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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第四章 刻印の光と闇編
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12・交流試合

――現地時間PM14:30 ユーロ フランス 国立古文書学校 中庭広場――

「それでは先鋒、前へ」

「はいよっと」

「井上、無理すんなよ」

「ヤバそうだったらすぐに棄権するさ」


 と言いながらも敦はやる気充分だ。どうやら古文書学校は先鋒シュエット、次鋒シャルロット、中堅アンネ、副将カトリーヌ、大将アルベールのようで、シュエットが前へ出てきた。


「さてさて、どこまでやれますかねっと」

「それでは、始め!」


 古文書学校の先生から開始の合図が発せられた。互いが術師であるため、B級の使用は許可されており、決定打と判断されればそこで試合は終わる。だが危険だと判断された場合はそこで試合を止められ、従わなければ術式の危険度に応じたペナルティを課せられることになっている。


「まずは……こいつからいってみるか!」


 敦が発動させた術式はストーン・バレット。対してシュエットはいきなりウイング・ラインを発動させた。


「うお!いきなりかよ!?」


 術式の等級、相克関係、いずれから見ても相殺できるものではない。敦はガード・プロミネンスを発動させながら、回避運動に入った。

 だがわずかに体制が崩れた。


「もらった!」


 その隙を逃さず、シュエットはガスト・ブラインドで敦の動きを封じ、そこへウイング・ラインを集中させた。


「なめんなよ!」


 術式の相性に救われた、と言えるだろう。敦は火属性に適性を持つ。発動させたフレイム・ウェブを纏い、ガスト・ブラインドとウイング・ラインを消し去り、同時にクリムゾン・レイも発動させている。


「うおっ!」

「隙ありだ!」


 クリムゾン・レイが四方からシュエットに襲いかかる。だがそれは、シュエットのダークネス・カーテンによって防がれた。


「なっ!闇性術式だと!?」

「思った以上だったな。まさか俺に、ダークネス・カーテンを使わせるとは。誇っていいぞ」

「それはどうも。まさかこんなとこで、闇属性に適性持つ奴に会えるとは思わなかったぜ」


 シュエットの生来の適性は闇。それだけで希少な存在だが、彼の席次は第五席。単純に考えれば、他の四人もシュエットと同等以上の実力者となる。


「あいつ、闇属性か。珍しいな」

「でもそれ、井上君と相性最悪じゃない?」

「火属性も光を発するから、相克関係が成立してるものね。その逆もありだけど……」

「ちょっと厳しいよね……」

「それはどうだろうな」


 闇は光を遮る、という相克関係は、光属性に対してだけではない。光を発する術式全てが該当する。

 逆に光は闇を照らす、という相克関係も闇に閉ざされる術式全てに当てはまる。光と闇以外の属性のほとんどがいずれかに該当する術式でもあるため、属性相克の点から見ても有利に立てる。それゆえか、適性者は少なく、術式の難易度も高い。

 二人の間に大きな力量差はない。それはつまり、相克関係を覆すことが難しいことを意味する。光性術式ならばともかく、敦の火性術式では突破は難しいと言わざるをえない。

 だが飛鳥は不安を感じてはいない。


「確かに闇属性持ちってのはすげえけどよ、弱点がないわけじゃねえんだぜ!」


 刻印術は属性より、系統の細分化が進んでいる。現在は広域系、干渉系、攻撃系、防御系、探索系、支援系、無系の七系統だが、近いうちにさらに増えるかもしれないと言われている。ダークネス・カーテンはその名の通り、闇のカーテンで自身や対象を覆う術式だが、あくまでも防御系であり、攻撃力は一切ない。

 そこに付け入る隙がある。敦が発動させた術式はスパーク・フレイム。だが狙いはシュエットではない。


「なっ、なんだと!?」


 敦が狙ったのはシュエットの足下にある石ころだった。対象が小さな石であっても、対象干渉術式は問題なく発動する。同時に光性E級支援術式フラッシュを発動させ、スパーク・フレイムによって発火した石を閃光で照らしだした。


「もらった!」


 シュエットは予想外の術式に、一瞬気をとられていた。だがそれが致命的な隙を生み出す。

 敦はライトニング・スワローを発動させ、集中力を欠き、強度を落としたダークネス・カーテンを貫いた。


「そこまで。勝者、井上」


 告げたのは古文書学校側の教師だった。


「せ、先生!なぜ止めたんですか!?俺はまだやれます!」


 ライトニング・スワローはシュエットに命中する直前、卓也の発動させたアース・ウォールで防がれていた。あのまま直撃していれば、シュエットに大きなダメージが残ったことは想像に難くない。

 だがシュエットは納得がいかない。


「最初に言っておいたはずだ。危険だと判断すれば、また決定打と判断すれば試合を止めると」

「あいつがあんな手を使わなければ、俺が勝ってました!あんな小細工を認めるんですか!?」

「命があるから文句を言える。これが実戦ならシュエット、お前はあれで命を落とし、文句も言えなくなっていたんだぞ。そもそもあれは小細工ではない。ダークネス・カーテンの欠点を見抜き、効果的な術式を選択した結果だ」

「ですが!」

「小細工ってのは認めるさ。あれが通じなきゃ、俺に打つ手はなかったんだからな。お前が慢心してなかったら、見抜けてたはずだぜ?」

「井上……」

「彼の言うとおりだ。慢心が油断となり、その結果お前は敗れた。それが全てだ。その程度で法具生成など、夢のまた夢だ。その驕りがある限り、永久に生成できないと思え」

「……わかりました」


 本当に渋々と、といった感じだ。言い返さなかったのは自分でも心当たりがあるからだろう。

 だがそれを差し引いても、今の勝負は敦の反則負けと宣言されてもおかしくはない。卓也のアース・ウォールが発動されなければ、シュエットの命を奪ってしまっていた可能性もある。それほどの強度と精度で、敦は発動させていた。


「井上、ダークネス・カーテンの欠点を見抜き、複数の術式を組み合わせたことはよくやった。だが最後のライトニング・スワロー、あれはやりすぎだ。全力じゃなかったにせよ、あの威力では彼の命を奪っていた可能性もあるんだぞ」

「す、すいません……」


 さすがに卓也も渋い顔をしている。敦も自覚しているが、生半可な強度と精度でダークネス・カーテンを貫ける確信はなかった。


「わかっているならいい。次は……一ノ瀬か。生成許可はもらっているが、どうするんだ?」

「相手次第ですね。井上君みたいになめられるなら、考えますけど」

「なめられてると考えていいだろ。見ろよ、あいつ……シュエットっつったな。誰も慰めようとすらしてねえぞ」


 直接戦った敦は、シュエットの力量が自分より上だと思っている。自分の力量を過信したり、油断したりしなければ、敦に勝ち目はなかっただろう。スパーク・フレイム、フラッシュ、ライトニング・スワローの発動は本当に苦肉の策だった。結果として勝ちを拾ったが、長引けば負けていただろう。敦の中ではシュエットの評価は高い。にもかかわらず、相手はシュエットに見向きもしていない。見ている方もいい気分ではない。


「うわ、ひどい」

「……あの態度、どうしても思い出すわね」

「同感だ」

「オッケー、わかったわ。徹底的に叩き潰す。その結果再起不能になっても、知ったことじゃないわ」

「ほどほどにな」


 さゆりは負けず嫌いだ。刻印法具レインボー・バレルも、その感情の延長線上で生成できたようなものだから、名の知れた一流術師ならいざしらず、自分達とさして変わらない年の学生に、特に理由もなくなめられるなど、我慢ならない。

 それは飛鳥達も同様のようで、既に生成する気満々だ。卓也は苦笑しながら、やりすぎないよう一言だけ釘を刺し、持ち場に戻っていった。

 ちなみに次鋒戦 さゆり対シャルロットは、さゆりのレインボー・バレルが火を吹き、中堅戦 久美対アンネは、久美のクリスタル・ミラーが術式を反射しまくっていた。


「お疲れ、久美」

「土属性術式をあそこまで簡単に反射するなんて、どんだけだよ、お前」

「さゆりや真桜、飛鳥君ほどじゃなかったもの。さつき先輩や雅人先輩にも鍛えてもらったしね」

「あ~……なるほど……」


 ある意味では学校に通う必要性が感じられない教師陣だ。敦が呆れながらも納得してしまったことは、自然の成り行きと言えよう。


「それにしても、私の相手も久美の相手も、けっこう高い実力持ってたけど、あれってちょっとね」

「そうよね。さすがに私まで生成者だったことには驚いてたみたいだけど、あれだけ根拠のない自信持たれると、逆にこっちが委縮しちゃうわ」

「とか言いつつ、けっこうなトラウマ植え付けてたじゃねえか」


 事実、シャルロットとアンネは相手が生成者だったとは思わず、最初こそ根拠のない自信で攻撃を仕掛けてきたが、さゆりは異なる属性術式の連続射出で、久美は一度も術式を発動させず、術式反射だけで勝利していた。相手が誰であれ、二人は油断などしない。刻印法具という大きなアドバンテージを与えられていようと、それは変わらない。命をかけて学んだ教訓なのだから、それは当然の話だ。


「どうやらこの学校の生徒、実戦経験はないみたいだな。井上の相手を見てなんとなく予想してたけど」

「っぽいな。一ノ瀬と水谷はともかく、俺はそこを付かなきゃ勝てなかったからな」

「それこそ知ったことじゃないわよ。ケンカ売ってきたのはあっちなんだから、トラウマの一つや二つぐらい、負ってもらわないと」

「過激なこと言うね、さゆり。私は少し手加減しようかと思ってたのに」

「え?私はもう、あっちの次席さんの冥福を祈ってたわよ?」

「久美!」


 残るは副将戦と大将戦だが、相手は古文書学校の主席と次席。まだ学生とはいえ、高位の実力があるのは間違いない。だが相手が悪すぎる。さゆりも久美も、それをイヤというほど知っている。そこに卓也がやってきた。


「三上。次の副将戦なんだがな」

「はい?どうかしたんですか?」

「いやな、現時点でうちの勝ちは確定してるんだが、あちらとしても面目が立たないから、どうしても勝ちたいらしい。先生方は負けてよし、というより負かしてほしいそうだから、たとえ全敗しても受け入れるつもりなんだが、生徒はそうはいかなくてな……」

「はあ。それで、どうするんですか?」

「副将戦と大将戦を一緒に行いたいらしい。まあ、有体に言えば二対二だな」

「ほ、本気なんですか!?」


 さゆりが驚いている。当然だ。


「命知らずにも程があるでしょ。この二人相手に二対二の勝負を挑むなんて、無謀すぎるわ……」

「先生、線香って用意してるんスか?」


 敦も久美も、既に相手の冥福を祈っているようだ。術師が二人以上で組んで戦うことはよくある。特に慣れた者と組んだ場合、相応関係や相乗関係で、術式強度が大幅に増す。古文書学校の主席と次席となれば、それだけで高位の実力者だとわかる。わかるのだが……


「あのな……」

「別に一対一でも二対二でも、なんでもいいですけど」

「それじゃそう伝えよう。あまり無茶はしないでくれよ」


 卓也もそれを理解しているようだ。刻印術が相乗効果によって術式の強度を増すことは広く知られており、戦闘系以外でも多く見受けられる。

 だが飛鳥と真桜は、既に長年のパートナーであり、適性や特性はもちろん、長所も短所も知りつくしている。むしろ二対二の試合形式は望むところだ。


「やってくれたな、日本人。まさか二人も生成者がいるとは思ってなかったよ」

「そいつはどうも」

「おかげで私達の面目は丸潰れよ。ならせめてあなた達だけでも倒して、主席と次席の面目だけは保たないと」

「そんな面目なんて、捨てちゃえば?」


 大将のアルベールと副将のカトリーヌはかなりお冠のようだ。先鋒のシュエットはともかく、次鋒のシャルロットと中堅のアンネは相手が悪すぎた。生成者相手に油断するなど、愚の骨頂だ。だが生成者相手というのは言い訳になる。ここで自分達が勝てば、実質的にはこちらの勝ちだ。


「それでは始め!」

「浅はかなこと考えやがるな」

「浅はかだと?それはこれを見てから言え!」


 アルベールの発動させたクレイ・フォールを、カトリーヌのミスト・アルケミストが覆い、氷の濁流となって飛鳥と真桜に襲い掛かった。

 だが突然、その濁流が銀に変わり、動きを止めた。


「なっ!?」

「狙いは悪くないんだけどね。まだちょっと甘いよ?」


 真桜の右手にはシルバー・クリエイターが握られている。クレイ・フォールとミスト・アルケミストはシルバー・クリエイターに銀化され、直後に発動した飛鳥のオゾン・ディクラインで酸化し、散っていった。


「どうせ積層術でも仕掛けて、一気に勝負を決めようって腹だったんだろ。それが浅はかだって言ったんだよ」


 飛鳥の左手にもエレメンタル・シェルが生成されている。


「それは……!?」

「まさか、お前達も生成者なのか!?」

「正解。ついでに言うと、俺達は色んな意味で相性が良くてね。コンビネーション戦闘は一番得意なんだよ」

「ツーカーって言うのかな。なんでも知ってるもんね」


 この時点でほとんど勝負はついていた。生成者が二人、しかもコンビネーション戦闘が得意となれば、油断をついても勝機は薄い。しかも二人とも、油断などない。


「一つだけ言っておくがな、生成ってのは過信や慢心があるとできないんだよ。今のままじゃ、お前らは永遠に生成できないぞ?」

「黙れ!生成できた程度で驕るな!」

「驕ってるのはあなた達でしょ。さっきの術式だって、私達が使えばこうなるんだよ」


 真桜がクレイ・フォールを、飛鳥がミスト・アルケミストを発動させ、先程のアルベール達と同様の氷の濁流を生み出した。

 だが規模も精度も強度も、全てがアルベールとカトリーヌが発動させた積層術以上だ。アルベールとカトリーヌの周囲を凍てつかせながらも、二人には傷一つ負わせていない。


「そ、そんな……!」

「これだけの積層術で……僕達に傷一つ負わせないなんて……」

「言っとくけどね、この程度は刻印法具を使わなくてもできるよ。私達が生成した理由は、あなた達の傲慢な心を叩き折るためなんだから」

「ぼ、僕達が傲慢だと!?」

「そうだ。卒業した生徒が生成できたから自分達も生成できる?何の根拠もないだろうが」

「根拠ならある!先輩達は争いごとを好まない人達だ!そんな人達が生成できるなら、僕達が生成できても不思議じゃないだろ!?」

「それが根拠がないって言ってるんだよ。争いごとを好もうと好まなかろうと、そんなことは関係ないんだよ」

「ならなんで、あの人達やあなた達が生成できて、私達が生成できないのよ!?」

「そんな考えを持ってるからだよ。刻印法具は己を映す鏡みたいなもの。鏡が曇れば姿が映らないように、法具は姿を見せてくれないよ」

「鏡……」

「そんな……馬鹿なことが……」

「納得できなくても、理解できなくてもいいさ。それがお前らの器なんだからな。それよりどうするんだ?まだやるつもりか?」

「……ごめん、アルベール。私には無理。レベルが違いすぎるわ……」

「カトリーヌ!」

「ここまでされても認められないなら、多分私達、この先、生きていけないわ……」

「……わかった」

「ではこの勝負、明星高校の勝利とする」


 アルベールもカトリーヌも、肩を落としている。刻印法具の有無など何の理由にもならない、言い訳の余地もない完敗だった。


「お疲れ、飛鳥、真桜」

「あんまり嬉しそうじゃねえな」

「そりゃな。元々ケンカ売られた形だったわけだし」

「高い買い物だったのは確かよね。法具使っちゃったし」

「使わない方がよかったかな?」

「使わなくても勝てただろ。つか二人はともかく、一ノ瀬と水谷は明らかにやりすぎだ」

「そう?」

「あんな負け方したら、俺ならしばらく引きずるぞ」

「井上だって大概だろ。相手が油断してたとはいえ、ダークネス・カーテンをあっさりと破りやがって」

「あれもすごかったわね。あんな方法、知らなかったわ」

「幸い、慣れてたからな。ある意味じゃ相性が良かったってことだろ」

「慣れてたって、闇属性に?そんな人いたっけ?」

「矢島委員長だよ。あの人の適性、闇なんだ」

「へえ。そうだったんだ」


 連絡委員長の矢島は、刻印術師ではないが、闇属性に高い適性を持っている。矢島がいなければ、敦は勝てなかっただろうと思っている。密かに矢島への土産のランクを一つ上げることも決めていた。


「なるほど。ダークネス・カーテン対策は既にできていたのか」

「シュエット?」

「一つ聞きたい。井上。お前は代表の中で唯一、刻印法具を生成しなかったが、それはなぜだ?」

「なぜもなにも、俺は生成できないぜ。んなことできるんなら、最初っから生成してたよ」

「ではなぜ、お前は代表になったんだ?」

「代表になるもなにも、お前らが勝手に勘違いしたんだろうが。俺は巻き込まれただけだっつうの」

「巻き込まれた……?まさか、お前の学校には、お前達より上位の術師がいるのか?」

「上級生なら何人かいるな。同級生はわからんが」

「シュエットって言ったな。お前の名誉のためってわけじゃないが、井上はうちでも上位の実力者だ。先輩達を含めても、生成者を除けば五指にはいる」

「俺の名誉はいいのかよ?」

「細かいことは気にするな」

「細かくねえよ!大きな問題だよ!さりげなく人のプライド傷つけるなよ!」

「井上……お前は刻印法具が欲しくはないのか?」

「そりゃ欲しいさ。でもな、焦って生成できるもんでもないし、できたらできたで、また問題がでる。だけど俺にはまだ、そこまでの覚悟がない。別に諦めてるわけじゃねえけどな」

「先を……考えているのか?」

「当たり前だろ。フランスじゃどうかしらねえけど、日本じゃ生成者には様々な義務が発生するんだ。好き勝手はできねえし、命の危険だって大きくなる。神槍事件、知ってるだろ?」

「もちろんだ。まさか、お前達は!?」

「ああ。俺達の学校が襲われた。だから俺達は、井上も含めて、実戦経験がある」

「だから、か」

「アルベール?」

「三上……すまなかった。僕達は僕達の都合だけを考えて、先生の言葉にさえ耳を貸さなくなっていた。卒業した双子の先輩が生成できたという事実だけを見て、他には目もくれなくなっていた……。それが、僕達の鏡を曇らせていたんだな?」

「そうなるな。生成できる条件は人それぞれだけど、鏡に映る自分ってのが見えなきゃ無理だって、俺は思ってる。経験論、になるのかな」

「説得力があるな。実戦経験の差だけじゃなく、刻印術師としても僕達は負けていたのか……」

「それを理解させるための術式試合だったんだから、別にいいんじゃねえの?対価としちゃ高くないと思うが?」

「そうだな。アルベール、俺達も一からやり直そう。刻印法具以前に、弱い心を鍛えなおさないと、彼らには勝てないからな」

「ああ。今回は僕達の完敗だけど、次は負けない」

「そう簡単に勝たせるつもりはないな」

「敦、再戦の機会があることを願っているぞ」

「いつでも来い、って言いたいが、次は俺もヤバいからな。また手を考えさせてもらうぜ」

「そんな策、今度は正面から跳ね返してやるさ」


 おそらく彼らは、刻印法具という光に目がくらんだだけなのだろう。強い光は白い闇となり、視界を塗り潰す。生成者の双子は温厚で戦闘向きとは言い難い性格という話だが、そういった様々な要素――色が混ざり合い、白いキャンパスを黒く染めてしまった。色を落とした今の姿こそが、本当の彼らなのだろう。

 見ればカトリーヌ、シャルロット、アンネも、真桜、さゆり、久美と和やかに話している。内容的にも結果的にも、今回の試合は古文書学校の汚点となりかねない。相手が生成者という事実が救いではあるが、負けたという事実に変わりはない。

 だがそれでも、生徒達の将来を考えた古文書学校の校長の判断は間違っていたとは言えない。むしろ勇気ある決断だった。アルベールもシュエットも、それを強く痛感していた。

 だから闇が煌めいた瞬間、何が起きたのか誰も理解することができなかった。

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