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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第四章 刻印の光と闇編
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7・執行者

――明星高校 校門前――

 久美の心配は半分は外れてくれた。


「な、なぜソード・マスターがこんなところに!?」

「この後予定があるからさ。お前達のせいで遅れることになったんだから、迎えにぐらいは来る」


 さつき達の予想に反して、既に雅人が校門前に姿を見せていた。ソード・マスターと呼ばれる世界有数の刻印剣士が放つ殺気は、明らかに自分達に向けられている。そのために朝倉と早乙女は当然、自分達に向けられているわけではないのに、京介達も動けなかった。


「何のことだ!?」


 雅人の殺気は牽制が目的だが、それでもそこらの術師とは圧力が違う。さすがに朝倉と早乙女も気圧されている。


「しらばっくれても無駄だ。既に連盟はお前達二人の粛清を決定している。不正術式の密売、刻印法具の情報漏洩でな」

「な、何を証拠に!?お前こそ我々の職務の邪魔をするのならば逮捕するぞ!」

「寝言は寝てから言うものだ。そもそもその子達を人質に取ってる時点で、自分達の罪を認めているようなものだろうに」


 雅人の言う通り、朝倉と早乙女は京介達を人質に取っていた。拳銃状武装型刻印具を向けている。


「だ、黙れ!それ以上動けば、こいつらの命はないぞ!」

「心配しなくても、俺は動かないさ。それ以前に、お前達が動けないだろうがな」

「な、なに……?な、なんだ、これは!」

「う、動けないだと!?」

「雅人さん!」

「来たな。代表から話は聞いてるよ」

「すいません、先輩!弟がご迷惑をおかけしました!」

「弟?なるほど、この子がそうなのか。だけど俺は何もしてないよ。朝倉と早乙女の動きを止めたのは、飛鳥のネプチューンだろう?」

「雅人さんが来てくれてたんなら、必要なかったと思いますけどね。水谷、二宮、新田。早く逃げろ。今ならそいつらは動けないからな」

「は、はい!」

「まったく!雅人先輩が来てくれてなかったら、大変なことになってたじゃない!なんで帰らなかったのよ!?」

「帰れるわけないだろ!俺だって役に立てるんだからな!」


 だが威勢に反して、京介の声は震えている。


「何がよ!人質になるなんて、足を引っ張っただけじゃないの!」

「こらこら、姉弟ゲンカは後にしなさいよ。今はそれより優先することがあるんだから」

「そうですね。それじゃ久美。行きましょっか」

「ええ。京介、勝、浩。本当は見せたくなかったけど、生成者の義務、教えてあげるわ。見たくなければ、ここから出てもらうことになるけど?」

「な、何なんだよ、生成者の義務って……!?」

「やっぱり知らなかったか。これで何も変わらないなら、お前は一生、生成なんかできないだろうな」

「なっ!?」

「それほどのことが起こるのよ。出ていかないなら、しっかり見届けなさい。朝倉と早乙女……あの二人が粛清されるところをね」


 飛鳥の言葉も重かったが、さつきの言葉はさらに重かった。


「しゅ、粛清!?もしかして、姉ちゃんが!?」

「な、なんで久美姉が!?」

「それが生成者も義務だ。俺達だって何度も経験してるよ」

「そ、そんな……」


 さすがに京介達には刺激が強すぎたようだ。

 だが久美もさゆりも、既にクリスタル・ミラーとレインボー・バレルを生成している。さすがに弟の前では気が引けるが、ここで逃がせば雪乃の身に危険が及ぶだろうこともわかる。それに生成者として、いつかは果たさなければならない義務でもある。

 だから久美もさゆりも、覚悟を決めていた。


「警部さん、私の弟を人質にするなんて、随分となめた真似してくれたわね。お礼に見せてあげるわ。私のS級術式をね!」

「ふ、ふざけるな!たとえ法具生成ができたところで、俺達に通用すると思っているのか!?」


 法具の生成ができない術師でも、生成者を倒すことは不可能ではない。さゆりも久美も、神槍事件で経験している。あの時は相手の刻印銃装大隊にも油断があったことが大きいが、さゆりも久美も油断などしてはいない。むしろ相手が一流だということを理解している。刻印法具が生成できた程度で容易に勝てるなど、思ってすらいない。

 久美もさゆりも、神槍事件から二ヶ月、何もしていなかったわけではない。雪乃も含め、飛鳥、真桜、雅人、さつきと共に刻印法具を使いこなす修練を続けた。この国でも最高位に位置づけられる生成者にして、超一流の刻印術師達と過ごした濃密な時間は、三人の実力を飛躍的に上昇させた。刻印法具の扱いだけではなく、S級術式の開発も終わっている。


「言っとくけど、ここで私達を殺しても、あなた達の運命は変わらないわよ。この場の全員を皆殺しにできるなら、話は別だけど」

「そんなことできる人なんて、この世にいるわけないじゃない」


 神槍事件から今日までの日々は、確実に二人――雪乃を含めれば三人の血肉となっている。多大な努力と実績に裏付けされた明確な自信が、さゆりと久美に溢れている。


「黙れ!こんなところで死ぬつもりなどない!」

「ソード・マスターが相手だろうと、二人がかりの攻撃をしのげるなど思うなよ!」


 朝倉も早乙女も法具の生成はできないが、術師としては一流だ。

 だが金に目がくらみ、自分達が覚えた術式に手を加えて売るという不正行為に手を染めた。数年前に術式を売った高校生から、刻印法具の情報を仕入れることもできた。二人は金でテロリストや刻印術師優位論者を見逃すことも多かったが、そこで刻印法具の情報が高く売れることを知った。刻印法具は切り札であり、特性を知られることが命取りになることも珍しくない。そこからは不正術式だけではなく、刻印法具の情報をも売り始めた。県警の同僚はもちろん、警察関係者の法具情報すらも売っている。

 そして県内において、一つの高校で生成者が六人も存在するという情報を得た二人は、監視する必要を訴え、数日前に鎌倉へとやってきた。一人は卒業してしまったが、それでもまだ五人。うち一人は希少な設置型刻印法具の生成者だ。それだけでも今までの情報より価値がある。そのために明星高校の生徒、特に新入生に目を付けた。素行の悪い、馬鹿な生徒は喜んで買っていくが、さすがにそんな生徒はほとんどいない。2,3年生なら尚更だ。

 だが自分達は警察官だ。テストのためと偽り、無償で術式を渡し、しかもその術式に光性B級精神干渉系術式フラッシング・テラーを巧みに組み込んでいた。

 フラッシング・テラーは本来、医療目的で使用される術式であり、特にPTSDなどの治療に多く用いられている。だが二人は、その術式のサブリミナル効果を利用し、何かのテストだという自分達の言葉を信じていた生徒達を洗脳し、対象が法具を使わざるを得ない状況を演出していた。

 雪乃は捕らえた多くの生徒の術式に、フラッシング・テラーが組み込まれていることも分析していた。飛鳥達が戻ってくる前だったが、大河と美花も、一斗と菜穂のプライベート・ナンバーを知っている。だから常駐していた美花に頼んで連盟へ連絡を入れ、すぐに証拠を掲示した。どんな言い逃れもできない証拠が、既に雪乃の手にある。

 刻印術師は刻印具なしでも刻印術を行使できるし、生成者はその呼び名の通り、刻印法具を生成する。そのために連盟が粛清という行動に出ることは、相手が術師である場合に限り、刻印術管理法という法律で認められている。拘束してもすぐに逃げられるし、刻印術対策が施された施設であっても万全ではない。刻印術管理法が成立したのは十五年前だが、それ以前は施設を破壊しての脱走は当たり前で、中には脱走中に法具生成を行ってしまった術師までもが現れてしまった。だからこそ刻印術管理法が成立し、軍や警察ではなく、連盟が執行することになっている。執行人に選ばれるのは多くが生成者であり、それが未成年であっても例外とはならない。飛鳥も真桜もさつきも雅人も、既に何度も経験している。

 これが生成者の義務であり、それゆえに生成者が、連盟でも高い地位を得ることができる理由の一つとなっている。


「私達のことが眼中にないのはわかるけど、油断してると足下すくわれるわよ?あの日の過激派みたいにね!」


 即座にさゆりがストーン・バレットを発動させた。それに合わせて、早乙女がエアー・シルトを展開させている。同時に久美がニードル・レインを発動させるが、朝倉のアース・ウォールによって、これも防がれている。


「ありゃ。もしかして、私達と相性悪い?」

「っぽいわねぇ。だからって文句は言えないけど」


 二人の予想通り、朝倉は土、早乙女は風に適性を持つ。水と土に適性を持つ二人とは、刻印法具というアドバンテージがあっても相性が悪い組み合わせだ。だが二人は動じてはいない。それは二人だけではなく、風紀委員達も同様だ。


「あの二人の適性は風と土か。さゆりと久美にとっちゃ、相性最悪の相手みたいね」

「えっ!?それって姉ちゃん達が危ないってことじゃないんですか!?」


 さすがに弟である京介は、さつきの一言を聞き流すことができない。術式試合でも相性が悪ければ、その時点でかなりのハンデを背負うことになる。それが実戦ともなれば、ハンデどころの話ではない。


「心配するな、水谷。お前の姉貴もさゆりも、神槍事件から今まで遊んでたわけじゃないんだからな」

「むしろ好都合だろうな。なにせ修行相手のレベルが異次元すぎるから、一ノ瀬も水谷も今の自分の実力を知らないわけだし」

「うんうん。もう二人も、一流って言っていい力量はあると思うんだけど、やっぱり直近の比較対象がねぇ」

「何ですか、それ。それに異次元って、言いすぎじゃありません?」

「事実だろうが。むしろ同世代のあいつらや三条の気持ちになってやれよ」


 真桜にとっても、さすがに異次元人扱いは心外だが、確かに同世代の雪乃やさゆり、久美からすれば、飛鳥と真桜はどうしても比較対象となってしまう。二人がブリューナクの生成者という事実を知っている今では特に気にしていないし、気にする方がどうかしてるとわかっているが、それでもやはり、今の自分の力量がどの程度なのかは気になってしまう。それなりに実力はついているだろうが、やはり実感はしにくい。

 そこに現れたのが、不正術式と刻印法具情報の密売を行っていた現職の警察官だった。


「どう思う、雅人?」

「確かにあの二人、刻印課の刑事だけあって一流といっても差し支えない力量だな。もっとも、金に目がくらんだ術師など、あの二人の相手にはならないだろう。それに二人のS級術式の前では、相克関係もさほど役に立たないからな」

「同感。せっかくの機会だし、あの子達の上達ぶりを見せてもらいましょっか」


 先輩方の話など、二人の耳には届いていない。目の前の敵に集中している。


「刻印法具を生成できたとはいえ、相克関係は絶対だ。少々の力量差で覆すことなどできんと、教わっているだろう?」

「そうね。でもね、相克関係が絶対かっていうと、必ずしもそうじゃないのよ」

「たとえば、こんなのとかどうかしら?」


 久美が発動させたのは得意としている術式ミスト・アルケミスト。風紀委員に加入した時は、まだまだ精度も強度も問題だらけだったが、今では一流並の精度で行使できるようになっている。


「ミスト・アルケミストだと!?馬鹿な……!」


 土は水を堰き止めるが、水が土を押し流すこともある。ミスト・アルケミストによって発生した液体窒素によって凍りついたアース・ウォールは、同じく発動させた水性C級攻撃系術式アイス・バレットによって脆くも崩れ去った。


「く、久美姉……すげえ……」

「相克関係を覆せるなんて……」


 京介達にとっては、まさに驚愕の光景だ。京介は今朝、飛鳥に見せつけられたばかりだが、手加減してもらっていたこともわかっている。

 だが目の前では、姉が一流の術師相手に、一歩も引かない戦いを繰り広げている。今も自分に発動されたアイアン・ホーンを、クリスタル・ミラーの反射能力で跳ね返している。さゆりも同様で、レインボー・バレルによってランダムに術式を発動させている。異なる属性の術式を連続して発動させられては、風属性術式であるエアー・シルトでは防ぎきれない。その証拠に、エアー・シルトはショック・フロウによって貫かれ、早乙女は左肩を押さえている。


「小娘が……調子に乗るなよ!」


 だが早乙女も一流の術師であり、現職の刑事だ。生成者とはいえ高校生に負けるなど、プライドが許さない。発動させたのは早乙女の切り札ドライ・トルネード。だがそれも、さゆりの前では無力だった。


「なっ!?」


 早乙女のドライ・トルネードは、さゆりのクレイ・フォールによって防がれた。

 さゆりは風属性に対してかなり適性が低く、風は土を変質させる、という相克関係まで存在する。

 だがこの二ヶ月、さゆりは風属性への適性を少しでも上げるため、風属性に適性を持つ真桜とさつきに鍛えられた。生来の適性を変えることはできないが、努力によってある程度克服することはできる。真桜とさつきの起こす風は、一流の術師が使う火属性術式との相克関係すら覆す。さゆりはその風を、その身に受け続けた。そのため以前とは比べ物にならないほどに、風属性に対する適性を身に付けた。

 同時にクレイ・フォールは濁流でもある。濁流は土だけではなく、水素や酸素をも多量に含んでいる。そのため二酸化炭素の竜巻は水素、酸素と交わり、炭素は圧縮され、濁流をダイヤモンドへと硬化させた。


「危ないなぁ、もう。小娘に負けるなんてプライドが許さない、って気持ちはわからないでもないけど、所詮は金に目がくらんだだけでしょ?そんなもののためにみんなの運命を狂わせたんだから、その罪、あなたの命で償ってもらうわよ!」


 さゆりが発動させたのは土性S級広域対象系術式ジュエル・トリガー。

 大気中の炭素だけではなく、地殻を形成する元素の一つアルミニウムを集束、圧縮させ多量のダイヤモンドやサファイア、ルビーなどの宝石を銃弾として生成し、七つの銃身から同時に射出する術式だが、当然それだけではない。サファイアやルビーは酸化アルミニウムを磨き上げることによって宝石となり、硬度もダイヤモンドに次ぐ。広域系術式でもあるジュエル・トリガーは、領域内に炭素やアルミニウム原子を集束させた。そして空気中に刻まれたジュエル・トリガーの刻印から、次々と宝石の雨が、早乙女の身体に降り注ぐ。

 だがそれで終わりではない。

 ダイヤモンドの銃弾が早乙女に命中すると同時に、圧縮されていたダイヤモンドは熱を持ち、分子の運動を加速させ、大気に火を付けた。同時に酸化アルミニウムでもあるサファイアとルビーも高熱によって液化していく。酸化アルミニウムは個体では絶縁体だが、液体となれば良導体となり、容易に電気を通す。大気との摩擦によって生み出された微量の静電気が発火した大気と同調し、地面から立ち上る雷の柱となり、早乙女を飲み込みながらその姿を消した。


「まずまず、かな。やっぱり真桜とさつきさんのおかげよねぇ、これって」

「早乙女!許さんぞ、小娘!」

「許さない?それはこっちのセリフよ!私の弟達を人質にした報いも受けてもらうわよ!」


 久美は水性S級広域対象干渉系術式ノーザン・クロスを発動させた。

 領域内の大気から液体窒素、液体酸素、液体二酸化炭素だけではなく、液体ヘリウムまでをも生成した。ヘリウムは人体にはほぼ無害だが、マイナス269℃という、液体窒素よりも低い極低温化において、液体となる。しかもマイナス273,15℃という絶対零度下においても、圧力をかけなければ個体にはならないという特性を持っている。

 四方から襲いかかる四種の液体を避けようとする朝倉だが、絶対零度にも匹敵する空間によって行動の自由をほとんど奪われてしまっている。そのため液体の槍を避けることはできず、自身を中心として作り上げられた四種の液体の十字架を、自らの血で染め上げることとなった。

 同時に朝倉を貫いた衝撃で液体酸素に火が付き、血と液体ヘリウムを導線とし、極低温の空間に炎の十字架を作り上げた。そしてノーザン・クロスという別名をもつ星座――白鳥のように、白炎を巻き上げながら、朝倉ごと天へと昇っていった。


「やっぱり飛鳥君や雅人先輩のようにはいかないか。もうちょっと工夫が必要ね」

「お疲れ様、二人とも」

「ジュエル・トリガーとノーザン・クロス。どっちも完成ね」


 無事に、という言葉が適切かはわからないが、粛清が完了した。雅人とさつきが労をねぎらっている。


「もうちょっと精度を上げたいところですね。ちょっと時間がかかりすぎちゃってるから」

「実戦での使用は初めてなんだから、そんなものだろう。それでも十分な術式だと思うけどな」

「実戦で使って初めてわかることもあるからね。練度を上げていけば、発動時間の短縮は十分可能だし」

「それにしても、またすごい術式を開発したわね。あんな低温の空間内に炎の十字架を作り出すなんて、雅人先輩みたいだったわよ」

「まだまだですよ。飛鳥君や雅人先輩みたいに、絶対零度の空間ぐらいは作れるようにならないと完成とは言えません」

「さゆりの術式も、あれだけの宝石を惜しげもなく銃弾にした上で焼き尽くすなんて、傍から見たら贅沢すぎるわね」

「最初はそんなつもりはなかったんですけどね。でも欠点も見えちゃったから、やっぱり改良の必要性はあります」


 2年生も3年生も、さゆりと久美をねぎらっていた。そんな中、飛鳥は京介の隣に歩み寄り、声をかけた。


「どうだ、水谷。これが生成者の義務だ。未成年だろうと高校生だろうと、刻印法具を持つ以上、決して逃れられない。相手が警察だろうと軍人だろうと、もちろんテロリストだろうとな」


 京介も勝も浩も、三人とも腰を抜かしている。巡回中にも術式戦闘は目にしたが、ここまでの激しさはなかった。どちらかの命が確実に失われる戦いなど、見ることも経験こともそうそうあるものではない。

 だが生成者は話が別だ。これが生成者の義務であり、ある意味では国から与えられた殺人許可証でもある。そのために生成者は、粛清執行人という過酷な役目を与えられることになる。それは設置型という非戦闘系刻印法具の生成者である雪乃であっても、例外ではない。


「京介。これがあんたが欲しがっている刻印法具の裏の顔よ。どうだった?」


 風紀委員は神槍事件において、全員が人の命を奪う経験をしている。無論、久美もだ。今でも罪悪感は消えていないし、今日また、新たに業を背負ってしまった。

 それでも久美は後悔していない。これが自分に与えられた役目であり、使命だということを理解している。

 だが京介は、その役目も使命も、義務すらも理解していなかった。それは勝と浩も同様であり、特に術師の家系ではないにもかかわらず、刻印を生まれ持ってしまった浩には大きな衝撃だった。


「久美さん。今日のところはここまでにしてあげて。三人ともショックが強すぎるみたいだし」

「そうですね。三人とも、今日は家に帰りなさい。それからわかってると思うけど、このことは他言無用だからね」

「わ、わかってるよ」


 三人は一礼し、校門から出て行った。


「さすがに刺激が強過ぎたか。やりすぎなんじゃないのか?」

「飛鳥に言われたくはないわよ」

「まったく同感ね。今までどれだけのトラウマを負わされたと思ってるのよ」

「まあそうなんだが……あいつら、あのままでいいのか?」

「わからないけど、これで少しは目が覚めたんじゃないかしら」

「姉貴にあんなトラウマ植え付けられちゃな。ダチ二人が気の毒だろ」

「でもあれだけの術式を見て動じない先輩達も、相当だと思いますけど?」

「誰のせいだと思ってるのよ」

「まあまあ。それよりも校長は?」

「校長室です。私もこれから、報告に伺うつもりです」

「俺も行こう。連盟だけじゃなく、管理局の意思も伝えなければいけないからな」

「管理局って、何かあったんですか?」

「高校生の生成者がこの学校に集中してれば、軍だって無視できないさ」

「まあ、そうよね。警察もそう考えて、何人かを派遣してきたわけだし」

「それじゃあ連盟の意思って、何なんですか?」

「俺は代表から聞いたから正確に理解できてるわけじゃないけど、今回の事件、さっきの二人が光性の精神干渉系術式を使ってたんだろ?その生徒達は罪には問わないことにしたらしい」

「本当ですか?よかった……」

「そんなわけで校長室に行かなければならないんだが、さつきも来てくれ。無関係じゃないからな」

「了解。行きましょ、雪乃」

「わかりました。みなさん、すいませんが委員会室で待っていてくれますか?」

「はいは~い」


 エリーの返事とともに、雅人、さつき、雪乃は校長室へ、他は風紀委員会室へ足を向けていた。問題は解決したかもしれないし、してないかもしれない。どちらにしても、しばらくは不正術式に頭を悩まされそうな予感がしているが、それは気のせいだと思いたいところだ。

 それとは別に、飛鳥には京介のこともある。新学期早々頭が痛くなることが続くことに、飛鳥は溜息を吐いていた。

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