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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第五章 世界刻印術総会談編
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16・七師皇

――15:23 神戸 ポートアイランド 日本刻印術連盟議会本部 特別応接室――

「失礼します」

「親父、全員連行してきたぞ。って、七師皇だけじゃないのかよ!?」


 特別応接室で待ち構えていたのは七師皇、刻印三剣士、三華星、四刃王という、世界と日本の最上位術師達だった。そうそうたる顔ぶれに、さすがに腰が引けてしまう。


「セシルさんと星龍さんもいるのは当然として、名村先生も呼ばれたんですか?」

「まあ、その……なんだ……」

「名村君は龍堂さんに推薦され、新たな四刃王になってもらった」

「四刃王に!?」

「名村さんの実力は、俺や雅人もよく知ってるからな。当然のことだろう」

「ちょっと待ってください。じゃあなんで、お兄ちゃんがいるんですか?」

「偶然歩いていた所を捕獲させてもらった」

「捕獲って……」

「言い方が悪ければ、拉致って言い変えましょうか?」

「もっと悪くなってるじゃない!なんてことしてるのよ!!」

「お兄ちゃん、何で逃げなかったの?」

「三女帝に囲まれて、どうやって逃げろって言うんだ?」

「ごめん、私が悪かったわ……」


 三女帝に囲まれてしまえば、一流の術師であっても脱出は不可能だ。むしろ逃げることができたら、手放しで称賛するだろう。


「そうでもないでしょう。菜穂があなたの法具の能力を知らなかったら、多分逃げ切れてたと思うわよ」

「あれは危なかったわね。あんな法具、初めて見たわ」

「お兄ちゃん、やっぱり生成できたのね!」

「そ、そうなんですか!?」

「隠してたっていうより、特殊すぎるからあんまり知られたくなかったんだよ。お前の自信も奪いたくなかったしな。もっとも、そんな必要はなかったみたいだが。飛鳥君と真桜ちゃんがブリューナクの生成者だと聞かされた時は、俺の方が自信喪失しそうだったぞ」

「まあねぇ。この一年で、どれだけのトラウマ負わされたことか……。って、それより、何なのよ、特殊な法具って?」

「そんなに特殊なんですか?」

「そりゃ生活型の刻印法具なんて、特殊すぎるでしょ」

「せ、生活型!?」

「ほう、それは確かに珍しいな。設置型よりも希少じゃないか」

「私も噂には聞いていたけど、実物を見たのは初めてだったわ」


 生活型刻印法具を生成する術師は、設置型や複数属性特化型、そして融合型よりも少ない。正確な数は不明だが、世界でも十数人程度と言われている。

 イーリスは携帯型と設置型、そして融合型の生成者だが、その融合型刻印法具も設置型に分類されている。その融合設置型もかなり希少だが、生成者であるイーリスでさえも、準一が生成するまで生活型を目にしたことはなかった。


「しかし御三方から逃げる寸前だったとは、さすがは“グラビティ・ライダー”ですね」

「グラビティ・ライダーって……お兄ちゃんのことなんですか!?」

「そうだ。一ノ瀬君の希望もありあまり知られてはいないが、一部ではかなり有名だ」

「ということはもしかして、光理さんの法具も生活型なんですか!?」

「ええ、そうよ」

「いったいどんな法具を生成したのかしら……」

「全員で囲めば、見せてくれるんじゃない?」

「本気ですか?」

「冗談よ。だけどもしかしたら、一ノ瀬君は知ってるかもしれないと思ったのよ」

「私が話したかもしれないってことですか?」

「いいえ。一ノ瀬君も神槍事件の際、明星高校に派遣されていたの。私と一緒に海岸から向かっていたのよ」

「え?じゃあ光理さん、見てたんですか?」

「遠目でだったけどね。襲撃が激しかったから、一ノ瀬君とは途中で二手に分かれたんだけど、彼も見てるんじゃないかって思ってたのよ」

「なのに私には何の挨拶もなしって、どういうことなのよ?」

「そんな暇はなかったんだよ。秋本さんと合流してから、アンサラーの領域外にいた過激派の残党討伐してたからな」

「え?それじゃあ革命派は、それより外にいたってことなの?」

「それか恐れをなして逃げた連中か、だろうな。連中のことは調査を含め、上杉局長に任せてある。それより君達を呼んだのは、君達にも称号が必要だと思ったからだ」

「じゃあな、親父」

「飛鳥、どこ行く?」


 父の戯言に付き合う暇は持ち合わせていない、とばかりに、飛鳥も真桜も、名立たる刻印術師の前だというのに、あっさりと踵を返した。


「なかなかいい反応だな、息子に娘よ」


 だが一斗としても、二人の反応は想定内だ。


「昨夜の酒が抜けてないのかよ!七師皇に三剣士、三華星に四刃王まで集めておいて、なんでそんな話になるんだよ!?」

「飛鳥君も真桜ちゃんも落ち着いて。今回はちゃんと意味があるんだから。三剣士の時とは違って」

「……は?」

「三剣士の時とは違って……?」


 自分の耳を疑うようなセリフが、よりにもよって七師皇からもたらされた。意味がよくわからないし、わかりたくもない。


「刻印三剣士は三年前の総会談で、三上代表が発案されたんですが……」

「俺達の法具が剣状だからっていう理由もあるが、アーサーのために考案された称号なのは間違いない。間違いないんだが……」

「ノリと勢いで決められた称号であることも、間違いないんだよ……」

「……空いた口が塞がらねえ……」

「ノリと勢いで決まったって……そんないい加減だったんですか!?」


 だが知りたくもない答えは、よりにもよって三剣士当人達からもたらされてしまった。世界最強の剣士の称号が、そんな適当に決められていたなど、夢にも思わないし、思えるわけがない。敦のように、空いた口が塞がらないのも当然だ。


「いい加減とは失礼だな。雅人とミシェルは七師皇に匹敵する実力者であり、アーサーはエクスカリバーの生成者だ。どの国も無視することができるわけがないだろう」

「それはそうでしょうけど……」

「それならば新しい称号を作ってしまうことが一番手っ取り早い。どんな称号にするか、けっこう悩んだんだぞ」

「カーディナル3とか、ノーブル・ソードマンとか、けっこう候補はあったわね」

「だがやはりシンプルにいくべきだという結論に達し、刻印三剣士という称号に決まったわけだ」

「……比較的どうでもいいわね」

「むしろ聞いちゃいけない話よね……」


 称号に候補があることは珍しくない。いつの間にか定着した称号であっても、それまでは様々な異名で呼ばれることがあるのだから、これはいい。雅人とミシェルが七師皇に匹敵する実力者で、アーサーがエクスカリバーの生成者だということも、考慮されて当然だ。

 だがだからといって、ノリと勢いで決められてしまっては、立つ瀬がない。三人が三剣士の称号をあまり好んでいないのも、納得がいくというものだ。


「それでなぜ、私達に?意味があるというお話でしたが……」


 雪乃もあまり考えたくないが、深く考えるのはやめたようだ。おそらくそれは正解だろう。


「ええ。さっき山の中で、USKIA軍に襲われたでしょう?」

「知ってたんですか!?」

「な、なんで!?」

「私があなた達を監視させてもらっていたの。アイザックが総会談後に動くことは確実だったから」

「イーリスさんが?」


 イーリスは融合型刻印法具の生成者であり、融合設置型刻印法具“サテライト・ヴァイゼ”で飛鳥達の監視を依頼されていた。そのため、鉄拐山でUSKIAの襲撃を受けたことを確認している。


「では僕達を襲撃してきた部隊に、アルフレッド・ラヴレスがいたこともご存知ですね?」

「ええ。さすがに驚いたわ。でもあなたと何か話した後で退いたことから、彼の本意じゃないだろうこともすぐにわかったわ」


 ウィズダム・レオン アルフレッド・ラヴレスの名は、当然七師皇も知っている。USKIAの最上位術師だということはもちろんだが、アルフレッド・ラヴレスは先代七師皇ラルフ・ラヴレスの息子であり、会ったこともある。六年前の総会談で七師皇の称号を継いだイーリスも、当時はまだ学生だったアルフレッドとその妹に、開催国であるドイツで面会している。


「はい。軍人なので上からの命令には逆らえない、と言っていました。ですので彼に、三剣士を敵に回す覚悟が必要だという伝言をお願いしました」


 軍人だった父に軍人としての生き方を叩き込まれていたアルフレッドだが、同時に刻印術師としての生き方も叩き込まれていた。おそらくだが軍人としてより、刻印術師としての生き方に従ったのだろうとイーリスには思えた。


「ほう、なかなか思い切ったな」

「いえ、俺でも同じことをしました」

「同じく。俺も雅人も、無関係じゃありませんから」


 雅人もミシェルも、躊躇いがない。

 三剣士の中では、アーサーが最も接点がない。そのアーサーが、自分達に代わりアイザック・ウィリアムに宣戦布告までしてくれたことは、二人にとっても心から感謝できるものだった。


「ありがたいことね。でもそれとこれとは別。あなた達に称号を用意する意味は、あなた達を守るという意味が強いの」

「私達を?」

「この場にいる者は、全員が君達の法具の特性を知っている。飛鳥、真桜、ジャンヌ君。君達が神器生成者だということもだ」

「それはいいんですけど、それと守るってことがどう関係するんですか?」


 この場にいるのは世界最強と日本最強達だ。自分達が神器生成者だということを知っていても、少しも不思議ではない。セシルや星龍にいたっては、直接見ている。

 だがそれはそれだ。話が繋がらない。


「それは簡単だ。称号を与えられる術師や生成者は実力者だが、同時にどの国も手を出さないという不文律がある」

「ですがアイザック・ウィリアムは、その不文律を破っていたんですよね?」

「残念ながらな。だがこちらに関しては、七師皇の不文律よりも重い。称号を持つ刻印術師や生成者は所属国だけではなく、他国にもその名を知られることとなる。それが未成年だろうと、例外ではない」

「だから亡くなったり行方不明になったりなんかしたら、すぐに情報が共有されるのよ。もちろん犯罪を犯したり、殺害されたりなんかしても同様よ。何をしたのか、何で殺されたのか、それを隠すことは許されない」

「じゃあ南や宮部も、ですか?」

「その通りだ。だが術師の特性や法具の能力は、犯罪者でもなければ公表することはない。例外は神器生成者ぐらいだ」

「だからといって、ブリューナクやダインスレイフのことまで公表するつもりはないわよ」

「ダインスレイフの生成者は、公式では死亡したことになっているし、ブリューナクの生成者は、結婚と同時に公表するっていうのが日本政府の公式声明がある。私達もそれを認めたわけだから、先走るわけにはいかない」

「あ、でも式には呼んでね。今から予定を押さえておかないといけないから」

「は、はあ……」

「一斗、予定はいつなんだ?」

「99年の三月下旬か四月上旬だ。まだ式場をどこにするか悩んでいるところで、正確な日にちは決めかねている」

「な、なんでお父さんが決めてるの!?」

「当然じゃない。あなた達の結婚式は、日本だけじゃなく、世界の刻印術師にも大きな影響を及ぼすのよ。小さな式場で、っていうわけにはいかないのよ」

「ということは、護国院神社か?」

「そこも候補だが、真桜が和装か洋装か、どちらを選ぶかだな」

「女の子の夢だものね」

「勝手に決めるな!それより話を進めろ!!」

「気の短い奴だな。脳の血管が切れてもしらんぞ」

「誰のせいだ!」


 先程から飛鳥の額には、かなり大きな青筋が浮かんでいる。七師皇は自分達のペースを崩さない。相手を自分のペースに引きずり込む。

 だがこんなことでは、いつまでたっても話が進まない。ようやく本題に入ったと思ったのもつかの間、一瞬にして脇道が本道になりかけてしまった。

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