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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第五章 世界刻印術総会談編
81/164

15・クレスト・ナイト

――PM12:52 神戸 須磨浦公園――

「これが源平合戦の史跡ですか」

「思ってたより簡素ですね」


 雪乃に誘われたアーサーは、二つ返事で同行した。自分としても願ってもない申し出なのだから、断る理由がない。


「900年ぐらい前のいくさですからね。でもロープウェイで山頂まで行けば、鉄拐山てっかいざんまで歩いていけますよ」

「鉄拐山?」

「ええ。義経が逆落としを仕掛けたって言われている山です。飛鳥の前世が義経なら、そこに行けば何か反応があるかもしれないし」

「大いにあり得ます。そういうことなら、是非行ってみたいですね」

「俺も気になるな。実感はないけど」


 自分の前世と言われれば、気になるのもわからない話ではない。だが自分でも言うように、実感も沸いてこない。


「でもさゆり。仕掛けたって言われてるって、どういうことなの?」

「え~っとね……」

「義経が逆落としを仕掛けた場所が鉄拐山とは限らないからでしょう?」

「え?委員長、知ってるんですか?」

「一応だけど。飛鳥君の前世が源義経かもしれないと思ってから、いろいろ調べてみたの。そうしたら逆落としは鵯越ひよどりごえから行われたっていう記述があるの。そこには源平町という地名もあるわ」

「そうなんですか?」

「ええ。だけど鵯越は神戸駅に近いの。ここからかなり離れてるから、一の谷にある平家の陣に逆落としをかけたとは考えにくくて、戦前から今も論争が続けられているわ。有力視されているのは、鵯越から鉄拐山まで山道を駆け、一気に奇襲を仕掛けたという説ね」


 成績優秀者であり、前世論にもかなり興味を持っている雪乃は、当たり前のように答えている。


「それじゃあここに平家の本陣があったのは間違いないんですか?」

「敦盛塚があることから見ても、それはほぼ間違いないと思うわ」

「アツモリヅカ?それは何なんですか?」

「平敦盛という、平家の武将です。平経盛の末子で、平家の棟梁 平清盛の甥にあたるんですが、一の谷の戦いで悲劇の最期を遂げた若武者として有名です」

「なるほど。それにしても雪乃さん、よくご存知ですね」

「慌てて調べた感は拭えませんけど、私も興味があることでしたから、ずっと調べていたんです」

「そうだったんですか?」

「ええ。去年、真桜ちゃんから夏越の舞の話を聞かせてもらってから、飛鳥君と真桜ちゃんの前世はすごく興味があったから」

「そんな前からだったんですね。でも委員長、佐倉君と同じで、歴史は苦手じゃありませんでしたっけ?」

「それは言わないで!それに苦手じゃないわよ!」

「ですよね。雪乃先輩も納得できなかっただけで、期末はちゃんと結果出してましたもんね」

「そういえば、香奈先輩がすっごく落ち込んでたわね。飛鳥もだけど」

「言うな!すっげえショックだったんだからな!」


 香奈は雪乃に、飛鳥は大河に、それぞれ歴史で完全敗北を喫した。今後も勝てる見込みはかなり低い。だが飛鳥も香奈も、いまだに納得できていない。


「歴史は僕も苦手ですよ。特に刻印術師だったのではないかと言われている人物は、どこの国でも特定には至っていませんし」

「それも意外ですね。前世論を勉強してる人って、歴史が得意だと思ってましたよ」

「もちろん得意な人もいますが、むしろ歴史を知らない方が変な先入観を持たないだろうと言われています」

「それはあるかもしれませんね。私も最初は、静御前が真桜ちゃんの前世だと思っていました。だけど調べて行くうちに、どうしても矛盾と言うか、納得のいかないところがでてきてしまいましたから」

「雪乃さんのお話を聞けば聞くほど、その疑問は大きくなりましたよ。やはり雪乃さんの言うとおり、静御前は実在しましたが、伝えられているような人物ではないということでしょうね」


 アーサーは日本の歴史は詳しくない。オーストラリア人なのだから、これはわからない話ではない。むしろ勉強してから来日したと言ってもいいだろう。


「アーサーさん、けっこう詳しいんですね」

「僕も急いで調べたんですよ。真桜さんの前世を調べることが目的でしたが、飛鳥さんの前世までわかるかもしれないとなれば、それぐらいは当然です」

「それでも真桜より詳しいですよね」

「放っといてよ。歴史ができなくても、生きていけるんだから」

「刻印術師として、それはどうかと思うけどな。それより登ってみようぜ。ロープウェイで行けるんだろ?」

「そうね。行ってみましょうか」


――PM12:52 神戸 鉄拐山――

「ここが鉄拐山か」

「普通のハイキング・コースなのね」


 山頂には小さな展望台や遊園地もあるし、歩いて登ることも、山の中を歩くこともできる。そのため山道も整備されており、夏休みでもある今日も、山上は家族連れで賑わっていた。


「ここだって確定してるわけじゃないからね」

「だけどいい景色ね」

「あれ?どうしたの、飛鳥?」


 ロープウェイを乗り継ぎ、終点で降りた所で、飛鳥が何かを気にするような仕草を見せた。そんな飛鳥の様子に敏感に反応したのは、もちろん真桜だ。


「いや……なんかあっちが気になってな」

「あっちって……特に何もなかったと思うけど?」


 飛鳥が指した方角は、少しハイキング・コースから外れていた。


「いえ、もしかしたら……」

「おそらくそうでしょう。飛鳥さん、案内をお願いできますか?」

「え?あ、はい」


 そんな飛鳥を見て確信を得た雪乃とアーサーは、あえて案内を頼んだ。飛鳥の前世が義経ならば、逆落としを仕掛けた場所がここならば、飛鳥が反応してもおかしくはないし、むしろそれを期待していたのだから。


「なんかぐんぐん進んでくが、あいつ、ここ来るの初めてだよな?」

「そうなんだけど……随分慣れてる感じがするなぁ」


 飛鳥は神戸に来たことはない。だが飛鳥は、一切の迷いもなく、ハイキング・コースから外れた山道を進んでいる。


「ここです」

「けっこう歩いたわね」

「見事に山の中ね。飛鳥君、なんでこんなところに?」

「俺にもわからん」

「やっぱり飛鳥君の前世は、源義経だということよ。この山は義経が一の谷の戦いにおいて、逆落としを仕掛けたと言われる場所だから」

「ということは、この下に平家の本陣があったってことなのね」

「あれ?井上君、どうかしたの?」

「ああ。なんか俺も……懐かしいってわけじゃないんだが、ぼんやりと覚えがあるような気がしてな」

「え?」

「どういうこと、それ?」

「わからんが、もしかしたら俺の前世とやらは、義経に関係してるのかもな」

「逆落としを仕掛けたのは義経を筆頭とした勇士七十数騎と言われているけど……武蔵坊弁慶や義経四天王と言われる佐藤兄弟、蒲田兄弟、伊勢義盛、亀井重清、鷲尾義久とか有力な武将が多いのよね」

「それって飛鳥君以上に特定が難しいってことですよね?」

「難しいですが、それでも候補が絞れているだけマシですよ」

「そうですね。特に男性は様々な資料が残っていますから、女性に比べればまだ特定はしやすいと思います。ですがそれより……」

「そのようですね」


 突然雪乃とアーサーの顔に、警戒の色が浮かんだ。


「え?どうかしたんですか?」

「みんな、油断しないで。既に囲まれてるから」

「えっ!?」

「か、囲まれてる!?」

「だ、誰なんですか!?」

「そこまではわからないけど、全部で20人はいるわ」

「おそらくはUSKIAでしょうね。そして狙いは……」

「飛鳥、真桜、ジャンヌさんの三人ってことですか!?」

「わ、私達が!?」

「それは当然だろうな。だけど俺達がここに来たのは偶然だ。なんでここで、っていう疑問はあるな」

「可能性の問題としてなら心当たりはあります。真桜さんの前世が静御前ではないかという説は、前世論では有力です。誰が知っていても、不思議ではありません」

「じゃあ私達がここに来るって予想して、あらかじめ部隊を配置してたってこと!?」

「多分そうだと思うわ。来るわよ!」

「雪乃さんはみんなを守ってください。ここは僕が」

「わかりました。お気をつけて」

「ありがとうございます」


 そう言うとアーサーは投剣状消費型刻印法具ウェザー・イリュージョンと携帯型刻印法具ヒート・ヘイズを生成した。

 同時にウイング・ライン、スカーレット・クリメイション、ライトニング・スワロー、ダイヤモンド・スピア、バリオル・スクエア、スノウ・フラッドが次々と発動し、飛鳥達に襲い掛かった。

 だが生成と同時に発動させたアーサーのアルフヘイムと、雪乃が発動させたニブルヘイムの多重結界が全てを防いだ。


「あれがアーサーさんの……」

「雪乃さんも、いつの間に法具を……」


 アーサーは刻印神器エクスカリバーの生成者であり、刻印神器は融合型刻印法具に分類されている。そのためアーサーが複数の刻印法具を生成することは当然だ。だが有名なのはあくまでもエクスカリバーであって、融合前の法具の形状はあまり知られていない。

 ジャンヌには雪乃がワイズ・オペレーターを生成していたことが驚きだった。部分生成できるという話は聞いていた。だが生成した気配はなかったし、何よりアーサーと多重結界を展開させるなど、予想外だ。しかも雪乃は、同時にエアマリン・プロフェシーを発動させ、後を尾けてきていたであろう敵対者達を結界に閉じ込めている。


「お見事です。すごい精度ですね」

「今の状態じゃ、あまり長く持ちませんけど……!」

「いえ、十分です。あとは任せてください」


 アーサーはエアマリン・プロフェシーの結界を対象に、火性S級広域対象術式レインダガー・サイクロンを発動させた。

 投剣状であるウェザー・イリュージョンを投げ、剣、炎、稲妻を雨のように降らせ、気圧差によって竜巻すら発生させるレインダガー・サイクロンは、エアマリン・プロフェシーの結界の前では、通常ならば効果は薄く、相克関係の問題もあり、積層術としての相性はいいとは言えない。

 だが雪乃は属性相克を反転させる特性を持っている。結界の一部の相克関係を反転させ、水蒸気爆発や炎の霧などの相応関係を発生させ、ほとんどの襲撃者をあっという間に消滅させた。


「すげえ……」

「あれがアーサーさんの……」

「委員長も……いつの間にそこまで精度を……」


 アルフヘイムとニブルヘイムだけではなく、レインダガー・サイクロンとエアマリン・プロフェシーというS級術式の積層術を、しかも相性が悪いであろう属性で発動させるなど、余程の腕がなければ不可能だ。アーサーはともかく、雪乃がそこまで精度を上げていたことは、飛鳥達にも驚きだ。


「おいおい……俺以外全滅か。クレスト・ナイトはともかく、そっちのお譲ちゃんもとんでもないな」


 唯一生き延びた男が、呆れたような声を上げた。


「あなたはUSKIAの……いえ、アイザック・ウィリアムの部下ですね。このことが公になれば、USKIAが世界から孤立するかも知れないことを理解しているんですか?」

「しているよ。俺だってこんな馬鹿な真似はしたくない。だが悲しいかな、軍人は上からの命令に逆らえん。たとえ白でも、上が黒と言えば黒になる。それが軍だ。三剣士のクレスト・ナイトといえど、まだ学生にはわからんだろう?」

「わかりたくもありませんね。そもそも僕は、軍に入るつもりはありません。仮に軍に入ったとしても、刻印三剣士や七師皇は、国の意向に必ずしも沿う必要はありません。むしろアイザック・ウィリアムが例外でしょう」

「あの男のことか」

「それで、どうしますか?雅人さんやミシェルさんほどではありませんが、僕と一戦交えますか?」

「これ以上クレスト・ナイトとやり合うつもりはない。不意打ちを見抜かれていた上に部下達が全滅した以上、俺がここにいる意味もない」

「ではアイザック・ウィリアムに伝言をお願いします。彼らを狙うなら、三剣士を敵に回す覚悟が必要だと。その結果、四度目の世界大戦の引き金を引くことになる可能性もあると」

「伝えよう。聞き届けてもらえるとは思えんが」

「他の人ならそうかもしれませんが、ウィズダム・レオンならば別でしょう」

「俺のことを知っていたか。いいだろう。だがさっきも言ったが、保証はできん」

「構いません。伝えてくれたという事実が重要ですから」

「了解した」


 男は本当にやる気がなかったのだろう。あっさりと場を退いた。


「アーサーさん、今のは……」

「彼はアルフレッド・ラヴレス。ウィズダム・レオンと呼ばれるUSKIA最上位の刻印術師です」

「あの人が元七師皇ラルフ・ラヴレスの息子だったんですね。でもなんでそんな人が、アイザック・ウィリアムの下に……」

「それはわかりません。ですが先程の彼は、本気ではありませんでした」

「本気じゃなかった?どういうことなんですか?」

「アルフレッド・ラヴレスは雅人先輩やさつき先輩と同じ、複数属性特化型の生成者と言われているわ。形状は不明だけど、剣状じゃないことだけは確かよ」

「複数属性特化型!?」

「剣状じゃないって、何故わかるんですか?」

「彼の法具が剣状だったら、三剣士ではなく四剣士になっていたと言われているからです。本気だったら、僕もただでは済まなかったでしょう」

「それって……エクスカリバーを使ってもってことなんですか?」

「はい。そもそも僕が三剣士に名を連ねられている理由は、エクスカリバーが刻印神器と言われているからです。僕がエクスカリバーを生成したのは三年前で、雅人さんとミシェルさんに刻印融合術を教えていただいたから生成できたと言えます。鞘がない不完全な剣である以上、刻印神器と呼びたくありませんが」

「でもミシェルさんから、エクスカリバーにもダインスレイフやブリューナクのような意思があると聞いています。鞘がないのはある意味では伝説通りで、聖剣であることに変わりはないはずじゃ?」

「確かにそうです。ですが最初から鞘がなかったわけじゃありません。伝説の聖剣と刻印神器が全く同じ物とは限りませんが、近い物であることも間違いないでしょう。だからこそ、完全とは言えないんです」

「エクスカリバーの鞘はどんな傷も癒し、不死身の肉体を与えると言われていますが、それは関係ないってことなんですか?」

「現実味がありませんしね」

「でもそっちの……ウェザー・イリュージョンでしたっけ?それも剣ですよね?」

「正確には投剣状消費型です。なのでウェザー・イリュージョンに鞘がないのは当然です」

「え?それ、消費型なんですか?」

「それにしちゃデカいですね。普通の剣より一回り小さいぐらいか?」

「でもそれが消費型なら、術式の発動は俺のより面倒そうだな」

「そういえば飛鳥さんも消費型でしたね。ですがそこは慣れと使い方次第、と言った所です」


 消費型刻印法具は、一つの術式しか組み込むことができず、一度刻印化させてしまえば、設定の変更もできない。生成者の印子が許す限り、無数に生成することは可能だが、飛鳥のエレメンタル・シェルはともかく、アーサーのウェザー・イリュージョンは大きすぎる。アーサーはその欠点を、携帯型のヒート・ヘイズを同時に使用することで、補っているようだ。


「すげえな。さすがは三剣士」

「でも雪乃さんもすごかったわ。三剣士に合わせて術式を発動させて、さらには積層術まで使うなんて、とんでもないですよ」

「相性が良かっただけですよ」

「いや、どう見ても相性最悪でしたよ。アルフヘイムとニブルヘイムはともかく、S級の積層術なんて、水と火っていう一番難しい組み合わせだったじゃないですか」

「みんな、私の特性知ってるでしょう?それのおかげよ」

「確かにそれはあるでしょうけど……委員長とアーサーさんが組むのって初めてじゃないですか。すごい精度でしたよ」

「飛鳥君や真桜ちゃん程じゃないと思うけど」

「お二人の多重結界は、雅人さんとさつきさんより強固だと伺っていますよ」

「私もそう聞いています。オルレアンでも私のヘルヘイムの中でニブルヘイムとアルフヘイムの多重結界を展開させていたからこそ、一方的な展開にならなかったと聞きました」

「あ、やっぱりあの時、多重結界使ってくれてたんだ。余裕なかったから確認できなかったけど」

「本当に展開させただけで、何もできなかったけどね」

「強度不足は否めなかったな。雅人さんのジュピターに、簡単に吹き飛ばされたし」

「三剣士って結界術式を破るのが上手いわよね。私も何度か練習したけど、全然ダメだったわ」

「さゆりって本当に負けず嫌いよね」

「いいじゃない。飛鳥や真桜もできるんだし、私だってそれぐらいはできるようにしときたいわよ」

「気持ちはわかるけどね。私も同じこと考えて、練習してるけど。あんなに難しいとは思わなかったわ」

「俺達だって失敗することは多いぞ」

「この中で一番上手いのって、やっぱり井上君よね」

「あれはバスター・バンカーの特性だからな。俺が上手いわけじゃないぞ」


 敦の刻印法具バスター・バンカーは、術式刻印を破壊する特性を持つ。刻印術が刻印から発動するという原則がある以上、この特性はかなり有用だ。広域系はもちろん、探索系や防御系ですら破ることができるのだから、汎用性も応用性も高い。


「直接拝見させていただいたので言えますが、あれは正確に術式刻印の中心を貫かなければ、効果を発揮しないのでしょう?それができるわけですから、敦さんは一流の技術と実力を持っていますよ」

「あの時使われていたら、多分戦況は変わっていたと思います」

「だってさ」

「……すっげえむずがゆいんだが、どうしたらいいんだ、これ?」

「褒められたんだから、素直に受け取れよ」

「そうよ。いっそのこと、四刃王に立候補でもしてみたら?」

「できるか、んなこと!」

「親父には話しといてやるよ」

「他人事どころか積極的介入かよ!ふざけんな!」

「飛鳥、お父さんみたいな顔してるよ?」

「やっぱり親子ってことね。さつき先輩にいい土産話ができたじゃない」

「頼む!それだけはやめてくれ!!」

「ははは。それでは戻りましょうか。飛鳥さんの前世が源義経である可能性が高いことだけではなく、敦さんの前世も逆落としを仕掛けた武将の誰かであることがわかったことは大きな収穫です。ここに来た甲斐がありました」

「前世論って、けっこう面白いんですね」

「候補が判明していなければ、どうしようもありませんけどね。でも井上君の前世も気になるわ。名前がわかってる武将だけでもいいから、調べてみないと」

「前世じゃこいつが主だったとは、思ってもいなかったな。今も似たようなもんだが」

「そんなことはないだろ。おっと、電話か。誰から……って親父かよ!?」


 そこに鳴り響いた飛鳥の端末だが、電話をかけてきた相手の名前を聞いた瞬間、場に先程より強い緊張感が生まれていた。


「また見てたかのようなタイミングね。出ないの?」

「……出なきゃならんか?」

「気持ちはわかるけど、総会談のことかもしれないから、出ないとマズいと思うよ」

「はあ……。もしもし」


 飛鳥は本当に嫌そうな顔をしながら、渋々と端末の通話機能をオンにした。


「は?議会本部に帰ってこい?なんでだよ?話がある?は!?七師皇から!?わかった、全員だな」

「……なんか、すっごい嫌な予感がするんだけど」

「寄寓だな、俺もだ……」


 帰ってこいと言われるのはまだわかる。だが一斗だけではなく、七師皇からとなれば、嫌な予感しかしない。


「ああ、わかった。今から戻る。それじゃな」


 そう言うと飛鳥は通話機能をオフにした。


「ってわけだ。すげえ嫌そうな顔してるな」

「当たり前じゃない。七師皇から話って、いったい何なのよ?」

「知らん。どうせロクでもないことだろ」


 何度も言うが、七師皇は世界最強の刻印術師の称号であり、世界中の刻印術師達の憧れでもある。人気の面でこそ三剣士に劣るが、実力は三剣士を凌ぐ。


「昨日の今日だもんね。でも七師皇呼んでるんなら、帰るしかないのかぁ」


 七師皇から呼び出されるなど、一介の高校生にすぎない自分達からすれば、身に余る光栄だ。だが既に、七師皇の性格を知ってしまったばかりか、総会談の席で巨大な罠にはめられている。飛鳥と敦にいたっては、昨夜は狂乱の宴にも巻き込まれた。いったい何があるのか、想像もつかない。

 全員の足取りがとてつもなく重くなっているのも、無理もないことだろう。

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