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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第四章 刻印の光と闇編
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17・刻印神器

 飛鳥と真桜は全て見ていた。自分達のせいで敦、さゆり、久美が殺されるところだった。なのに自分達を助けるために、限界まで印子を使ってくれた。


「悪い……井上、さゆり、久美……!」

「ありがとう……!雅人さん!さつきさん!」

「飛鳥!真桜!大丈夫なの?」

「平気です!それより、お願いがあります!」

「お願い?」

「俺達はジャンヌさんを、ダインスレイフの呪縛から解放したい。だからジャンヌさんが、ダインスレイフを手放してくれさえすれば!」

「……わかった。だがこちらも余裕はない。彼女の右腕ごとになるかもしれないが、それは許してくれよ」

「はい……!」

「おのれ……!よもや我の結界から抜け出すとは……!」

「あいつらのおかげだ!」

「もう私は迷わない!ダインスレイフ!必ずあなたを消滅させる!」


 二人から迷いが消えている。今まではジャンヌを傷つけないよう注意しながら、気を使いながら戦っていた。

 だがそれこそが、ダインスレイフの狙いだった。雅人とさつきが救援に来てくれるなど、思いもよらなかったが、もし来てくれなければ、三人の命は失われていただろう。二年前、大河と美花が襲われた時も、同じ恐怖を味わった。

 だから二人は覚悟を決めた。ジャンヌを救う努力はするが、それは結果的にでも何でも構わない。まずはダインスレイフを破壊する。それが二人の想いだった。


「無駄なことを。我を消すなど、神でさえも不可能。しもべが生きている限り、我は不滅だ」

「ダインスレイフよ。我が何もせず、ただ座して見ていただけだと思うか?」

「え?ブリューナク?」


 ブリューナクは飛鳥と真桜がヒート・ガーデンとシャドー・バインドの結界に捕らわれている間、動かなかった。二人に何かあれば、自分の存在に関わるのに、だ。

 だがそれには理由がある。ブリューナクは自身が槍であり、剣であることを理解している。ケルト神話の光の神ルーの神槍。それがブリューナクだ。そして今の主は飛鳥と真桜。生成される前も、封印されている間も、それは変わらない。


「主よ。ダインスレイフの柄の魔玉を狙うがいい」

「柄の……魔玉?」

「そうだ。あれには生成者の刻印が封じ込められている。それによってダインスレイフは形状を維持し、あの娘を支配している」

「なるほど。だからジャンヌの左手にもクリスにも、刻印がなかったのか」

「じゃああの魔玉を破壊すれば、ダインスレイフは消滅するのね?」

「その通りだ。二心融合で生成された以上、存在できる理由も消える。だがただの術式では破壊することは叶わぬ」

「あれか……!」

「わかったわ!」

「おのれ、ブリューナク!だがここで汝らを皆殺しにすれば済むだけのこと!我が最大の術式、とくと味わうがいい!」

「させない!飛鳥!」

「ああ!」


 ダインスレイフがアポカリプスを、飛鳥と真桜はアンサラーをそれぞれ発動させた。神話級術式がジュピターの中で激しくぶつかり合い、今にも吹き飛ばしそうな勢いを見せている。


「雅人!」

「ダメだ!こんな威力、俺の力じゃ防ぎきれない!」

「ならあたしも!」

「大丈夫です、さつきさん!」

「真桜?」

「雅人さんも、ジュピターを解除してください!」

「飛鳥?手があるのか?」

「あります!俺達が今使っているのは、アンサラーだけじゃありませんから!」

「アンサラーだけじゃない?まさか、あれを使ってるの!?」

「そうです!だから早く、ジュピターを!」

「わかった」


 雅人はアンサラーとアポカリプスによって、今にも破られそうだったジュピターを解除した。だが同時に現れたのは、巨大な盾のような結界だった。


「な、なんだ……この結界は……!」


 ミシェルは驚いていた。ジュピターを含む惑星型術式は、広域系だけではなく、結界術式としても高度な能力を持っている。だがいかに惑星型といえど、並の術師が発動させていたならば、神話級術式が発動した瞬間、破られていただろう。

 だが発動させていたのは刻印三剣士の一人だ。規模も精度も強度も、並の術師とはわけが違う。

 しかも雅人がジュピターを解除した瞬間に現れた結界は、明らかにジュピターの領域外に展開されている。つまりこの結界は、雅人のジュピターの干渉力を超えていたということだ。


「これがオハン……。光性神話級広域対象防御系術式か」

「二つの神話級を……同時に使ってるだと?そんなことが……」

「二心融合ならでは、ね。だけどあまり時間はかけられないわ!」

「わかっている!ミシェル!」

「お、おう!」


 雅人とさつきは、オハンの結界にも驚いていない。だがミシェルはそうはいかない。見ればセシルも卓也も驚いている。二つの術式の同時行使は珍しくはない。

 だが今飛鳥と真桜が使っている術式は神話級。驚くなという方が無理だ。

 だが驚くのは後回しだ。今はやるべきことは魔剣を止めること。ミシェルは無理矢理そう考えながら、雅人に続いた。


「ぐっ!まさか……我のアポカリプスを……!これが……これが汝の力だというのか、ブリューナク!」


 驚いていたのはダインスレイフも同様だ。アポカリプスはダインスレイフ最大の神話級刻印術。同じ神話級であってもアンサラーやオハンより強度は上のはずだ。だが二つの光性神話級術式とアポカリプスは拮抗している。


「これは我の力ではない。主達と仲間達の力だ。我はそれに少し、力を貸しているだけのこと。ダインスレイフよ。汝は生成者をただの道具として扱った。生成者は道具などではない。友であり主であり、半身だ。それを理解せぬ限り、幾度蘇ろうと、我を倒すことなど叶わぬと知れ」

「ブリューナクの言うとおりよ!あんまり人間をなめるんじゃないわよ!」


 アンサラーとアポカリプスが拮抗し、オハンが余波を防いでいる中、さつきがエア・ヴォルテックスを発動させ、ジャンヌの周囲の酸素を減少させた。ダインスレイフにとっては気にする程度のものではないが、ジャンヌにとっては、意識を奪われているとはいえ大事だ。その証拠にジャンヌが態勢を崩し、アポカリプスの精度が落ちてきている。


「なぜだ……。なぜこの程度の術式で、しもべが苦しんでいる……?」


 ジャンヌの足取りを掴ませないために、命を失わせないために、食糧の変わりに自分の印子を供給することは仕方がないことだとわかっていた。

 だが呼吸ができなければ、人は生きていけない。ダインスレイフはそこまで思いいたっていなかった。


「わからなくて当然だろ」

「人間を道具としてしか見ていないお前には、永遠に理解できまい」


 ミシェルがフォトン・ブレイドを、雅人が火性B級支援干渉系術式ファイアリング・エッジを発動させ、光の刃と炎の刃で同時に斬りかかった。


「ぐ、ぐおおっ!!」


 ダインスレイフは二人の斬撃を刀身で受け止めた。しかし同時にアポカリプスも解除されている。その隙を逃さず、ダインスレイフにアンサラーが集中され、ついにジャンヌの手から落ちた。


「し、しまった!」

「逃さん!」


 雅人のスパーク・フレイムとさつきのトルネード・フォールが同時に発動し、炎の竜巻がダインスレイフを天空へ巻き上げた。ミシェルは倒れたジャンヌを抱えている。


「飛鳥!真桜!今よ!」

「はい!」


 飛鳥と真桜はブリューナクを槍に戻し、バロールを発動した。直径わずか数センチの細い光だが、威力は中華連合強硬派艦隊を殲滅させたものとほとんど変わらない。

 その光は寸分違わず、ダインスレイフの魔玉を貫き、砕いた。


「ば、馬鹿な……!我が……我が消えるぅぅぅぅぅ……」


 魔玉を砕かれたダインスレイフは、断末魔の叫びを上げながら、周囲に溶け込むように消え去った。ジャンヌの左手の刻印、そしてクリスの刻印と共に。


「終わった……の?」


 真桜がジャンヌを見ながら呟いた。


「ああ……終わった」


 飛鳥も短く答えた。同時にアルミズを発動させ、自分達だけではなく、敦達の傷を癒している。


「お疲れ様、飛鳥、真桜」

「ありがとうございます、雅人さん、さつきさん」

「二人が来てくれなかったら、私達……」

「俺達は二人の盾だからな。何かあれば、何を差し置いても駆け付けるさ」

「さすがに今回のことは驚いたけどね。あ、オハンはまだ解除しないでね」

「え?あ、はい」

「ミシェル、話がある」

「わかってるよ。この件は上には報告しないし、誰にも喋らない。俺とお前が魔剣を破壊したってことにしとく。それでいいだろ?」

「俺の名前も出してほしくないんだがな」

「フランスが日本刻印術連盟に助けを求めたんだから、あんたの名前ぐらい出しとかないとでしょ。セシルさんもいいですか?」

「異存はありません。刻印三剣士が二人がかりでようやく、ということなら、上も納得せざるをえないでしょうし」

「しかし驚いた……。まさか三上達がブリューナクの生成者だったとは……」

「すいません、先生。黙ってて……」

「当然のことだ。生成者が非公開という理由もよくわかった。さすがに驚きは隠せないが」

「それが普通の反応でしょうね。ところでさゆり達は?」

「印子の消耗が激しいが、命に別条はないだろう。飛鳥と真桜ちゃんのアルミズで多少は回復しているようだから、じきに目を覚ますはずだ」

「よかった……」


 飛鳥と真桜は安堵の息を吐いた。そして三人から、ミシェルに抱えられているジャンヌに視線を移した。


「ジャンヌさんは?」

「こっちも大丈夫だろう。意識を取り戻してから、どうなるかはわからんが」

「そう、ですよね……」

「彼女次第だが、フランスが彼女を処罰することはない。雅人達を派遣してもらう条件でもあったからな」

「じゃあジャンヌさんに、罪は問われないんですね?」

「ああ。むしろ問題は、まだフランスがダインスレイフの情報を公表していないことだ」

「え?だって、今日公表するって……」

「恥ずかしい話だが、一掃したと思っていた推奨派が残っていてな。雅人達が日本を発ったことを確認してから、握り潰したんだよ」

「残念ですが、既に外交問題になっています。日本刻印術連盟は日本政府を通じて、フランス政府に即時説明を求めています。同時に派遣した術師からの情報を基に、世界にダインスレイフの存在を公表するとも」

「穏やかじゃない話だな。日本とフランスの関係が悪化する可能性もあるぞ」


 卓也が眉をひそめている。夕方にでも公表すると思っていただけに、握り潰したとは考えてすらいなかった。


「上もそこまで馬鹿じゃない。推奨派を解散させ、今日中に公表する予定だ。何せもう、日本は知ってるんだからな」

「日本だけではなく、世界中を敵に回しかねません。ダインスレイフはそれだけのことをしており、フランスもその事実を隠していたのですから」

「確かに制御不能の刻印神器など、始末に悪い。他のユーロ諸国やロシア、USKIAは喜んで介入してくるだろう」


 まさしくその通りで、特にロシアには刻印神器レーヴァテインが存在している。


「でもロシアって、内情が不安定なんじゃないでしたっけ?」


 真桜は他国の情勢にあまり詳しくない。知っているのはロシアが内情不安定であり、刻印神器を保有していることだけだ。


「確かに積極的に介入はしてこないだろう。だがロシアには、レーヴァテインの生成者がいる。同じ刻印神器、しかも魔剣となれば、介入してきても不思議じゃないし、されても文句は言えない」


 レーヴァテインはダインスレイフと同じく、魔剣に分類されている。だが魔剣や魔槍ゲイボルグのように、『魔』の文字がつく刻印神器は基本的に闇属性であり、魔の存在というわけではない。ちなみに聖剣や神槍は光属性に分類されている。

 ダインスレイフは明確に、人間に敵対する発言をしていた。同じ魔剣を保有しているロシアが介入してきても、何の不思議も疑問もない。


「そこはあたし達が関与する問題じゃないわ。推奨派の動きは気になるけど、あとはフランスの問題でしょ」


 さつきにとって、飛鳥と真桜の安全こそが最優先される。自分達の都合で振り回しておいて、結果的に利用することとなったのだから、責任ぐらいは取ってもらわなければならない。


「まったくその通りです。雅人さんにはブリューナクの存在を秘匿するために手を貸していただく必要がありますが、それ以外はフランスが対処しなければならない問題です。これ以上みなさんを巻き込むつもりはありません」


 ダインスレイフを破壊したのは、雅人とミシェルの二人としなければならない。日本はまだブリューナクの生成者を公表するつもりはないし、フランスとしても他国の刻印神器によって救われたなど、大きな問題となる。刻印三剣士は世界刻印術総会談で認められた実力者でもあり、国に縛られない行動も状況によっては可能だ。今回雅人の派遣が叶った理由の一つに、狙われたのが日本の高校生、という事情もある。

 刻印三剣士は、日本の複数属性特化型 氷焔之太刀生成者 久世雅人、フランスの光属性ラム・クリムゾン生成者 ミシェル・エクレール、そしてオーストラリアの刻印神器 聖剣エクスカリバー生成者 アーサー・ダグラスのことを指し、過去に一度だけ、三人が揃ったことがある。三剣士は刻印神器とも対等に渡り合えると言われており、事実、雅人もミシェルもそれを証明してみせた。日本政府とフランス政府、双方の思惑を同時に解決できる手段として、刻印三剣士の存在は非常に大きい。


「中尉。雅人は当然としても、奥方はいいんですか?すごい腕の持ち主でしたが」

「本音を言えば、さつきさんも表に出ていただきたいところです。ソード・マスターのお相手は複数属性特化型生成者の最上位術師と聞いてはいましたが、彼女の実力は未知数でした。ですが今回の件で、三剣士にすら比肩する実力者だとわかりましたから、フランスに借りを作るためにはそれが最善ではないでしょうか?」

「高く評価してくれるのはありがたいけど、あたしにはそんな地位も名誉も必要ないわ」

「セシル中尉。フランスに借りを作るなど、そちらにとって不都合なのでは?」

「普通ならそうですね」

「俺と中尉は、だいたいコンビで動くことが多い。雅人や奥さんと同じくな。だとすれば、日本から借りを返すよう要請があれば、高い確率で俺達が派遣されるだろ?」

「そんなまわりくどいことしなくても、普通に旅行で来ればいいだけなんじゃ?」

「許可が降りればな。日本は刻印術連盟が仲介してくれているが、フランスで仲介してくれるのは軍なんだ。だからフランスの刻印術師の多くは軍属だ。フランスにも刻印術連盟みたいな組織は必要だと思うがな」

「中華連合の星龍さんもそんなこと言ってたわね」

「星龍って、中華連合の王星龍か?」

「ああ、そうだ。神槍事件を収めるために協力してもらった穏健派の軍人だ」

「なるほど。中華連合はいい方に進んでいるみたいだな。これはますますもって負けてられねえな」

「ミシェルさんが中心になって、ユーロ圏の術師をまとめたらいいと思いますけど?」

「それが無難だろうな。ユーロは共同体であり国ではない。ユーロ代表決議評議会や各国政府から術師を守るために、ユーロ刻印術連盟みたいなものを設立しておかないと、ダインスレイフのような悲劇が起きないとも限らない」

「待て。なんで俺が中心なんだ?」

「刻印三剣士の一人だからだ」

「それはあとで話しません?あんまり長時間オハンを発動させっぱなしというのも、よくないでしょうし」

「それもそうね。あの三人を休ませる場所の手配をお願いしてもいいですか?」

「それぐらいでしたら、すぐにでも。そうですね、ジャンヌ・ダルク・ホテルに手配します。あそこならば四人用の部屋がとれますから。そこで今後の話をしつつ、彼らの意識が戻ったら食事にし、パリまでお送りします」

「それじゃあ、もう解除してもいいですか?」

「ああ、大丈夫だ。彼らをいつまでも、あの場に寝かせておくわけにはいかないからな」

「井上は俺が連れていくが、一ノ瀬と水谷は女子だからな。できれば女性にお願いしたいところだ」

「あたしとセシルさん、ってことね。飛鳥と雅人はともかく、ミシェルさんはジャンヌを抱えているからそうなるわよね」

「俺達も……」

「あんた達だって印子の消耗が激しいでしょ。あれだけ神話級を連発してたんだから、普通なら倒れてもおかしくないわよ」

「それ、遠回しに私達が普通じゃないって言ってません?」

「その通りだろ。あんな術式、どれだけ印子を使うのか、想像もつかねえよ」

「ひどいこと言いますね……」


 飛鳥も真桜も、不満を顔に出している。


「二人とも、そこまでにしておけよ。これ以上オハンを展開し続けるのもよくないからな」

「そうですね。では行きましょう」


 飛鳥と真桜はオハンを解除し、セシルが手配したジャンヌ・ダルク・ホテルへ足を向けた。


――現地時間PM5:15 ユーロ フランス オルレアン ジャンヌ・ダルク・ホテル 一室――

「う、ううん……」


 目覚めたジャンヌが最初に見たものは、見知らぬ天井だった。


「気がついたか」

「え?ここは……?」

「ジャンヌ・ダルク・ホテルの一室だ」

「思ったより元気そうね」

「ミシェル・エクレール……。セシル・アルエットも……」


 名を呟き、思わず身構えてしまった。刻印三剣士の一人が目の前でくつろいでいるなど、信じがたい光景だ。


「警戒する必要はないわ。あなたをどうこうするつもりはないから」

「え……?」


 だがセシルのセリフに、呆気にとられてしまった。


「日本との約定だ。それがなくとも、お前を助けた二人の意向を無視するなんてできないが」

「私を助けた……?もしかして、ダインスレイフは?」

「ああ。神槍の放った光の中に消えたよ。お前の左手の刻印諸共にな」

「そう、ですか……」


 ジャンヌは自分の左手に視線を落とした。確かに刻印がない。右手の刻印は残っているが、それでも途方もない喪失感がある。


「簡単に聞いたけど、あなた、結局何をどうしたかったの?三上真桜は、あなたが世界を滅ぼしたかったのも事実だろうけど、自分を止めてほしかった想いも間違いなくある、と言っていたわ」

「……わかりません。クリスのいない世界を壊したかったのも本当ですが、あのままダインスレイフの操り人形になるのもイヤでした……。逆になぜ、あの二人は私を?私ごとダインスレイフを消してくれると思っていたのに……」

「あなたの想いは、他人事じゃないそうよ。あなた達は双子の姉弟でありながら、愛し合ってしまった。でもそれは、前世での結びつきがあまりにも強過ぎた結果じゃないか、と言っていたわ。多分だけど、あの子達もそうなのよ。あの子達は兄妹ではなく幼馴染として生まれてきたわけだけど、運命の神様の気まぐれで立場が変わっていたかもしれない。そう思っているそうよ」

「そう、ですか……。真桜さん達は?」


 その言葉は、おそらく的を射ているだろう。生まれてからずっと、何をするのも一緒だった。刻印法具を生成した時も、同じタイミングだった。血を分けた双子の姉弟とはいえ、それだけではない何かは、確かにあったと思う。

 おそらく、飛鳥と真桜もそうなのだろう。


「別室にいるわ。さっきお友達も目を覚ましたから、今頃は事情を説明してくれているはずよ」

「……会えますか?」

「そりゃ構わないが、いいのか?」


 ミシェルもセシルも、心配そうな眼をしてくれている。二人が介入してくれたから全員が助かり、自分まで救ってもらった。

 だが同時に、彼らの命を狙ったことも事実だ。門前払いにされても文句は言えない。


「はい。まずはあの子に……ううん、あの子達に謝りたい……。あれだけのことをしたんですから、許してもらえるとは思ってませんけど、それでも……」

「確かに俺達があと少し遅ければ、生成者の三人は取り返しのつかないことになってたかもしれないな。最初はお前も意識があったんだろ?なぜドゥエルグなんてものを召喚したんだ?」

「……私をダインスレイフごと消してもらうためです。あれだけのドゥエルグを召喚するとは思っていませんでしたが、友人が追い詰められれば、彼らにも余裕はなくなるだろうと思って……」

「それでダインスレイフを道連れに、弟のところに逝こうとしてたのか」

「あれは……私達が生成してしまった呪われた魔剣ですから……。責任は取らなきゃいけないと思って……」


 ジャンヌは本心でそう思っていた。呪われた魔剣を生成してしまったのは自分達姉弟であり、そのために多くの人を犠牲にしてしまった。ジャンヌ自身もクリスを失った。これ以上生きている意味など、どこにも見つけられなかった。

 だがダインスレイフは、死ぬことを許さない。死なないように印子を栄養に変え、今日まで飲まず食わずという、地獄のような環境で生かされてきた。飛鳥と真桜がフランスへ来ることは知っていたし、ダインスレイフも狙っていたからこそ、ジャンヌは決意したと言ってもいい。


「確かにそうね。でも責任というなら、刻印神器推奨派も同様よ。神槍事件で発動された二心融合術で刻印神器を生成しよう、なんていう浅はかな考えを抱いた結果、あなた達を犠牲にしてしまった。確かに上層部の思惑通り刻印神器は生成されたけど、結果は誰にとっても悪夢でしかなかったわ」

「推奨派が焦って二心融合術なんかに手を出そうと考えなければ、こんなことにはならなかったんだからな。いずれは二心融合術を試したかもしれないが、焦って手を出していい生成術じゃない。ましてや自国の利益どころか、地位向上のためなんて理由は論外だ」


 セシルもミシェルも、自分達の上官のことだというのに、辛辣な言葉を並べている。自分を慰めるためという理由もあるだろうが、それ以外にも、本当に憤慨に駆られているのだろう。


「それでも……私の罪は消えません。フランスや日本はともかく、ユーロ各国は……」

「それを何とかするのがお偉いさんの仕事だ。確かに各国で犠牲者が出ているし、フランス国内だけでも相当だ。だがお前の意識が、ダインスレイフに乗っ取られていたのも事実だ」

「罪はダインスレイフと推奨派に引き受けてもらいます。日本の久世雅人も、その考えに賛同してくれているから。さあ、行きましょう」

「……はい」

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