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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第三章 誓いの刻印編
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20・絆

――西暦2096年2月18日(月)放課後 明星高校 風紀委員会室――

 美花は窓の外を見ていた。目の前に広がるのは材木座の海岸線。そして憧れ、恋した男が死んだ場所。その男、勇輝が最期を迎えた岩には、刻印が刻み込まれていた。その刻印が、刻印神器ブリューナクを生成させるために、大きな役割を果たしてくれた。死してなお、主である飛鳥と真桜を守っていたことに、美花は改めて胸が熱くなった。

 先日政府が、ブリューナクの存在を世界に公表した。生成者こそ非公開だが、少し調べればあの二人が生成者だということもわかるだろう。既に他国の諜報機関なりスパイなりも動いているはずだ。

 だがその二人――飛鳥と真桜はまだ帰って来ていない。あの日、管理局のヘリとともに姿を消し、それっきりだ。雅人とさつきも一緒だから、きっと無事でいるはずだ。だが何の音沙汰もなければ、不安にもなる。


「美花さん。そちらの様子はどう?」

「え?」

「え?じゃないだろ。校庭の様子はどうかって聞いたんだよ」

「す、すいません!えっと、特に問題はないみたいです」


 雪乃と昌幸に声をかけられた美花は、今の自分のやるべきことを思い出し、慌てて校庭に発動させていたプラント・シングを確認した。だが雪乃も昌幸も、美花を責めているわけではない。自分達も似たような気持ちなのだから。


「そう。刻錬館も問題なさそうだから、今日のところは大きな問題はなさそうね」

「何だかんだ言っても、生成者が三人もいるからな。よっぽどのアホでもなけりゃ、問題は起こさねえって」

「そうですよね。でも葛西先輩。それ、さゆりと久美の前で言わない方がいいですよ」

「なんで?」

「だって、せっかく生成できたっていうのに、その後の衝撃が大きすぎて、自信喪失したって言ってましたから」

「やっぱりさゆりさんと久美さんもなのね。実は私もよ」

「いや、ありゃ自信喪失とかっていうレベルじゃなかっただろ。比べる方がどうかしてるっての」

「わかってるんだけど、どうしてもね。それでも私達は、まだ竹内君や小山さんに比べればマシだと思うけど」

「すげえトラウマ負ってたからな。それも当たり前だけどよ。そういや講堂や刻錬館ってどうなるんだ?」


 先週の過激派襲撃事件によって、いくつかの施設は壊されている。だが幸いにも、生徒や職員に犠牲者はでなかった。

 あの日、飛鳥と真桜が発動させたアンサラーによって、校内に残っていた銃装大隊も光に飲まれて消えていた。講堂を守っていた護や沙織達刻印術師は何が起きたのか説明を求めてきたが、雪乃はそれを拒否した。言葉で説明できる自信はなかったし、まだ自分でも整理できていない。そして何より、伝えてはいけないことだったからだ。

 そんな雪乃をかばってくれたのは、翔を含む前生徒会の3年生だった。雪乃の態度から何かがあったことは容易に推測できるし、飛鳥と真桜の姿がないことが翔や恭子、相田に確信を持たせた。だから何があったのか、それ以上追及されることはなかった。


「来週から修理が始まるそうよ。春休み中には終わらせるって聞いたわ」

「おいおい、突貫工事だけは勘弁してくれよ」

「大丈夫ですよ。連盟が手配してくれた業者さんらしいですから。何でも小父さんに、下手な修理したら会社を潰すって脅されたって噂ですよ」

「ははは、シャレにならねえ噂だな。本当だったら、それはそれで怖いけど」


 あの日から誰も、飛鳥と真桜の行方に触れようとはしない。中華連合の艦隊がブリューナクによって壊滅したというニュースは聞いた。風紀委員は全員が、二人のことだと瞬時に悟った。幸いにも未成年のために生成者は非公開だったが、クーデターを目論んでいた過激派が明星高校を襲ったことから、関係者ではないかと推測する者も少なくない。今週いっぱいは休校となっているため、飛鳥と真桜が登校してなくても不自然ではないし、登校している生徒のほとんどは部活目的だったから、他にも登校していない生徒は多い。

 美花は再び、窓の外に目を向けた。あの日、連盟から贈られた刻印具は砕けてしまった。そのため、今使っている刻印具は、入学前から愛用しているものだ。春の事件以来、探索系術式の有用性と重要性を理解した美花は、冬休みにプラント・シングの術式許諾試験を受け、ライセンスを取得していた。だから連盟の刻印具がなくとも使用できるが、あの刻印具はわずか数ヶ月しか使わなかったとはいえ、勇輝との思い出が詰まった大切なものだ。もう修理もできないし、サルベージもできないが、それでも美花は大切に保管している。


「勇輝さん……きっと無事ですよね……。守ってくれてますよね……」


 美花の呟きは風に乗り、海へと運ばれた。

 勇輝の耳に届いたかどうかはわからない。だが美花は、届いたと確信した。

 開いた委員会室の扉の向こうには、飛鳥、真桜、さつきが立っていたのだから。


「えっと、ただいま戻りました」

「真桜!飛鳥君!さつきさん!」


 美花は真桜に抱き付いていた。目からは大粒の涙が零れている。親友の姿を見た真桜も、瞳に涙を浮かべながら答えた。一言だけだったが、その言葉には万感の思いが込められていた。


「ただいま、美花」


 心配していたのは美花だけではない。雪乃はすぐさま巡回中の風紀委員に招集をかけた。


「よかった……。飛鳥君も真桜ちゃんもさつき先輩も無事で……」


 雪乃の目にも、涙が浮かんでいた。だが顔は笑っている。


「ったく、心配させやがって!どれだけ俺達の寿命を縮めれば気が済むんだよ」

「そんなつもりはないんですけどね。ご希望ならもっと縮めますけど?」

「馬鹿言え。これ以上縮められたら、死んじまうだろ」


 昌幸の悪態を、飛鳥も悪態で返す。これもいつものやり取りだ。


「でもよかった……。無事に帰って来てくれて……」

「飛鳥と真桜ちゃんが戻ったってホントか!?」


 風紀委員会室には、次々と委員達が駆け込んできた。その中には聖美と安西の姿もあった。


「あら、聖美に安西じゃない。あんた達、こんなとこにいていいの?」

「立花!?お前も帰って来たのか!」

「真桜ちゃん!よかった……よかったよぉ……!」


 聖美が真桜に抱き付きながら涙を流している。


「聖美先輩、痛いですよ」

「それぐらい我慢しなさいよ!私達がどれだけ心配したと思ってるのよ!」


 さゆり、久美、エリー、香奈、まどか、望も涙を浮かべながら抱き付いてきた。


「く、苦しいですってば!ちょっと、先輩!」


 だが飛鳥も真桜は嫌がっていない。むしろ嬉しかった。

 飛鳥も真桜も、覚悟を決めてブリューナクを生成した。二度と普通の高校生に戻ることはないという覚悟を。

 だがさつきも雅人も連盟も、そして管理局さえも二人の覚悟を否定した。確かに刻印神器生成者を放置することはできない。だが刻印神器を生成できようと、それが二心融合という前代未聞の刻印融合術であろうと、まだまだ子供だ。いずれは連盟か軍で相応の肩書きが用意されることになるだろうが、二人の自由を奪うことは許されない。

 確かに二人を拘束し、軍の管理下へ置くべきだと主張した軍人も存在するし、未成年だろうと氏名を公表するべきだと述べた政治家もいる。

 だが刻印神器はあくまでも個人の生成術であり、二心融合術であろうとそれに変わりはないと連盟も管理局も反論した。同時にもし二人が牙を向けた場合、軍は対抗することができるのかとも問うた。だがその問いに対する回答はなかった。中華連合の艦隊は少数だったとはいえ、たった一発の刻印術で成す術もなく全てが光の中に消え去っていたのだから、もしそれが自分達に向けられた場合、対抗する手段などあるはずがない。同時に雅人とさつきがそれを許さない。刻印神器だけではなく複数属性特化型生成者まで敵に回せば、国防軍の全戦力を投入したとしても敗北するだろうことは容易に想像できる。そこに連盟が加われば、最悪の場合内戦が勃発し、他国の介入を許す結果になるだろう。それでは本末転倒だ。何のために飛鳥と真桜がブリューナクの封印を解いたのか、わからなくなる。

 飛鳥と真桜は、連盟本部で結果を待っていた。このまま連盟に隔離されることは覚悟していた。後悔もしていない。だから昨日、雅人とさつきから結果を聞かされた時、二人共泣いてしまった。真桜が泣き虫なのは周知のことだが、飛鳥は人前で泣いたことはない。初めて泣いた。しかもよりにもよって、さつきの前でだ。不覚だったが手遅れだった。当分はからかわれるだろうが、それさえも嬉しく思えた。

 そして今日、鎌倉に帰ってきた。嬉しさもあったが、道中の不安は大きかった。初めてブリューナクを生成した時、現場にいたのはさつき、雅人、勇輝、そして大河と美花だった。さつき達はともかく、大河と美花は自分達から離れてしまうだろうと思った。だが目の前で失うよりはマシだと思った。だから生成した。だが大河も美花も、以前と変わらず接してくれた。本当に救われたと思えた。その時と同じ不安が、二人の中を何度も駆け巡った。

 だから友人達も先輩達も、変わらずに接してくれることが何よりも嬉しかった。


「すまなかったな、志藤、戸波」

「何がですか?」


 風紀委員会室前の廊下では、雅人が志藤と遥に迎えられていた。


「色々だよ。今回の件では本当に迷惑をかけたからな」

「別に迷惑だなんて思ってませんよ。そんなことよりみんな無事で安心しました」

「ここ数日、みんな落ち付けませんでしたからね。あんなことがあったら、それも当然ですけど」

「そうだな。みんなにも心配かけてしまったな」

「もういいですってば。あとで飯でもおごってくれれば」

「立花か、お前は」

「はは、その程度でよければいいさ」


 雅人もさつきも嬉しく思った。自分達もそうだが、何より飛鳥と真桜に変わらず接してくれることが。あの日、大河と美花が二人にしたように、みんなが同じことをしてくれた。これほど嬉しいことなど、そうそうあるものではない。飛鳥と真桜は、今も上級生や同級生に囲まれている。これでようやく、いつも通りの日常が戻ってきたと言える。過去の因縁も亡霊も消え去った。

 この先、何が待ち構えているかはわからない。だが飛鳥と真桜ならきっと乗り越える。新たな仲間達と共に。


――西暦2097年4月4日(木) 横浜国際ホテル 新婦控室――

 季節は移り変わり、桜の花も満開となったこの日、飛鳥と真桜は正装してホテルの一室を訪れた。


「さつきさん、綺麗!」

「ありがと、真桜」


 これから行われるのは、雅人とさつきの結婚式だ。親族ということで飛鳥も真桜も控室へ入ることができる。そこで初めて、純白のドレスに身を包んださつきを見た。

 さつきだけではなく、3年生の風紀委員は全員、無事に明星大学に合格していた。そしてついに、この日を迎えた。


「いいなぁ、純白のウエディング・ドレス……。私も着てみたいなぁ……」


 真桜はさつきの姿にうっとりとしていた。自分が着ている姿も想像しているようだ。相手は言うまでもないだろう。


「あと二年、我慢しなさいよ。今まで待ったんだから、それぐらいは待てるでしょ?」

「そうなんですけど……さつきさんのウエディング・ドレス姿を見たら、すぐにでもって思っちゃいますよ」

「あんたの場合、ウエディング・ドレスじゃなくて白無垢になりそうだけどね」

「俺としてはそっちもいいかな、と思ってるんですけどね」

「え?そうなの、飛鳥?」

「ああ。でもどっちがいいかは、やっぱり真桜次第かな」

「こ、困ったな……。どっちにしよう……。ねえ、さつきさん。どっちがいいと思います?」


 真桜はかなり真剣に悩んでいる。乙女の夢、ウエディング・ドレスは着てみたい。だが飛鳥は白無垢もいいと思っているらしい。一生に一度しか着ることはないのだから、ようやく十六歳になった少女が思い悩むのも、ある意味では当然だ。


「それはゆっくり考えなさいよ。一応今日は、あたしが主役なんだからね」


 そんな真桜を微笑ましく見ていたさつきだが、自分の晴れの日で悩まれても、どう接していいのか対応に困る。


「あ、そうでした」

「それにしても今日は、親父達だけじゃなくて、連盟や軍、政府のお偉いさんも出席するんですって?」

「そうなのよ。ホントはもっとこじんまりとした式にするつもりだったんだけどね」

「さつきの法具の存在が知られてしまったからな。それも仕方ないさ」

「あ、雅人さん!うわ、すっごく似合ってますよ!」

「ありがとう、真桜ちゃん」


 控室のドアから入ってきたのは新郎だった。白いタキシードがよく似合っている。さつきと並べば、さらに絵になること間違いなしだ。


「雅人さん。おめでとうございます」

「ありがとう、飛鳥。それで話の続きだけど、さつきが複数属性特化型の生成者だってことが、隠し通せなくなっただろ。そんな女性が俺と結婚するんだから、連盟はもちろん、政府だって見過ごせないさ」

「だからこんな大きな会場で式を挙げることになったんですね」

「何言ってんのよ。あんた達の方が、もっと大袈裟なことになるわよ。それこそ国を挙げての式になるかもね」

「それはそれでイヤですね……」


 飛鳥と真桜が刻印神器生成者であり、婚約関係にあることを知っているのは、連盟、軍、そして政府の一部だけとなっている。政治的にも軍事的にも、とてつもない影響力を持つことは間違いない。結婚と同時に世間に生成者を公表する、という連盟の声明もある以上、どう考えても大袈裟なものになることは避けられない。


「いいじゃない、飛鳥。その時はその時よ。今日は雅人さんとさつきさんの結婚式なんだから」

「そうだな。それじゃ雅人さん、さつきさん。みんなも来てるそうなんで、俺達は行きますね」

「ああ。また後でな」

「みんなによろしくね」

「はい!」


――横浜国際ホテル チャペル――

「これより、新婦が入場します。皆様、拍手でお出迎えください」


 進行役の声が響き渡たる。同時にチャペルのドアが開き、さつきが父と共に姿を見せた。


「うわぁ!さつき先輩、綺麗!!」

「馬子にも衣装ってか」

「殺されますよ、そんなこと言ったら」

「でもホントに綺麗ね。うらやましいわ」

「お相手が雅人先輩ですもんね」

「雅人先輩もかっこいいわよね」

「あそこまで似合う人も、そうそういないだろうな」

「それもそうなんだが、俺としてはこの席順に納得がいかないぞ」


 風紀委員は全員が出席している。恭子も聖美の隣に座っているが、さすがに出席者リストを見せられた時は、誰もが委縮してしまった。だがさつきにとって、いわゆるVIPなどは眼中にない。むしろ仲間達こそがVIPだ。その証拠に自分達は親族の次に並んでおり、その後ろには政財界や軍、連盟幹部という顔ぶれが並んでいる。


「確かに……緊張しますよね……」

「君達はまだいい。出席させてもらえるだけでも光栄だというのに、なぜ私がこんな場所に……」


 席順を教えてもらった時は耳を疑ったし、何度も問い質した。だが返ってきた答えは「あっちはついでだから」の一言だけだった。さすがに聞いた時は唖然としてしまった。ついではむしろこっちの方で、出席できるだけでも光栄と言える。国を支える方々を差し置くなど、誰も思ってすらいなかった。

 だが一番動揺しているのは星龍だろう。あの日、南に重傷を負わされ、その後飛鳥と真桜のアルミズによって治癒されたとはいえ、しばらくの間は入院せざるをえなかった。その入院生活中に、雅人とさつきの結婚式に出席しないかと一斗に誘われ、二つ返事で承諾した。白林虎に連絡を入れ、帰国が遅れる旨を伝えたが、それは林虎としても願ってもないことだった。だから快く承知してくれた。

 だがいくら出席させてもらえるとはいえ、自分はこの国に宣戦布告まで行った国の人間だ。末席に加えてもらえるだけでも十分だというのに、この国の要人達を差し置くなど、今日まで星龍は一切知らなかった。


「あいつらしいじゃないですか。さすがに代表は親族だから前にいるけど」

「本当にそれが救いだ……」


 一斗と菜穂は、さつきの叔父、叔母なのだから、当たり前だが親族だ。菜穂にいたっては雅人の父の従妹でもあるのだから、親族席にいなかったら逆に怖い。そんな風紀委員達の思いをよそに、式は進行していく。


「それでは、誓いのキスを」


 指輪の交換も終わり、雅人がさつきのヴェールを上げた。そして二人の唇が重なり合うと同時に、大きな拍手が式場に響き渡っていた。


――横浜国際ホテル チャペル前――

「さつき先輩!こっちに投げてください!」

「ダメダメ!順番から言ったら私でしょ!」

「いいえ!私が貰うんですから!」

「真桜ちゃんには飛鳥君がいるじゃない!これぐらい譲りなさいよ!」


 チャペル前の広場では、女達の戦いが繰り広げられていた。ブーケを貰った人が次の花嫁になる、という言い伝えというか迷信というか都市伝説は、今も生き残っている。つまりさつきのブーケを誰が貰うのかで、高校生達がポジショニング争いを繰り広げているわけだ。

 ちなみにそんな様子を、日本という国を支えるお歴々の方々は微笑ましそうに眺めている。


「思った以上に激しい争奪戦になりそうね」


 さつきは笑顔を浮かべたまま、溜息を吐いていた。


「渡す相手は決まってるんだから、悩むこともないだろう」

「まあね。これを考えてくれたホテルの人に感謝だわ。それじゃ、行くわよ!」


 新婦に似つかわしくない掛け声をあげると、さつきはブーケを空高く放り投げた。そのブーケは空中でいくつにも分かれ、さつきの起こした風に乗って、美花、さゆり、久美、聖美、雪乃、エリー、香奈、まどか、望、恭子、瑞穂の手に舞い降りた。


「うわあ……!」

「やってくれるじゃない、さつき!」


 そして一番大きなブーケは、もちろん姫の手の中だ。


「うわぁ!見て、飛鳥!」

「ああ、すごいな。こんなこと考えてたなんて」

「やっぱり一番大きいのは真桜ちゃんか。そんな気はしてたけど」

「先輩達も貰ってるじゃないですか」

「まあね。さつきらしいからいいんだけど」


 聖美達の手にあるブーケは、真桜の手にあるブーケよりもかなり小さい。だが立派なブーケだ。雅人もさつきも、みんなに幸せになってもらいたいと願ったからこそ、この方法を教えてもらった。恭子と聖美はさつきと視線を合わせると、手にしたブーケを高く掲げた。さつきはそれに、新婦にはあまりにも似つかわしくないVサインで応えていた。

 そして記念撮影が始まった。両親や親族はもちろん、VIPの方々も次々と二人と記念撮影を済ませている。仲間達もだ。


「雅人さんもさつきさんも、幸せそうだよね」

「ああ。あの日の俺達の行動は、間違いなんかじゃなかったって思えるよな」

「うん。私、後悔なんかしてないよ。それに封印がなくても、いつでも飛鳥を感じられるもん」

「俺もだよ。やっぱり俺達は、二人で一つなんだな」

「そうだよ。私達は一心同体よ。いつまでも、何があっても、それは絶対なんだから」

「飛鳥!真桜!あんた達も早く来てよ!あんまり時間ないんだからね!」

「あ、はい!」

「すぐ行きます!」


 ブリューナクの封印を解いた日から、もう二人を縛るものは何もない。それでも飛鳥は真桜を、真桜は飛鳥を感じられる。あの日、二心融合術を試そうと思ったのも、このつながりがあるからだ。この先も二人の間につながりが――絆がある限り、何があっても乗り越えられる。飛鳥も真桜も、そう信じていた。

 だが今日は、雅人とさつきの晴れの日だ。先のことは今は考えない。二人の門出に水をさしてはならない。

 飛鳥と真桜は手をつなぎながら、雅人とさつきの下へと走り出した。


誓いの刻印編<完>

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