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刻印術師の高校生活  作者: 氷山 玲士
第三章 誓いの刻印編
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17・遺産

――PM1:20 材木座海岸 外れ――

 真桜はわずかだが意識を失っていた。印子の消耗もそうだが、体力の消耗もかなり激しかったようだ。全身が鉛のように重い。


「ごめん……足手まといになっちゃって……」

「何言ってるのよ。むしろこれが南の狙いだったんだから。雅人先輩から聞いたときは耳を疑ったけどね」


 香奈が務めて明るく振舞った。正直、今でも信じられない。真桜はそこらの術師や生成者が束になったところで、傷一つつけることができない程の力量を持っている。それどころか一流の術師や生成者が相手でも、遅れをとることなどない。先程まで真桜が相手をしていた銃装大隊は一流の生成者達だが、真桜のワンダーランドの前ではほとんど無力のはずだ。

 だがその真桜が、ほんのわずかな時間だったが、意識を失っていた。海岸を見渡してみると、20や30ではきかない数の銀像が作り出されている。少なく見ても真桜が一人で、これだけの銃装大隊を相手にしていたことがわかる。これだけの数の生成者を犠牲にするなど、普通は考えないし、考えたところで実行できるわけがない。

 だが南はそれを実行した。校内に侵入していた銃装大隊も、その多くが生成者だったはずだが、それも全て、真桜の印子と体力を消耗させ、確実に命を奪うための捨て駒でしかなかった。今雅人が相手をしているのは、南の精鋭という話だ。その上で南本人も加われば、いくら真桜でも敗北は必至だろう。

 雅人もそれを理解している。氷焔合一とヒート・ディストラクションによって、既に残りは五人となっている。いや、四人になった。ヒート・ディストラクションによってまた一人消え去った。

 ヒート・ディストラクションは、氷焔合一とマーキュリーを組み合わせたような術式だ。熱エネルギーを変換する際、どうしても余剰熱が発生する。マーキュリーはそれを領域内で、超高温と極低温の空間を交互に作り出すことで処理している。だがヒート・ディストラクションは、余剰熱を対象へ発動させる。そのため領域内は、低温の空間だ。熱エネルギーを空間ではなく指定した対象へ集中させることで、対象の熱エネルギーを活性化させ、個体は液体に、液体は気体へと状態を変化させる。その逆も可能だが、雅人が実戦でヒート・ディストラクションを使用したのはこれが初めてだ。そこまでの余裕は、雅人にはない。


「おのれ……私の精鋭をたった一人で……!許さんぞ、久世雅人!」


 ついに、と言うべきか、ようやくと言うべきか、南が動いた。日本刀状武装型刻印法具 村正むらまさを生成し、雅人と対峙している。


「ようやく動いたか。だが遅かったな。もう少し早ければ、お前の自慢の部下達が全滅することもなかっただろうに」


 雅人はこの時を待っていた。ヒート・ディストラクションの強度を上げ、残っていた部下を焼き尽くすと同時に解除し、最後の一人を氷焔合一で消滅させた。


「雅人さん……すごい……。たった一人で、あれだけの生成者を……」

「先輩が戦ってる所見たのって、私も初めてかも……」

「これがソード・マスター……久世雅人か……」


 雅人の鬼神のごとき戦いぶりに、さゆり、香奈、星龍は圧倒された。特にさゆりと香奈には衝撃だった。南が精鋭と言っていただけのことはあり、自分達が刻錬館で戦った生成者よりも高位の実力者達だということは理解できた。だが雅人は、たった一人で、さほど労せず、全滅させてしまった。残ったのは南一人だ。その南も刻印法具を生成しているが、おそらくは雅人の方が実力は上だろう。

 それを最も理解しているのは、他ならぬ南本人だ。南は水属性に適性を持つ術師であり、相克関係では雅人の優位に立つ。雅人の実力が自分より上だとしても、相克関係を覆すほど差はない。だが雅人の複数属性特化型刻印法具 氷焔之太刀は、水と火を操る刻印法具だ。先程精鋭達を倒した術式を見ても、水属性にも適性があると見て間違いない。

 だから南は、水性S級広域干渉系術式 水円舞すいえんぶを発動させた。領域内の水に干渉し、気体、液体、個体へと変化させ、ランダムに領域内を舞わせる術式だ。その水はただの水とは限らない。大気には酸素だけではなく、窒素や二酸化炭素も含まれている。高濃度酸素や、液体窒素、ドライ・アイスすらも、水円舞は容易に生成する。いかな雅人といえど、初見の術式を前に、迂闊に動くことなどできはしない。南は背広のポケットに入れておいた携帯型刻印具のスイッチを押した。


「何をした!?」

「切り札は一つだけではない。策は二重三重に用意して、初めて意味を持つ。精鋭達を倒されたことは誤算だったが、私が他に用意をしていないとでも思っていたのか?」

「まさか……今のは!」

「察しの通りだ。校内に侵入させた部下に、殺戮を許可した。ここで私を殺しても、君が間に合うことはない。果たしてその間に、どれだけの数の生徒が命を失うことになるかな?君が剣を引くなら、私にも考えがあるがね」


 最悪の策だった。校内には飛鳥とさつきがいるはずだが、たった二人で校内をカバーできるはずがない。刻印法具は術式強度や生体領域を強化するものであり、生成者の実力や力量が上がるわけではない。だが銃装大隊は、それを差し引いても一流の術師達だ。志藤達3年生が加わったとはいえ、一流の生成者相手に長時間持ち堪えることは難しい。

 だが雅人は屈することはなかった。


「俺はお前に、遅かったと言ったはずだ。最初に銃装大隊が発見されてから、どれだけ時間が経ったと思っている?」

「なんだと……?」

「四十分だ。それだけの時間があれば、横須賀基地から派遣された部隊が間に合う。警察や連盟も同様だ。つまり明星高校には、既に警察や軍、連盟が到着しているということだ」

「ふん!何を言うかと思えば、そんなことか。その程度のことを、私が想定していなかったとでも?」

「その通りだ。派遣された軍部隊には、刻印管理局も含まれているんだからな」

「な、なんだと!?馬鹿な……!管理局は鶴見にあったはずだ!四十分程度では間に合うはずがない!」

「お前が飛鳥と真桜ちゃんを狙っていたことはわかっていた。何度刺客を排除したかも覚えてないがな。だがそれを、管理局が見逃すと思うのか?お前達が飛鳥と真桜ちゃんの命を狙うたびに、管理局は警戒を強め、そのために藤沢に部隊を駐留させていたのさ。お前が連盟の粛清から逃れた瞬間から、何かしでかすことはわかりきったことだったからな!」

「それで先を読んでいたつもりか!言ったはずだ!策は二重三重に用意してあるとな!」


 南は再び、携帯型刻印具のスイッチを押した。


「今度は撤退……いや、海岸への集合といったところか。その上で真桜ちゃん達を人質にしようと考えているんだろうが、生憎だったな」

「なんだと……?」


 雅人はサラマンダー・アイを発動させていた。真桜達を襲う刺客がどこに潜んでいるかわからない以上、これは最低限だ。むしろこの程度のことができなければ、雅人は飛鳥の盾足り得ない。そのサラマンダー・アイは、駆け寄ってくる主君の姿も捉えていた。


「真桜!」

「あ、飛鳥?ど、どうしたの、その格好!?」

「よかった……。無事だったんだな!!」

「……ごめん。心配かけちゃって」


 真桜に抱き付こうとしていた飛鳥だったが、ようやく我に返ったのか、返り血で染まった自身の身体に視線を落としていた。


「悪い。こんな格好じゃ、汚れちまうよな」

「いいよ、そんなこと。それに雅人さんや美花達が助けてくれたし」


 ようやく真桜の周りに美花、さゆり、香奈、星龍がいることに気がついた。


「まったく、私達に気付かないなんて、けっこうひどいわね、飛鳥」

「わ、悪い……」

「血相変えちゃって。なんか真桜ちゃんが羨ましいな」

「でもみんな無事で……本当によかった……」

「真桜!飛鳥!」


 一拍遅れてさつき、そして風紀委員も姿を見せた。


「さつきさん!」

「よかった……。あんたにもしものことがあったら、あたし……」


 飛鳥とは違い、返り血などに濡れていないさつきは、迷わず真桜に抱きついた。


「ちょ、ちょっと、さつきさん!そんな場合じゃないんですよ!」


 姉に抱きつかれた真桜も、嬉しくないわけがない。だがそんな場合でもない。


「南が海岸に銃装大隊を集めるつもりなんです!あっ!先輩、後ろ!!」

「何っ!?」


 とっさに雪乃がエアマリン・プロフェシーを発動させ、かろうじて攻撃を防いだが、多数の生成者が集結しつつあった。


「はっはっは!どうやら天は私に微笑んだようだな。これこそまごうことなき天啓!私にこの国を動かせという啓示に他ならない!」

「ふざけたこと言ってるんじゃないわよ!飛鳥を苦しめ、真桜を傷つけた報い……あんた達全員の命でも、償いきれるわけないでしょう!」

「まったく同感だ。さつき、そっちは任せたぞ」

「言われるまでもないわよ。あんたこそ、きっちりとそいつを始末しなさいよ」

「無論だ」


 雅人は南と対峙しており、さつきは背後から現れた銃装大隊達の前に立ちはだかった。だがそれを止めたのは他でもない、飛鳥と真桜だった。


「待ってください、雅人さん」

「さつきさん。中華連合の宣戦布告が強硬派の暴走と南の策略なら、止めるにはもう……!」

「まさか……!封印を解くつもりか!?」

「本気なの!?それが何を意味するのか、わかってるでしょ!」


 雅人とさつきは、一瞬戦闘中だということを忘れてしまった。それほどの衝撃だった。


「覚悟の上です。だから……お願いします!」


 飛鳥と真桜の決意は固い。本気で命をかけるつもりだ。ならば盾として、忠誠を誓った者として、主の意見を尊重しなければならない。


「わかった。だがすぐには無理だ。前には南、後ろには銃装大隊。封印を解くためにはどうしても邪魔になる」

「そうね……。兄さんが生きていれば、話は違ったんだけど……」


 そのとおりだった。勇輝がいれば、南を任せることができる。法具を生成したばかりとはいえ、雪乃、さゆり、久美も短時間ならば持ち堪えられるだろう。だが勇輝はもういない。


「時間を稼ぐだけなら、俺達でもできるかもしれないな」

「志藤?」

「ああ。その封印ってのがなんなのか、さっぱり見当つかねえけど、そんな時間かかるもんでもないんだろ?」

「ええ。開封の儀式は十秒もかからないけど……」

「それぐらいなら、なんとかいけると思うわ。勇輝先輩みたいにはいかないけどね」


 さつきは三人の目を覗き込んだ。意識してではない。本当に無意識の行動だった。だが三人に迷いはない。


「南はお前達だけじゃない、俺達にとっても仇なんだ。あんなことがなけりゃ……勇輝先輩は……!」

「ええ。私達がどれだけ、勇輝先輩のお世話になったと思ってるの?多分、さつきが思ってる以上に、お世話になったわよ」

「佐倉や真辺だけじゃない。俺達にとっても、あの人は師匠なんだよ。法具があろうがなかろうが、そんなことは関係ねえな」


 三人にとって勇輝は、雅人と同様に大きな存在だ。卒業してからも何度も、自分達を鍛えてくれた。それは刻印術だけではない。守るべき大切なものを、勇輝は教えてくれた。勇輝にとっての守るべきもの、それは飛鳥と真桜だが、同時に自分達も含まれていた。

 だが勇輝は、自分の考えを押し付けることはしなかった。大切なものは自分で見つけなければならない。言葉ではなく、態度で教えてくれた。だから今、自分達はここに……後輩達を守るためにやってきた。勇輝とは違い、自分達の力は微々たるものだと理解している。

 自分達が南に敵うと思ってはいない。だが少しだけなら、刻印法具がなくとも、時間を稼ぐことができるだろう。確信はない。絶対の自信など、あるわけがない。相手は元連盟代表にして、連盟粛清対象最上位者だ。


「私もお手伝いします。彼の発動させている術式は水属性。同属性の私なら、一方的にやられることもないと思いますから」

「雪乃先輩まで……。でも、危険すぎますよ!」

「どこに安全な場所があるって言うのよ。前も後ろも、敵ばかりじゃない」

「本当よね。じゃあ私と久美は、後ろの敵を引き受けましょうか」

「そうね。生成できたばかりの私達でも、それぐらいの時間は稼げるはずだし」

「当然、俺達もな。援護ぐらいならできるだろ」


 声を上げたのは雪乃だけではなく、この場にいる全員だった。


「あんた達……死ぬつもりなの?刻印法具の力がどんなものか、知らないわけじゃないでしょ?」

「身に染みてますよ。でも先輩や飛鳥達ほどじゃないでしょ」

「だな。それに佐倉と真辺もいるんだし、短時間ならなんとかなりますよ」


 遥は大河を美花に目を向けた。二人も頷きを返している。


「……わかった。だが無理だけはしないでくれよ」

「ごめん。なるべく早く開封の儀式を済ませるから」

「すいません、先輩……」

「迷惑かけちゃって、本当に……」


 四人は口々に謝罪の言葉を投げかける。


「何が迷惑だよ。こんなの、迷惑のうちにも入らねえよ」

「ホントね。むしろここまで頼ってもらったの、初めてじゃない?」

「いつも頼ってばかりだったからな。たまにはこんなことがあってもいいだろ」

「私も手を貸すぞ。君達の儀式の邪魔はさせん」

「星龍さん……」

「決まりですね」

「ああ。俺達五人で南を、他の連中は後ろの生成者達を数十秒足止め。儀式の時間が稼げれば、それでいい」

「……死ぬんじゃないわよ」

「そのつもりはねえよ。星龍さん、いいですよね?」

「無論だ。それに興味もある。封印とやらが解けた時に何が起こるのか……怖いもの見たさかもしれないがね」

「わかりますよ、それ。俺達も似たようなもんですからね」

「だな。あっと、佐倉はこっちに来てもらうぞ。キツいだろうが、お前の術式はあいつと相性がいいからな。おい?佐倉?」


 だが大河と美花は、途中から話を聞いていなかった――聞こえていなかった。大河と美花の視線の先は、勇輝が死んだ岩。意識したわけではない。だがそこに、何かが見えた。


「美花……見たか?」


 幻だったのかもしれない。だが確信があった。大河は美花に訪ねつつも、それが紛れもない切り札だと悟った。


「見たわ……!もしかして、あれって……!」

「大河?美花?」


 親友の顔色が変わっている。だがそれを聞く前に、二人は駈け出していた。


「お、おい!佐倉!」

「美花さん!どうしたの!?」

「やっぱり、これは……!」

「あの人……こんなことになるなんて、思ってなかったくせに!!」

「やっぱりあの人は……俺達の師匠だ!美花!」

「ええ!」


 大河と美花は、刻印具をかざした。先にあるのは勇輝が遺した刻印。雅人に体験させた刻印とは似て非なるものだ。

 あの日、勇輝は息を引き取る直前、自身の全てをこの刻印へ刻み込んだ。忘れ去られてもいい、気づかれなくてもいい。ただここで、飛鳥と真桜を見守ることができれば、それでよかった。だが同時に、大河と美花のことも気にかけていた。だからこそこの刻印には、おそらくは勇輝本人でさえも知らないであろう奇跡が内包されていた。


「マテリアル!」

「イラプション!」


 大河と美花は、マテリアルとイラプションを発動させた。だがそれで終わりではない。二つの自然型術式は混じり合い、勇輝が開発していた無性B級術式の形を成した。


「こ、これは!まさか……勇輝の無性B級広域干渉系術式ヴォルケーノ・エクスキューション!なぜ大河と美花ちゃんが!?」


 刻印術が体系化され数十年経つが、当初は無属性という属性は存在していなかった。惑星型術式マーキュリーでさえ、熱を操るという理由から火属性に分類されていた。だが細分化が進むにつれ、マーキュリーは火属性だけでは扱えないことが判明した。火と水という、特に相克関係の強い属性――マーキュリーを発動させるにはこの二つの属性がどうしても必要だった。それはマーキュリーだけではなく、他にも存在した。またどうしても、六種の属性には該当させることができない術式も存在した。そのために当時の学者たちは、無属性という新たな属性を加え、マーキュリーのような複数属性術式も、この時に無属性として分類された。

 同時に複数属性術式の開発が、S級術式と同様に始められた。過去にも似た術式があったことも確認されたからだ。当時はまだ刻印具が開発されていなかったため、刻印法具生成者の力が必要だったが、多くの生成者も協力し、多くの術式が開発された。現在無属性術式として扱われている術式の多くは、その際に開発された術式だ。無論、マーキュリーのようにそれ以前から存在していた術式もある。

 刻印具が開発された現在では、生成者ではなくとも無属性術式の開発は可能だが、やはり危険は大きい。体系化され数十年が経過していることもあり、生成者にも知らない者は多い。

 勇輝は生成者ではなかったし、多くの無属性術式が開発されてから数十年程度しか経っていないことも知らなかった。だが自分の力を補うために、同時に飛鳥達のS級術式の開発を目の当たりにしていたために、もしかしたら可能なのではないかと思い、試行錯誤を繰り返した。その結果完成した術式がこのヴォルケーノ・エクスキューションであり、勇輝の切り札だった。火山弾と溶岩を広範囲に撒き散らし、ドライ・アイスすらも作り出すその術式を、勇輝はあまり人前で使ったことはない。だがその威力は自然型A級術式を凌駕する。制御能力と処理能力に印子を割かないため、ある意味では無差別攻撃術式だが、指定領域内にのみしか干渉しないため、領域外に被害が及ぶことはない。大河も美花も、一度だけ見たことがある。

 そして今、大河のマテリアルと美花のイラプションは南や銃装大隊だけではなく、仲間達をも領域内に巻き込む形で、相応関係と勇輝の刻印によってヴォルケーノ・エクスキューションを発動させた。


「馬鹿な!ただの人間がこのような術式を開発していただと!?」

 驚いているのは南だけではない。飛鳥も真桜も、雅人やさつきですら驚いている。これは間違いなく、勇輝の遺産だ。

「兄さん……そこまでしてくれてたのね……。それをあの子達に……。雪乃!エアマリン・プロフェシーを展開させて!雅人!」


 さつきの目に涙が浮かんでいる。死してなお、飛鳥と真桜を守るなど、思ってもいなかった。兄がくれたこのチャンス、無駄にするなど考えられない。


「は、はい!」

「ああ!みんな!大河と美花ちゃんを頼む!!」


 雪乃はエアマリン・プロフェシーを発動させ、無差別に降りかかる火山弾と溶岩から、仲間達を守る結界を作り出した。雅人は踵を返し、飛鳥と真桜の下へ走り出した。雅人も勇輝の遺産を無駄にするつもりなどない。あろうはずがない。


「何をするつもりかは知らんが、させると思うのか!ぬおっ!?」


 南は背を向けた雅人に水円舞を発動させようとしたが、ヴォルケーノ・エクスキューションだけではなく、志藤のスカーレット・クリメイション、安西のバリオル・スクエア、聖美のウイング・ラインによって阻止された。


「へっ……。まさか先輩のヴォルケーノ・エクスキューションを、もう一度見れるとは思わなかったぜ」

「まったくだ。死んでも飛鳥と真桜ちゃんを守るなんて、あの人らしいな」

「本当よ。だったら私達は、佐倉君と美花を、絶対に守ってみせる!」

「ああ!あの二人に何かあったら、それこそ先輩に顔向けできねえ!」


 三人の術式は、かつてない精度と威力で発動されていた。三人も一度だけ、ヴォルケーノ・エクスキューションを見たことがある。雅人が氷焔合一を開発していた時、何度も開発を見せてもらうように頼み込んだが、雅人も勇輝も首を縦に振らなかった。そして勇輝は術式開発の危険さを教えるために、三人の前で使ってみせた。自己開発した術式だと聞いた時は、腰を抜かしそうになった。その術式をもう一度見られるなど、思ってもいなかった。


「飛鳥!急げ!」

「真桜も!長くはもたないから!」

「大河、美花……わかった!」

「ありがとう、二人とも!無理しないでね!」

「久美!」

「ええ!佐倉君と美花が作ってくれたこのチャンス、無駄になんてできるわけないじゃない!」


 背後の生成者達は、ヴォルケーノ・エクスキューションにこそ驚いているものの、対処できていないわけではない。だが二つの自然型A級術式によって生み出されたヴォルケーノ・エクスキューションは、おそらく勇輝が発動させるものより高い威力を持っている。対処できていないわけではないが、無傷というわけではない。

 そこにさゆりのダイヤモンド・スピアと久美のミスト・アルケミストが発動した。2年生達も得意術式を発動させている。


「急げ、飛鳥!」

「真桜ちゃんも!今しかチャンスはないから!」

「ありがとうございます、先輩!」

「飛鳥!真桜!」

「さつきさん!雅人さん!」

「急ぐぞ!」

「はい!」

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