9・候補
――西暦2097年7月20日(土)AM8:10 明星高校 2年2組教室――
「おはよう、かすみ」
「おはよう、ってどうしたの?」
「ちょっとな」
「ちょっとじゃないわよ。特に井上君、けっこう眠そうだけど?」
「仕方ないんだよ、それは。井上、今日はどうするんだ?」
「どうもなにも、約束しちまったからな。一度家に帰って着替え取ってくるしかないだろ」
「さゆりと久美も?」
「ええ、そうよ」
「なんだかんだで源神社に着替え置いてる俺達って、どうなんだろな?」
「今月は仕方ないわよ。それより既に、私達の部屋と化してる空き部屋の方が怖いわ」
「え?そうなの?」
「大河君と美花には神社のことをお願いすることが多いから、二人が泊まり込む時は空き部屋を使ってもらってるの」
「あれはもう空き部屋じゃないだろ。住み込みかって思えるほど整ってたぞ」
「それぐらい頼むことが多いんだよ。幸い、部屋はあるからな」
「そうだ。かすみもうちに泊まりに来ない?」
「私?何かあったの?」
「あったの。驚くわよ、きっと」
「驚かなかったら、逆にそっちがビックリだろ」
「そうよね」
「何か、すごく怖いんだけど……」
「大丈夫よ。トラウマ負わされるわけでも、ホラー系でもないから」
「信じるわよ」
「決まりね」
「あとは今日の放課後、何もないことを祈るだけか」
「昨日のことで軍と警察が学校の周囲を監視してくれてるそうよ。だから大きな問題は起きにくいんじゃないかしら?」
「俺達の理屈が通用するならな」
「まあそうなんだけどね」
「でもうちの生徒はおとなしくしてるでしょ。昨日井上君とさゆりが、校門前で派手なことしちゃったんだし」
「……言うな」
「すっごい反省してるわよ。そう言う久美はどうなのよ?」
「私は委員長と一緒に結界張ったから、見られてはいないわよ。解除したあとが大変だったけど……」
「もしかしてそれ、去年私達が散々言われたことじゃない?」
「そうなる、の?」
「悲しいかな、そうなるのよね。だってさ、私達が巻き込んじゃった1年生、腰抜かしてたじゃない」
「俺達だけが結界から出てきたから、それで驚いたと思ってたんだが、そうじゃなかったもんな」
「巻き込んだわけじゃないでしょ。あれは不可抗力だったと思うわよ」
「相手が相手だったからな。手加減なんかしたら、逆にやられてただろ」
「まあな。正当防衛が成立したのが救いか」
「しなかったらそっちのが問題だぞ」
「そうよね。おかげでみんな無事だったんだし。あ、思い出した。昨日 講堂にみんなを集めたじゃない?」
「ああ」
「そこで多分、さゆりと井上君が助けた1年生だと思うんだけど、刻印三剣士に助けられたって言ってたのよ。本当なの?」
「本当よ。私達も驚いたわ」
「騒ぎになるからってことで校内に入ることは遠慮してくれたけど、全員が下校するまで近くにいてくれたらしいぞ」
「本当だったんだ……。なんでこんなとこに来たの?」
「それは後で話すわ。ここじゃ話しにくいし」
「……そうね」
――AM11:50 明星高校 刻練館――
「神崎さん、小山さん、後藤さん」
「三条さん、まどか。こっちに来てくれたの?」
「ええ。こっちはどんな感じ?」
放課後の刻練館には副会長の優奈と保険委員長の沙織、自治委員長の後藤 歩夢の姿があった。七月いっぱいは刻練館の使用を禁止することが職員会議で決まったためだ。事情が事情なので生徒だけに作業をさせているわけではなく、教師の姿もある。
「プールの水を抜くのに、ちょっと時間がかかっちゃってるの。水泳部が使う予定だったから仕方がないんだけど、それ以外は終わってるわ」
「さっき向井君から連絡があって、講堂は終わったそうよ」
「確か講堂って久美と香奈が行ってたわよね?」
「ええ。校門前は葛西君、鬼塚君、井上君、さゆりさんにお願いしてあるわ」
「それから戸波君が飛鳥君と、エリーが真桜ちゃんと一緒に校内を巡回中よ」
「え?それじゃあ風紀委員会室は?」
「酒井君、望さん、佐倉君、美花さん、新田君がいるわ。バランスを見て配置したつもりだから、大丈夫だと思うわ」
「生成者はあんまり考慮してない感じだけど、いいの?」
「そうでもないわよ。相性がいいことは確認済みだし」
「風属性が少ないのは間違いないんだけどね。あ、私は周囲の様子を見ておくわね」
風紀委員は3年生が九人、2年生が七人、1年生が一人の総勢十七人だが、属性別で見ると水属性が五人、火属性が五人、土属性四人、風属性が三人と、風属性に適性を持つ者が若干少ない。十月になれば新体制となるため、三年生を除けば水属性二人、火属性二人、土属性三人、風属性一人と、さらにバランスが悪くなる。
「そういえばみんな、もう後任って決まってるの?」
「自治委員会は例年通り、生徒会選挙に合わせて委員会内での選挙だから、私の意見なんて通らないわよ」
「保険委員会は難しいのよね。医療系が得意なら決まりなんだけど、そんな子ってあんまりいないし」
「いても困るわよ。でも明日から夏休みだし、二学期になったらすぐ考えないと、けっこう大変よ」
「その点風紀委員会は楽なんじゃない?」
「ええ。実力的にも実績的にも、飛鳥君か真桜ちゃんね。多分、飛鳥君になると思うけど」
「そういえば三上兄妹って、入学直後から風紀委員やってたわよね。融合型なんてものを生成できるんだから、それも解る話だけど」
「再来年以降が心配なんだけどね」
「それはそうでしょう。生成者が六人、うち五人が同学年なんて前代未聞だわ」
「贅沢な話よね。三上兄妹だけじゃなく、一ノ瀬さんも水谷さんも、どこの委員会も喉から手が出るほどほしがってるのに」
「でもやっぱり、一番は連絡委員会でしょうね」
「連絡委員会の次期委員長候補を、風紀委員会が引き抜いちゃったものね」
「井上君のこと?」
「そうそう。彼も生成者になっちゃったし、実力も高いから当然なんだけど、矢島君が嘆いてたわよ?」
「矢島君が嘆いてるのは、別の理由のような気がするけど」
「そうなのよね。あんまり術式試合の立ち会いもしてくれなかったし、時々井上君に生徒会の仕事を代行までさせてたし」
「そうなの?」
「護君もそんなこと言ってたわね。何度か注意してはいるんだけど、その都度井上君がフォローに入るから、もう諦めてたそうよ」
「それも問題ね」
「そういえば井上君って、誰に推薦されたの?」
「2年生の生成者全員よ。さすがにあの子達に推薦されたら、誰だって無視できないもの」
「全員からだったのね。それは確かに、無視できないわね」
「むしろ私達からすれば、後任より新規委員の方が頭痛いわよ」
「あ、そうか。でも2年生は十分なんじゃない?」
「2年生はね。問題は1年生よ。久美の弟君と二宮君が有力候補だけど、他の子達がまだ微妙なのよ」
「そうなの?でも去年って、けっこうすんなり決まってなかった?」
「去年の新規は今の2年生よ。術師全員が生成者って、かなりとんでもないわよ?」
「そうだったわね……」
「佐倉君と美花さんのことも、去年の春の事件から知ってたわ。だから今回は2年生は見送ることになりそう」
「私もその方がいいと思うわ。本気で再起不能になるかもしれないし……」
「その節は本当にごめんなさい……」
「さつき先輩と三上君か……。竹内君も相当なトラウマ負ってたわよね……」
「矢島君は雅人先輩にトラウマもらったって言ってたわよ。状況が状況だから、仕方なかったけど……」
「あの人達、容赦ないものね。そんなわけで、1年生の人材発掘が急務なの」
「でも今年の1年生って、例年より精度がよくないって話じゃなかった?」
「まだ不正術式を持ってる子もいるかもしれないし、人選はかなり面倒そうよね」
「そこは名村先生にも協力してもらうわ。先生なら刻印具の検査をしなかった1年生を知ってるはずだし」
「その子達は実力の有無に関わらず除外、か。妥当でしょうね」
「風紀委員になれば、勝手に実力はつくと思うしね」
「それはあるわね。三条さんもだけど、2年生も生成してから急激に実力をつけてるものね。向井君やかすみちゃんは大変だろうなぁ」
「向井君と田中さんって言えば、次の会長はどっちが有力なの?」
「向井君はちょっと敬遠気味って噂を耳にしたわ。修学旅行でお宅のお子さん達が、けっこうな無茶をしたそうじゃない?」
「それなら私も聞いたわ。何でも生成者総がかりで、フランスの術師育成学校の生徒をコテンパンにしちゃったんでしょ?」
「え?私はそこで井上君が生成して、国際問題一歩手前になったって聞いたわよ?」
「誤解されてるけど、曲解ってわけでもないわね……」
「弁解の余地がないことに変わりはないけどね……」
敦を含めて五人になった2年生の生成者は、修学旅行先のフランスで、けっこうどころではなく、かなり無茶苦茶なことをしでかしていた。許可をもらったとはいえ、古文書学校との対抗戦では遠慮なく刻印法具を生成し、魔剣ダインスレイフの件では関わるどころか完全な当事者となっている。国際問題一歩手前どころか、国際問題そのものだ。雅人とさつきが間に入ったとはいえ、よく隠し通せたと感心してしまう。
だがそれが五人の評価を不動のものとしてしまい、誤解や曲解を招く原因にもなっていた。雪乃もまどかも真実を知らされているが、どこにも弁解の余地はない。むしろその通りだと思う。
「一対一で生成者相手に勝つのって、至難の業だものね。フランスの生徒達が気の毒だわ。特に三上君と三上さんの相手」
「あの二人、けっこうデタラメだもんね。法具なんか使わなくても、そこいらの生成者ぐらい倒せるんじゃないの?」
「それは難しいところね。試合なら条件をつけることができるけど、実戦となると簡単じゃないわ」
「それはそれで面倒な話になるのね。それじゃ水抜きも終わったことだし、戸締りして生徒会室に行きましょうか」
「けっこう時間かかっちゃったわね。でもまだ少し残ってるわよ?」
「私がお掃除するわ」
雪乃がプール全体に水性E級広域術式ウォーターを発動させた。まだ残っていた水滴や水溜まりから水が集まり、一滴残らず全て排水溝へ流されていく。
「さすが3年生最強」
「それ、やめてほしいんだけどな……」
「でもすごいわね。法具を使ってるとはいえ、簡単にプール全体を覆うなんて」
「小山さんだって、それぐらいはできるじゃない」
「三条さんみたいに精密には使えないわよ。同級生にここまで差をつけられるのもショックだけど」
「刻印術師も大変よね」
「そうね。それじゃ戸締りをしっかりして、行きましょう」
――PM2:50 明星高校 風紀委員会室――
「じきに閉門か。昨日のことがあったとはいえ、さすがに早い気がするな」
「仕方ないですよ」
「まあねぇ。しかも去年からけっこうな頻度で襲撃されてるから、2,3年生は慣れちゃってるし」
「それもどうかと思うけどな。俺達も人のことは言えねえけど」
「だよな。それで三条。閉門直前だってのに、何かあったのか?」
「ええ。ちょっと早いけど、新規役員のことで相談があるの」
「さっき刻練館で話題になったのよ」
「ああ、なるほどな。確かに二学期になったらすぐだしな」
「でもさ、2年生は難しくない?」
「佐倉君と美花は術師じゃないけど、ある意味じゃ術師以上にレアだしね」
「レアって……」
「そんなことはないッスよ。むしろ術師全員が生成者っていう方がレアじゃないッスか?」
「レア中のレアだな。だが確かに、2年は無理だな」
2年生は現在七名だが、刻印術師が五名、しかも全員が生成者という、全国的にも前例がない極めて特殊な顔ぶれだ。術師ではない二人も、連盟からA級刻印術を行使可能な刻印具のテスターを依頼されている。
「候補っていたの?」
「いないわけじゃないけど、再起不能になる可能性が高いから見送ろうと思ってるわ」
「井上が加入したから、2年はそれでいいだろうな。問題は1年か」
「久美には悪いけど、弟君と二宮君ぐらいしか候補がいないのよね」
「京介と勝、ですか?」
「嫌そうな顔するなよ。俺も試験結果を見せてもらったが、刻印術や刻印学に関しては二人と新田が突出してる。飛鳥が教えてることを差し引いても、差が激しすぎるんだ」
「え?ですが期末試験、京介と勝は平均ギリギリでしたよ?」
「……浩、その話、後でゆっくりと聞かせて」
「落ち着いてよ、久美。でもそれって、筆記でしょ。私達が言ってるのは実技試験の方よ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。実技で学年総合トップは新田。次いで京介と二宮だ。お前と京介はともかく、他の術師がここまでってのは、正直どうかと思うぞ」
「今年の1年はあまり術式精度がよくないって聞いてましたが、そこまでなんですか?」
「実技を見る限りじゃ、ここ数年で一番悪いぞ」
「そんなになんですか?」
「そうなの。九月になったら変わるかもしれないけど……」
「夏休みで化ける奴って、けっこういるからな」
「難しいところだがそうも言ってられないし、とりあえずトップ10から候補を絞るようにしておいた方がいいだろう。不正術式を持ってる可能性がある奴は除いてな」
「そうなりますよね」
「九月になったら本格的に考えないとだけど、早いに越したことはないもんね」
「まあ今日で一学期も終わりだし、どのみち九月になってからだろ」
「ですね。あ、チャイム鳴っちゃった」
「閉門ね。それじゃ帰りましょうか」
「そうだな。飛鳥、明日からだが、俺達はどうすればいいんだ?」
「だいたいは志藤先輩、安西先輩、武田先輩にお任せしてますから、いつも通りで大丈夫です。出発前に一度集まってもらうことになりますが」
「わかった。出発前ということは……花火大会が25日だから、週末か」
「確か28日に出発だったわよね?」
「はい。屋台の撤去もありますから、翌日はちょっと厳しいかもしれません」
「じゃあ27日だな。前日だけど大丈夫か?」
「大丈夫です。すいませんが、お願いします」
「わかったわ」
――PM3:35 源神社 境内――
「あ、かすみ。こんなところで待っててくれたの?」
「ええ。せっかくだから、色々と見させてもらってるわ」
「あんまり大したものはないだろ。いたって普通の神社だからな」
「そんなことないわよ。私、神社って初詣とかお祭りぐらいしか来ないから、けっこう新鮮に感じるわ」
「私達はそんな風に感じたことってないかもしれないわ」
「美花は真桜やさつきさんと並ぶ看板巫女だもんな」
「そのさつき先輩だけど、境内にはいないの?」
「鶴岡八幡宮に行くって言ってたな。って、さつきさんには会ってないのか?」
「ええ。武田先輩には会ったけど」
「今日って聖美先輩だけだったっけ?」
「いや、時期が時期だから、三人とも入ってもらってる」
「お買い物かもしれないわよ。時間があったらってことでお願いしたから」
「ああ、なるほどな」
「ならまずは社務所に行って武田先輩に挨拶して、そっから着替えだな」
「それがいいわね」
「え?美花も巫女服に着替えるの?」
「ええ、もちろん」
「かすみも着てみる?」
「いえ、私はいいわ」
「そう?着たかったらいつでも言ってね」
「それじゃ社務所に行きましょう。かすみ、その後で部屋に案内するわ。私が使わせてもらってる部屋だけど」
「わかったわ」
――PM3:46 源神社 社務所――
「おかえり、早かったわね」
「聖美先輩、お疲れ様です」
「志藤先輩と安西先輩は買い物ですか?」
「ええ。真桜ちゃんから頼まれてたし」
「ありがとうございます、行ってくれたんですね。時間があったらでよかったんですけど」
「その時間ができたのよ。今日、設営用の資材を一部搬入する予定だったでしょ。だけど昨日の騒ぎで来れなくなったから、月曜日に屋台と一緒に搬入するって業者さんから連絡があったの」
「なるほど、だから時間が空いちゃったんですね。他には何かありましたか?」
「さつきから伝言で、晩御飯までには帰るって」
「でしょうね」
「じゃあ急いでやらなきゃいけないことはないってことですね」
「急ぎってわけじゃないけど、市役所から展覧会のことで電話があったわよ」
「わかりました」
「それじゃあご飯は、先輩達が帰ってきてから作りますね」
「ええ。ところで今日は誰か泊まるの?」
「委員長、井上、さゆり、久美です。他のみんなは出発の前日に集まってもらって、いろいろお願いする予定です」
「オッケーよ」
「なら真桜と美花は田中の案内だな」
「そうね。すいませんがかすみを案内してからお手伝いしますね」
「ゆっくりしてていいわよ。何かあれば呼ぶから」
「わかりました。じゃあ甘えさせてもらいます」
――PM6:45 源神社 母屋 居間――
「かすみ、そろそろ落ち着いたら?」
「む、無理言わないでよ!」
「そこまで緊張されると、俺達も食べにくいな」
「だ、だって三剣士が揃ってるだけでも驚きなのに、ここに宿泊してたなんて、思ってもいませんでしたよ!」
「気持ちはわかるけどな。でもこいつらと一緒にいると、こんなことはよくあるんだよ」
「それについては同意だ」
「ひどい言われようだな」
「否定できないでしょ」
「まあまあ。田中さんが緊張するのも仕方ないわよ。私達だってそうだったんだから」
「まあ、それはそうですけど」
「田中さん、緊張するなとは言わないけど、少しリラックスしても大丈夫よ。真桜ちゃんが作ってくれたお料理も、美味しくいただけないし」
「あ、はい。ありがとうございます、三条委員長」
「雪乃さんって面倒見がいいんですね」
「え?い、いえ!そんなことはありませんよ!」
「この子達は血の気が多いからね。フランスで何をしたか、覚えてるでしょ?」
「なるほどな」
「言われてみればそうですね。あの時もけっこうなことしてましたし」
「あれは容赦ありませんでしたね」
「まあおかげで、あいつらの刻印術に向き合う姿勢が変わったわけだから、こっちとしては助かったんだけどな」
「私が言うのもなんですけど、あの後フランスのテレビ局から出演依頼があったって本当なんですか?」
「あったな、そんなこと」
「タイミングが良いのか悪いのかわからないけど、井上君が生成した後にありましたよ。断りましたけど」
「代わりに雅人とあたしが出演する羽目になったけどね」
「古文書学校との対抗戦だけなら問題はなかったのですが、さすがにあの後という状況は、日本としてもフランスとしても、好ましいものではありませんでしたからね」
「やっぱりみんな……本当にダインスレイフと戦ってたんだ……」
「ダインスレイフっていうか、ドゥエルグっていう闇の妖精族が相手だったけどね」
「あれはキツかったな。今となっちゃ、いい経験になったってところだが」
「ドゥエルグ?北欧神話の妖精ですか?」
「そうです。強さも当然ですけど、意思があるのかわからなかったのが一番厄介でした」
「井上君が闇属性に慣れてて、さらに生成してくれたから何とかなった感じでしたからね」
「それもそれですごいですね」
「あれ?誰か闇属性いたっけ?」
「矢島委員長ですよ。連絡委員会の」
「ああ、矢島ね」
「飛鳥達の高校にも闇属性の適性者がいたのか」
「ええ。術師じゃありませんけど、けっこう高い実力持ってますよ。お、できたかな」
「できたわね」
「それじゃいただきましょう」
「美味いな。すきやきっていうんだろ?」
「本当ですね。初めて食べました」
「あ、ジャンヌさん、アーサーさん。お箸使いにくかったら、ナイフとフォーク持ってきますけど?」
「ごめんなさい、お願いできる?」
「僕は大丈夫です。ありがとうございます」
「わかりました。こっちこそ気付かずにごめんなさい」
「ミシェルさんとセシルさんは箸使えるんですね」
「けっこう日本食は好きだからな。フランスにも日本食レストランは多いぞ」
「そういえばパリにもけっこうありましたね」
「ええ。人気のお店もありますから、お箸を使えるフランス人は多いと思いますよ」
「オーストラリアはフランスほど多くないですね。ただ教授は日本食が好きなので、よく食べにいってました」
「私はあまり外食しなかったんですよ。自分で作る方が楽しかったし」
「わかります、それ」
「私もです」
「でも日本に来てから、全然お料理してないんですよね」
「旅先で料理することって、あんまりないですもんね。あ、それなら明日、一緒に作りませんか?」
「え?いいんですか?」
「はい。ジャンヌさんのお料理も食べてみたいですし」
「ありがとう、真桜さん」




