れば京介や勝も驚いている。浩だけが困ったような顔で笑っている。


「久美、教えてなかったのか?」


 飛鳥にとっても、京介と勝が知らなかったのは意外だった。来月から同じ学校の同級生になるのだから、てっきり教えてあるものだとばかり思っていた。


「浩はともかく、他の二人に教える必要性は感じられなかったもの」

「ひでえ……」


 浩は風紀委員なので、こちらから教えなくとも、知ってしまう機会は多い。だから事前に教えておいた。だが他の二人は、そんな必要があるとは思えなかった。というのが久美の言い分らしい。弟に睨まれるのも、ある意味では当然だ。


「その話は後でもいいだろう。グリツィーニアさん、襲撃者の正体がわかったと聞きましたが?」

「ええ。襲撃者は中華連合強硬派よ。さっき圓鷲金の側近の一人を捕まえたから、間違いないわ」


 ロシアの要人でもあり、神槍事件では中華連合を牽制していたニアは、当然ながら強硬派の台頭を良しとしていなかった。そのため強硬派の要人達は、圓鷲金をはじめ、ほとんど知っている。


「やっぱりか。でもなんで、八幡宮を襲ってきたんでしょうか?」

「おそらくだけど、アイザックに捨てゴマにされたんでしょうね。私の帰国前に襲ってくるとは思わなかったけど、強硬派としてもUSKIAの言いなりになるつもりはなかった、ってとこじゃないかしら」

「ありそうなことですね。僕達を見て驚いてましたから、強硬派には詳細を報せていなかったのでしょう」

「今更だが雅人、グリツィーニアさんはともかく、俺やアーサーはけっこう生成しちまってる。問題にはならないよな?」


 ミシェルもアーサーも、来日当初からかなりの頻度で刻印法具を生成している。他国で刻印法具を生成することは、即座に国際問題へと発展する。しかも三剣士という、刻印術師の世界ではもっとも有名な術師が、意味もなく、無許可に生成するなど、国際問題だけではなく、刻印術師の間でも大きな問題だ。


「なるわけがないだろう。誰がどう見ても、立派な正当防衛だ」

「むしろ問題にするような奴がいたら、そいつの政治家生命は終わるわね」


 他国で刻印法具を生成するには、競技や要請などの許可が出された場合が最も多い。次いで多いのが、正当防衛だ。それが単純な事故であっても、自らの命の危険がある場合はやむをえないと判断される。飛鳥達もフランスで生成したが、古文書学校の校長の許可やダインスレイフから身を守るため、という理由が成立しているため、国際問題にはなっていない。

 そしてミシェルやアーサーも、迎撃行動をする時のみ生成している。つまり正当防衛が成立するわけで、仮に成立しなくとも、雅人が許可を出したことにすれば全てが丸く収まる。


「で、どうするんですか?」

「林虎には一斗から連絡をとってもらうことになるけど、彼も万が一の可能性は考えていたみたいよ。王星龍を京都の連盟本部に滞在させているから」

「星龍さんを?」

「さすがは地慧虎ジーフイフウ。読みが鋭い」


 地慧虎、日本語で知識の虎とは林虎の二つ名だ。林虎はあまり戦闘力が高くない。高くないといっても、七師皇や三剣士の中では、というだけで、そこいらの術師では相手にならない。

 だが本来は支援系を得意としており、後方支援任務をこなすことが多い。無駄になるかもしれないような保険をいくつもかけるが、それは慎重さの裏返しだ。知識も豊富で、経験も豊か、思慮深い性格も相まって、中華連合だけではなく、他国の術師からも尊敬を集めている。


「それじゃあ星龍さんも、鎌倉に来るってことですか?」

「アイザックの狙い次第じゃ、そうなるでしょうね。そこまで責任を感じなくてもいいと思うけど」

「林虎さんも星龍さんも、真面目ですからね」

「ママが言うことじゃないと思うけど……」

「いいじゃない、別に。だけど困ったわね。圓鷲金が関わってるんなら、私も手伝いたいところだけど……」


 ニアとしても、神槍事件の最重要容疑者を放置しておくつもりはない。圓鷲金をはじめとした中華連合強硬派は、神槍事件の重要容疑者として国際指名手配されている。当然、デッド・オア・アライブだ。


「七師皇が長期間、国を空けるわけにはいきませんからね。一度帰国してしまえば、再度出国することは難しいですが」

「そうなのよね。三剣士は?」

「僕はまだ滞在する予定です。真桜さんだけではなく、飛鳥さんや敦さんの件もありますので」

「アーサーほど長期間ではありませんが、まだ滞在予定です」

「なら、お願いしてもいいかしら?」

「そのつもりです」

「任務の一つですから、問題ありません」

「いいんですか?」

「圓鷲金が関与しているなら、フランスは無関係じゃない。そもそもの元凶だ。俺が見逃す理由にはならん」

「神槍事件の最重要関係者ですからね。僕としても、見過ごすつもりはありません」


 神槍事件最大の問題は、刻印神器が使用されたことだ。それが原因でフランスは刻印神器推奨派が暴走したし、アーサーはエクスカリバーの生成者だ。二人も無関係ではないし、そのつもりもない。


「すまん、二人とも」

「巻き込んでしまって、すいません」


 だが巻き込んでしまったことにも違いはない。飛鳥も真桜も、覚悟を決めてブリューナクを生成した。間違っていたとは思わないし、他に方法もなかった。だがそれが、ジャンヌのような悲劇を生みだしてしまった。


「ね、姉ちゃん……俺達、こんなとこにいてもいいのか?」


 だが京介達は、何も知らない。偶然襲撃されたところを久美に助けられ、そのまま有無を言わさずこの場へ連行された。それは瞬矢も似たようなものだ。


「よくはないわね。連れてくるんじゃなかったって思ってるわ」

「無責任な……」

「私も、瞬矢を連れてくるべきじゃなかったわね」

「姉さん、そんな今更な……」


 京介も勝も瞬矢も、ただの高校生が知るべき話ではないことだと、正確に理解できたから、軽くパニックにおちいっている。それは浩も同様だが、風紀委員でもある彼は、悲しいかな少し慣れてしまっている。確かに驚くべきことではあるが、三人に比べればまだ冷静さを保っていた。


「アイザック・ウィリアムだけじゃなく、圓鷲金まで出てくるなんて思いませんでしたもんね」

「大丈夫じゃない?圓鷲金はともかく、アイザック・ウィリアムの狙いは見当ついてるんだし」

「警告は届いてると思いますが、それが牽制になってるかは……」

「素直に聞いてくれるタマじゃないものね」

「そんな連中なら、こんな事態になってませんよ」

「それもそうね。雅人、強硬派が既に日本に侵入しているとして、あとどれぐらい残ってると思う?」

「先程制圧、もしくは粛清したのが全部で40人程ですから、多くても10人ぐらいでしょう。むしろそれだけの人数が、連盟や軍にも気付かれずに侵入していたことの方が問題です」

「けっこうな数だもんね。大方密入国でしょうけど、どこから侵入したのかしら?」

「それはこれから調べることになるが、どちらにしても圓鷲金を捕まえることが最優先だろうな」

「増援が来る可能性はないんですか?」

「ないと思うわよ。神槍事件後、林虎の組織したレジスタンス軍が、ほとんどの要人の身柄を確保したそうだから」

「それに今日の件で、日本海沿岸の警戒態勢は強化されるし、林虎さんが黙っているはずがない」

「ということは、圓鷲金を捕まえれば、とりあえず解決するってわけですね」

「とりあえずはな」


 そう言いながらも、飛鳥はそれで済むとは思っていない。何故なら強硬派は少数であり、捨て駒に過ぎない。背後にいるのはUSKIAに間違いないが、おそらく国内にも協力者がいるだろうことは想像に難くない。誰かはわからないが、おそらくその協力者こそが、USKIAより、アイザック・ウィリアムより厄介だろう。連盟や軍が対処してくれるだろうが、簡単にはいかない。飛鳥にはそう思えた。


――同時刻 某所――

「申し上げます。鶴岡八幡宮へ向かった部隊ですが……全滅したとのことです……」

「全滅だと!?」

「はい。三剣士ばかりか、グリツィーニア・グロムスカヤまで出てきたらしく……」

「馬鹿な……。三剣士はともかく、何故グリツィーニア・グロムスカヤが……」

「あの男やUAKIAは、グリツィーニア・グロムスカヤは帰国した言っていたのですが……おそらく、偽情報だったのではないかと」

「USKIAが素直に教えるとは思っていなかったが、それでも綿密に調査をしたはずだ。あの男は何と言っている?」

「グリツィーニア・グロムスカヤがまだ滞在していたことは知らなかったと言っています。三剣士に関しては、護衛も兼ねているため、あの場にいるのは当然で、逆に何故、我々がそれを知らなかったのかと……」

「三剣士があの場にいるだろうことは、我々も想定していた。だがたった三人では、広大な敷地をカバーすることはできん。それを踏まえての計画だったはずだぞ」

「日本の子供達も、あの場にいたようです。あの男が言うには、七師皇がその実力を認め、称号を授けたとか……」

「子供達だと?何人いたのだ?」

「六名です……」

「六人もだと!?しかも全員が、七師皇から称号を授かったというのか!?」

「あの男は、そう言っていました。さらに未確認情報ですが、三華星や四刃王もあの場にいたらしいのです」

「我々の動きが読まれていたというのか?」

「これもあの男が言っていたのですが、日本軍過激派が昨年、あの場を襲撃していたそうです。それがあの祭りの最中だったと……」

「南か……。あの男め、役に立たんばかりか、死んでからも我々の邪魔をするとは……」

「いかがなさいますか?」

「あの男からは、可能な限り情報を引き出せ。どんな些細なことでも構わん。それからしばらくは、情報収集を密にしろ。あの男を信じすぎたがゆえに、今回は失敗した。USKIAの動向も含め、対象は随時監視し、逐一報告を入れるよう命じる」

「はっ!」


――西暦2097年8月5日(月)PM16:35 成田空港 ロビー――

「オウカ、元気でやるのよ」

「ママもね。私がいないんだから、あんまり政府の人達を困らせないでよ」


 ニアは今日、ロシアへ帰国する。七師皇がこんな長期間、他国へ滞在することは極めて稀で、しかもテロリストに襲われたとなれば、最悪の場合、戦争にすら発展する可能性がある。


「心配しないで。ちゃんとやるわ。飛鳥君、真桜ちゃん、みんな、オウカのこと、よろしくね」


 だがニアは、そのことを問題にするつもりはない。むしろこれは、まだ神槍事件が終わっていないことの証明だと思っている。帰国後、政府にも軍にも、そう説明するつもりだ。もちろんそれですむとも思っていないが、あんまりゴチャゴチャうるさいようなら、最終手段を取ればいい、などという物騒なことも考えている。オウカはそれを心配している。


「はい!」

「ニアさんも、お体に気をつけてください」

「みんなも元気でね。それじゃ、また会いましょう」


 名残惜しいが時間だ。オウカと真桜を順に抱きしめると、ニアは出国ゲートへ向かって歩を進めた。


「こちらヴァイパー。グリツィーニア・グロムスカヤの出国を確認しました」

「了解した。だが手は出すな」

「何故です?」

「あれの調整がまだ完全ではない。加えて先日の中華連合強硬派の襲撃によって、いらぬ警戒を持たれている。あれの調整が済むまで、引き続き対象の監視を続けろ」

「了解しました。ところで、増員の手配は済まれているのでしょうか?」

「手配はしていない。どうかしたか?」

「自分の存在は気付かれています」

「了解した。早急に手配する。他には?」

「未確認情報ですが、三剣士は全員残るようです」

「ファントムもか?」

「帰国するような素振りはありません。おそらくですがシエルと同様に、ソレイユの護衛ではないかと」

「ありえる話だな。ナイトはどうだ?」

「こちらは少なくとも、今月いっぱいは滞在するようです」

「前世論で進展があったという話だからな。それは想定内だ」

「オラクルと行動を共にすることが多く、必然的に護衛役となっていますが、それはいかがしますか?」

「やむをえまい。彼女の説が、奴の行動を決めたようなものだからな。他はどうだ?」

「ブロッサムはプリンス、プリンセスの自宅に住むことになっています。レインボーは一人暮らしですが、前述の二人の近くに住んでいるため、難しいと判断します

「ならばハンターとクリスタルか」

「クリスタルが無難かと。彼女には弟がいます。まだ生成もできず、術師としても未熟ですが、向上心はあるようです」

「あれと接触させてみろ、ということか?」

「それも一つの手と考えます。ですが、調整に手間取っていると仰られたのでは?」

「うむ。定着していれば私でなければ抑えられんが、いまだ不安定だ。現在最終手段を使い、調整を行っている」

「最終手段を、ですか?それは……」

「わかっている。だが他に方法はなかった。我々としても、あらゆる手段を尽くしたのだからな」

「調整はどれぐらいで終了するのですか?」

「明日には終わるだろう。だが増員はすぐに送る。スパイダー、キラー・ビー、リザード、マンティス、ホッパー、レディバグの六人で足りるか?」

「十分な戦力、ありがとうございます。それでは私は、このままポイントへ帰還します。これ以上監視を続ければ、捕まる恐れがありますので」

「了解した。健闘を祈る」

「はっ!」

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